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八十四 始動、ゼロ


 日本に留まらず全世界で大騒動だ。レストの引き起こしたサイバーテロと併発したリアルへのテロ被害は甚大で、各地のいつどこで連鎖した犯罪が発生するか不明という恐怖体験である。警察もヤーさんも連携しているらしく、未然に殺害を防止できた件数もかなり多いらしい。


「過去一やばくて震えるわ。世界規模のテロって……アストラの影響力ってこうしてニュースになるとやばいんだなって実感する」


「こ、怖い……今後アストラ出来なくなっちゃうのかなぁ…………そうなると……やだな」


「俺も嫌だよそんなの。でも一個人の俺達に出来ることなんか何も無いし、運営や警察に任せるしか……」


 などと畳の上で伸びながらコロネと会話していると、顔を出したチヨの父親、そのハゲ頭が光る。その後ろには見覚えのある肉親の姿とスーツの男性が。正真正銘俺のパッパだ。


「零真、少し話しがある。こっちに来てくれ」


「へ?そちらの方は?てかなんで親父がここに!?」


「リアルでは初めまして。プレイヤーネームアギトです。詳しい話しはこちらでさせていただきます。他の方は少し席を外してもらいたい」


 別室へと連れられるが雰囲気がただならない。運営の人間とポリスメン上層部に連れられるとか普通じゃないだろ。神妙な面持ちから発せられたのは、仮想世界で暴れるテロリストの殺害だった。


「知っての通り、レストと呼ばれるテロリストがアストラの存命に影響を与えています。いや……サイバーテロとその情報漏洩によって、各地で併発して関係の無い組織までもがテロを引き起こし、世界規模で大混乱を引き起こしています。現在自衛隊と警察にも協力してもらい、諸悪の根源であるアイツを討伐するよう働いているのですが……全く歯が立ちません」


「現実にいるなら父さん達も手段は豊富だが……あちらの世界にいるとなると奴の独壇場だ。零真、単刀直入に聞く。お前なら勝てるのか」


 机に置かれたスマホから動画が流れる。おびただしい人員によるレストへの襲撃映像だ。蹂躙、その一言に尽きる凄惨な光景。運営の設定したであろうデタラメなステータスや、存在していないはずの武器も、まるで全てが意味を成していない。レスト特有のゲーム内部への干渉能力かは不明だが、見えない斬撃に皆等しくミンチにされていたのだった。


「こりゃ酷い……」


「このまま長引けば、ダメージ無効等のシステム改竄にまでハッキングされてしまう可能性もあります。仮想世界の奴を討つ事で事態終息を望めるかも不明です……ですがこちらのアシストを加味し、考えうる最大戦力をぶつける事は無駄ではないと思うんです」


「恥ずかしい話しだが、父さん達じゃあ勝てない。一個人のお前に頼むのも道理が成っていない事も重々承知している……頼む零真、奴を止めてくれ」


「ステータス改竄と一時的なアシストを付与します。反応速度も従来のコアレスよりも優れた者を貸し出します。協力していただけないでしょうか……?」


「……もし仮に俺があいつを殺せたとして、リアルで罪に問われない?」


「事態が事態だからな……罪には問わない」


 そもそも奴を仮想世界で殺して、リアルでも死ぬのか分かっていない。後出しで殺害容疑にかけられて逮捕なんてごめんだ。ゲームしてただけなのに塀の中に行くのは勘弁蒙りたい。だがユーフィーに対するあの仕打ちにはムカついていたから丁度よかった。


「ならもう一つ、勝てたとしても過度な特典なんかはいらないんだが……ユーフィーのようなアストラの亡霊を、リアルの方でも助けてやってくれないか?」


「もちろん。今回の件を機に、亡霊のバグ調査を強化するつもりです。警察の方にも調査して頂けるよう手配しています」


「……あともう一個いい?」


「可能な限りで対応する所存です」


「俺達の館を……ユーフィーの思い出を修繕してやれないか」


「もちろん。それに問わず全ユーザーには、サーバー停止前後の状態にまで全てのアイテムと壊されたクランハウスを返すつもりです。レストを討てれば特別な特典なんかも贈呈したいのですが……」


「アストラの世界を返してくれればそれが一番のお礼になるよ。レアアイテムなんかは自分で取るのが楽しいんで」


「……心より感謝申し上げます。では本社に移動しましょう」


 なんだか壮大な展開に心が追いついていないが、父親とアギトさんに続いて屋敷を出た。待機していたヘリコプターのブレード回転に髪がなびく。リアルのヘリに乗るとか何気に人生初体験なんだが。


「レイ!!どこ行くの!?」


「お、ココロは待っててくれ。ちょっと……世界を救ってくる――」









 東京都内某所、アストラ運営本社のビルへと立ち入ると慌ただしい様子が見て取れた。中にあると言うスパコンの搭載された超高性能コアレスとやらに向かう。ここまで来たら無関係ではないし、あいつの暴挙の理由くらいなら教えてくれるだろうか。


「そういえばレストってやつ、あいつはなんであんな暴挙に?」


「本人から聞かなければ確かではありませんが……恐らく元々コアレスと我が社のアストラ開発に携わっていた一人かと。ユーザーの安全をかえりみない危険な思想を持っていたので、懲戒解雇された者が過去に一人いるんです」


「例を上げるなら?」


「リアリティを追求するため等身大の痛みを感受させるだとか、明らかにゲームの一線を超えた変な考えを持ってましたね」


「こっわ……」


「別のゲームの開発と販売にも出たようですが、我が社のアストラに呑まれて呆気なく倒産。逆恨みでしょうかねぇ……」


「そりゃ人生を賭けた復讐ですわ……」


 大人の事情は正直どうでもいい。俺はアストラという神ゲーが存命してくれるならそれだけでいい。そうこうしていると厳重に施錠された扉何枚かを潜った。番号ロック、指紋認証、社員ID、顔認証、数多のセキュリティを超えた先には球体の機械が部屋中央にポツンと位置していた。


 一般販売されているコアレスとは比べ物にならない高性能な操縦権。アギトさんのリモコン操作によって一部のパーツが開き、中にはリクライニング可能な椅子とよく分からないパーツがごちゃごちゃしてた。多分ここに座ってログインする感じだろう。


「後から我々も入ります。一足先にログインしてもらいますが、キャラ選択画面で待機をお願いします」


「はいよ」


 頭部には被るような機械、それぞれの手首と足首にもケーブルの繋がった何かを巻き付け、首には椅子に備え付けられたチョーカーを取り付けられていく。なんだが今から人体実験でもされそうな雰囲気に少しビビってる。


「では行きましょう」


『生体認証中です…………該当する人物ではありません。アストラル・モーメントへのログインを許可しますか?認証中……意識を仮想世界へと接続します――』



 ――俺の意識がアストラへと繋がる。いつものような暗闇の空間ではなく、満点の星空に囲まれた宇宙のような場所だった。肉体のない意識だけが漂流しているような、なんとも言えない不思議な感覚だがアギトさんの声に反応を返す。


『これよりあなたのキャラクターにステータス改竄と、制約の外れた武器を渡します。やはり馴染むのは曲刀ですか?』


「あぁ、防具なんかもやばいのがあれば貰えると助かる」


『恐らく防御は盛っても大して意味はないかと思われます。メカニズムは不明ですが、レストのバグ技は空間関係のもので、防御力関係なく貫通してましたから』


「なんとなくそんな気はする。おk、行きますか……ログイン、ゼロ」


 怒号と悲鳴の飛び交う壊れたアストラの世界が眼前に映る。あちこちで空間が歪みまくり、空も割れたり砂嵐のようにバグっていた。大好きなゲームをむちゃくちゃにされてるという事実に、悲しさと怒りがふつふつと湧き上がるのを自覚する。


「うぁぁ……!」

「大人しく投降しろ!!うわっ!?」


「ヌルい。ヌルいんですよ……!!こんなものが私の人生を壊したというのか!!ふざけるな!!」


 本音を言うとちょっと怖い。チートを超えた即死技を連発してくるし、こちらの攻撃も理不尽にオートガード連発で通らない。だが俺を送り出したということは突破方法はあるのだろう。音声アシストに伴いアギトさんが告げる。


『奴のオートガードですが、あくまでこちらの装備品の性能を無理矢理連発させているだけです。テキスト効果の改竄にまではまだ至ってないはず。当たり判定が確定すれば発動しますが……処理が追いつかないほど撃ち込めば、こちらから奴独自のシステム、その脆弱性を突けるかもしれません』


「……了解」


 星八の曲刀、フォルティスがチラ見せしてやがった例の武器をこんな形で握ることになるとは思わなかった。『星刀・雫』、世界の裏側を鞘とする不可視な武器だ。抜刀時には透き通る刀身が姿を見せ、星紋様の並ぶ刃が光る。


「おや……?運営が一ユーザーに助力を求めるとは意外でしたね。だが丁度よい……最強への挑戦も興味がありましたから」


「……レスト、お前はこの世界で死んだらどうなるんだ」


「それを聞いてどうするのですか?同じ状況下のコイツで試してみたらどうです……か!!」


 雑に投げ捨てられたユーフィーが足元に転がった。意識は失っており、ボロボロの体、そして頬には涙の後が。随分とヘイトを稼ぐのが上手いじゃないか。言葉を選ばずに言うがぶっ殺す。


「……っ!?」


 反応速度がいつもとは段違いだった。運営が施しているのか定かではないが、空気中にはうっすらと黒いチリが蔓延している。それを押しのけるように空間が蠢き、擬似的に奴の不可視な斬撃が目で追える。それでも飛来速度がやばい。屈むことで紙一重の回避は成功したが髪の毛が数本飛びやがった。


 だがそれがどうした。見えるなら避けてみせる。ユーフィーの顔から視線を外し、開眼と共に左手首が蒼く煌めいた。蒼白の粒子を纏い、右手に取り出した麦穂が光剣と化す。


『汝よ我に従え。さもなくば抗いなさい。正義なき暴力には裁きを――』


 一斉にデメリット効果のないデンジャースキルが全て発動する。見覚えのないスキルも一つ、だがスキル効果は頭に直接入ってくるため戸惑う必要は無い。アストライアを背負った俺から固有スキルジャッジメントが飛来したのだった。

現在アストラル・モーメントはログイン制限を設けております。大変ご迷惑をお掛けしますが、生体認証情報を解除して個人情報の保護をしてください。また、無闇に外出はせず身の安全に努めるようお願い致します。

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