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八十二 復讐者


 デスポーンの五分、これは過去の経験では敗北を意味することがほとんどだった。この暗闇の空間は反省と研修に費やす黙祷だと思っていたが、不思議と嫌な気持ちはない。妄想でも良い、根拠はないがクリア後ダンジョンの光景を俺に見せてくれる気がする。


(俺の考え通りならばあの水蒸気爆発によって毒ガスは吹き飛んだはず。運が良ければ近接組が湖内に踏み込めるほどに水カサも減っているはずだ)


 なるほど、かつてゼロに命運を託していた霊峰隊員の表情の意味を理解した。悪くない。あいつらならきっと勝てるはずだ。デスポーンの五分が経過、ダンジョンからの退室か戦闘終了まで待つかの選択肢が浮かぶ。待つ一択しかありえない。


 あのアンデット野郎の死に際を眺められないのは残念だが、きっとこの暗闇が開ける頃には仲間が笑顔で出迎えてくれるはず――


「――レイ!!」


「……勝ったのか!?」


「勝ったよ!!」


 サブウェポンに入れていたシールドバッシュ等を抱えてくれたコロネと、その後ろに浮かぶcongratulations!!の文字。しかも星七の出土と情報の理解に脳が追いつかない。


「あんたがめちゃくちゃしてくれたおかけで毒のデバフが吹き飛んだのよ!!よくもまぁ咄嗟にあんな事してくれたわ!!」

「チョコもすぐに理解して対応してくれただろ!?まじかよ!!やったな俺ら!!俺らつえぇぇぇぇ!!ナーフしろ!!」

「やったやった!!」


「激闘の余韻はあるだろうが、星七様が出土してやがる……!すぐに抽選行くぞ」


 一同の頷きを受け取り抽選開始。赤紫色に煌めく毒々しい刀身、ミニチュアサイズのそれがクルクルと俺達の頭上を回る。さぁ、この片手剣は誰を選ぶのだろうか。弾けたアイテムが空を回り、選ばれし者の足元へと突き刺さった。


「レイ!おめでとう!!」

「ようやくうちのリーダーに星七が手に入ったわねぇ……おめでと」

「レイっち〜!!おめでとう!!」

「めでたいな!!だがナイス貢献だったから是非もない!」

「似合うね……ふふふ」


「……マジ?」


 『呪刀シルヴァーナ』。形状は刀身の反っていないカットラスのようなデザインになっており、護拳もないシンプルな片手剣だ。毒々しい赤紫色の刃に日の光が反射し、自キャラの顔が映る。


「固有ウェポンスキル……【カースサイン】――」


 試し振りがてらお前の固有スキルを魅せてもらう。一振ごとに体力の一〇パーセントを消費し、重たい剣撃を最大三回ほど振るうシンプルなものだ。右上から左下へ、次は左上から右下に、最後は体を回して横なぎに一閃。空気がビリビリと震えるほどの激しい一閃と、残像のように残る赤黒い斬撃が特徴的でクソかっこいいではないか。


「初武器の固有スキル披露宴は伝統ね。使い勝手も良さそうだしよかったじゃない」


「威力も試したいところだがまた今度だな。手応えからして充分強そうだし楽しみだ」


「で?もう一つ出てるわよ。ボス泥じゃなく、ダンジョンクリア報酬の方」


「あいえええええええ!?」


 チョコに指摘されるまで気が付かなかった。ていうかシルヴァーナに興奮しすぎてそれどころじゃなかったのかもしれない。確かにクリア報酬にも防具が落ちている。これまた星七と大奮発ではないか。


 『怨嗟の傀儡』


 ローブのような胴装備であり、装備者の体力がゼロになった時に特殊効果が発動するらしい。死後から三〇秒間ステータスにバフが入り、状態異常『怨嗟』が付与される。尚、効果中はプレイヤーの意識は介入されず、時間経過後にデスポーンするそう。ガチモンのゾンビやないか。


「えっと……俺は縛りで防具使わないからお前らだけで抽選どーん」


「……」


「私に……?良いの?新参者……」


 『怨嗟の傀儡』はアンリを選んだようだ。防御力はオマケ程度の性能だが、後衛組の予定だし特に問題はないだろう。おどおどと申し訳なさそうにしてるが、装備が君を選んだのだから堂々とするがいい。


「おめでとさん。クランへの加入祝い程度にはなったか?」

「有り余る……家宝に、する」

「言い過ぎ言い過ぎ……さて、無事に勝てたことだし一旦帰るか」


 ダンジョンから脱出して転送。こちらに気付いて手を振るユーフィーに実家のような安心感を感じる。星七出土と未知の最前線攻略にアドレナリンの過剰摂取状態、休憩がてら動画の作り方でも少し教えてもらおうかな。


「チョコ〜 さっきのとこ動画にするだろ?やり方教えてくれ〜」


「いいわよ。あれ……?お客さんかしら?」


 館にゾロゾロと入っていく中、最後尾にいた俺とチョコが一人の来訪に足を止める。強烈な違和感と不穏なオーラ、ガタガタと震えるユーフィーが胸騒ぎを助長する。仮想世界の亡霊、ユーフィーと同じくしてプレイヤーネームがない男性が一言。


「ようやく見つけたよ」


「……誰っすか」


「〝センター〟の元リーダーとだけ言っておこう。セツナとユーフィーは実に良いサンプルを提供してくれた。琥珀 零真、私と手を組まないか」


 胡散臭さが振り切ってやがる。過去に奴から言われたものと一言一句違わないそれに悪寒を自覚する。しかも前は俺の実名なんて知らなかったはずだ。アストラ暗黒期を作り上げた張本人、『レスト』の友好的な姿勢の裏を知っているからこそ慎重に言葉を選ぶ。


「またアストラで金稼ぎか」


「副産物だよ、そんなもの。私はこんなくだらないアストラの世界をぶち壊したいのさ。せいぜいその過程で情弱や才能のない者から搾取しているに過ぎない。私の人生を壊したゲームにツケを支払ってもらっているだけさ」


「何があったのか知らないし興味もない。泣き言を言いたいなら一ユーザーの俺なんかじゃなく、運営に直接言ったらどうだ?俺はただのエンジョイ勢――」


 見えない何かが俺の髪を切断した。もみあげから感じる余波に伴い、数本の髪の毛が落ちていく。レストの向ける愉快だと言わんばかりの微笑みと、その奥にある果てしない憎悪が瞳から溢れ出ているように思えた。


「面白いことを言う。過去に散々私の計画を邪魔しておいてエンジョイ勢だと?もちろん運営にも痛い目を見てもらうが、貴様の人生もめちゃくちゃにするつもりだ。リアルで殺したところで、運営にも警察にも……もう私を捕らえることは不可能だから」


「……おいくつか知らないが厨二病を拗らせるとそうなんのか。日本の警察は優秀だぞ」


「私はコアレスとは異なる独自のプラネットフォームからアストラへの接続に成功している。ハッキングさ。それで……?現実に実体のない私をどう捕まえると言うのかね?」


「は?最近はついにゲームの世界に移住できるとこまで来たのか?イカれてやがるだろ……っ!」


「リスクも高いが散々モルモットはいた。唯一の成功体がそこにいるユーフィーだ。そもそもリアルの君を殺すのも私ではないし、柔軟に動けない警察に私を捕まえることは不可能。お前だけは苦しめて苦しめて……自ら命を断ちたくなるくらい絶望させてから殺す。まずはこのゲームの世界からぐちゃぐちゃに甚振ってやろう――」


 予備動作に生存本能が働く。レストが二本の指を立てた右手を水平に振るった瞬間、チョコの体が真っ二つになった。かく言う俺も屈むのがあとゼロコンマ数秒遅れていたら同じ末路を辿っていただろう。その動きには既視感があった。劣化の女王にそっくりだ。


「ユーフィー……っ!!お前はこの世界で死んだらどうなる!?」


「わ、分かんない……っ!!」


「レスト!!私怨でこのゲームをぶっ壊すとかマジでやめろ!!うお……っ!?」


「随分と反応が良いのだね。だがそれはあくまで人間の範疇に過ぎない。せいぜい壊れるこの世界を眺めながら、リアルの死に怯えていろ」


 不可視な斬撃とでも表現しようか。それが無慈悲にユーフィーの館もろとも中のメンバーさえも切り裂く。切れ味が良いなんてもんじゃない。まるで空間ごと切り裂いているかのように全てが崩壊していく。ゲームの世界と言えど、この館はユーフィーの最後の思い出なんだぞ。


 否、この世界に住まうことになった彼女にとってここは現実と遜色ない。故に絶叫して涙を流すユーフィーに変わり、俺の怒りをぶつけさせてもらう。


「ああああ……っ!私の……っ最後の思い……出がぁ……!」


「レストォォォォォォォォ!!」


「無駄だ」


 呪刀シルヴァーナが奴の眼前で弾ける。被弾した空間には結晶のような何かがあり、見覚えのあるサブウェポンのエフェクトに鳥肌が立つ。二回、三回と切りつけるも同じようにレストには届かない。


「オートガード連発とかなしだろ……っ!!」


「なしもクソもない。設定そのものはまだ弄れないが、元から備わっているゲームアイテムの性能を少し改造するくらいなら可能さ。まずは今後の活動のためにもお小遣いを稼ごうか」


 意識外からの衝撃に体が吹き飛ぶ。シールドバッシュか何かのデータだろうが、力強さが純正とは段違い。崩れ去った館へと勢い良く吹き飛び、体の力が抜けて地面へと落ちた(・・・)


 細切れにされた事に気が付いたのはデスポーンの空間に来てからだ。運営に通報するも嫌な予感がする。ユーフィーでさえ運営は理解不能だとチョコが言っていたのだ。もし仮に奴をどうにか出来ないとすれば、それはこの世界の終わりとも言えるだろう。

『ユニーククエスト・アイテム』


通常とは異なるアクセス、もしくは特殊な条件を満たした際に発生、入手に繋がる。これらに派生した先には、未だ世界では未知とされるオーパーツや秘境に巡り会えるかもしれない。


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