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七十五 神の一撃


 大噴火に伴う溶岩の侵食と、イグニストによる熱線によって一体が地獄と化した。燃えやすい木々は一瞬にして炭になり、岩でさえも灼熱の業火が溶かす。温暖気候からすっ飛ばして一気に極熱気候に。


「あっちぃぃぃぃぃ……っ!!退避退避!!あんなん無理だ!!」


「賛成です。しかし……霊峰はどうやってあんな化け物に勝ったんでしょう?気候ダメージのせいで長期戦は無理だと思うのですが……」


「ソウデスネ」


 かつてイグニストを討った時は奇跡が重なりまくった。霊峰全員に加えて多くの野良も参戦し、その数は数千とかいたと思う。そいつらが氷系統の法撃を死に戻りしながら連発したのだ。


 防具やサブウェポンも飛び散りまくっていた地獄絵図の中、誰のものかも分からない装備を拾いながら法撃を連発し、蒸発し続けた氷が積乱雲を作り出した。そこから落雷と大雨によって熱帯湿潤気候にまで下がったのだ。


(雷鳴竜ヴォルディガスも乱入したし、その削り合いもあったおかげでギリっっっっっギリ勝てた。当時は怖かったなぁ……俺とカオリも半泣きだったし)


「……レイ!あの時みたいに空が――」


『条件達成、ユニーククエストに派生します。『神炎の怒りと星竜の審判』、クリア条件変更……女神の鉄槌まで一定数のプレイヤーの生存、に変更です。推奨レベル七〇』


「これは……っ!?」

「未知の最前線です……ね!!」


 霊峰や天啓、星浄らが一斉に旋回するようにイグニスト周辺を駆け巡る。ジリジリと体力が減っていく中、俺達もその後に続いた。焼け石に水だが回復アイテムを利用しながら延命処置を行う。星竜、奴なら一度だけ見たことがある。


 砕け散った空から舞い降りた蒼白の竜がイグニストの頭を鷲掴みにして地へと叩き落とす。拘束したままお口に溜め込むは蒼い光。俺知ってる。あのブレスに当たり判定があるのを。しかしタイミングがイマイチまだ分かってな――


「レイ!!私の後ろに入って!!」


「助かる……!!」


 セイファートから飛び降りながらコロネの影へ。そして音と視界が消えた。指示を出す暇もなかったためおそらくチョコとオレンは死んだ。そう、このブレスは竜を一撃で屠るアホ火力。全方位へと波状の即死級の衝撃波が来る。


 ――爆ぜた。風龍の障壁によって俺達は無傷だが、遅れてやって来るありえない衝撃に備えねばならない。コロネの頭を守るように抱え込み、体勢を低くして地面にしがみつく。一瞬にしてマグマや岩をも吹き飛ばして一帯が更地へと変貌を遂げてしまった。


「やっばぁぁぁい!!」


「理不尽すぎないぃぃぃぃ……っ!嘘だよね……?あれだけ人がいたのに一撃で……っ!」


「壊滅……だな。オワタ……」


 全滅。どれだけ優れたプレイヤーだろうと初見殺しの即死範囲攻撃の前では無力。ちらほらとオートガード持ちは生き残っているかもしれないが、恐らくはほとんどが戦意を失っているだろう。


「なんだ……っ!さっきのは!?レイ!お前達は知っていたのか!?」


「フォルティスか。しぶといな……っ!空にいた奴らはもれなく落下死だろ」


「ギリギリ嫌な予感に従って事なきを得た。熾天使の天翼を持っていかれたが……っ!」


「やばい飛んで伏せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 イグニストはタフさも別格らしい。あの星零竜のブレスを受けてもなお生き残っている。それどころか反撃して無差別に熱線を振り払いやがった。だが星竜は華麗にかわし、イグニストの首を掴んで放り投げる始末。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ぐぅ……っ!!」


 俺達の近くへと吹き飛ばされたイグニストによって一帯の岩が弾け飛ぶ。何も出来ないし怖すぎて何もやろうと思えない。規格外中の規格外、再び星竜の口に蒼白の光球が溜め込まれているのだけは見て取れる。


「フォルティス……っ!いいこと教えてやるよ!!あのブレスをジャスト回避したら多分『星屑の黎明』が貰えんぞ!?だからどうにかして止めてくれぇぇぇぇぇぇ!!」


「無茶を言うなァァァァァァ!!ていうかアレを初見で避けたのか!?前から思ってはいたがイカれているだろ!!」


「ふ、ふふふふふ二人ともぉぉぉ!!喧嘩してないでどうすれば良いのか教え――」


『――そこまでです。ご苦労さま、ユースティティア……下がって良いですよ』


 なんか空からアストライアが降りてきた。なんかこいつストーリーの核にいるくせに出席率低いんだよね。そのくせユニークにこうして出席してくるのはなんなんだよ。運営のイタズラか。


『哀れですね神竜イグニスト。かつては神にも匹敵するほどの力と英智を持っていながら、今や復讐に取り憑かれた知性なき暴力。不快です、永遠に眠りなさい』


 とても嫌な予感がします。今の位置関係をおさらいしよう。アストライア、間に僕ら、ちょい後ろの方にイグニスト。そしてアストライアの右手には見たことの無い片手剣が握られており、左手には天秤が。


「待ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?なんか俺達巻き込まれる気がするぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!フォルティス!!お前の長剣を貸せ!!早く!!」


「え?あ、あぁ……何が起き――」


 固有ウェポンスキル『黎撃(れいげき)』。フォルティスの愛用する☆七長剣の必殺技だ。任意の貯め時間に応じて威力が変動し、最大五秒までエネルギーをチャージ可能だ。アストライアから何か攻撃が飛んでくる気がしてならないし、初見技だしタイミングも分からない。ぶっつけ本番の生存本能にオールインパリング。


「黎撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!???」


 弾け飛んだ。アストライアから繰り出される斬撃は時空を歪ませ、馬鹿みたいな速さだった。だがアストラに費やした経験と長年のカンによって、フルチャージの黎撃を重ねる事に成功。が、アホみたいな威力に負けて無事吹き飛びました。


「私のデュランダルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


「すまぁぁぁぁぁぁぁん!!砕けたァァァァァァ!!うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 悲報、デュランダル逝く。本当にごめん、悪気はなかったんだ。お前がこの長剣を至極大切にしていたことを知っている分、本当に申し訳ないと思ってる。これも『秋月』並にレアだもんね。スマソ☆


「がっはぁ……っ!あ……イ、イグニストさんアザス……」


『…………っ』


『……偶然にも小さき英雄に魅せられたようですね。私から見てもお見事です。神の一撃をいなすとは……驚嘆に値します』


 クスクスと笑みを隠すように振り袖を宛てがい、浮遊していた座標から俺たちの元へとアストライアが降下した。なにこれ、AIにしては流暢すぎるしアストラ凄い。


『して英雄よ、汝はこの世界に何を望む』


(えぇ?明らかに俺に問いかけてるよね?なにこれ?ユニーククエストだけどシナリオ型?選択肢ミスったらどうなるの?怖すぎなんだが……)


『人間よ……我を守った事、礼を言う。等身大の望みを聞かせてみよ』


「イグニストさんも人語喋んのな……あぁ、分かるよ。フォルティスもコロネもびっくりだよな。俺が一番びっくりしてるから……」


 選択肢も何も出ない。プレイヤーの発言に合わせてシナリオ展開が変わるならとんでもねぇAIだよ。何を望むか、アイテムならなんでもくれるんだろうか。確かに珍しいアイテムなんて喉から手が出るほど欲しいし、強くなりたい気持ちに嘘は無い。だがその過程をすっぽかし、飴のように貰えるものに俺は価値を感じない。


「楽しさだ。アストライア、あんたが毛嫌う戦いも俺は好きだし、仲間と試行錯誤しながら紐解くダンジョン攻略も大好きだ。俺がこの世界に望むものはたった一つ、俺を飽きさせないでくれ。それだけだ」


『ふふふっ……流石は()を殴り飛ばしただけはあります。言う事のスケールが違いますね!ほら、ふざけて泉で絡んだでしょう?』


「……あ!?え!?あれお前なの!?」


『はい!じゃれあったつもりでしたが楽しみが増えました。良いです……早く祭殿にいらしてください。その時は私と本気で遊びましょう――』


 アストライアが粒子となって消えた最中、眼前へと浮かぶ特殊テイムの契約が可視化された。『星天の契』、詳細は見てみないと分からないがそれどころじゃない。


「えぇぇぇぇ!?」

「完全に貴様の棚ぼただな……」


「え?何!?お前らもなんか貰った!?」


「「『炎竜の加護』……」」


 ひとまず内容は分からないが、俺達三人は一斉に課金ページに飛んだ。それはそう。未知の最前線のさらに奥だろこんなん。特殊テイムに当てるテイムリンクを即購入、そして受け取る以外にありえない。


 『星天の契』


 アストライアのお友達。その証。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!?キモすぎこのゲームぅぅぅ!!」


 思わずテイムリンクを地面にぶん投げたが、驚いたフォルティスとコロネが共振する。違う、お前達のその反応は良いものが出た時のやつだ。俺のこれはクソみたいな効力?にキレてるんだよ。


「レ、レイ!!出たよ!!地形無効のテイム!!『炎竜の加護』……!熱に対する地形ダメージを無効化だって!!これで未開の地を探索でき――」


「俺にもそういうの寄越せぇぇぇぇ!!何が女神アストライアだ!!〇ね!!AIと友達になって何があるんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「む?レイ、貴様と私達の会得した特殊テイムは違うのか」


「『星天の契』、めっちゃ意味深だしやばそうなオーラぷんぷんだろ?これ女神との友達の証しかないんだぜ?効力もなんも書いてないし、ガチのネタ枠」


 疑ってるので画面を共有して見せてやった。流石のフォルティスも苦笑いを通り越して真顔になってるし、行き場のないこの怒りをどうしてくれよう。未知の最前線、その最中に死にものぐるいで手にしたのにこんなのあんまりだ。俺を飽きさせるな(ドヤ)、とか言わずにレアアイテムおねだりしときゃ良かった。


「それはそうとレイ、これで当初の目的だった特殊テイムは会得出来たわけだ。ゼロに頼まれてくれるよなぁ……?私の長剣のおかげで取れたようなものだろう?なぁ!?」


「え……?」


「私のデュランダルを掘り直せぇぇぇぇぇぇ!!絶対に説得(・・)して連れてこい!!良いな!!?デュラハン狩りだ!!レベル六〇!!嫌とは言わせないぞ!!」


「……ハイ」


 コロネが。


「あ、あの!ダンジョンですか?可能なら私も見学に行きたいです!もう一度ゼロさんの戦う姿が見たくて……!」


 最早断れるものでもないため久しぶりのゼロの出勤です。一応フォルティスも気を使ってくれたので、コロネの同伴もある事だしタイミングが良ければカミングアウトしても良い頃合だろう。


『鑑定』


素材の本質を見抜く技術のこと。このスキルレベルを上げることで、普遍的な情報しか見えなかった素材から真価を見つけることが可能になるかもしれない。


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