表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/110

八十八 機械文明と深層への門番


 アストラの世界は完全に元通りになっていた。木っ端微塵になっていた館も完全に、そしてその際にロストしたはずの防具やサブウェポン等も全部が復元していた。流石の神運営、仕事が早い。


「おかえりみんな!見てレイ!!私屋敷内なら動けるようになったの!!」


「お、おお……!?本当だ!!前までは石タイルの上しか動けなかったのに……なんでだ?」


「わかんない!」


 ユーフィーがグレードアップした。庭と屋敷内も自由に動けるようになり、いつもイジられていたはずのマンドラゴラとも仲良くなっている。頭の上に乗せて走り回っている姿を見るに、よほど自由が嬉しい事が伝わってくる。


 挨拶もほどほどに、運営から贈呈されたコード番号の入力とそれに伴うアイテムを受諾する。コートやスカーフ、ショーパンからスカートまで、結構な数の衣装詰め合わせボックスのようだ。だがどれにも共通したデザインが刺繍されていた。


「この刺繍……アストライアの天秤だ」


 コロネが。


「運営から貰ったって言ってたやつ?」


「あぁ……クランによっては統一されたデザインを刺繍したりもするんだが、何故か天秤のイラストだけは使わせてくれなかったんだよ。お前ら〜どれか気に入ったやつあるか?好きなの使っていいぞ!」


「えぇ?天秤!?」


 チョコも驚いているがそれもそのはずだ。クランロゴ、クランマークとも呼ばれる仕様にあたり、プレイヤーのデザインしたものを使用する時はまず運営の審査に通る必要がある。その過程をクリアすれば衣装でも防具でも、好きにそのデザインを刺繍させる事が可能になるのだ。


 だが昔からアストライアの天秤は善と悪を計る正義の象徴として、プレイヤーがそれに似たものを使用する事は許してくれなかった。が、レストの一件が起因してるか不明だが、俺達は使えるようになってる。なんならクラン設定の中で既にロゴ候補の一つとして登録済になっているではないか。


「クランロゴに使えるんだが……え?どうする?俺達のクランロゴにしちゃう!?天秤とか唯一無二だぞ!!」


「かっこいいし私はいいよ!」

「そうね、デザインも悪くないし賛成」

「統一されてるのかっこいいよね〜!」


 ついでに全員イメチェンタイムだ。俺はワンポイントだが、いつもの衣装に天秤の刺繍が施されたスカーフを。チョコはショーパンにタンクトップ、そして上着のコートという装い。腰に吊り下げたタオルらしきものに天秤が。


 オレンはさほど変化はないが、首元まであるチューブトップのような衣装にフードを取り付けたものがお気に召したようだ。左肩にはガンホルダーのようなベルトを巻き付け、留め具の金のバッチに同じく天秤のイラスト。そして極めつけはコロネ――


「かっわ!!コンカフェのファンタジーコスのやつやんけ!!」

「わ、わかる!?可愛いかなぁ?似合う!?」

「くっそ似合う!!」


 白色のブラウスと胸の下まであるハイウエストスカート、そこから太ももを覗かせるようにしながらもニーソとブーツが。そして肩を隠すように添えられた茶色のケープとカチューシャのように装飾されたリボンが髪の毛に巻き付けられていた。靡くリボンには天秤の刺繍が。


「最高だ!!」

「あ、ありがとう……」

「なんか私達とは随分と反応が違うわね」

「コロっち可愛い〜!!」


 ハザマとアンリも合流したら天秤ロゴの刺繍を伝えよう。うむ、それぞれワンポイントながらも統一感が出て素晴らしい。しかも誰も使用を許されない天秤マークとか優越感の塊である。さて、本格的にアストラをやっていきますか。


 復旧したてとはいえ他所は既に活動を再開している事だろう。そして俺達が投稿した動画によって特殊テイムの情報は垂れ流し、しかも海中マウントや加護等によって未踏破の地へ行ける事を教えた。何が言いたいのかと、恐らく今は大半のユーザーが狩場を離れて探索している可能性が高いのだ。


「動画の影響で多分ほとんどが特殊テイムや未踏破エリアの探索に忙しいはずだ。今のうちに一気にレベルを五〇まで上げる。ストーリー進行と狩場を利用してな」


「策士ね。確かに……今なら普段は抗争になりかねない場所も空いてるかもしれないわ」


「その後はゼロの頃に拾った未知のアイテムを狙いに行って……運が良ければ未攻略のユニクエか何かを行こうか」


 レベルシンク五〇だった記憶がある。『機械要塞の歯車』、この世界で機械関係のものを見ると嫌な予感がしてならない。アストラでは機械関係の文明は異世界から流れてきたものという設定がある。


 銃関係もその類であり、アストライアが嫌う武力の助長として銃だけウェポンスキルが存在しない。が、それはプレイヤー側の話し。プレイヤーは拒否権もなくアストライアに見守られているため、機械文明の恩恵が受けられない。


 ではエネミーは?そのアンサーは化け物です、が最適解だろう。機侵竜メソリタルバースも然り、ゴリゴリに武装したエネミーはこれでもかと言うほど機械文明を利用してくる。アストライアとは異なる神、ユピテルさんは異界文明大好きマンなのだ。


「前に話してくれた機械要塞の歯車?嫌な予感がするわねぇ……」


「禿同。バレクアンドラとか出てきたら発狂ものだな」


「バレクアンドラって?」


 コロネに続きオレンも首を傾げている。バレクアンドラとは公式PVで姿を見せているにも関わらず、未だにそれと戦えるクエストが分かっていない未知の最前線だ。一言で言うなら機械の巨大船、ノアの方舟をモチーフにした自我を持つ空飛ぶ殺戮兵器だ。


 PVでの一部プレイ動画ではボスであるバレクアンドラに乗り込みながら戦っていた。奴自体が船のためそこまでは分かる。だが典型的な床開きの落とし穴や、壁から飛び出す無数の針など、各所敵を削るために移動していると即死トラップが山積みのように見えた。ボスでありながら、そいつ自体がギミックという斬新なデザインという訳だ。


「機械仕掛けの船みたいなエネミーだな。そいつに乗り込みながら各武装を壊しつつ、トラップを回避しながら削っていく感じの新感覚ボスってとこ」


「ぶっつけ本番だと勝てなくない?攻略情報とか出てないかな〜」


「HAHAHA!誰も出現クエストすら分かってないからないよ!!ナイヨ!ヒントナイヨ!」


「えええ……でも、みんなと一緒なら勝てるかも!レベリング行こ!」


 という事でアンリとハザマも呼び出したところでレベリングへと洒落込む事にする。後衛組にはどんな敵にも削り役になれるよう、集中的に法撃を使用してラストアタックを狙ってもらう。レベル五〇までに最低でも中級までの全属性の法撃は欲しい所だ。


 炎、氷、雷の順に打ち込むことで機械仕掛けのエネミーはショートして動きが一時的に鈍くなる傾向がある。全てに対してそうとは言えないが、高レベル帯に入るにあたりこういった属性の攻撃手順等も重要になってくる。


 そうこう仕様の説明をしながらも景色が流れ、辿り着いた安置フィールドは『アレクフォール』。ファンタジーな景観から一転、ここではくり抜かれたクレーターのような地形に立体的に構造物が並ぶ。クレーンや剥き出しのワイヤーによって上下するエレベーター、おくらばせながらも異界の文明を私生活に取り込み始めたNPCの集落だ。


「うわぁ〜 アストラってこういう場所もあるんだぁ〜」


「ファンタジータウンが多い分、ここは異色に見えるよなぁ。しばらくはこの街を中心にレベリング兼ユニークアイテムを漁ろうと思う。異論はある?」


 全員異論はないようなのでレベリングだ。ポータルを開けつつ街の深部へと降りる。手始めに行うのは街の最下層にて待機しているNPCに話しかける事で、キャラクター一体につき一度だけ挑戦可能な経験値ウマウマサブクエストの消化だ。


 そもそもこの街の誕生背景に隕石の落下が関係している。石でも岩でもない、未知の素材で出来た何かが隕石のようにめり込み、そのクレーターにこの街が建設されたのだ。研究のため赴いた頃には綺麗さっぱりと未知の何かは消えてしまい、その残留集めという名の殲滅戦がサブクエストの全貌だ。


「はて?見ない顔だ――」

「会話スキップ。よし、行くぞお前ら」

「ちょっと可哀想だよレイ……見て?すごく悲しそうな顔してる…………」

「会話スキップなんてゲームあるあるだろ。時短時短〜」


 クエスト名『外界より堕ちたオーパーツ』、街最下層の亀裂から地下へと進み、そこにポップする特定のエネミーを討伐する。全身歯車やら何やらで構築された鉄臭いからくり人形だ。メンバーの中でも知識あるチョコが。


「何気にここの最深部って未踏破なのよ。霊峰でも何か手がかりとか掴めたりした?」


「霊峰との規約であんまり大きい声では言えないけど、少なくともゼロで活動していた頃でも辿り着けてない。が、その手前にいるアイツ(・・・)は倒せたことがある」


「うっそでしょ!?やっぱり……あんたってまじで規格外なのね…………」


 コロネが。


アイツ(・・・)って?」


「深層の門番『サゼルキロロ』、馬鹿みたいな防御力と馬鹿みたいな多段ヒット攻撃を繰り出すクソオブクソモンスだ。で、この話しには続きがあります」


「「…………」」


「え!?え!?チョコっちとコロッちはなんか察してない!?何!?なんか私だけついていけてない!?」


 察しの悪いみかんだ。『機械要塞の歯車』の出土情報は俺しか知らないが、何を隠そうクソオブクソモンスからのドロップだ。地味に鉄臭ブリキ人形の素材は高値で売れるため、金策がてらソロでプラプラしてたら絡まれた経緯がある。ちなみにソロだったとは言えゼロでも苦戦した。


「そのクソモンスからユニークアイテムが落ちたんだよ……本音を言うとやりたくなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!けど未知の最前線は確定してるので行きまァァァァァァァス!!」


「突撃隊長なら俺に任せろ!!鉄だろうとなんだろうと切り伏せてやるさ!!」


「いや……前衛組は本当に気を付けないとミンチにされる。全身歯車、しかも常に回転して刃も付いてんだ。回転機構の武器仕様か知らないが、機械文明のやつらは死ぬほどパリングしずらい……」


「む?では避ければいいのだろう?だが突っ込んで来たらどうすれば?」


「死ぬしかない。その時は諦めよう」


「えぇぇぇぇぇ!?」


「レ、レイがそこまで言うほど……?」


 全身が武器で近接がほとんど通らない機械文明、奴らをレベルの肥えにするならやはり法撃、法撃以外にありえない。無理強いはしたくないためハザマとオレンは仕事が少なくなるだろう。ではこれよりコロネ、チョコ、アンリ、そして俺の法撃強化訓練を開始する。

『属性コンボ』


エネミーには耐性の低い攻撃特性がある。中には単体の攻撃ではなく、各種属性のコンボによって弱みを露出するため、同じ属性の法撃に頼るのは得策では無い時がある。


Now loading…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ