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八十七 爆弾発言


 へし折れた腕のせいでご飯がまともに食べられへんやんけ。いきなりエセ関西弁で文句を垂れて申し訳ない。誰に謝っているわけでもないが、生粋の右利きの俺は朝飯に出てきた鮭の塩焼きと白飯に真顔だ。左手で食うにも、骨を取り除く細かい作業があるのは難易度が鬼すぎる。


「……」


「あ、琥珀さん……そっか腕が。でも彼女さんが先ほど受付でお見えでしたよ!朝早くからお見舞いなんて仲良いんですね!」


「……それって小動物みたいな可愛さの?誰だとしても俺に彼女はいません」


「え?ふ、ふーん……?そ、そっかそっか……あっ!天音さんおはようございます〜」


「あっ、おはようございます!ノック忘れてましたぁ!大丈夫ですか?」


「はいどうぞ!私は失礼するけど、琥珀さんがご飯食べるの大変みたいだから、良かったら手伝ってあげて?それじゃ〜 おっほほほ〜」


 うざい笑い方とニヤケ面に男女平等パンチをお見舞いしたい気分だ。コロネはコロネで当たり前のように椅子を寄せて箸を奪ってくるし、この歳になってアーンとか死ぬほど恥ずかしいんだが。


「はい!」


「はっずぅぅぅぅ……っ」


「怪我してるんだからしょうがないでしょ!それとも……私じゃ嫌?」


「そんなことはありません。いただきます……」


「あーん……病院食ってあんまり美味しくないって聞くけど……どう?」


「……アジガ、ワカリマセン」


 味なんかするわけないだろ。かわいい女の子にあーんされるとかどこの二次元だよ。無心で咀嚼する悲しきモンスターに成り果て、地獄とも天国とも言える食事が無事に終わった。テキパキと片付けてくれ、今度はおもむろに掛布団を引っ剥がされたのだが。


「脱いで!背中拭くよ!お風呂入れてなくて気持ち悪いでしょ?」


「えぇ!?いやいやいやいや!それは流石に悪いし恥ずかしいって……っ!?」


「あ……で、でもそっか…………医療用ガウンだと下まで見えちゃう……ご、ごめん!?私勢いだけで変なこと言っちゃって!?」


「大丈夫大丈夫!?ココロは悪くないよ!?俺も悪くないケドネ!?」


 二人してしどろもどろとしながらなんとなく気まづい空気が流れる。ゼロのカミングアウトをしてから明らかにココロの距離感がバグってる。ひとまず会話デッキの構築だ。共通の話題、そうなればやはりアストラ一択だ。


「そ、そういえばアストラ復旧したんだって?インしたのか」

「復旧したよ。でもね、みんなと話して決めたんだ。零真が退院してからみんなで一緒に入ろうって!」

「気にしなくていいのに。むしろユーフィーが心配だから気にかけてほしいくらいなんだが……」


「えへへ……じゃーん!見てこれ!」


 スマホを突きつけられ、そこに見えたものはなんてことはないメッセンジャーアプリだ。だが登録名に記されたユーフィーという文字に目を見開く。文字のやり取りだけでも十分に驚きだが、なんと通話まで出来るようだ。


『も、もしもしぃぃぃぃ!レイ!平気なの!?トラックでミンチになったって聞いたんだけど……!』


「なってねーよ……誰だそんな誇張したやつ。てか、声色的に平気そうだな」


『うん……!ありがとね…………館も元通りにしてくれたの!べ、別に寂しくとかないけど?は、早く怪我治して帰ってきたらァ〜?ぜんっっっっっっっぜん寂しくとかないけどね?』


「あぁ、俺も早くアストラに帰りたいからそうするよ。俺とも連絡先の交換とか出来る?」


『私の方からは難しくて……運営の人?がなんかリアルでの私の名残り?みたいなのを見つけて細工したとかなんとか……?詳しくは教えてくれなくて、とにかくアギトさんに言ったら連絡も取れるはず!』


「……そうか、分かった。また会おうな?じゃあ」


 ユーフィー伝いのため確信はないが、彼女のリアルはもう人としての形は残っていない気がする。名残りという表現は相当オブラートに包んだものだと推測する。恐らくはアギトさんも伝え方に戸惑っていたのかもしれない。


 それにしてもココロの尽くしてくれる姿が健気で可愛らしい。感謝もあるが申し訳なさが勝るレベル。親父と母親が持ってきてくれた衣服の整理、飲み物の補充やトイレの介護、ポンコツな右手足のせいでまともに歩けないため正直めちゃくちゃ助かっている。彼女の優しさを独占しているせいか、それは無意識に投下された。


「結婚したいな……」


「……ふえ?」


「来たわよ〜!生きて……え?」

「レイっちプロポーズぅぅぅぅぅ!?」


「あいえええええええええええ!?ち、ちちちちちちちちががががががががががががが!?あ、あぁ!?そ、そうそう!!アストラ内の!!アストラでココロと結婚したいなって!?」


「そ、そそそそそそそそうだよね!?ゲームの話しだよね!?そう……だよね…………あ、あはは!び、びっくりしちゃったぁ……わ、私飲み物買ってくる!」


「オレン!ココロについて行って!!早く!!」


「い、いえっさぁ!コロっち〜!待ってぇぇぇ」


 俺氏、やらかす。普段冷静なチョコでさえもありえないくらい取り乱していた。いや多分それを凌駕する勢いで俺は慌てふためいているのだろう。俺の足が健在ならば追いかけて誤解を解きたいくらいだ。


「……ほ、本当にゲームの中の話しよね?」


「…………ウン」


「その間は何!?本気なの!?嘘でしょ!?」


「オ、オオオオオオオチツイテ!ほ、ほら……健気に看病してくれるもんだからついポロッと……」


「……そう。ふーん…………じゃあ私からも軽くフォローは入れといてあげるわ」


 そう言ったチョコだったが、お見舞いのクッキーを乗せた備え付けのテーブルに派手につまずき、爆音を鳴らしながら顔面からこけた。なんで俺以上にお前が動揺してるんだ。今のは見てるこっちが痛かったぞ。


「だ、大丈夫か!?」


「ヘ、ヘイキヨ。じゃあ……痛ァ゛!!」


 今度は引き戸を押して開けようとして顔面を扉に。全然平気じゃないのだが大丈夫だろうか。フラフラとおぼつかない足取りで猫背のチョコが部屋から退室していく。


 しかし入院生活は暇すぎる。聞いた限りは一ヶ月はかからないが、それに近い日数をここで過ごす事になるらしい。お金の問題は特にないが、持て余した時間の方が苦痛だ。という事でカオリへとミッションを依頼しかけたがなんともタイミングが神。


「来たわよ零真。右手足が逝ったんだって?うわwwwウケるwwww」


「それが怪我人に対する態度か……えっと、そちらのOLさんはフォルティス?」


「初めまして。なに事だ?リアルの方がイケメンとかどういう現象だ……」


「お前リアルでもその男勝りな口調なのかよ……」


 何気に初エンカウントのフォルティスに緊張してる。だが話してみると思った以上に普通のお姉さんだった。ちゃんと常識もあるのだが、なぜこれがゲームの中では人の後頭部にウェポンスキルを叩き込む非常識な行動に出るのか謎である。


「そういえばお前のとこの新しい動画を見たぞ。海底火山と未公開ダンジョン……星七まで出土させおってからに…………最近荒らしすぎだろう」


「でもワクワクする動画だったろ?」


「お前の小賢しい解説がなければ、もっと気持ちよく内容が頭に入ってくるのだがな」


「普通に泣くぞゴラ」


 カオリが。


「怪我はいつ頃治るの?」


「一ヶ月はかかるらしい。そこでカオリに頼みがある……」


「…………寄越しなさい」


「話が早くて助かる。内密に頼むぞ……?」


 家の鍵を投げ渡し、顔を見合わせてニヤリと笑った。部屋の掃除しといてヨカタ状態である。部屋に見られて困るものはないはず。紙の本にはその良さがあるが、生憎とデジタル派の俺に死角はない。


「じゃあ私達は帰るわ。コアレスは多分早ければ夕方には持って行けると思うから〜」

「よろしくぅ!」


 扉を開いたコロネが。


「うわっ……!?とと……っ!」

「あら?ごめんなさい。怪我は無い?」


 扉でコロネ達と交通事故にあったらしい。尻もちをついたコロネがカオリの手を借りて立ち上がりつつ、嫌な笑みを浮かべた幼馴染が爆弾を投下しやがった。せっかく落ち着いて帰ってきてくれたと言うのに、なんでそんなぶり返すような発言をするんだ。まじでくたばりやがってください。


「どれが彼女よ?ねえねえ、アイツエ◯本はデジタル派だから性癖探るならスマホ奪ったらワンパンよ」


「早く帰れぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「ヒント、コアレス」


「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!どうぞお引き取りくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」


 なんとも慌ただしい一日だ。だがそのおかげで退屈はしていない。三人にもコアレスが間に合えば夜にインすると伝えるも、なぜか俺の性癖に異常に食い付いてきた。本当に勘弁して欲しい。


「あんたはデジタル派なんだって?ちょっと見せてみなさいよ〜」

「え、えっちなやつ……?れ、零真も男の子だもんね……っ!?こ、後学がてらどんなものを……?」

「……レイッち隙あり〜!!ケータイ取ったぞ〜!!」


「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!??」


 あまりの絶叫にナースさんにブチ切れられながらも、夜にアストラにインする旨を共有した。アンリとハザマにもDMを送り付け、今宵は徹夜でアストラへと洒落込む事にしよう。

『ドワーフ』


妖精族の中でも一際体が小さく、それでいて筋力の高い種族だ。妖精特有の高い技量に加えて高い筋力は、戦闘以外にも鍛冶としての才能も持ち合わせている。両手持ち武器を片手で扱える唯一の種族でもあるが、小柄故に携帯できる武器が二つとされている。


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