七十九 新メンバー
アシュオンコラボ終幕より後日、売名のついでにSNSを通じてクランメンバーの募集を行う旨を呟いておいた。その甲斐あって非効率の館の前には人集りが。メイさんとユーフィー、そしてマンドラゴラのカブちゃんにも手伝ってもらいながら順次採用面接を行う。
「で?アシュオン民に逆に分からされたあんたはどんなメンバーが欲しいの?」
「……チョコさん、言葉に棘があります。新メンバーとしてはそうだな……遠近どちらでも良いが性格的には攻めっ気のあるバーサーカーが欲しいところだな」
既に霊峰やその他のクランは火山地帯の探索に向かっている。俺達も便乗して動画のネタにしようと考えてはいるが、万が一ユニクエにぶつかった際のDPS不足を懸念して追加メンバーを募集という流れだ。
魔法使いでも脳筋近接でも、回避や防御よりも攻撃に狂った奴が欲しい。タンクは事足りているし、チョコやコロネに次いで削り役を補強という事だ。という事で、採用面接の時短のため第一条件を叫ぼう。
「お待たせしましたぁぁぁぁ!!はい!!うちは自給自足だぁ!!基本的には強奪を禁止している!!発覚した場合には強制的に除名するつもりだし、それに納得いかないならうちとは合わない!!それでもいいやつだけ残ってくれ!!」
「……まじ?」
「なんだよ……暴れてるからクランの資産が結構ありそうだと思ったのに」
「クランに盗品を収められないならどうやって貢献すればいいんだ……?」
「まじで自給自足……?」
信じられないようなのでダメ押し。というよりアストラ民は野蛮すぎる。さも強奪が当たり前の選択肢にあるあたり倫理観が壊れちゃってる。悪いがこのクランは気ままにのんびりと動かしたいが故に、クラン抗争に発展しかねない強奪行為はご法度なのである。
「強奪が発覚した場合は除名する上に謝罪と返品を強制する!!ここの扉を叩いていいのは、自分のことは自分達でやる覚悟があるやつだけだ!!」
「……全員帰っちゃうわよ」
「それでもいいさ」
ぽつりぽつりと去っていく。一人、また一人と、数分かけて人集りは片手で数えられる程を残して散った。四名、まぁ自給自足という縛りにしては残った方だろう。ついでに一人は見覚えのある曲刀野郎だ。
「久しぶりだな、ハザマ」
「あぁ!お前達の正式なメンバー募集を待っていたぞ!!何故かお前とやるアストラはワクワクした……っ!!さぁどんな面接だろうがかかって――」
「お前は脳筋だがバカ真っ直ぐで面白かったから採用だ。適当にそこらでくつろいでてくれ。残りの三人は順番に中へ来てもろて〜」
「……えぇ!?」
「ハザマ様、こちらへ。当菜園で採れたての恵みを召し上がってお待ちください」
メイさんに任せてハザマには庭園に備えた木製の椅子とテーブルに落ち着いてもらい、こちらはさっさと採用面接を終わらせよう。一人目はルーキーか不明だが、レベルは二十四。別にレベルで足切りなんかはするつもりないが、スパイっぽいので不採用濃厚だがどうだろう。
「質問だが、もしも死ぬほど欲しいアイテムや武器が仲間内の手に渡ったらどうする?」
「そ、そりゃもちろんお祝いの言葉を送り――」
「――君が欲しいなら俺達は出るまで周回したっていいのに、なんで返答にどもったんだ?」
「そ、それは……レ、レイさん達の数々のプレイ動画を見て萎縮してしまったと言いますか……」
「それは悪いことしたな〜 でも俺達は萎縮されるような関係は望んでいないんだ。さっきのベストアンサーは『俺も欲しい!』だ。またの機会があればまた応募してくれ」
「……はい」
二人目も似たように縮こまっていたので不採用。理不尽かもしれないがここはゲームの世界なんだ。心からアストラを楽しめる人じゃないと俺は受け入れられないと思う。今回はハザマだけか〜と諦めつつ、最後の一人を迎えた時の事だった。
「最後の一人ね。座ってちょうだい?」
「……」
チョコに促されるままに一礼して座す陰気なアバター。紫色の長い前髪が片目を隠す、怪しげに笑う様はまさにニタァ…という効果音が良く似合う。種族は死霊族のアンデットだ。
「えっと……応募してくれた理由は――」
こちらの質問に答えるもなくいきなり俺を指差しやがった。なんなんだこの不思議ちゃんは。礼儀がなってないから不採用とか心の狭いことは言わない。だが意思疎通の難しいプレイヤーの場合は残念ながら退席願うことになる。
「――知ってるよ……私。君のこと……ふふふ……」
「レイ……多分この人頭おかしいわ。明らかに主語が足りてないし不採用じゃ……」
「採用ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!はーい!!承認ボタン押してねぇぇぇぇぇ!!ちょっと裏こようか『アンリ』ちゃぁぁぁぁん!!」
「大胆だね……ふふふ」
なんなんだこの確信めいた瞳と自信は。直感だがコイツはゼロ=レイの構図を知っている気がする。身内ならまだしも、あちらこちらにその情報を吹聴されてはコロネ達にも危害が及ぶ。先に口止めだ。対価に何を要求されるか分かったもんじゃないが、首輪をつけておくのがベターだろう。
「おい……!お前俺の何を知ってんだよ……!」
「……うふふ……カッコ良いね…」
「会話にならねぇ……!知ってんのか!?俺のメインアカウントの事を!」
「……え?何それ」
「……………………は?」
主語が少ないヤツ大っ嫌い。なんなんだよコイツは。ガチモンの不思議ちゃんじゃねえか。早とちりして変なやつを採用してしまった。だがまだ間に合う。今のうちに縁を切っておくのがうちにとってメリットになるだろう。
「はぁぁぁぁ……脅されたのかと思ったわ。じゃあ不採用ね。さいな……えぇぇぇぇぇ!?」
「酷……い…っ…………初めて……だった…のにぃ……」
「レ……イ…………?」
「チョコぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?ちがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁう!!アストラにそんな犯罪は存在しないの知ってるだろ!?まてまてまてまてまてまてまてまてまてまて!!!!誤解誤解誤解誤解誤解誤解!!!!」
ぽつりぽつりと不思議ちゃん『アンリ』は語ってくれた。主語が足りてないためツギハギだが、要約するとどのクランも門前払いで入れてくれなかったらしい。彼女の言う『知ってるよ』とは、あなたのところもどうせ入れてくれないんでしょ?の意味合いがあったようだ。
「初めて奪われちゃった……」
「なんでそんな語弊のある言い方しか出来ないの?バカなの?バカだよなぁ!?」
「乱暴で……激しかった…………でも、嬉しい」
「え……レイっち…………?」
「嘘だよね……?レイ……?」
「落ち着いて二人とも。あれは流石にアンリが悪いのよ……」
コミュニケーション能力に難のある変なやつを迎え入れてしまった。得意な武器種は法撃、というより杖しか使ったことがないらしい。言うようにクランという輪に馴染めず、最初期のコロネのように単騎での戦い方も知らず、ボロボロになりながらなんとかレベルを今の三十四まで上げたそうだ。なんとも涙ぐましい努力の賜物である。
「痛いの慣れてる……壁でもなんでもやる…………」
「……死霊族は耐久面に難があるが法撃や状態異常に対する耐性に長けている。敵を殺すときに感じた事を一言で言うなら?」
「気持ちいい」
「合格。お前は何があっても俺とオレンが守る。訓練を望むならその限りではないが、頭を空っぽにして敵を殺す事だけ考えてくれればそれでいいよ。自給自足を守ってくれるなら歓迎する」
「…………っ」
何故か泣き始めたんですが。男か女か知らんがこいつの考えていることが本当に分からない。差し出した手のひらに縋るように握りついたので、恐らくは否定的な感情はないと思う。だがそれらが些細なことだと思えるほどに、このゲームの楽しさを教えてくれと言う本音が垣間見えた気がした。
「とても良い日……頑張る、私」
コロネが。
「うんうん……!新しい仲間だもんね!!でもそろそろレイから離れないのかな?」
「……離せ?おい……っ!HA☆NA☆SE!!」
「安心、する」
こうして〝非効率の館〟は四人から六人へと増強した。ハザマはともかく、アンリの実力も見たいので火山地帯の冒険は後日だ。やけに協力的なコロネと二人がかりで引き剥がす事に成功し、レベリングも兼ねて外へと赴いたのだった。
『死霊族』
肉体が朽ち果てても尚、世界に未練を残した種。朽ちた肉体は脆く、耐久性に難があるが高い精神力が長所だ。優れた魔力保有量から法撃に長けており、状態異常に耐性がある。
Now loading…




