八 未知の扉
ステラヴォイドから歩いて到達可能なエリアにて、俺はレベリングの一区切りをつけた。現時点でレベルは十三。だが今になって人種族を選んだ事を後悔してる。まじで尖った伸び方しない。いや、平均的に全部伸びるからなんでもできるんだが、だからこそ尖ったロマンが感じられない。
例えばゼロで選んだ龍族ならば、物理も法撃も、全てに対する耐性が低い代わりに火力特化だったりする。鬼族ならば物理耐性が高く、筋力ステが伸びる。そのかわり法撃系統のステータスが控えめだったりと、何かしら種族特有の個性が僅かながらにあるのだ。
「いや逆に言い換えれば臨機応変の権化か?鬼だと法撃合戦になれば無理ゲーだし、龍は怯み値がう〇ちだし……人族も使い込む事で何か高みに近づけるかもしれない!やらない後悔よりもやった後悔の方が価値はある!!」
「ねぇ……?あの人キモくない?さっきから一人で叫んでるんだけど……」
「レベリングしてる時からちょくちょく奇声あげてて怖かったんだよね……」
「不意打ちでPKしたら通報されるかな?」
「アストラPKには緩いから多分いけんじゃね?」
「よっしゃ行くべ?」
「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!死神の悪戯ぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
とりあえず逃げた。レベリングのついでに必須アイテムのために材料を拾っていたのだ。ロストしては敵わん。今から貰う報酬のアイテムは、ストーリー進行上で言えば星屑の神殿に入る前にあたる。
その名もイモータルポーチ。内部スロットはたったの五だが、イモータルボックスと同様にここに入れたアイテムはロストしない。というより、死んだ際にこのポーチは中身だけを倉庫に転送してくれるのだ。
(今はまだサブスロットはスカスカだし、この前のコロネ達みたいになっても嫌だしな)
メインウェポンをはめ込む三スロットとは別に、七枠のサブスロットにはめ込むタイプのアイテムだ。サブスロにはめたアイテムは念じれば自動で使用、発動するため、回復薬なんかを入れておくと便利だったりする。俺はあんまり使わないけど。
「へい近衛兵〜 言われてた材料持ってきたぞ」
無事ストーリー進捗更新。本命のイモータルポーチもゲット。余談ではあるが、このポーチ自体は死んだら即時ロストするため、ゲーム内通貨を叩きまくって買いだめするまでが儀式である。だが序盤なのでお金の使い方はご計画的に。
『これ以上の購入はオススメしません』
「知ってる」
「レイ〜!」
「んあ?お、チョココロネコンビ来たな」
「ストーリーやってた?待つわよ?」
「朝早いですね!レイさん!」
コロネは敬語で喋るのはクセらしく、タメで良いと言ったが治らなかった。いや待て、死神の悪戯習得の時はタメじゃなかったか?やっぱり人間って本気で焦るとああなってしまうのかな。
「じゃあ……星屑の神殿のとこまで進めても良いか?後は流星の騎士団の団長に話しかけて終わりだから」
「おけ〜 じゃあ私とコロネはその間に買い出し行ってくるわね」
「また後でです!レイさん」
(さて……と、騎士団長様に話しかけて『神殿内部に惑星の濁りが』なんとかうんとか言わせて解禁しますかぁ)
アストラにおけるストーリーは、簡単に言うと女神様と民を欲望で蝕む邪神があーだこーだ的なやつだ。星乙女、女神アストライアが見守る世界にて俺達は星の加護を持つ戦士だとかなんとかだった気がする。端的に言うと、あんまりシナリオ見てない。
「うっす団長さん、次どこ?」
「レイ……!聞いてくれ!!」
(神殿内部に惑星の濁りが感じられたー すまないが貴殿の力を見越して頼まれて欲しい事があるー)
「神殿が……っ!神殿が消えてしまったんだ!!何か知らないか!?あそこはアストライア様が――」
「は?」
『ユニーククエスト発生。いつでも辞退可能です』
眼前に浮かび上がったその文字。その名も『星霊の墓守』。完全にダンジョンタイプのユニーククエストであり、推奨レベルは脅威の六〇だ。ゼロを出してこなければ無理なレベルである。
(待て待て待て待て待て……一回落ち着け…………特別なことは何もしてない。だがこんなユニーククエストは初めて見る…………ということは祭殿への羅針盤……もしくは星屑の鍵がトリガーか?いや、鍵はあくまでプレイヤー同士の口約束に過ぎない。そんなものがゲーム内システムに影響するなんて考えられない)
『星霊の墓守』はアナウンスが言ったように、辞退はいつでも可能なようだ。それでいて受付時間制限はなし。入ってしまえばクリアまでは何度でも挑戦可能なタイプなのかもしれないが、もし仮に発生条件が最初期のこの瞬間しかないとすれば、運営は意地が悪いにもほどがあるというものだ。
(祭殿への羅針盤を入手している上で……星屑の神殿にまつわるイベント、もしくはストーリー進行時に発生とかか?それにしたって泉の女神から泥した羅針盤の条件も掴めない……落ち着け、冷静に思い出せ)
泉の女神の斧ガチャは三つの関門がある。一、斧を投げて三%の女神降臨ガチャ。二、金と銀の斧に対する拒否のガチャ。三、終末の鉄槌の拒否からの鉄槌入手ガチャ。確率にして〇.〇〇二七%、馬鹿げている。だからこそ俺はユニーククエストに昇華し、泥率七〇%の方を選んだ。
(いや待て……あの時女神は終末の鉄槌を本当に俺に渡そうとした?『やっぱや〜めた!』のパターンもあるから今では分からないが、もし仮に……あの馬鹿げた運ゲーをシステム内部で潜り抜けた状態でユニークに派生したら――)
「レイさん!」
「ひょぇえぇぇえぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
めっちゃ考えていたら背後からコロネに声をかけられた。多分俺の悲鳴にびびって共鳴してる。けど本当に心臓が止まるかと思ったんだ。未知の最前線、その扉が僅かに軋んだ気がしたから。
「わ、悪い……!めっちゃびっくりした……」
「わ、私もごめんなさい……じゅ、準備が終わりましたのでっ」
「お待たせレイ。あれ?そいつそんなに話し長かったっけ?」
「いや……ちょっと面白いビルド思いついて妄想してた。行くか」
従来ならば第一ダンジョン解禁のための通り道に過ぎないはずだ。それが解禁せず、聞いた事のないユニーククエストの発生。最初期のダンジョン解禁、それに合わせて必要なレアアイテムの入手が達成条件、なんて神運営が理不尽なマネをするはずがない。つまり。
(検証は続いてる。俺達は星屑というワードに関連して第一ダンジョン、『星屑の神殿』に向かうが……もし仮に神殿がなくなっていればどうなる?俺個人で発生したユニークなのか?こいつらにはまだ伏せておいた方が良いな。こっそり羅針盤も所持しておこう……)
そうしてパーティーを組んで雑談を交えながら歩くこと数十分、異様に俺だけみんなから離れて歩いていたせいで実はほとんど会話はしてない。だって神殿にカオリがいたらヤバいもん。ここまで来ると神殿はもう目と鼻の先だ。
「ん?」
「何これ……?」
俺とコロネが真っ先に異変に気が付いた。いや、気付きの速さは誤差だ。全員が一定の区間から透明な桃色の境界が伸びている事に足を止める。間違いなくこの先は特殊イベントの前兆である。そしてパーティーリーダーであるチョコが境界に触れた。
『条件を満たしているため、ここより先は特殊フィールドに移行します。推奨レベル五〇』
マサトが。
「星屑の鍵関連かな?なんにせよ、僕達専用のフィールドだね」
「時間制限もなさそうだし、普通フィールドにも入れる。とりあえず偵察に行くか?」
俺の提案に一同が頷く。特殊フィールドの第一印象としては普遍だ。推奨レベルは五〇だが、生息するエネミーのレベル以外は従来のフィールドとなんら変わりない。それこそ地形も、出現エネミーもだ。
(特殊フィールドって言うと、なーんかこう……既存フィールドが荒廃してたり、その逆でめちゃくちゃメルヘンな世界観に飛んだりする事が多いんだが……?)
そんな俺の先入観が、どこまでも普遍的な特殊フィールドへと不気味さを浸透させた。公式が特殊と言っているのに何も変化がない。これ以上に不気味な事があるか。
「何も変わらないステージだね。僕の警戒心は杞憂だと思う?レイさん」
「いんやぁ?逆に気味が悪いな。っと……神殿も異常なしと」
最初期のエリアなだけに、アクティブモンスターの数は少ない。それでもチョココロネは高レベルなエネミー達に怯えていた。そしてそのパーティーの緊張が一気に最高潮へと跳ね上がる。神殿の扉を潜った瞬間にそれは発生したのだ。
『失われた祭殿が突入可能です。推奨レベル六〇、レベルシンクは六〇です』
「失われた祭殿……?聞いたことないわよ?」
「チョコ……怖いよ帰ろう?」
「大丈夫だよコロネ。何があっても僕が守るさ」
くっせぇ事言ってるマサトを無視して俺は神殿の内部を見渡した。長方形、箱型の空間、そして幾つかの柱が天井に向かって並ぶ。入口の対面には更に巨大な扉。そこだけが唯一の違いが見て取れる。
「閉まってるぞ……?」
「普通の星屑の神殿なら開放してるわよね……あっ」
チョコが扉に近づいた瞬間、俺達の眼前へと特殊ダンジョンの突入権限を与える旨が。『失われた祭殿』、参加条件は星屑の鍵。おおよそこのユニーククエストの発生条件を俺は掴んだ。
「……星屑の鍵を所持した状態で神殿に近づくのが解放条件かな?」
「それは違うと思うわ。だって私とチョコは既存のフィールドで一度神殿に行ったもの」
「勝てなかったけどね……」
「特殊フィールドがランダムの可能性もある。発生条件が不明なままクリアしちまったら迷宮入りだしさ、とりあえず一旦帰らね?」
「そうね……でも、一ついいかしら」
「チョコ?なんだよ」
「私、このユニーククエストはこの四人でやりたい。コロネ以外は本垢があるから今すぐにでも挑戦できるんだろうけどね……?コロネに……コロネにこのゲームの楽しさを一緒に感じて欲しいの」
俺の中でチョコさんの好感度が爆上がりした。アストラにおける聖人とはこの人である。未知の最前線、そこに我慢という理性を保つことができるプレイヤーなどどれほどいるだろうか。つまり、コロネさんのレベリングをしたいから待って欲しいという事だ。
「チョ、チョコ!?わ、私は別に……こういうのって、みんなすぐにやりたがるんだよね……?」
「俺はいいよ。というより、さっさと本垢出してきてクリアしちゃうもんかと思い込んでたから、ちょっとびっくりしてる。チョコ、あんた良い奴だな」
「う、うるさいなぁ!照れるじゃん……」
「そうなると、じゃあ僕もレベリングとか武器掘りとか手伝うよ!」
「マサト、あんたクランの仕事で忙しいでしょ?大丈夫なの?」
「平気平気、所詮ゲームだし楽しんだ者勝ち」
そうして俺達は未知の最前線をお預けし、コロネさんのレベリングのために一度帰還する事にした。陽気な空気の中、俺だけは不穏な未来をかき消す事が出来ずに悶々としながら。
『種族』
アストラル・モーメントには多種多様な生物が住まう。そして俗世を見守る神も同じく、傍観する神がいれば干渉する神もいる。知性ある者はこの世界で何を欲するのだろうか
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