七十六 上がらないテンション
特殊テイムによる情報、それらを合同クランである天啓らにも共有した後、俺は秘密裏にフォルティスに連行されていた。レイではなく、銀色の髪を靡かせるはクッソロリのゼロである。
「こんばんは!お久しぶりです!ゼロさん!!今回、私も見学させてもらうことになりました!!コロネです!」
「……ウン、ヨロシク…………」
「よく来てくれた。またのらりくらりと逃げ出すかと思っていたが、今回ばかりはリアルへの突撃もやぶさかではなかったから本当に良かったよ」
「ヒサシブリノ、フルメンバー、ダネ」
「ゼロさん!お久しぶりです!!タナユキです!!」
「ウン……ソウダネ」
なんも久しぶりじゃないわ。それにしてもゼロの女声に鳥肌が立つ。ネカマをしてるわけじゃないのにみんな女の子と思ってるし、もう今更男ですとか霊峰メンバーには言いにくい。寡黙キャラで乗り切るしかない。
「今回はひこやかのレイとやらになぁ……私の愛剣を寝盗られた上に破壊された。お前には悪いがあいつの代わりに働いてもらう。いいよな?ゼロ」
「ウン……イイヨ…………」
「……っ!あ、あの!レイを悪く言わないであげて欲しいんです……そ、その……彼も必死だっただけで悪意はないはずなので……」
「ウン……キニシテナイヨ……」
フォルティスから眼力のある睨みが飛んでくる。口にしなくても「気にしろ」って伝わってくる。とりあえず足を止めていると次々と話題を振られるため移動一択だ。
「メルノア」
奇跡的にテイムに成功していた巨大な突風竜を召喚する。破格の十人乗りであり、フルパーティー+コロネならこいつだけで事足りる。最寄りのポータルに来ているとは言え、まだ少し遠いのでこいつで時短だ。
「えぇ!?皆さんジャンプ力高……っえっと、えっと……っ!」
「メルノア」
「あっ、頭下げてくれた……あ、ありがとうございます!」
よじよじと登るコロネを助けつつ、一気にデュラハンのポップ場所へと飛行する。魔剣デュランダル、奴の落とすレア泥長剣だが長い戦いになるだろう。問題はデュラハン自体ではなく、狩場の雰囲気だ。
「着いた」
「しねぇぇぇぇぇぇぇ!!ゴキブリみたいに死に戻ってきてんじゃねえ!!失せろバカ!!」
「そっちこそどっか行けよ!!」
「うわっ!?待って待って!!?ここにメルノアなんて湧かな――」
「ここの狩場を譲って欲しいんだけど……ダメか?」
「「「ゼロだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!?」」」
まるで化け物を見たかのような反応で少し傷付く。蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、見覚えのある男性キャラが殺意と共に歩み寄ってくるではないか。忘れるわけもない。〝天啓の導〟を引退した元リーダー、『シシドウ』君だ。
「ゼェェェェェロォォォォォォォォ!!!!」
「げ……フォルティス〜変わってくれよ……あいつレベル七〇なんだけど……」
「断る。お前ならなんとかなるだろ」
「……はぁ」
『シシドウ』。天使族を選んだ哀れなプレイヤーだ。天使族は種族特性に両手持ち武器が使用できない制約がある代わりに、メインスロットが四枠という特徴がある。対して俺は龍族、怯みやすく紙装甲というのが特徴だ。
天使族は言い換えれば重量武器が使えない。つまりは弾きやすい攻撃しか出来ず、メインスロ四枠の豊富なビルド幅も俺のプレイ時間と経験値の前では無意味。お前にとってゼロは相性が最悪なのだ。勢いよく助走を乗せたスラストが。
「スラス――」
「……っ」
「がっ……!」
レベル五〇から解禁する突撃回避ドロップアサルト。通常よりも無敵時間の短いフレームに奴のスラストを重ね、回避スキル達成判定直後にサマーソルトを組み込む。勿論顎だ。強制的に上を向かせ、小さなゼロの体を視界から消し去る。続くは納刀スキル『月光』。
「ゼ……ェロ!」
「はいはい、シールドバッシュ」
『月光』のムーブは納刀したまま柄を掴んですくい上げるように鞘をぶつける技だ。特徴としては浮かせる効果があり、小柄で華奢な天使族は格好の餌食。しっかり浮いた所にシールドバッシュで倍プッシュ、奴の行動次第では瀕死まで追い込めるがどう出るかな。
「グラビティ……っ!パージ!!」
「……瞬きの双閃。ウェポンチェンジ、大杖」
「っ!?やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
グラビティパージをキャンセルするももう遅い。レベル六〇から解禁する無属性法撃『アポカリプス』。任意の魔力を消費し、それに比例して威力が高くなるロマン砲。ゼロは贅沢に全ての武器が星七だ。レベル差も瞬きの双閃で緩和してるし、多分痛いと思う。
「『アポカリプス』」
銀色の爆発が奴の体を吹き飛ばす。放物線を描いて飛んでいく中、もちろん追撃一択である。エーテルは全て今のアポカリプスにプッパしたのですっからかん。大杖はもう使い物にならないので次は弓。固有ウェポンスキルの追撃と曲刀のフィニッシュで落ちろ。
「『パニッシュメント』……っ『シャープネスアロー』、『スカイアロー』」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
コンバットチェインは曲刀からコンボを始めていればウェポンチェンジしても引き継ぎます。つまり何が言いたいのかと言うと、ゼロを前に空にさらわれた時点で負け確だ。空では斧でもない限り動けない。着地狩りはアストラの基本――
「――待っ!」
「『十六夜』」
要求コンバットチェイン二〇、瞬間的に切り込みと切り返しを八連続で行う十六連撃の大技だ。ムーブアシストなしでは実現不可能な速さであり、せいぜいそれぞれの切り込みの角度を弄るくらいしか出来ない。だがシシドウは華奢な天使族だし、空にいるから反撃もできないので関係ないわけですね。
「……全然成長してないじゃん」
「無理を言うな。お前がキ〇ガイなだけだ。空中確殺コンボは見た目ほど簡単じゃないんだぞ……」
「まぁいいや。サクッとデュラハンを……ん?」
「す、凄いです!!私も空中コンボを考えてて…っ!あんなに鮮やかに繋がるものなんですね……っ!凄い……私ももっと勉強しなきゃ……っ!」
「執剣の距離感が掴めれば、着地狩りに合わせて固有スキルを逆算して良いコンボになるかもしれない」
「た、確かに……!」
さて、勤勉なコロネさんはひとまず置いておき首なし騎士の乱獲タイムだ。奴は体力が低い代わりにモーションがかなり優秀で火力も高い。再度言うが問題はアストラ特有の狩場仕様に加えて固有のパッシブスキル、報酬抽選に混ざるために野良がアホみたいに突っ込んで来るのだ。
「混ぜろ!!」
「ゼロさんがいるんじゃ早く殴らないと!!」
「俺も!!」
「あ……」
焦りはプレイングに悪影響を及ぼす。我先にと突っ込む野良共にはキャラコンという概念が抜けている。あれでは単調故に高火力なデュラハンの餌食でしかない。次々に切り殺され、死体の発生と共にデュラハンのパッシブスキルによる強化が入ってしまう。
「めんどくさぁ……」
「約束だからな?逃げることは許さないぞゼロ」
「分かってるって……」
死者の魂でも食らう設定なんだろう。一定数のプレイヤーをキルした後に強化個体に進化する。新たに出現した影のような霧と妖しく光る二つの赤い点。多分あいつの目ん玉的なものだと思われる。
首なし騎士は魂を食らうことで霧のような肉体を得る粋な演出があるわけだ。この状態になると無限リーチの斬撃を永遠と飛ばしてくるフィーバータイムへと突入してしまう。止める方法は二つ、時間経過か弾くしかない――
「弾いた、タナユキスイッチ」
「流石……っ!パリィ上手すぎます!!」
「行くぞ」
こいつも周回しすぎてもう飽きたんだよな。瞬きの双閃が残っているうちに『絶刀終月』をぶち込んで瀕死まで削る。後は奴らが不屈の怨恨でフルボッコにして終わりだ。作業作業作業作業、モーションも俺の中では刷り込み済みなため、固有スキルのせいで体力一になろうとも全く怖くないんだなこれが。
「ぜっとーしゅーげつー」
「続きます!!」
特筆すべきことも無く圧勝。流石に見慣れていないコロネや野良達はドン引きのご様子。しかもクソ個体、デュランダルの泥なし。次の個体がリポップするのがいつになるかは分からないが、どうせ出るまで付き合わされるのだろう。
「あ、あの……ゼロさん」
「ん?」
「その……レイと…………えっと」
(ついにバレたか。まぁ隠す気ももうないし丁度良――)
「双子の兄妹だったりしますか!!?なんかすっごく太刀筋がそっくりなんですよね!!?いや……強い人はみんな洗練されてそこにたどり着くのかなぁ……?分かんないなぁ……!」
「いや……実はその……」
「あっ!見学させてありがとうございました!!この後バイトがあるのでこの辺で私は失礼します!!遅刻するぅぅ……!」
「ちょっ!待っっ!!」
転送まで早すぎだろ。俺が呆気にとられているとタナユキやその他の霊峰メンバーがあんぐりとしていた。なんなんだよその顔は。別におかしなことは何もしてないんだが。
「ゼ、ゼロさんの貴重な大きい声だ……!は、始めて聞いたぞ!?」
「ゼロ様の貴重な大声シーン」
「録音したぁぁぁ!!」
「月光」
「ゼロ様ぁ!?」
録音したやつを半殺しにしながらもこの日は徹夜を迎える。フォルティスの日頃の行いが悪いせいでデュラハンを三〇体以上倒す羽目になってしまったのだ。『炎竜の加護』も手に入ったんだから諦めてくれれば良かったのに。
だが徹夜程度で済んで良かったとも言える。何故ならば近々俺達は別件で忙しくなるのだ。実のことを言うとそっちにワクワクしすぎて待ち遠しい自分がいる。そう、アシュオンコラボにおける特別企画。
アストラVSアシュオンの開幕だ。
『天使族』
天界の掟を破り、俗世へと堕ちた堕天使。堕天しても尚、特殊な星の加護が制約を与えている種族。平均より高いステータスを有しており、片手武器しか扱えない代わりにメインスロットが四枠の特徴を持つ。
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