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九十六 婚姻の入口


 アストラのオープンフィールドと瓜二つ、そう表現したのは恐らく景観のみだと思うから。他の野良プレイヤーが大勢いるこの大地に、未だに未発見のバレクアンドラがこんなに派手に登場するわけがない。つまり、これはユニクエの演出と捉えるのが妥当だろう。


 空には幾重もの魔法陣が展開され、天使達が次々とバレクアンドラへと襲いかかる。だがここで攻撃モーションが増えてしまった。船体のあらゆる所からコンパクトディスクのようなフリスビーが無数に飛び交ったのだ。弾けたフリスビー同士によってその挙動は不規則になり、各々が自己判断で弾く他に防ぐ手立てがない。


「まずい……っ!!多分シナリオ的にこいつがアストラの世界に着陸したら敗北だ!!体力も分かんねぇけど……!!一気に畳み掛けるしかない!!」


「わ、分かった!!」


 コロネの返事を合図に、俺はフリスビーを無視して被弾しながらも突っ込んだ。コロネに掛けてもらったリジェネによってダメージを中和しつつ、正しいのかさえも不明な雷の法撃をぶち込む。アンリも、コロネも、チョコも、皆が縋るように雷光法撃を撃ち込み続けた。


「いい加減に……っ!!オーバーヒートしやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!変式威力型ァァァァァァ!!」


 ユーピテルブラスト。その一閃によって船体が大きく揺れる。苦しそうに呻くバレクアンドラの汽笛と、項垂れるように首を傾けた骸骨の頭。額には青黒く輝く球体のコアが露出していた。ゲーマーとしての本能がデンジャースキルの名を綴る――


「『星屑の黎明』……っ!」


「全員で詰めるわよ!!コロネはレイにリジェネレイト!!クイックヒール!!」

「リジェネレイト!!すぅぅぅ……」


 パーティー全員が不屈の怨恨を叫び、俺の体力がチョココロネコンビによって全快した。左には曲針を、右にはシルヴァーナを、全員で入れ替わるように交互に大技を叩き込んでいく。


 コンボ数が一気に跳ね上がり、隙間ないパーティー連携によって戦場に蒼い閃光が煌めきまくった。その中でも会心倍率がアホみたいに上がった俺の斬撃は一際大きく、五十九コンボまで積み上げた瞬間にスキルリンクによって必殺技へと繋ぐ。


「カース……っ!サイン!!!!」


 蒼い閃光が空にまで突き抜け、甲板にヒビが入るほどの衝撃が走り抜けた。多分今のカースサインはとんでもない威力になってる。二撃目、真紅の火花(・・・・・)と蒼き閃光が。特殊部位破壊、なんと奴の弱点であるはずのコアがあまりの威力に粉々に砕け散ったのだ。


 顔を形成していたはずの機械のパーツがボロボロと剥がれ落ち、剥き出しになった箱型の何かが現れた。よくわかんないけど多分、スパコン等にも使われているであろうCPUとかそのあたりのやつだと思う。平たく言うと、機械仕掛けのこいつらにとっての脳みそだ。


「死ねぇぇぇぇぇぇい!!」


 最後の一撃によって箱体が激しく破損した。一気にバレクアンドラの制御が失われ、乗ったまま俺達は高速で落下していく。それでもなお近づいているであろうラストアタックへの嗅覚が、怯むことなく殺意を剥き出しに剣を握らせる。


「ディキャパティエッジ!!」

「フォルテ!!」

「フレアソレイユ!!うおおおおおおおお!!」

「タイダルウェーブ!!」


 火花を散らす箱体だが、浮力を取り戻そうと船体が動く。だが地面が近い。一つ不安なのは、このまま俺達まで落下ダメージが入らないかどうか。が、どうやら杞憂だったようだ。確かに衝撃はあったものの、地面への墜落と同時に眼前へとcongratulations!!の文字が。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!気合いの初見クリアktkr!!」

「やった〜!!」


 恒例行事のハイタッチをコロネと叩き、リザルト画面を食い気味に覗き込む。残念ながら星七の出土はなく、代わりに与えられたものは星六のサブマシンガンと謎のアイテムだ。


「残念。サブマシンガンは誰か使う?どうしても欲しいって人がいるなら譲るけど、そうじゃないならハザマが持つと火力が安定するかもしれない」


「む!?お、俺はゼロのスタイルをやめないぞ!!」


「別に曲刀を捨てろとは言ってねぇよ……サブマシなら片手で扱えるから、納刀状態の時にコンバットチェインを稼ぎやすくなるんだよ」


 左手に納刀した曲刀を持ち、右手でサブマシを撃つ。対プレイヤーにおいてはイレイザーが邪魔なためあまり意味は無いが、エネミー相手ならばそれなりに役に立つ。説明したら納得してくれたので押し付けといた。


「『機侵関銃(きしんかんじゅう)バレク』ねぇ?バレクアンドラ固有の泥武器だろうけど、案外解放武器だったりしてな」


「あんたそういうの好きよね……私は堅実な星七の方がいいわ」


「ロマンなくして男の子は務まらない。さて本題はこっちだ……なんだと思う?これ」


 『創神の罪』


 可視化させるとくたびれたボロボロの金の鎖が現れた。武器でもなければ使用すら出来ない。この手のパターンは『祭殿への羅針盤』と同じくして、特殊ダンジョンに類似した何かのキーアイテムとされるのが鉄板。が、ヒントがなさすぎて何も心当たりが浮かばない。


 アストラには神という概念が存在するが、『創神』と称される神はアストライアではない。機械文明大好きマンのユピテルのほうを指す。メインシナリオには一切関与してこないレアな人。確かアストライアとは犬猿の仲だった気がする。


「ヒントもないんだし、しばらくは放置してていいんじゃない?そんなことより今日はこの後どうする?」


「んー、みんな疲れたろうし自由行動で。落ちるも個別に何かやるのもなんでもおkで。とりあえず館帰るぞ」


 転送して館に帰還。お辞儀するメイに手を上げて挨拶しながら、おかえりと迎えるユーフィーの頭を撫でる。とりあえず未知の鎖をイモータルボックスにダストシュートして、ソファへと体をぶん投げた。


「ぐえええ〜 疲れたンゴねぇ」

「と、隣いい?」

「おー」


 ちょこんと隣に座るはコロネ。何やらもじもじとしているが何か言いたいことでもあるのだろうか。チョコは椅子に座ったまま動画編集を始め、アンリやハザマは道具整理、オレンはリアルに落ちていった。そんな皆の様子を見ていると耳打ちしたコロネが。


「あ、あのね……?そ、その……前に言ってたアストラでの結婚って……ほ、本気なのかなって……」


「……せっかくだし本当にやるか?二人で挑むエンゲージミッションってのがある。コロネ相手なら別に倉庫の共有も心配いらないし」


「レ、レイがいいなら……」


 あくまでゲームの中での結婚だ。なのでこっちまで恥ずかしくなるくらい赤面するのはやめてくれ。課金ページのソートを合わせ、二万四千円とかいうぼったくりチートアイテムの購入を行う。


 初めて買ったため知らなかったのだが、どうやら値段も相まって購入時に派手な演出が組み込まれていたらしい。ハートの矢じりが装飾された弓持ちの小さな天使、そいつが舞い降りると同時に花束のエフェクトが一帯へと派手に散りゆく。告知もしておらずチョコやその他のメンツがクッソビビっていた。


「は!?え!?なにこれぇ!?」

「は、派手な演出だね……!?」


「ちょ、ちょいちょいちょい!!あんた達本当に結婚するの!?」

「け、結婚するのかレイ!!??」

「寝盗られた……」


 寝盗られてもないし本当に結婚するんだよ。キューピットから二つのジュエルケースを受け取り、片方をコロネへと差し出す。だが何故か受け取ってくれない。なんでや、結婚しよう言うたやないかい。


「……うぅ」


「……あんたがはめてあげなさいよ!!女心を全く理解してないわね……!」


「アァ!?ええ!?わ、分かった」


 遠慮気味に差し出された左手に手を添え、ジュエルケースから取り出した指輪を運ぶ。どの指だっけ。一瞬戸惑っているとコロネの背後に位置するチョコが薬指をちぎれんばかりの勢いで引っ張っていた。ここだぞ、間違えるなよ?という声が聞こえた気がする。


「ほら、つけたぞ」


「あうわぅ……っ!あああ!!」


「どこ行くねーん!」


「コロネ……恥ずかしいから逃げたわね」


 自室に飛び込んで静かになった。俺も同様にエンゲージリングを装着した瞬間、足元に花束の紋様が光り輝いて消えた。眼前にはコロネと結婚した事実確認を問う文字が浮かび、項目のイエスに触れる。


 解放されしエンゲージミッションの項目に続く。総じて『最果てのヴァージンロード』と呼ばれるこれは、今では四つのミッションが用意されている。順次コロネと協力しながら攻略していくが、便利な二点の転送権限は早めに欲しい。


「ファーストミッション……『祝福のブーケと久遠の絆』、クリア条件は目的地の到着。あーね、二人して指輪装着と指定された衣装を着る……結婚式やんけ!!」


「そうよ。ちなみにあなた達が招待状を送れば、受け取ったプレイヤーは参列できるわよ」


「……需要あるか?適当にクリアするだけでいいんじゃ……」


 参列者の招待はコロネと相談してから決める事に。何気に初挑戦となる最果てのヴァージンロードに少しワクワクしていた。攻略情報は山ほど出ているが、ネタバレしてはもったいないので予備知識なしで楽しんでみようかと思う。

『クラン』


欲望に塗れた世界において知性と武力は生存に直結する。個の力ではいずれ淘汰されてしまう運命も、絆と信頼の架け橋を築く事が出来れば未来を覆せるかもしれない。


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