九十八 神々への怒りと反逆の矛
二つ目のエンゲージミッション、『離れど二人の絆はここに在り』の内容は、少し意味合いは違うがかくれんぼだ。だがこれをクリアするには外部プレイヤーの協力が必要になる。何故ならばお互いの姿が透明化して見えなくなってしまうためだ。
エンゲージリングからはパートナーの方角を赤い光で示してくれるが、方角だけしかヒントがないため周りを使う方が遥かに効率が良い。が、当たり前のように派生したユニークミッションに真顔になるしかなかった。
「うぉ……!?絶対にお互いを見つけ合うぞ!!コロネ!!」
「うん……!!また後でね――」
『創神のコトワリと赤い糸に派生します。クリア条件はパートナーと出会うこと。開始します』
強制転送によって見知らぬ土地にまで飛ばされた。新しく解放したマップに飛ぶとかツイてない。だが知っている土地だろうと費やす労力にさほど変化はないだろう。なにせこのミッション中は義務教育である転送がそもそも使えない。マウントや自分の足しか利用できないわけだ。
セイファートに跨り、指輪の示す方角だけを頼りに爆走一択である。が、なんとも都合良くマリカーンを見つけた。そういえば式には来てくれなかったが、どうやら今ログインしたようだ。
「マリカ〜 久しぶり」
「レイ様!!お久しゅうござ……いま?は?」
「ん?あぁ、結婚したんだ。周知もしてなかったし、いまさっき式も終わってな〜 悪いんだけどさ、ほら、コロネを見かけたら教えて――」
突如として空上エネミーであるワシみたいなやつに乗り込んだマリカが吠えた。ちょっと待て、落ち着いて欲しい。全力でコロネをぶち殺す決まり文句を吐きながら空を飛ぶな。流石のコロネと言えどレベル七〇のお前は荷が重すぎる。
「あんの泥棒猫がァァァァァァァァァァァァ!!!!ぶち殺すだけでは足りませんわァァァァ!!貴様ごときがよくもレイ様を……っ!!レイ様!!お待ちくださいな〜!!すぐに洗脳を解除して解放してさしあげますわよ!!」
「違う!!合意の元だ!!降りろ!!待てぇぇぇぇぇぇい!!」
空上エネミーだろうとセイファートの足ならちぎられはしない。そう思っていたのに突如として脳内に直接声が響く。初めての体験だが今はそれどころでは無い。うちの嫁の命がかかっているんだぞ。
『ククク……貴様がアストライアの祝辞を受けし人の子か。力が……力が欲しくはないか?』
「結構です。まてぇぇぇぇぇい!!俺の嫁に何かしてみろ!!ブチギレるからなぁ!?」
「O・RE・NO・YO・ME!?私だってそんなワード言われたかったですわァァァァァァ!!コロス、ゼッタイニコロス。ウラヤマシイ、グチャグチャニシテヤル」
「やめろ!!止まれ!!」
『待て、そんなことを言うな。ほら、力を望むまま欲し――』
「――あ、そういうの大丈夫なんで。おいコラマリカ!!待てって言ってんだろ!!」
『まてまてまてまて、そこは普通驚いたり、強くなれるチャンスに胸踊るところだろう。なぜ頑なに拒否する?人の子よ……全然話し聞いてないし……』
「さっきから頭の中でごちゃごちゃうるせぇよ!!見てわかんだろ!?俺の嫁がピンチなんだよ!!」
『さっきから人間風情が……!』
マリカを捉えていた視界に突如黒い稲光と共に何かが降臨した。三又の槍が俺の眼前へと迫り、咄嗟にセイファートから飛んでかわす。だが派手に地面に転がされるはめに。白髪ロングをオールバックに、ゴリゴリの筋肉ゴリラみたいなオッサンが不敵に笑っているではないか。
「何すんだてめぇ!ん……?プレイヤーじゃないのか。だからなんだ!!NPCだからって何してもいいわけねぇだろ!!」
「我が名はユピテル。俗世にほとほと興味を示さないあのアストライアがなぁ……祝辞を送ったとされる人の子に興味を持った」
「あぁ……って、えぇ!?ユピテル!?お前この世界に出てくんのか!?初めて見たわ……っ!」
「なにぶん娘が反抗期でな。この世界への干渉がバレるとぶちギレ――」
大気が歪むほどの衝撃波にあっけなく吹き飛んだ。体力ミリなんですが今度は一体全体なんなんだ。ユピテルといい、今急に出てきたアストライアといい、こっちの事情を考えて行動してくれ。仮にも神様なんだろ?お前らは。空気読めよ。
「ユピテル……っ!誰の許可を得てこの地に来たのですか……っ!!」
「おー、愛しき我が娘よ。久しいな……テミスに似て美人に育っておるではないか!我の言葉に反抗した上、俗世の生物に絶望したと聞いたが?言った通りであっただろう」
「……奪掠と武力は人の性、確かに人は身勝手で愚かでした。ですがそうではない者もいましたよ。例えそれが片手の指で足りるほどだとしても……最後の最後まで私は見守り続けます。この人の子に何を吹き込んだのですか……!!」
「強さを得れば試したくなるものだろう!!人の子よ!!これを使ってアストライアを殺してみせ――」
「――お前らうるさいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
プロネミンスバーストを二人を巻き込むようにぶち込んでやった。勝手に現れた上に勝手にごちゃごちゃ親子喧嘩しやがって。何度も言ったぞ俺。嫁がやばいんだって、いいから早く道を開けろ。もしくはそこで勝手にやってろ。
「クソがっ!邪魔だどけ!!」
「ワシのトライデント蹴るなよ……一応それ兄弟のものなんだぞ……」
「知るか!!セイファート……えぇ?なんでそんな怯えてんのお前」
アストライアが。
「ふふ……ふふふふっ!それ、神をも屠る神器ですよ?本当に必要ないのですか?」
「いや……だってどうせあれだろ?このユニークミッションが終わったら没収とかそういうパターンだろ。ほら見ろ。レアリティ書いてないし、メタいこと言うけど普段使い出来ないものなんてあんまり興味ねぇよ。ほらよユピテル」
トライデントと呼ばれる槍を拾い、返す素振りを見せながらユピテルへと近付いた。よほど俺の態度や対応が気に食わなかったのか、眉間にシワを寄せながらも腕が伸びる。確かこれ、神をも屠るんだっけか――
「喧嘩は倍で買い取る主義なんでなァ!!」
「は……!?」
腸におもっくそ突き刺してやった。一泊遅れて、大気を歪ませながら余波が背中から突き抜ける。かち上げ気味に刺したせいか、突き抜けた衝撃波が雲さえも蹴散らしていた。お前こんな威力のものを俺に向けやがったのか。ざまぁ☆
「ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!」
「クソ痛そうでワロタ」
「ユピテルが……っユピテルがぁ……っ!あははははははは!無理……っ!」
アストライアがお腹を抱えながら崩れ落ち、地面をバンバン叩きながら爆笑してやがる。あれか、神ってのは性格悪いやつしかいないのだろうか。涙出るほど笑ってやがるよこの女神。
「人の子がァァ……っ!許さんぞ!!その命を持ってしても償い切れぬわぁ!!」
「おかわり?トライデン……」
「待ってください。ワシが悪かった」
「分かりゃいいんだよ……!クッソ!マリカの野郎どこに行きやがった……!!」
トライデントを投げ捨てながら怯えるセイファートへと跨る。さっさとおさらばしたいと言うのに、最後だからとアストライアが引き止めてきやがった。とっとと要件を言って解放してくれと切に願う。
「パートナーとの試練中に何度も引き止めてしまい申し訳ありません。二人の儀を見届けた私、女神からも一つお祝いの品を送らせてください」
「なに?急いでるから……!」
「これを」
星七の杖を渡されたんだが。こっちは正真正銘のプレイヤーが使える標準的な武器で間違いない。とりあえず詳細は後回しだが、これなら礼くらい言ってやろう。
「サンキュー!じゃあな!!」
「はい!ではお元気で」
「クッ……っ!覚えておけよ!人の子ォ!!」
方角のみを頼りにセイファートを全力疾走させる。最初期にコイツをテイム出来て本当に良かった。爆走する事十分と少し、ついに少し動いただけでリングの示す方向が大きく変わるようになった。すなわち、パートナーの距離が近いという事だ。
「どこだ……っ!上か!!」
見上げた崖の上、セイファートを駆使して直上で駆け上がってやった。結構な無茶をしたがコロネを殺されてはミッションが失敗する。崖から生えた木の枝を踏み込み、へし折りながらセイファートを乗り捨てた。眼前へと一際大きく花束が弾けるエフェクトが。そう、パートナーと出会った事で互いの姿が視認可能になったわけだ。
「コロネ!!」
「レイ……!?下から来たの!?」
「きぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!泥棒猫!!抜け駆けするなんて見かけによらず……っ!!レイ様!!こんな何処の馬の骨とも分からない方よりもワタクシと一緒になるべきですわ!!」
「いや……なんで――」
左手を伸ばしたコロネに制止させられた。表情は見えないがとても勇ましい雰囲気だ。いや、勇ましいを通り越して殺気が感じられる。しかもそれはゲーム内システムによって明確に可視化されてしまった。
スピリチュアルコアシステム、何故かゾーン状態に入ったコロネが静かにマリカへと歩み寄った。右手には『鏡国の執剣』、左には胞子の木壁、どう見ても臨戦態勢で草も生えない。二〇レベは離れていないとは言え、いくらなんでもマリカ相手には無茶だと思うのだが。
『奪掠』
アストラの全てのアイテムには内部ステータスに所有者が記録されている。現実世界の時間で一ヶ月以上他人のものを所持、装備、保管をした場合奪掠者とする。
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