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七十七 防衛線突破


 へし折れたデュランダルの掘り直しに付き合いながらも日は流れ、未踏破とされる火山の探索に向かう予定だった。が、それに一役買ってくれた他のクランもその前にケリをつけるべき事がある。


「お前らァァァァァ!!アストラ民の誇りと強さを見せつけるぞ!!」


「「「「「うおおおおおおおお!!」」」」」

「「「「コ〇ス!!」」」」

「「「「臆病者には死を!!」」」」


 なんとも物騒だが士気は高い。そう、アシュオンコラボにて特例の専用マッチングがこれより行われる。アストラ民VSアシュオン民、様々なトライアウトを乗り越えた猛者中の猛者二〇〇名と、プロチームによる大規模かつ高水準な激闘の幕開けである。


 バトル方式はリスポーン有りのフラッグ戦。時間制限は三〇分に設定されており、デスポーンの五分が痛い仕様である。こちらの戦力振り分けは守り重視、対して攻めは精鋭中の精鋭一〇人が狂ったようにフラッグを狙うイカれた采配だ。念の為最終確認を参加プレイヤーへと問う。


「突撃隊は各小隊から三人を選出、一人は情報の共有のため防衛に回る。俺は単騎になるけど特に異論はないよな?」


 フォルティスが。


「問題ない。うちからはマカロンを出そう」

「星浄からはレンカを出します」

「天啓からはマサトをかすわぁ」


 かつてPvPにて十本指と呼ばれるメンツが続々と勢揃い。とは言え銃撃戦に優れているわけじゃないプレイヤーもいるため、突撃隊にそれらが選ばれてはいない。マカロンとレンカ、そしてマサトと俺、後は第三席のアイツが有名どころだろう。


「お前が最近噂のレイかぁ〜!!チョリィィッス!!俺は『キジル』だ!ヨロシク〜」


「あ、あぁ……よろしく」


 アストラの第三席キジル。種族は機人族(キャスト)、イレイザーのせいで不人気な銃をこよなく愛する変態だ。だがこいつにイレイザーを割られたが最後、優れたエイムと当て感によって体に風穴が開く。ゼロと似てイレイザーをほとんど使わない避け上手なプレイヤーだ。


 全身機械のロボットアバター、お調子者のキジルは頭にカチンと腕をぶつけながら絡む相手を変えた。その先にはうんざりとした様子の第二席が。


「チョリィィス!レンカァ〜!イレイザーに甘えたお前にやれんのかい?(こいつ)の扱いならお前やゼロにだって負けないぜ」


「キモ……私に……勝てたこと…………ないくせに……調子に……乗らないで……」


「言うねぇ〜!!イレイザーなしならお前の体は風穴まみれさ。だがまぁ今回は仲間だ。仲良くしようぜ」


「……レイも狂犬も…………足引っ張ったら……しばく……」


「センチネルも杖もないお前が強気だな。言っとくが俺とマカロンは銃を使っても強いぞ――」


『転送を開始します』


 専用ステージが視界へと映る。クレーンや重機が点在する工場地帯が選ばれたようであり、引火性の高い液体等が見て取れた。恐らくあれに弾丸が掠れば発火するため、戦術に利用する事も考えられるだろう。


 突撃小隊の四チームリーダー、俺、マカロン、レンカ、キジルに続いて十名が待機境界線へと歩み寄る。全員目がイカれてやがる。だが無理もないし気持ちは同じだ。アシュオンプロの一人、その呟きに殺意が湧いているのだ。


『アストラ民への印象としては曲芸師で一発屋。銃撃戦に大切なのは連携とエイム、初日は派手な動きに翻弄されたけど最終日はアシュオン民の圧勝だと思う』


 挑発のつもりか知らないがリプ欄は荒れに荒れていた。確かに多くのアストラユーザーはエイムが拙い。中〜遠距離の撃ち合いならばボロ負けだ。距離を詰めたいこちらと、連携プレーの弾幕による射殺。突撃隊がフラッグをかすめ取る速さ、時間との勝負がそのまま勝敗に影響するだろう――


「行くぞぉぉぉぉぉぉ!!」


「私は左から行く……!!レイは中央突破!?」


「あったりめぇだ!!死に晒せぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 敵フラッグの位置を示す白い光へと爆走一択である。奴らのフラッグ奪取隊がこちらに到着すればエイム力の差で敗北は濃厚。俺達十人がもたつけばその分防衛班への負担が多くなる。故に選択する作戦はレッツ世紀末、暴徒となって一瞬で旗を奪う。


「ヘイ!!シン!!レイがパルクールしてきますよ!!」

「やっぱりあの野郎は来たか……っ!!お前ら!!弾幕を張れ!!当たらなくても良い!!下手に追いエイムしたら外されるぞ!!」


「ひゅ〜!あっぶねぇ……!!」


 壁走りしながら路地を飛び抜け、そのまま工場の二階へと突入する。次々と敵陣営が取り囲んで来るため上へと爆走一択。階段の上から拾ったアサルトを威嚇射撃しつつ、一気に屋上へと飛び出してパルクールタイムだ。


「下道は渋滞してっからなぁ……!!お前らアシュオン民は着いてこれるかなぁァァァァァァァ!!」


「あいつ飛びやがった……っ!!撃て!!」


 屋上から屋上へ飛び跳ねながらそのまま巨大なクレーンへと飛び移る。赤く塗装された鉄は所々錆び付いており、網目状に貼りめぐされた鉄柱の間を縫うように駆け上がる。馬鹿みたいに弾丸が飛んできて怖いことこの上ない。


「流石はレイです!!クール!この高度でその身のこなし!最高にイカれてます!」


「とか言いながら追いかけてきてんじゃん……!シーナ……!!あっぶね!!」


 斜めに伸びる鉄柱を掴み、逆上がりのように身を回しながらてっぺんに辿り着いた。アシュオン民とは言え流石にアストラのステータスに体が慣れたようだ。射撃をするも人外のようなキャラコンで追い詰めてきやがった。


「ひゅ〜!!最高に高くて気持ちが良いですね!!レイ、追い詰めましたよ……?」


「いんや?わざとお前をここまで誘導したんだ」


「どこに向かって構え――」


 クレーンは支柱からワイヤーによって斜めに吊り上げられており、俺が狙うのは支柱と繋がれる滑車部分だ。弾丸の被弾によって弾けたワイヤーと同時に俺達の乗る鉄柱が一気に傾く。バク宙しながら飛び降りた後は動けないシーナを狙い撃つ簡単なお仕事だ。


「おぉ!?神よ……!!」


「五分間寝てな」


「がっ……!」


 クレーンからぶら下がる吊り上げのワイヤーへと捕まりながら発砲。鉄柱にしがみつくシーナを屠る。だがあちこちから弾丸が飛んでくるため即座に降下せねば死ぬ。ということで自衛隊も顔負けのロープ降下をお披露目してやろう。


「怖いよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!うおおおおおおおおおおおお!!」

 

「ダメだ!!アイツは防衛班に任せて攻めるぞ!!」


 ほぼ落下のように高速降下しつつ弾を避ける。ある程度降りればそのまま屋上へと飛び乗って再びフラッグだ。それにしてもシーナもかなりの腕だ。あの突発的な状況でいくつかの弾丸を掠らせやがった。俺が確殺出来ていなければむしろこっちが死んでいただろう。


「ひぇぇぇぇぇぇ……っ!!どいつもコイツも当て感えぐぅぅぅぅぅぅ!!」


 どこにいるのか分からない距離にも関わらず、あちこちから集まる弾丸の軌道が的を得てやがる。屋内に逃げ込みたい衝動をぐっと堪え、キャラコンで物理的に弾避けしながらヘイトを稼ぐしかない。俺にヘイトが向けばその分マカロン達の弾幕が薄れるためだ。


「クッソ……!!どいつもこいつもほとんど体を出さねぇ!!撃ち合いになるとあいつら本当に徹底してやがるな!!あっぶねぇ……っ!!?」


 それは射撃戦において基礎が徹底しているという褒め言葉だ。遮蔽物から極力体を出さない基本中の基本であり、人数不利のこちらは同じ手段は取れない。何故ならば足を止めようものならば挟み撃ちにされて終わるから。


「防衛班……!聞こえるか!!それぞれマカロン、レンカ、キジルの隊の奴ら伝いに報告してくれ!!突撃隊が誘い込まれてる!!足を止めたら囲まれる!!そのまま力技でフラッグを狙えってな!!」


『了解……!!こっちもかなり来てる!!健闘を祈る!!』


 無線の報告後に突っ走る。弾丸の雨を背負いながら屋上からジャンプ。隣の建物の四階へと窓ガラスをぶち破りながら転がり込んでやった。しかしその拍子に嫌なものが目に入ってしまった。


(鉄塔の上に誰かいたな……上から俯瞰して戦況を見てるなら本気でやばい)


 アストラ民に指揮官という概念は存在しない。というより最前線は指示を待つほどゆったりと動かないし、指揮官がいたとしてもアストラの速度感に的確な指示を出せる優秀な奴は少ないと思う。俺が知る限りではフォルティスだが、残念ながら奴は防衛班の指揮に忙しい。つまり――


「やばぁぁぁぁぁぁぁぁぁあい!!!囲まれてるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


「左行った!!囲め!!」

「突っ込んで来やがった……!!脳筋しかいないのか!!アストラ民は!!」


「お前らを殺すしか……っ!ないんだよぉぉぉぉぉぉ!!」


 窓から飛び降りて隣のビルの二階、その窓枠に捕まって勢いを殺す。すぐに壁を蹴りながら身を回して地面へ。まじで一秒でも足を止めたら蜂の巣になるため、包囲網の一部をゴリ押しで突破するしか生存ルートはなさそうだ。止まるも地獄、戻るも地獄、そして進むも地獄と逃げ場がない。


「スモークグレネェェェェェェェェド!!」


「追いエイムはするな!!射線を張って逃げ場を誘導しろ!!」

「分かってる!!ファイアー!!」

「……行くぞ」


(左右に射線を張られて立体的に動けない……しかも一人がスナを構えてやがる……っ!一か八か――)


 煙幕が蔓延する前に正面の敵位置を叩き込み、トンデモない神業チャレンジを決行する。恐らくはスナイパーは俺が煙幕から出たら撃ってくる。一秒にも満たない刹那の狭間に奴の狙いを見定め、弾丸をいなすしかない。


「――ここぉ!!」


「はぁ!?」


「アンチマテリアルかよ……っ!!アサルトが……!」


 狙われた頭部へとアサルトを掲げて防いでやった。だが威力がイカれてやがる。首を傾けていなければ貫通した弾丸に頭が持っていかれてた。アサルトは木っ端微塵、残る武器は拾ったナイフと拳銃。だが俺の射程圏内にまで侵入はしたぞ。


「まずは一人……!!」


「かはっ……っ」


 喉へとナイフを滑り込ませ、同時に隣にいたやつの銃口へと回し蹴りをお見舞いする。フレンドリーファイア、押し付けた銃口から弾丸が火を吹き、もう一人を屠る。残る二名は拳銃によるヘッドショットとナイフの投擲によって駆除予定だ。


「人間の動きじゃないだろ……っ!」


「生憎と同じ人間だ……!!だが近接なら万に一つも負けねぇよ!!」


 スナ持ちを拳銃でヘッドショットし、アサルト持ちは再び銃を蹴り上げて銃口を逸らす。そのままナイフで確殺に持っていこうと思ったが、状況が変わったため肉壁になってもらった。


 背後から降り注ぐ弾丸から身を隠すため、アサルト持ちの胸ぐらと腕を掴んで背負い投げだ。俺の遮蔽物になると同時に仲間の弾で逝け。その隙に俺は角を曲がってそのままフラッグを取りに行かせてもらおう。

『貫撃』


貫通属性を有する攻撃のこと。片手剣や槍等の突き、弾丸がこの属性に該当する。鋭くて早いモーションは弾かれにくく、ピンポイントで弱点を狙う事が可能だ。


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