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八十三 テロ


 悲報、アストラが緊急メンテナンス。というより強制的にサーバーを停止したそうだ。霊峰を含む多くのクランがレストから襲撃を受け、数多の通報から運営がサーバーを止めたらしい。


 事態の大きさ故に、突然ブツ切りにされたチョコやコロネからも連絡が殺到してる。だがメッセンジャーに返す暇もなく自宅の呼び鈴が鳴り響く。まさかとは思うがレストの刺客がもう送り込まれたとか言わないよね。


「は、はい?ど、どちら様ですか?」

『ワイや、コガネ言うたら分かるやろ』

「ひえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?ポリスメェェェェェェン!!」

『アホか!早とちりすんなや!!ええから顔出せや!』

「そう言って顔出した瞬間拉致られんだろぉ!?そんな手には乗らな――」


 ガチャって言ったぞおい。まてまてまてまてまてまてまて。ピッキングか何かしたんですかね?だが甘い。俺は二つある鍵を両方とも施錠するタイプなのだ。二つ目を解錠される前にチェーンをかけさせてもらおう。


「まてぇぇぇぇぇい!!」


「ほい、二つ目も終わりや!!開けろ!!」


「まじで通報するぞゴラァ!!」


 チェーンが間に合わなかったため力技でドアを引く。向こうも全力で引いてやがるが絶対に開けてやるものか。リアルで捕まったが最後、俺は恐らく海か山にでも沈められるのだろう。


「力つっよォォォォォォォォ!?」


「リアルじゃあ初めましてやのう……っ!邪魔すんで〜」

「邪魔すんなら帰ってや〜……」

「ええからお前も座れ」

「すいませんここ一応俺の家です」


 我が物顔でソファに座すはイカついスキンヘッドおじさん。首に肩を回されて強制的に拉致られるかと思っていたが、予想と反して座って話しをする気らしい。


「いきなりリアルに絡んできたと思ったら図々しい奴だな……なんだよ?」


「兄ちゃんにも悪い話しやあらへん。頭のイカれた奴に狙われとるやろ」


「情報の早いことで。俺はお前もそいつの手先だと思ってたんだが?」


「アホか。ポリに囲ってもらうにも奴らは犯罪が起きな動かへんやろ?うちのもんが兄ちゃんとそのお友達を守ったるわ。その代わり……」


 流石は裏社会のお方。日本の警察の初動をよく知ってらっしゃる。刺されてからポリスメンに掛け合ったところでもう遅いわけで、可能ならば無傷なまま平穏に過ごしたいところである。


「その代わり……?」


「チヨとの仲介に入ってくれ。兄ちゃんに絡んでから一言も口を聞いてくれへんのや!!目に入れても痛くない愛娘なんや!!頼む!!この通りや!!」


 膝に手を着いて頭を下げるハゲ頭。光が反射するほど輝いているが磨いているのだろうか。いや今はそんなことはどうでも良い。またゲーム内とリアルを交えた変な交渉かと腹を括っていたのに拍子抜けである。


「どんだけチヨの事好きなんだよ……」

「おいボケ、ゴラ……呼び捨てか?なんや?最近の男女は下の名前で呼び合うほど距離感おかしいんか?それともお前はチヨの彼氏か?それなら話しは変わるで。海と山どっちが好きや?」

「落ち着け、ただのお友達でございます。海も山も野郎とデートする分には好みません。だからその果物ナイフを置いて下さい」

「ほうか?なんや男のくせにえらい部屋が片付いとるからなぁ……変に勘繰ってもうたわ。で?どうするんや」


 はぁ、とため息を挟んでからチョコへと通話を試みる。あっさりと出てくれたので、事の経緯を説明しつつハゲ頭を信用していいものか相談だ。結論から言うと、チョコやその他クランメンバーも保護してくれるなら絶縁一歩手前を解消するとの事だ。


『もしもし?パパもいるんだって?』


「チヨ!久しぶりやのう!!元気にしとるか!?ご飯は食えとるか!!??」


『そういうのはいいから、私の友達全員を保護してくれるなら絶縁は解消してあげる。レイの方からアンリとハザマに連絡はつきそうかしら?』


「前に上げたSNSの投稿にいいねの反応があったからDMしてみるよ。まさかゲーム内の事件からまたリアル犯罪に巻き込まれるとか災難すぎだろ……」


「諦めろや。有名税っちゅうんはどの世界でも付き纏うもんやからな」


 アンリとハザマにメッセージを送り付けた後は、話し合いの結果コガネ宅に厄介させてもらう方針で固まった。それなりにデカイ家らしいので六人くらいなら問題ないらしい。それお家クソ広くない?とツッコミたかったがそれどころではなくなった。


 コアレスといくつかの着替えを詰め込み、玄関に出た瞬間に男が突っ込んで来たのだ。外国人だったため何を喋っているのかは分からない。だが危うく俺はそいつの持っていた刃物によって腹を裂かれる所だった事だけは分かる。


「なんや鉄砲玉かいな?早からモテモテやのう!兄ちゃん」


「あ、あざす……手を回すの早すぎだろ」


 コガネが取り押さえた外人の手から刃物が転げ落ちる。残念ながらここまでされておどけていられるほど大人じゃない。いや、大人でもビビるだろう。まじでリアルの俺の殺しに来てやがる。


「ワイも詳しいには知らんけどなぁ、〝センター〟の頭はこういう実行犯を山ほど抱えとる。借金やら何やら、何か弱みを握った奴にこうして突っ込ませるっちゅう手口なわけや。それに、今やどの企業もネット社会や。ハッキングされたらやばいもんや幾らでもあるわ」


「……頭じゃ分かってるつもりだった。だがまさか本当に実行犯を寄こすとは思わなかったし、ちょっとびびっちまってる」


「そうかぁ?その割には顔色一つ変えへんな。なんやかんやあったけど、兄ちゃんの度胸だけは気に入っとる。ついてこい」


「え?コイツ放置してくの?通報は!?」


「そんなもん近所の奴らが気付いて勝手にやるやろ。ポリの話しは長いから堪忍や」


「えぇ……」


 黒塗りの車に詰め込まれるも、すっごくイカつい人達がギチギチにいる。場違い感が半端じゃないし、先程の襲撃でコガネさんが怪我をしていたらしい。血相を変えた部下共が車から飛び出そうとするも、俺を運ぶことが最優先だと制止の声を上げる。


「あんなもん後回しや!!ちょっと話しが変わったなぁ……兄ちゃん、センターの頭は関係者も巻き込む言うてたか?」


「あ、あぁ……」


「ほうか。ほな他人事やあらへんな。チヨも狙われる可能性があるってことや。家族には一応注意喚起しといたれ。そっちまでは面倒見る義理ないわな」


「……」


 車に揺られること数時間、和式の豪邸に到着した。庭もクソ広いし、池に錦鯉が泳いでやがる。強面の方々が一斉にコガネにお辞儀してるし、ガチモンのヤクザの世話になる事に今さら恐怖を感じ始めた。だが一足先に連行されたであろう、チョコとコロネの顔を見たら少しの安心感が。


「レイ!」


「ココロも連れてこられたのか」


「私が先に拾ったのよ。オレンもはるばる高速道路で運んで貰ってるわ。アンリとハザマは?」


「あ、そういやメッセ見てなかった」


 アンリは引きこもりのコミュ障だからなんたらかんたら長文が来ていたため一旦保留。それよりも驚いたのはハザマだ。アホみたいな喋り方とはうってかわり、とても丁寧な言葉使いの文字が並ぶ。


 突然のキルにとても驚いておりました。当方からレイに連絡していいものかと悩んでいましたが、事態は思っている以上に深刻なんですね。まず、こちらの身を案じて頂きましてありがとうございます。こちらでも庇ってくれたマネージャーが刺されました。一度相談してからまた連絡させてもらいます。


 これがあのハザマからの全文である。誰だよお前。てかマネージャーってなんぞ。もしかしてアイドルとかそっちの業界の人か。


「……だそうだ」

「な、なんかゲーム内とは印象が違うね……」

「えっ……これハザマ……?」


 マネージャーが刺されたとか言っていたので調べたらビンゴ。早速ニュースになっており、ハザマの魂が呆気なく露呈した。超絶美人で有名な大人気モデル、神崎(かんざき) すみれだった。ビビりすぎて俺達三人はとんでもなくあほ面してる。


「えぇぇぇぇぇ……っ!?ハザマおまっ……っ!マジィ!?」

「すっごく美人な人だよね……!?な、ななななんでわざわざ男の子のキャラなんかでっ!」

「うっそでしょ!?あ、あんた神崎 すみれにあんな失礼な物言いしてたけど大丈夫!?」


 そりゃあれだけ有名人なんだから色々と事情はあるのだろう。ネナベに徹することでお邪魔なくっつき虫や貢ぎ魔から逃れ、伸び伸びとゲームが出来たりする。言われてみれば喋り方がとんでもなくアホくさいし違和感まみれだ。合点がいったというものだ。


 そしてカオリやフォルティスからも連絡が。ひとまずアイツらはアイツらでオフ会兼自衛に徹しているらしい。こちらの近況も伝えつつ屋敷へとお邪魔する。もうさっきからずっとケータイの通知バイブレーションが止まらないんですが。


「レイ!SNSのトレンド見て!!」


「あえ?」

「どしたのチョコ?」


 アストラ終了と言う名のトレンドに目を丸くする。サーバーが停止しているはずのあちらの仮想世界にて、短く警告を促すレストの動画が貼られていた。運営に対してもヘイトが高いが、それ以上に動画に映る奴の挑発に俺達の殺気が際立った。


『この記録を見ている諸君、ごきげんよう。私はかつて〝センター〟を運営していた者だ。まずは運営に一つ、今から二十四時間以内にサーバーを動かさなければ世界を喰らうバグをアストラに放つ。そして見ているかは分からないが、ユーフィー(これ)の飼い主……生きているならばお前も早く帰ってこい。リアルには既に私の肉体などないから探しても無駄だ。これは私の人生を賭けたアストラ運営と最強(・・)への復讐と挑戦であり、絶対に許すつもりは無い。再度通達する。二十四時間以内にサーバーを始動しろ。サービス終了を選択するもまた一興だが、その場合は私含め一般人のユーフィー(コイツ)や各地にいるアストラの亡霊も死ぬことになる。よく考えることだな――』


「ユーフィーちゃん!!」


 泣き腫らしたユーフィーが乱暴に、そして雑に髪の毛を引っ張られている光景に怒りメーターが振り切りそうになった。あのクソ野郎、今回ばかりは本当に超えちゃいけない一線を超えたようだ。運営は恐らくユーフィーを意図して消さなかったんだと思う。きっと全ての事情を知った上で残していたんだ。


 父親からの着信に事態は大きく動いた。これはもうゲームの中だけの問題では無い。これよりアストラの世界は一般人の立ち入りに制限のかかった禁止区域となる。今やアストラの世界はゲームを楽しむだけに利用されてはおらず、自衛隊等の訓練にも充てられているのだから。


現在アストラル・モーメントは稼働を停止しています。ご迷惑をお掛けしますが、今しばらくログインは控えてください。また、コアレスに設定してある生体認証情報を一時的に解除してください。個人情報漏洩防止のため、必ず解除するよう警告致します。

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