第二十話「悪寒」
この店のハンバーグはとてもおいしかった。だが元々会話が苦手ということと初対面の市松さんも同席しているということもあり、あまり会話は弾まなかった。
会計はなんと市松さんが全て払ってくれた。最近出かけることが多く財布が軽くなりつつあったのでとても助かった。あとで何かお礼をしようと思った。
その後、砂藤さんは用事があるから、といいなんと僕と市松さんだけが残された。
両者沈黙。カラスの鳴き声と遠くで小学生のはしゃぐ声が聞こえる。
「林道くんはさ、どうやって砂藤さんと出会ったんだ?」
市松さんは前を向いたまま言った。
僕は悩む。正直にいうのは嫌だ。何か適当に誤魔化そうか。
でも、普段普通の会話すらしない僕に適当な嘘などつけるだろうか?
とにかく、まずは返事をしないといけない。
僕はなんとか嘘を取り繕って返事を返した。
「えーっと......横断歩道で轢かれそうになったのを砂藤さんに助けてもらったんです」
「それは災難だったね......」
市松さんはとても悲しそうな、同情するような表情を浮かべていう。
僕の嘘はばれていないだろうか? ある程度本当のことを混ぜたのだけれど。
「そこで何か砂藤さんの権限を見たのかい?」
「はい。タイムリープを」
「すごいなぁ。本当に花怜はタイムリープを使えるのか」
「市松さんは見たことないんですか?」
「そうなんだよね」
「どうやって砂藤さんと会ったんですか?」
市松さんは「ああそれね」といい数秒目線を上に向けて何かを思い出した。
「いつも通り研究所にいたら突然やってきたんだよ。普段来訪者なんて来ないからさ、驚いたさ。しかも来訪者は変な服をきた少女だよ?」
はは、と僕は下手くそな薄ら笑いを浮かべる。
「まあ、そこからは多分林道と一緒。状況を説明されて、手伝ってくれって」
「市松さんも大変ですよね。休日連れ回されて」
市松さんは「え?」と疑問の表情を浮かべこちらを振り向いた。
「振り回される? 俺はいつも研究所で花怜と話すよ。違うのか?」
「あー......僕はいつもどこかしらに連れて行かれるんです。ショッピングモールやら、学校やら」
「そっか。君はバグを視認できるんだもんな。大変だな。忙しくて」
ほんとですよ、と返事をしようとした時。また何か強烈な違和感を感じた。
咄嗟に当たりを見渡す。道、電柱、店、どれも異常はないように見える。
行き交う人々も、特に——いや、わかった。
目線を感じる。確実に何かに見られている。その瞬間背筋を強烈な悪寒が走った。




