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世界の修復作業は死にたい僕に託された  作者: きくずれ
第一章

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第八話「カラフル」

 「な、なぁ。なんで怒ってるんだ?」


 僕は恐る恐る尋ねる。


 しかし、彼らの表情に変化はない。砂藤さんと似たような服装でなかったらすでに気を失っているだろう。


 いつも引っ張ってくれる砂藤さんは、珍しく隣で固まっている。今にも涙が出そうだった。



 彼らが一歩進む。


「ちょ、ちょっと待て! 何が目的だ!」


 確実にまずい。どうにか時間稼ぎをしなければ。


 大声を出して誰かに気づいてもらうという手も考えたのだが、どうやら僕らはかなり奥地へと迷い込んでしまったらしく、風の吹く寂しい音以外何も聞こえない。


 彼らが浮かべる無機質な表情は、より一層僕を焦らせる。


「お金なら! お金なら持ってる!」


 もしかしたらお金が目的かも知れない。そう思いポケットから財布を取り出す。あまり外に出ないおかげで少しは貯金があるのだ。命に比べれば惜しくない。


 お金を取り出そうと、震える指を宥めながら財布をあけ——ようとしたところで勢いよく腕を掴まれた。


「ひっ」


 隣で砂藤さんが小さく悲鳴を上げる。


 チャラチャラと小銭が落ちる音だけが響き、路地に消えていった。


 腕を掴んでいる少年は、何を考えているのか全くわからない。だが、お金が欲しいわけではないらしく、下を向かずにまっすぐ僕の目を見ていた。


 心臓の鼓動がうるさい。なんとかしなければと体が訴える。なんとか抵抗しようと手を動かすが、僕の抵抗は虚しく圧倒的な力にねじ伏せられた。


 無理だ。力差がありすぎる。日頃から運動しておけばよかった。今更そう思った。


 少年が瞬きをし、ゆっくりと口を開く。


「警告したはずだ」


 警告? なんのことかさっぱりわからない。


 家には何も届いていないし、不審な電話も、不在着信すら来ていない。


「僕は知らない! 離してくれ!」


 精一杯大声で叫ぶ。誰か聞いて駆けつけてくれないかと。


「そうか。拒否、ということでいいな」


 少年がそう言った瞬間。強烈な衝撃と共に僕の視界は閉ざされた。



 * * *



「うわぁぁあ!」


 飛び起きる。慌てて頭を触り、安堵する。よかった、傷はない。


 どうやら夢だったらしい。蝉の声がそう告げていた。


 あまりにリアルな、感覚と、乾いた空気。脳裏には砂藤さんの怯えた表情がくっきりと焼き付いていた。


 乱れる息を落ち着かせようと深呼吸をする。


 窓の外を見る。すっかりと上った太陽が、空を青く照らしている。


 とりあえず朝ごはんにしよう、と僕は思いゆっくりと起き上がった。



 いつ買ったのか忘れてしまったパンを食べながら考える。


 単純に誰かに追われる悪夢を見ることはあるだろうが、まさか夢の中に砂藤さんが出てくるとは思わなかった。


 最近は、夢を見るほど寝付けていなかったと言うこともあってそもそも夢自体が久しぶりで、久しぶりに見たせいなのか嫌にリアルな夢だった。


 こんなにもリアルな夢を観られるのなら、どうせなら幸せな夢に回していただきたい。僕が覚えてる限りの幸せな夢では、どれもこんなにリアルな感覚はなかった。


 追手が砂藤さんに最初に会った時の服装だったのはどうしてなのだろうか。そもそも「警告」とはなんだったのか。


 理解できないことが多すぎて頭がパンクしてしまいそうだった。

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