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九〇 産廃クスモンスのちにクソクエスト


 目を覆う程の稲光と共に全員が阿修羅を背負う。今はアンリがなぜデンジャースキルを持っているかどうかは後回しでいい。回避型タンクのプレイヤースキル依存で勝敗が決まるコイツを相手に、出来ることならばここで畳み掛けて勝ちたい。


「大技はダメだ!!ダウンが短い!!近接組が打ち終わったら他は法撃で頼む!!」


「「分かった!!」」

「だよね……」


 後衛三人組は上級法撃の詠唱へ、オレンはタイダルウェーブを叩き込む。ハザマは辛うじて残っていたフレアソレイユの効果によって抜刀スキルをリンクして連撃を。続けて俺も行かせてもらう。


「カース……!サイン!!」


 歯車の一部分が再び砕け散り、大きく露出したコアが一際強く光る。各所歯車の回転もどこかぎこちなく、軋む音がコイツの悲鳴に思えた。だが情けなど必要ない。巻き込まれないようすぐにバックステップし、炎、氷、雷の上級法撃が奴を包み込んだ。


「プロミネンス……バースト……」

「 変式威力型!アバランチ……っ!ブラスト!!チョコ!!」

「死になさい!変式威力型!!ユーピテルブラスト!!」


「まじか……っ!まだ落ちないのかよ!!避けろ!!チョコ!!」


「あ、私死ん――」

「――させないよ!!」


 だいしゅきホールドの構えへとオレンが胸部に大剣を盾に見立てて挟み込んだ。体当たりのように繰り出されたその行動によって、サゼルキロロが大きく仰け反る。大した度胸だとアホ毛をわしゃわしゃしてやりたい。ミスっていればお前がミンチになっていたというのに。


「チョココロネ!!俺とオレンが時間を稼ぐ!!トドメを刺してくれ!!コアが露出してるから今なら近接でもピンポイントなら通るはずだ!!うぉ……!!??」


「信じるからね……レイ!!」

「六秒耐えてちょうだい!!」


 オレンとスイッチしながら後衛へと行きたがるサゼルキロロを妨害する。チェーンソーをヘヴィースマッシュで弾き返し、間髪入れずにスピンしながら繰り出される蹴りへとオレンが大剣を合わせた。あと四秒。


 次に引いたモーションはフリスビー祭りだ。最悪だがもうやりきるしかない。軽く被弾しながらもコロネとチョコへと飛来する歯車、その間に身をねじ込みながら大技の溜めを怯ませない。あと一秒――


「まず……っ!オレン……!!」

「ごめん……っ!チェーンソーは弾いたけど……!!右手は無理かもぉぉぉぉぉぉ!!??」


 振り回された左のチェーンソー、そして同時に回転する右手の法陣。矛先はゼロ距離のオレンだが、避ければ後衛のチョココロネに被弾は必須。俺もスキル硬直により恐らくは助けが間に合わない。悲報、オレン死す。


「――月輪!!」

「ハザ……マァ!!ナイスすぎだろ!!」


「みんな下がって!!『ディキャパティエッジ』!!」

「いい加減死になさいよ!!『フォルテ』!!」


 ハザマが法陣の煌めく右腕を弾いた事で生まれた隙、そこへチョココロネコンビのクロス放火が入りサゼルキロロが大きく身を仰け反らせた。軋む音と共にコアの光が消え失せる。音を立てて崩れる歯車から数秒、地下内を埋め尽くす静けさと余韻に俺達の鼓動がバクバクと高鳴っていた。


「勝った……勝った!!勝ったぞ!!」

「やったぁぁぁぁ……!!」

「強すぎだろコイツぅぅぅ!やったなぁァァ!コロネぇぇぇぇ!!」

「やったよぉぉぉぉぉぉ!!」


 恒例のハイタッチがいつもより激しい。両手でパーンとやった後に飛び付いてきたので抱っこしてクルクル回転した。いやしかし本当に嬉しい。ソロの時に比べて遥かに楽だったとは言え、仲間と強敵を打ち倒した時のこの高揚感はたまらない。


「そういえばさ!?俺なんか暗視効果が切れた時に吹き飛んだんだけど……?あれ誰か助けてくれたのか?」


「私だよ!レイが抱きつかれそうになってたからシールドバッシュで吹き飛ばしたの!!」


「まじかァ!?コロネお前凄いな!!ハザマも最後ナイス月輪!!」


「いやいやいやいやいやいや……!確かにコロネもハザマも凄かったわ!!でもあんたが異常過ぎんのよ!?なんであいつに張り付かれながらあんなに避けられるのよ!!本当に規格外!化け物!!勝てるなんて報告今まで聞いたこと無かったのに!!まさか私達が勝っちゃう……なん…………て………………」


 チョコが青ざめていくに連れ、俺も事態に気が付き絶望した。それはそれは、とてつもなく苦労して勝ちました。はい、報酬とか考える余裕もなく手放しで喜ぶレベルにはね。なお、素材以外に泥はなし。経験値しかくれず、ブチギレ案件一歩手前である。


「ああああああああぁぁぁ!!!!」

「ふざっっっっっっっっけんじゃないわよこの産廃がぁ!!」


「お、落ち着いて二人とも〜」


 チョコと二人で死骸の残骸を蹴りまくった。ゴミが。クソモンスのくせに泥もクソとか転生したら雑草になれ。コイツを周回とか霊峰でもやらない。いくら俺がいるとしても勝率は一〇〇パーセントではないのだ。


 一戦毎にありえないカロリーを消費する上に、不屈の怨恨によるラッシュも使うため武器の修繕も必要になってくる。その辺の雑魚エネミーを狩りまくるのとは訳が違うのだ。クソが、気前よく一発で落ちろよ産廃が。


「文句言ってもしゃーねぇか……ひとまずサブクエを終わらせたら武器の修繕だ。その間は暇だし……あれの続きでもやるか?」


「あれ?」


「ほら、コロネが見つけた未知の最前線。メイドクエストが続きがあったろ?」


「ああ!?忘れてた!!やろやろ!」


 ポータルさえ開けておけばすぐに帰って周回出来る。本音を言うとサゼルキロロなんて二度とやりたくはないが、ユニークアイテムの存在を知っている以上解明しておきたい。そしてメイドクエの方もメンバーの続行の可否を聞いたところフルメンバーで出撃可、館に戻ってメイドクエスト一択だ。


 ステップアップ型ユニーククエスト、『家内と心は常に風光明媚、究極のメイドへの道筋』の攻略へと向かう。が、内容が本当に未知なため出たとこ勝負である。全員がメインウェポンに使用している愛用武器が修繕で使えない。さてどうするか、


「前回と同様なら戦闘はないと思うんだけどな」

「失敗したっていいよ。やってみよ〜」

「コロネもなんか……レイと似てきたわね。普通は未知の最前線って慎重に攻略するものなんだけど……」

「ゲームなんだから失敗したってまたやり直せばいいさ。いやでも……あの掃除クエストは流石にだるいか」

「みんなと一緒ならへっちゃらだよ。行こう!」


 攻略情報がない以上手探り攻略は必然だ。勝ちに慣れすぎると臆病にもなるのは理解できる。だがコロネが言うように、このメンツなら例え負けたとしても悔しかったな、もう一回行こうか?と楽しめる気がしている。攻略の結果と過程も楽しめるなんて、俺はどうやらとんでもなく良い仲間と巡り会えたようだ。


 出撃前に笑顔のコロネと目が合い、突き出された拳に応えて同じく右拳を突き出し互いにぶつけ合う。

さぁ来い、俺達ならばどんな理不尽でも楽しんでみせ――


『家内と心は常に風光明媚、究極なメイドへの道筋を開始します。クリア条件、時間内のクランハウス清掃、になります』


「は?」


 特殊フィールドらしき場所に飛んだが、どっからどう見ても俺達の館だった。いつもとなんら変わりない、唯一違うのはユーフィーやカブちゃん、メイドのメイさんがいない事だ。フィールドも館領内しか移動出来ず、困惑していると転送の光と共にメイさんが現れた。


『この度は僭越ながら、わたくしメイがご主人様達へとメイドの極意を授けます。一、例えいかなる仕事中であろうと服装は常に清潔に。二、心は態度に無意識に現れるため、謙虚な心を忘れてはならない。三、家内は当然、心も服装も常に明光風靡、奉仕の起源は主様の住まわれる場を光り輝かせること。これらを全うすれば自然と主様へと尽くせる究極のメイドになれます。時間制限は二〇分、汚れた館を清掃してください』


「ええぇ!?お前ら……!服が!?俺もぉ!?」


「わぁぁ……っ!メイド服だぁ!!」


 全員がメイド服に着せ替えられた。コロネやチョコ達は良いよ。可愛いしよく似合ってて眼福です。だが男キャラの俺やハザマまで着せる必要はあるのだろうか。しかも服には特殊な仕様がついており、耐久値のような清潔度とやらがあった。


 しかもメインウェポンには様々な掃除道具がはめ込められるようになっており、庭先のメイさんに話しかける事で道具のチェンジが可能なようだ。つまり、清掃箇所に適した武器を選択せねばならないという事だ。試しに窓枠を手で払ってみたら、三割くらい清潔度が吹き飛んでくそ焦った。


「うそぉん!?手で払っただけだぞ!?」


『適材適所、掃除道具も心も同じです。ご主人様達も敵に応じて武器を変えるように、我々メイドも敵は違えど同じですよ。館の清掃度合いは私に話しかけていただければ、その都度ご報告なさいますので参考までに』


 悲報、ステップアップクエストがクソ鬼畜な雰囲気。否、開始三分でも理解できる理不尽クエストだった。まず階段をバタバタ走ったら塵が舞ってゲームオーバー、清潔度が一気にゼロになって終わった。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!?サゼルキロロの方がまだ温情あったぞ!?無理ゲーだろこんなん!」


『ご心配なくご主人様。このクエストはリタイアしない限りは再挑戦が可能です』


 そういう問題じゃない。クリアできるまでやってもいいが、この理不尽具合は難易度が鬼畜すぎる。危害のある攻撃ならかわせるが、見えない上に無害な埃を避けられるか。だがどうやらひこやかメンバーは強かなようだ。


 全員が理不尽な清潔度に最早怒りを見せていた。いいだろうメイさんよ。とことん付き合ってやるよ。俺達〝非効率の館〟が戦闘だけの脳筋では無いということを、このクエストをS評価クリアして証明してみせよう。

『奪掠』


アストラの全てのアイテムには内部ステータスに所有者が記録されている。現実世界の時間で一ヶ月以上他人のものを所持、装備、保管をした場合奪掠者とする。


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