表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

74/110

七十四 温泉街の向こう


 短くまとめよう。滅多なことでは動かない巨大クラン達だが、それぞれ話しをつけていたそうだ。霊峰はそもそもゼロとの関係も深く、元より協力的だったらしい。だが〝星浄の騎士〟にはレイが売られた。ニッコニコのユキナが。


「先程ぶりですレイさん。此度の大捜索ですが、進展があれば一騎打ちを取り付けてくださると聞き、馳せ参じました。あ、追加料金で他の人の手合わせもお願いしております!」


「チョコぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!お前俺を売ったなぁぁぁぁぁぁぁ!!星浄クラスの奴らと順番にタイマンしてたら何ヶ月かかると思ってんだぁぁぁ!!」


「多少の労働くらいならやるって聞いたわ」


「多少じゃねえだろ!!星浄が何人抱えてんのか知ってるだろ!!」


「大丈夫よ。私も似たような代償を払ってるし」


「切腹したからって人を刺して良い理由にはならねぇのよ……で?天啓と蒼穹はどう釣ったんだよ……?」


 小声でビビりながらも問いかけると、〝天啓の導〟には王道に情報トレードを持ちかけたらしい。俺が暴露した月影竜の出現条件、そしてチョコの本垢が持っているとあるユニークアイテムの譲渡、最後にその本垢によるゲーム内マネーの積み込み、似たような代償ってそのことなのか。普通にベクトル違うだろ、こちとら肉体労働じゃねえか。


「初めまして、〝蒼穹の天輪〟のリーダーだ。お前達の動画も見たし、最近の荒らしぶりはよく耳にしている」


「『カナリア』さんも来るとかまじでどうなってんの……うっす、ひこやかリーダーのレイだ」


「霊峰も星浄も、更には天啓も参戦すると聞かされてな、あまつさえ俺達がいなくとも、『特殊テイム』とやらを拡散すれば勝手に野良が寄ってたかってくると脅されたんだ」


 チョコが。


「あら?優しさのつもりで誘ったのよ?攻略組の蒼穹が出遅れるなんて可哀想だと思ってね」


「霊峰にも新天地の開拓が決まれば独占はさせないと啖呵をきったクセによく言う」


 それぞれの利害をよく理解し、上手く煽れている。だがこれでは優位には立てていないし、情報の隠蔽をされれば人数の劣る俺達は不利とさえ言えるだろう。そんな俺の思考を読んでいたかのように、チョコが各リーダーと俺へ爆弾を投下したのだった。


「これは各リーダーには話していたけれど、うちのリーダーはゼロさんと繋がってる。あくまでレイとゼロさんの気分次第ってのが前提になるけど……レイ、この捜索でひこやかに有益な結果を残したクランに特別な報酬を与えたいのよ」


「……………………」


 霊峰が。


「うちはあの最強を借りて未攻略ダンジョンの踏破を望む」


 星浄は。


「私とレンカのゼロへのリベンジマッチを」


 天啓と蒼穹も。


「ウチが悪かったとは言え、過去に壊された数々の装備、その補填のために攻略の手伝いを頼みたいわぁ」

「霊峰と同じだ。高難易度なダンジョンの周回化を求める」


 ゼロを出汁にするだろうとは思っていたが、確かに一回コッキリの労働ならば安い代償――


「ゼロが来るわけねぇだろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!一応な!?一応連絡はしといてやるけど期待はすんなよ!!?分かったか!?」


 アシュオンの件でも忙しいと言うのに、チョコの野郎、俺自身のケツにも火をつけやがった。これでは探索MVPを奴らに渡す訳にはいかなくなった。裏まで事態を理解しているフォルティスだけはニヤニヤしてるしまじで腹立つ。


(だが恐ろしい手腕だ……あいつらだけじゃなく俺にまで発破をかけるとは……ゼロの亡霊をこんな上手く使うのかよ)


「ま、みんなもご存知とは思うけれど……あの人はとても気分屋でしょ?MVP報酬に関しては叶えばラッキーくらいに思って頂戴。この探索が上手く行けば未踏破の火山に突入できる。それだけでもそれぞれにとってメリットしかないでしょ」


「出来れば我々霊峰が独占したいところだがな。おたくのリーダーではこうも上手く煽れなかっただろう。非効率の頭脳とでも呼ぶか?チョコとやら」


「フォルティスさんには負けますよ。では約束通り、いまから特殊テイムの証拠映像と効果を限定公開するわ――」


 アセルカイア(幼体)から始まった特殊テイムの録画動画を共有し、海中テイムという未知を晒す。これと同じくして過酷な環境である火山エリアの手がかりを模索する。最大の問題は火山特有の地形ダメージだ。


 立っているだけでありえない速度で体力が減っていく。極熱気候、あちらこちらに流れるマグマも相まって死ぬほど熱い。マグマに落ちようものなら即死だし、そもそも極熱気候の地形ダメージがやばすぎてほとんど進めない。回復アイテムのリジェネよりも削りの方が早いのだから当然だ。


「これは俺の予想だが、海中マウントのようにそのエリアに適応した特殊テイムが存在すると思ってる。あの運営だぞ?人が入れない場所をわざわざ実装すると思うか?」


「同感だな。だが仮に火山に適応した特殊テイムとやらが見つかったとして、いくら報酬があるとは言え隠蔽される可能性が高いが……そこはどう考えている?」


 フォルティスの言う通りである。天啓なんかはこそこそリアルマネートレードなんかもやってるわけで、踏み荒らされていない火山エリアは宝の山だろう。だが考えてもみて欲しい。巨大派閥×四、そして(ゼロ)率いるひこやか、これらを相手に抜け駆けがバレたら抗争だ。


「ま、抜け駆けするならバレないようにな?こちとら特殊テイムという未知を共有してんだ。それなりに誠意は見せたつもりだし、俺はビジネスに興味もない。ただアストラに眠る未知をみんなと共有し、真摯にこのゲームを楽しみたい」


「…………」


「お前達にとっては仕事かもしれないが、ここからは契約もクソもないただの頼みだ。俺達非効率の館と純粋にアストラを楽しんでくれ。以上!!捜索開始!!」


 腹の探り合いは苦手だ。うひょーここ入れるようになったぜ〜と無邪気に楽しむだけではダメなのだろうか。恐らくは少数派だろう。そんな俺の気持ちを汲み取ってくれたかは不明だが、オレンにも連絡を入れて無差別な広範囲探索へと洒落込む事にする。


「みんな〜!!ギリギリセーフかなぁ!?」


「ナイスオレン!!チョコの後ろ乗りな!」


「惜しかったわね。もう少し早ければ良いものが見れたのに」

「良いもの?なにさなにさ〜?」

「レイの一声に巨大派閥全員が呆気に取られてたとこ。みなが腹の探り合いをしてるのに、ゲームを楽しむぞって一声で黙らせたのよ」

「あの時のレイかっこよかったよね!」

「そりゃみんなピリピリしてるけど、根っこにあるのは同じだもの。アストラが大好きな奴らしかいないからね」


 そこまで深読みしてない。とりあえずステラヴォイドから飛んで最西端へ。そこからはセイファートとユニスティアを使ってさらに西へと突き進む。海を越え、山を超えてさらに奥へ。


 通過するは温泉街である『テイルファーズ』。だが寄り道する気はないのでポータルだけ開けていきながら直行。先輩らは既にポータルを開けているため、ほとんどの奴らがこの先にいるだろう。火山のために漁るならまずはここだろう。


「さっきぶりユキナ!」


「おや?てっきり逆張りされているのかと思いました」


「逆張りするにも手がかりなさすぎだからな。まずは有名所の火山の周辺からだ」


「天啓と霊峰も来られてますね。しかし、〝非効率の館〟は気持ちが良いものですね」


「はい?何がだ?」


「最後の一言が響いたんですよ。裏表のない激励に、恐らくは皆の士気が上がっていると思います」


「楽しもうぜってやつ?ゲームなんだから普通だろ」


「普通に楽しむことを忘れていた方にとっては魔法の言葉です。山登りに例えるならば、山頂ばかりを意識し、景色を楽しむ事を忘れるようなものですから。かく言う私も対人戦で勝つことばかり考えていましたから、前回のバーベキューのように息を抜く事の大切さを学びましたよ」


 返答に迷っていると後ろのコロネが。


「分かります!レイといるとアストラが一人の時より楽しいんですよね!時々めちゃくちゃな事もやるんですけど、それもまた刺激的で退屈しないというか……!」


「それ褒めてる……?」


「コロネさんが羨ましいです。自信を持ってください。あなたはとても良いクランリーダーですよ――」


 次の瞬間に突発的なエリア気候の変化が発生した。月食や日食と同レベルで珍しい火山の大噴火。アストラ界でも随一の標高を誇る『ヒヌカミ岳』、その頂上の一部が吹き飛ぶように爆発しやがった。


 一瞬にして舞い上がる火山灰とキノコ雲、そしてメテオのように降り注ぐ溶岩に森林の木々が一気に真紅に染め上がる。まさかの大事態にゼロの記憶が呼び起こされた。アストラ界隈でも超有名なランダムクエスト、『焔の権化と怒りの化身』発生の前触れだ。


「うっそだろお前!?煌炎竜(こうえんりゅう)が来るかもしれねぇ……っ!!」


「リヴァイアに続き、私達は竜と縁がありますねぇ」


「こちとらまだ四十前半なんだわ!!竜なんて早々相手にできるかァァァァァァァァァ!!」


 悲報、『ヒヌカミ岳』が消し飛んだ。比喩でもなんでもなく、キノコ雲を蹴散らすように降臨した煌炎竜イグニストが山を踏み潰したのだ。四足から二足立ちへと背を伸ばし、巨大な二枚の翼を広げながら怒りの咆哮を奏でる。


「うるっせぇぇぇぇえ!!相変わらずデカすぎなんだよアイツ……!!」


「レ、レイ……!あ、あれもやるの……?」


「無理無理無理無理無理無理無理!!あいつは竜の中でも格が違う!!昔だとアストラ全体で見ても討伐報告は一件しかねぇ……!実際どうなんだよユキナ!!」


「変わりませんよ。加えてあの竜のレアドロ武器、『神炎の憤怒(レーヴァテイン)』は霊峰のマカロンさん以外には見た事ありません」


「まじかよ……!」


 煌炎竜イグニストからドロップした赤黒い片手剣は、かつて都市伝説の魔剣と呼ばれていた。超レア気候である大型の大噴火によって低確率で出現するイグニスト、そのうえ奴を討伐してレア泥を引かねばならない。


 都市伝説と呼ばれるアイテムは色々とあるが、こいつイグニストだけは別格。発生もレア、泥率も低い、その上バカ強い。奇跡的に討伐に成功した当時のカオリが言っていた。二本泥したから多分私明日死ぬと。

『錬金』


素材を一時的に異なる他の既存のものや、柔らかな材質に変化させる技術のこと。この技術は加工不可能な理を覆し、オーパーツやそれらに準ずる未知の素材を組み込む事を可能とする。


Now loading…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ