表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/104

九十七 星屑のヴァージンロード


 『祝福のブーケと久遠の絆』に挑むつもりだが、何故かここ二〜三日の間にとんでもなく噂になっていた。動画の反響やレンカとの一戦等、やはりそれなりに俺はアストラでの知名度はあったらしい。


 加えてチョコがあちこちに吹聴しまくったらしく、インした瞬間に館の前に人集りが出来ていた。全員が参列希望のようだが、その顔ぶれの中に見覚えのある奴らがちらほら見える。


「マカロンさんだ……!」

「前開けてあげよう……!」


「……どうしたんだよ。なにニヤニヤしてやがる」


「べっつに〜?まさかあんたが結婚するなんてねぇ?変わったわねぇ〜?」


「別に変わってねぇよ……あぁもう!分かったよ!!お前ら全員好きに参加しやがれ!!おら!」


 周囲のプレイヤー全てに招待状を送り付ける。そのままミッションに突入しようとしたが、不意にフォルティスに制止させられた。誰にも聞こえないよう小さな声で、耳打ちするようにフォルティスが。


「お前にも心から信頼出来る相手が見つかったのだな……何も知らない隊員も大勢いるが、クランとして祝わせて欲しい」


「はい?別に気にしなくていいんだが……」


「そうはいかない。脱退したとは言えお前にはかなり世話になったからな」


 群衆の中から歩み出たユキナが。


「また抜け駆けですか?コソコソと何を話しているのですかね。星浄にも参列を許して欲しいです。あの一件以来、噂を聞きつけたみんなが参加したがっているんですよ。リーダー、頼む掛け合ってきてくれと騒がしいものでして……」


「だぁぁぁもう!分かったよ!!どうしてこんな大所帯になるんだ……!」


 ということで各所へと飛び回り、参列希望者とやらに招待状を叩きつけまくってきた。霊峰や星浄クラスがこぞって参列するなんて、当初想像していた以上の規模になる。ファーストミッションは参列者の数に応じてステージの規模も変化するらしく、フォルティス曰く過去一の大規模結婚との事だ。


「おいレイ!!お前結婚するのか!?」


「タナユキじゃねえか……お前俺の事嫌いだろ?参列希望になってるけど……」


「神風紛いなやり方が気に入らないだけだ。それとは別、お前のおかげで忘れ去られた海底の攻略法が見つかった事は事実だ。認めるところは認めるし、素直にお祝いの言葉を贈ろうと思っただけだ」


 などと話していると怯えた様子のコロネと、何故かしてやったり顔のチョコが合流した。たかだかゲーム内の結婚だと言うのに、何故こうもみんな騒げると言うんだ。


「す、すごい集まってるね……」


「旦那の後ろにはどれだけの人脈と勢力があるのか見せつけておかないとね。あんたはともかく、コロネを襲撃するような野良がいないとは言いきれないし、やるなら派手に行きましょ」


「旦那て」


「ほら、やらないの?」


「分かってるよ……『祝福のブーケと久遠の絆』、開始」


 参列者の参加を待っています、という文字とその数を示す数字がカウントアップしていく。三桁、ギリ四桁に届かないくらいの参加人数なんですがやばすぎだろ。そしてどうやら参列者は祝儀としてお金(ステラ)が参加費として必要らしく、なんと二千七百万強の大金が一気に俺に流れ込んできやがった。


 視界が一変し、バカほど広い大聖堂にて全員が収容された。壇上にポツンといるが気まづい事この上ない。なんでこんな人数がいるんだよ。だが悪態をつく暇もなく鐘が鳴り響き、聖堂の巨大な扉が開く――


『エンゲージパートナーが共に条件を満たしているため、ユニークミッションへと派生します。『穢れなき手に久遠の絆と花束を』、を開始します』


「は?」


「あんた既出のミッションすら未知の最前線に変えちゃうの!?」


 参列者の中からチョコの声が響く。俺も驚いてるし、他のみんなもビビっていた。一気に衣装がタキシードに変化し、全員の視線が扉をくぐる白髪の女神に持っていかれる。ありえない。花嫁を連れてくる役目は本来NPCの牧師だったはずだ。


(ア、アストライアが自らがコロネを連れてきやがる……)


 ウェディングドレス姿のコロネが少しずつ歩み寄る。俺の隣まで来ると並んで正面のアストライアを見つめた。後ろからはひそひそと未知の最前線に驚く声が。なんで女神直々に?と。


「汝らよ、手を胸に……良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩き、他の者には依らず、死がふたりを分かつまで愛を誓い、その穢れなき手を結び続け、神聖なる婚姻の契約のもとに……久遠の絆を誓えますか」


「わ、私はレイを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も……えっと、病める時も健やかなる時も……えぇっとなんだっけぇ……!?」


「わざわざ言わなくてもいいと思うんだが……」


「えっと……愛を誓い、夫のみに添う事を誓います」


「承りました。願わくば、無欲なその手が汚れないように……エンゲージ――」


 蒼白の光が輪となって周囲に広がる。指輪が一際大きく光り輝き、俺とコロネを繋ぐように赤い光が結ばれた。そして何故かムーブアシストによって俺達の体が勝手に動く。待て、そこまでの再現性は求めていないし後々気まづくなる。


(えぇぇぇえぇぇぇぇぇ!?キスまでさせられんの!?待って待って!!ああああああああぁぁぁ!!)


 顔が熱すぎて死にそうです。コロネも過去一で真っ赤な顔をしており、触れた唇の乖離と共に潤んだ瞳と目が合った。すいません、俺みたいなやつがキスをしてしまって。でもムーブアシストのせいなんです。俺は悪くない。


「セイファート、良い主人を見つけましたね。二人を祝福の星道に案内してあげてください」


「セイファート……!?うわっ!」


 俺の権限とか関係なく強制的に召喚されたセイファートが俺の首根っこを咥えて放り投げやがった。宙返りしながら背中に着地し、アストライアに背中を押されたコロネへと手を伸ばす。引き上げるように手を引き、横座りとなったコロネを連れて俺達は疾走する流れに。


「時空が割れ……っ!?セイファートさぁぁぁぁぁん!!なんですかそれぇぇぇぇぇ!?」


 大聖堂から砕けた空間へと飛び込み、数多の星が煌めく謎空間に突入した。星屑で出来たカーペットの道、いや道と表現していいか不明だが確かにセイファートがそこを疾走している。


 満点の星空と駆け抜ける数多の流星群、そして花弁のように舞い散る蒼白色の結晶。わぁ、凄くキラキラしてる〜なんて脳死していると、眼前にて強制的にアイテムを受け取らせる文言が。


星花(せいか)のブーケ?なんだこれ」


「私にも見せて〜 綺麗だね〜!」


 白い紙に巻かれた花束は現実には存在しない見た目をしていた。蒼と白のコントラストが美しい八枚の花弁は透き通っており、淡いエメラルドのような光沢のある茎。花というより最早ガラス陶芸品だろ。だがどうやらコロネはお気に召したらしい。


「クランハウスに飾れるかな?」


「多分大丈夫だと思う。水とか肥料が必要なのかすら分からないけどな……」


 ちなみにセイファートは操作してない。なんか勝手に動いていくし、こっちの操作をまるで受け付けない。だが星の道が急速に勾配が下がり、またもや砕けた空間へと飛び込んでいく。


「館だ……」

「か、帰ってきたの……?」


「おかえり〜 手なんて繋いじゃってぇ〜?熱々だねぇ?」


 ユーフィーに茶化されるまで手を繋いでいた事を忘れていた。俺の左手とコロネの右手は指を絡めるように繋がっており、セイファートに乗せる際にそのままだったようだ。慌てて離そうとした刹那、強く手が握られる。


「……そうだよ!私達結婚したんだもん!手くらい…………つ、繋ぐよ……!それに……キ、キスもしたんだから!」


「お、おおおおおおおちついて!?あくまでゲーム内結婚であってだな……!?リアルとゲームは……」


「……ゲームでも嬉しい。えへへ!この花飾ろう?」


 飾り気のない彼女の笑顔に恋心を自覚した。俺達の衣装がいつも通りのものへと戻り、引かれるがままに館へと入る。そして結婚したせいかメイさんのコロネへの呼び方が変化してしまった。奥様、だそうだ。ゲームとはいえ適応が早すぎるにもほどがある。


「旦那様、奥様、お帰りなさいませ。素敵な結婚式でございました。どうぞおかけ下さい。お花は私があしらっておきましょう」


 繋いだままの手のひらと自覚した恋心に鼓動が駆け足になる。だがリアルの方はひとまずまだ温めておく。今の関係を壊しくたくない臆病者である。次のミッションはどんな内容だろうか、またユニークミッションに派生したりするのだろうか、なんてコロネと話しているとチョコ達も帰還したようだ。


「ただいま〜 って、あんた達先に帰…………なんでまだ手を繋いでるのよ!!」


「ふ、夫婦なんだから普通だよ!」


「ゲームの中の話でしょ!むぅぅぅ……!」


 何その可愛い怒り方。チョコのご機嫌ななめな様子については理解不能だが、やはり俺達の結婚式は大きく騒がれているらしい。別に俺達の結婚自体はなんてことはないが、既存のエンゲージミッションがユニークに派生したためだ。


 従来の内容であれば、アストライアでもなんでもないただの牧師と一連の儀式を行い、ブーケをトスしてパートナーと目的地まで移動して終了という流れだ。同じ流れでも俺の場合は役者も移動の景色も違った。エンゲージリング実装以来初の事らしい。


「システムのアナウンスが参列者全員に聞こえてたし、あんた達二人が共通して何かの条件を満たしていることまで全部モロバレしてたわ。心当たりは?」


「……お互いにバツイチじゃないとか」


「そんなヤツら五万といるわよ。私も考えてみたけど全く思いつかないのよね……」


「以外と麦穂の解放条件と被ってたりしてな〜」


「コロネが麦穂を解放させられたらかなり濃厚ね」


 分からない事をいくら考察してもあまり意味は無い。深くは考えずに少しくつろいだらすぐに二つ目のミッションも行う。本命の狙いはこいつだ。エンゲージリングのパートナーの座標にまで転送可能となる効果を目指し、レッツヴァージンロード。

『釣り』


水の中には様々な生物が過ごしている。それらを釣り上げることで飼育や食べることが可能だ。だが中には攻撃性の高い生物や、有毒性の高いものもいるため注意が必要。


Now loading…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ