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八十一 命運を仲間へ


 『焔と水碧の庭園』ではアクティブエネミーが少なかった。湖畔に寄れば寄るほど巨大なヘビやカエルのようなエネミーの多くが姿を見せるが、それ以上に正規ルートが不明瞭すぎてボス部屋が分からない。クリア条件はボス撃破なため普通に迷子である。


「どこにいんだよぉぉぉぉぉぉ!!散歩しに来てんじゃねえんだぞ!!」


「湖の中とか?」


「コロネもかなりアストラに精通してきたな。だが残念、ダンジョン内ではマウントエネミーは召喚出来ない。恐らくは特殊テイムの加護も使えないんだろうな……間違えてもマグマにさわ――」


「あっちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ハザマァァァァァァァァァァァ!!」


 とりあえずハザマは無事だが謎解きの開始である。忘れ去られた海底のように分かりやすいギミックとボス部屋があれば探しようはあるが、こうも広大なフィールドではヒントの探しようもないので無理ゲーである。メタ推理にはなるが、湖に近付けば敵が襲ってくるためそちらに何かあるのかもしれない。


「オレンは俺の後ろに、他は左右に開いて後方に下がって着いてきてくれ」


「えっと……いつもそうなんだけどね?なんだか今日のレイはすっごく頼もしく見える……!気のせいかな?」

「いや……いつもどこか抜けた顔してるのに今はシリアスな顔してるからマジよ」


 後ろのチョココロネコンビが凄く失礼なことを言ってる気がする。流石の俺でも初見&片道切符のコンボはヒリつきますよ。ましてやそれが友達の装備がかかっていると言うならばなおさらだ。コロネの首輪に次いで、ハザマのもつ腰装備も相当レアなものだ。


「まぁビビんなよハザマ。その腰装備、ゼロと同じものだろ?」


「……これだけはなくしたくない。俺が唯一自力でゲットした家宝なのだ」


「『天女の裾除け』は確かにクッッッッッッソレアだもんな。大丈夫、俺とオレンがいればお前に攻撃なんか流させないから」


 『天女の裾除け』。腰防具の一つでレアリティは当たり前のように星七。防御力はあってないようなものだが、装備効果に回避硬直の緩和がある。ゼロコンマ数秒の世界だが、トップランカーと争う際にはその差が大きい。あそこはそんな背伸びでも相手より優位に立つぞ、という意気込みと執念が必要なのだ。


 ヒットボックスの最小化も苦肉の策だ。当たり判定を更に誤魔化すためブカブカの袖っ子も悪知恵だ。だからと言って何が悪い。勝つために微に入り細を穿つ事は何も恥ずかしいことじゃない。それを卑怯と呼び、負けるくらいならば意識が低いと断言しよう。


「かっこいいな……!レイは防具非表示なのか!!何を付けているのか参考までに教えてくれ!」


「裸縛り。つまりはこのクラスのダンジョンになるとほぼワンパンだ」


「お母さァァァァァァァァァァァァァん!!!!お家に帰らせてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 コロネが。


「でもハザマさん、ここまでレイは防具なしで来てるんだよ。攻撃に掠ったところは見たことあるけど……直撃したところは多分見てない気がする……」


「小心者でビビりだからな。攻撃には人一倍敏感なんだ。なに、当たらなければ防具なんて関係な――」


 そういうこと言ってると不意に攻撃が飛んでくるんですよ。湖から顔を出した人型の何かが法撃を飛ばしてきやがった。直線上の放射攻撃、俺だけかわせばオレンが逝く。アホ毛を無理矢理掴んでちぎる勢いでしゃがむ他に選択肢もないし間に合わない。


「いだァァァァァァァァァァァ!!!!」

「我慢しろ……!!あっぶねぇ……!!アンデット系か……!?着弾点が溶けたぞ!?」


『あ゛あ゛あ゛あ゛……』


 足のついていない幽霊、それも俺達プレイヤーより二回りほど巨体。なんなら湖の中心にいるせいで近接マンは無事死亡。アストラの法則に従い奴は高確率で法撃が弱点だ。死霊族系統は法撃攻撃に弱い特徴が共通してある。


「まずい……!!オレンとハザマは回避に専念だ!!最悪コロネとチョコ、それから俺かアンリの後ろに隠れろ!!法撃合戦が始まるぞ!!!!」


「「「イレイザー!!」」」


 今回俺の選択した武器は片手剣、短剣、小杖だ。オレンの大剣を信用して重量武器を持ってこなかったのが功を奏したとも言える。だが非力にも程があるため、このダンジョンに限り命運は後衛組三名に託された。指示厨でもなんとでも呼ばれても良い。勝つために直感と生存本能にフルベット一択だ。


 味方側の激しい法撃の余波に湖面が荒れる。弾け飛んだ水滴が顔を覆う腕へと飛散した。普通に痛い。多分湖の水全部がアホみたいな酸性の液体なんだろう。心做しか少し呼吸もしずらい気がする。


「まずいな……っ!法撃の熱にやられた水が毒ガスになってる気がする……っ!やっぱりぃぃぃぃぃぃぃ!?毒ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「みんな!!水辺から離れて!!」


「ナイス声掛けコロネ!!離れろ!!毒ったら死ぬぞ!!離れ――」


 ドン、と背中に衝撃が。眼前に映るゲームアシストの文字に絶望が心を埋め尽くす。『ボスフィールドからは出られません』、俺との接触にフィールドの境界線が強調するように波打つ。初めからボスは目の前にいたという事だ。


「コイツがボスかよ……っ!しかもエリア全域毒ガス……っ!」


「どうしたらいい!?レイ!!」

「何か……っ!何か良い手はないかしら……!」

「終わった……私達は、死ぬんだぁ……」


 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ。まともに火力を出せるのは法撃武器を持つ四人、ハザマとオレンが棒立ちになる分DPSが出ない。ただでさえも八人推奨のダンジョンを六人で来ているんだ。まずこの不利をどうにかするべきか。


 だがどうやって?四人で攻めるにも毒ガスのせいで物理的なタイムリミットもあり多分火力が足りない。そもそもレベルシンク以下の俺達は火力自体も本来より少ない。全部不利、完全に準備不足だ。激しい法撃の余波による水飛沫、その被弾を受けた引け腰のアンリにか細い勝利のプロセスが浮かぶ――


「アンリ!!毒は受けてるのか!!」


「な、ない……受けてない。耐性ある……から」


「おk!!チョココロネ!!プロミネンスバーストを打ちまくれ!!当たらなくても良い!!水を蒸発させろ!!」


「わ、分かった!!」

「勝ち筋があるの!!あんたに命預けるわよ!!」


 勝ち筋なんて見えるわけないだろ。チョコやコロネが俺の指示に命を預けてくれるように、俺も誰か明確な指示を出してくれる人がいたなら従ってる。デバフの毒が湖の揮発によるガスならば、それを一気に吹き飛ばす事でどうにかならないだろうか。


(ボスフィールドの境界線をプレイヤーは通れない……っ!!だが気体はその限りではないはず……っ ここで神風特攻するのは俺以外にはありえない。俺が死んでも……こいつらが勝てばダンジョンクリア特典で俺は蘇生する……っ!タイミングだ……!焦るな……ギリギリまで……っ!)


 揮発性が高いのか知らないが、気化したガスが上級爆裂プロミネンスバーストによって湖面が青く燃え始めた。そして湖中央のアンデット野郎の攻撃にも合わせて水のカサが徐々に減っている。多分そろそろのはず、ミスってたら本当にごめんお前ら。


「アンリ!!中級以上の氷法撃!!破裂法撃であいつまでの道を作ってくれ!!チョココロネはエーテル温存!!アンリを守ってくれ!!」


「指示従う……法撃しか、やってないから、ある……っ!…………『アバランチインパクト』……」


 一つ、二つ、三つと、水深の減った湖に氷塊が突き刺さっていく。それは今のレベルの身体能力ならばボスまでたどりつける橋となる。ジリジリと減る体力を睨みながらもチョココロネへと最後の指示を告げた。


「コロネは合図に合わせてアバランチインパクトを俺に撃ってくれ!!!!チョコは固有スキルを貼って、可能ならプロミネンスバーストを頼む!!」


「し、信じるからね!レイ!!」

「神風のつもり!?もう……っ!!分かったわよ!!」


 湖面から顔を出すように順次突き刺さっていく巨大な氷塊、アンリの作り出したアスレチックのような氷の足場をキャラコンのみで飛び越えていく。もちろん足を滑らせれば強酸性の水で死だ。待ってても毒のジリ貧で死ぬ。どうせ死ぬなら意味のある死を仲間に預けて勝ちに行く。


「コロネぇぇぇぇ!!行くぞチョコ!!『プロミネンスバースト』!!」

「アバランチインパクト!!」

「『魔翔鏡天』!!イグニションバースト(・・・・・・・・・・)


 ボスに最も近い氷塊へとたどり着いた直後にチョコへと上級爆裂法撃のプロミネンスバーストを放つ。鏡杖によるスキルで反射した炎の放射攻撃、それは俺が渡ってきたアンリの氷塊さえも溶かし、俺を飛び越えコロネの落としたアバランチインパクトさえも溶かす。だが流石に燃料が足りない。なので最後は俺だ。


「変式威力型……っ!!アイシクルブラス――」


 中級破裂法撃、氷属性の中級かつ威力型を合わせて瞬間的に膨張した熱波へと注ぎ込む。アンリの作り出した氷塊の道、そしてコロネが落とした巨大な氷、最後は俺のダメ押し威力型(ブラスト)、問題は炎の火力では無い。炎に対して水分量が大切なのだ。


 一気に気化した氷法撃の水分が熱波によって膨張する。熱量不足を懸念していたが、チョコが先読みして追加のイグニションバーストをくれているようだ。だが火力は可燃性の高い毒水で充分、反射した炎法撃とぶつかった氷法撃によって尋常ではない水蒸気爆発が発生したのだった。


(――あ、死ぬわこれ)


 見たことないけど、多分核爆発ってこの規模だと思う。水蒸気爆発を予想していたら一転、音と視界が消えて平衡感覚も失った。元々蒸発していた揮発性の高そうな湖の気体も引火したのだと思われる。


 爆心地の中心である俺は確定で死。未知の最前線の結果を他者に預けるのは初めてだが、不思議と不満は無い。むしろ失うものがないからこそこういう役割を思いついたのだが、心做しかデスポーンの五分間がいつもより楽しく思えたものだ。

『鍛冶』


主に金属を加工する技術を示す。鍛冶レベルを上げることで加工の困難な岩や金属を取り扱う事が可能となり、世界に存在しない一つの武器や防具を作り出す事が可能だ。


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