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九 パーティープレイの基本、コンボ

 適当な金策と並行しながら既存フィールドの神殿へと赴いていた。復讐に取り憑かれた殺意が高すぎるカオリはおらず、拍子抜けである。だがそれ以外にも目を引く光景があったのも事実だ。そして地味にレベリングしたので今は十六。


「えーい!あっ……ごめんなさいごめんなさいぃぃ!!」


 コロネが単騎でフィネスに蹴られていた。レアエネミーギガフィネス、その幼体という設定だったかな。キノコも生えていないただの雑魚イノシシなのだが、コロネが壊滅的なプレイヤースキルを秘めていることだけはよく分かった。


「何遊んでんだ……?」


「痛ぁぁぁい!踏まな……っ!踏まないでぇぇぇ……た、助けてレイさぁぁぁん!!」


「……シールドバッシュ」


 シールドバッシュ。


 サブスロットに装着する魔力(エーテル)消費型のサブウェポン。エーテルによる板状の波状衝撃波によって対象を吹き飛ばす。攻撃力は高くないが、張り付くタイプの近接特化マン相手だと刺さったりする。


「痛かったですぅぅ……」


「いや……えぇ…………?」


 あなた炎の法撃を先に撃ちましたよね。それがフィネスに当たったんだから当然戦闘になるでしょうに。法撃特化なら真っ先にシールドバッシュを買うべきだと思う。


「……多分持ってないだろうから、これいる?」


「シールドバッシュ……?あっ!さっきの」


「そう、っと……フィネスさんがご立腹らしい」


「た、倒して下さいぃ……!このゲーム怖いです!!」


「……まーじでアクションゲーム慣れてないんだな。お節介ならすぐに言ってくれ。いいか?法撃をメインで扱うなら、距離をとる事が大前提だ」


 説明しながらも俺は二つ目のシールドバッシュによってフィネスを吹き飛ばした。CTがやや長いが、四枚程度積んでおけばCTサイクルが上手く回る。これによって距離を取り、法撃による攻撃で更に吹き飛ばす。ということで、小杖を取り出して実際にやってみた。


「初級法撃の中でもブレイズバーストは使い勝手が良い。何せトップランカーのタイマンPvPでも常套手段なんですわ、これが」


 火の玉がフィネスへと直撃後、小爆発を起こして僅かに怯みとノックバックを与える。距離感、そして相手の持つ攻撃パターンを考慮し、防御と攻撃のメリハリをつける武器種なのだ。正直に言うと新規が最初に選ぶ武器種では無い。


相殺術壁(イレイザー)、シールドバッシュ」


「あっ……!イレイザーも覚えてます!!」


「最初から覚えてる防御魔法だからな。遠距離攻撃を全てカットしてくれるが、エーテル効率は悪い。保険程度の認識で、できる限り自力で回避する方が望ましい。法撃は吹き飛ばしに始まり吹き飛ばしに終わる。最初はこれだけ意識していればソロでもレベリングくらいなら余裕だ」


 イレイザーに関しては厳密には違う。正確には全ての攻撃を防ぐ事が可能だが、近接武器では絶えずヒットストップが発生して一瞬で魔力(エーテル)が尽きる。魔力(エーテル)の尽きた法撃士など動くカカシだ。まぁ、そのための武器三スロットでもあるのだが。


「見てるからやってみな?シールドバッシュは……とりあえず俺の全部やるから。タイミングも言う」


「わ、わわわ……っ!よ、四枚も!?シール――」


「――待て待て待て待て!落ち着け!!まだ射程外だ。ギリギリまで引き付けて……まだだ、焦るなよ……」


「……っ」


 アクションゲームに慣れていなければ、確かにリアルと感じ方がほぼ変わらないファンタジーな世界は恐怖以外の何ものでもないだろう。雑魚とはいえ、鼻息を撒き散らしながらおっかない牙を付けたイノシシは確かに怖い。だがびびりながらも、ちゃんと俺の合図を待てるくらいには従順なようだ。


「……今だ」


「シールドバッシュ!!」


「続けてブレイズバースト」


「ブレイズバースト!!!」


 杖を構えて射出、その初期命中力はプレイヤースキルに携わる。だがどうやら彼女には優秀な指導者が付いていたようだ。ゼロと同じくして龍族、そして女性キャラ、この組み合わせは紙装甲火力特化の現環境でもトップクラスのアタッカーを誇る――


「ふぁぁぁぁぁぁぁ!!それブレイズバーストちゃう!!中級爆裂のイグニションバーストや!!」


「あ……え?間違えましたぁぁぁ!!」


「イノシシが木っ端微塵に……でもまぁ、明後日の方向に飛ばしたのにおもっくそ炎球が曲がったな?射線修正は誰から教わったんだ?」


「チョコが撃ったあとも諦めるなって教えてくれました。法撃が消えるまでエーテルを消費するけど、技量に依存して軌道を曲げられるって」


「それも法撃士として必要な駆け引きになるから……って、小難しい話は強くなってからでも遅くないか。おめでとさん。ソロで初の狩り成功か?」


「はい!!ゲームなんてしたことなかったけど……少しだけ楽しさが分かった気がします。先生!!御指導お願いします!!」


「先生はよしてくれ……」


 偶然だろうが上位ランカーがよく使う言霊フェイク、まさか俺がルーキーに騙されるとは思わなかった。別の法撃名を叫びながら全く別の法撃をぶちかますプレイヤースキルだ。ミラー対戦なんかで法撃合戦になると、お前ら嘘しかついてないやんけ状態が頻繁に発生する。


「やったやった!レイさん!!二匹目も一人で倒せました〜!」


「おー、凄いぞ〜 やり方を教えてもらって、それを自分の力に変えて……そうやってハマっていくのも悪くないだろ?」


「はい!今なら私……!なんでも倒せそう!!」


「………………おい?ちょいちょいちょいちょい!!そいつに喧嘩は売るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」


 悲報、コロネ氏、性懲りもなく『ギガフィネス』に喧嘩を売った模様。君のレベルはまだ十五なんです。そいつに攻撃はほぼ通らないんです。いやまぁ、レベル差の攻撃力補正なんて、ゲームに慣れていないなら分からないのかもしれない。


「レイさぁぁぁぁぁぁぁあん!!」


「こっち来るなぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!てかそいつレアエネミーのくせにポップしすぎだろぉぉぉぉぉぉ!!」


「来ないでぇぇぇぇぇぇぇ!!シールドバッシュ!!イグニションバースト!!!!」


 小動物の防衛本能、というより生存本能か。偶然にもそのスキルは僅かな希望を照らす。叫んだ。全力で射線修正をして、害悪モンスの害悪たる所以を燃やし尽くせと。


「キノコ狙え!!それさえ壊せば気合いでいけるかもしれない!!」


「え?は、はい!!」


 湾曲した炎球がイノシシの背中へと直撃した。燃え盛るキノコ、そして暴れ狂う害獣。こうなれば鎮火する前に燃料追加である。


「ブレイズバーストぉぉぉぉぉ!!コロネも炎系の法撃打ち込みまくれ!!主にキノコに!!」


「はい!!」


 キノシシと俺達のレベル差はギリギリ二〇を離れていない。それでもレベル差補正で八割カットなため削りは微々たるものだ。だが燃えやすいキノコなんか背負ってるが故に、貴様はそのまま燃えて永遠のスリップダメージを受けるのだ。


「部位破壊完了〜 こうなりゃてめぇはただデカいだけのフィネスだ……」


「キノコ燃えちゃいましたぁ……ちょっと可哀想だったかな?」


「バカタレ、殺されそうになったのに同情の余地なんかないだろ」


 コロネには俺に当てないよう後方支援を頼みつつ、タンク兼削り役として前に出る。武器種は双剣。片手剣二丁持ちの殺意丸出しスタイルで。同じ武器種を両手に持った場合、残念ながらウェポンスキルのCTは共有する。


「いいかー 流石に攻撃力補正で硬いから、おもっくそコンボ数(・・・・)を稼いでいくぞー」


「コンボ数?」


「そう、アストラでは定められた時間内に次の攻撃を当てた時、そのヒット数が加算して可視化される。俺達が炎ぶち込みまくってた時も出てただろ?」


 理解してもらうために攻撃をフレーム回避しながら近づき、二本の片手剣で切り刻んでやった。このコンボ数が加算すればなにがあるか、簡単に言うと会心系統にボーナスが入る。


「この数字が上がっていくと……うーん、なんか蒼白のエフェクトが出やすくなる!こんな感じの〜 これが会心ってやつね」


 ざっくり言うとコンボ数継続中に攻撃を叩き込むと、会心率と倍率が徐々に上がっていく。最大で一○○○コンボ。だがこの数字はまず不可能。一○○人で順番決めて殴ってもまず間に合わなくなる。何故かと言うと。


「あぁ……!コンボ途切れちゃいましたレイさん!!」


「しゃーない。加算していく毎に受付が短くなるから。これを繰り返して効率良く会心出してくぞー」


「わ、分かりました」


 ソロだと俺の知る限りで可能なコンボ数は六十七。俺でも六十二しか出したことないけどどうやるんだろう。なんて考えながらほぼ無心でキノシシを切り刻み続けていたら討伐が完了した。無邪気に跳ねて喜ぶコロネが少し可愛く見える。中身はおじさんかもしれないのに悔しい。


「やった!やりました!レイさん!!ハイタッチ!」


「うぇーい。キノコさえ燃やせばこんなもんよ〜 お?レア泥してんじゃん」


 ギガフィネスのレア泥、その名も『胞子の木壁』。種別は武器、盾である。レアリティは☆五だが、現時点でこれを装備すると結構ラクができる。だが俺の裸縛りが告げていた。盾は防具だからなしと。


「これ持っていっていいよ」


「で、でも……私ほとんど何もしてないです」


「なーに言ってんだよ!コンボ数稼ぐのはパーティープレイの基本。働いてない?いーや!大貢献だね。だからこれは俺達の手柄であり、君の手柄でもある。持っとけって!」


「……ありがとう!」


 ネカマがとるひとつの手法である謙虚な羽衣、それがコロネには感じられない。ある程度アストラに精通している者ならば、この盾はそこまで嬉しいものではないはずなのだ。だが彼女は慣れない戦闘を、初めてかもしれない共闘を、その過程を楽しみ、その結晶を本気で嬉しそうに受け取った。色眼鏡がかかっているかもしれないが本当にそう見えたんだ。


「……楽しそうだな」


「はい!!私このゲームハマるかも!」


「前にさ、チョコのこと良い奴って褒めただろ?」


「そういえば……言ってたかな?」


「あれは……なんだろうな。こういうゲームの根底にある楽しさ、それを君と共有したいって事なんだ」


「チョコと……こんなふうに…………」


「未知の最前線で得られるワクワクはこんなもんじゃないぞ!サクッと強くなっちゃって驚かしてやろうぜ!このゲームはなんと数字だけでは語れない程に、強さに奥深さがあるんだ!!例えばな――」


 なんだか恥ずかしくなってきたのでオタクマシンガントークをおっぱじめて誤魔化しておいた。普通の人間ならばうざくなるはずなのだが、何故かコロネは終始楽しそうに耳を傾けてくれたのだった。

『会心率、会心倍率』


全ての攻撃にはクリティカル判定が発生する事がある。急所を狙えば確定で会心になり、蒼い斬撃はより多くのダメージを刻みつけ攻略の鍵となるだろう。


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