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七十二 兄貴エンカウント


 両チームの接敵が始まると苛烈さが増した。あちこちにプレイヤーがいるせいか、隠れているつもりでも体が露出していれば弾丸が弾け飛んでくる。チームメンバーを見ていればその神経質な隠れ方に納得がいった。今のうちに武器をサブマシ二丁に拾い直しておこう。


(距離が離れていようが見えれば積極的に撃ってきやがる……つくづくアストラ民とは性格が違うな)


 この距離では当てても確殺には持っていきにくい。殺意の高いアストラ民は常に殺しきる可能性を考えるものだ。あまり使わない回復アイテム、ファーストエイドキッドを投与しながら敵位置の確認に勤しむことにする。


「旗が近い分、防衛軍が固まってるなぁ」


 シンが。


「こっちも三小隊ほど見える位置に仲間がいる。射線を流してくれそうだから合図で突っ込むぞ」


「アシュオン民って妙に統率が取れてるよな?育ちの違いかねぇ」


「こっちからすれば勢いだけで無茶苦茶な連携を組んでくるお前らの方があたおかだ」


 シンさんに貶されながらも体力全快。アストラもアシュオンも、回復アイテムと言えど即時回復効果はない。リジェネ方式、投与から徐々に一定時間をかけて回復する。つまり弾丸の雨を受けながらでは回復は間に合わないのでご利用は計画的に。


「行くぞ!!」


「突撃隊長はアストラ民の俺が引き受けようか……!!」


「わお!!レイのパルクールが見れるです!!」

「パルクール……?は?おいおいおいおい――」


 路地裏の前方に一小隊、それぞれ路地を抜ける左右の物陰に二人ずつ。上空の建物屋上に別小隊の奴が一人。上は仲間に任せて奥の四人を狩る。恐らくはアシュオン民だろう。いくらエイムに優れたお前達でも、これだけ派手に、そして立体的に動く的は見たことがないはずだ。


「こっえええええええええええ!!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


 ジグザグに高速で走り抜けながら縦にも動いて紙一重で弾丸を避け続けるしかない。前方転回飛び跳ね捻り、すなわちハンドスプリングのように飛び跳ねながら的を絞るため半身に、そこからバク宙しながら壁に飛び跳ね壁走りへと移行する。


「人間の動きじゃな――」


「――そうだよ。これがアストラの世界だ」


 壁走りから路地裏の向こう側へと飛び出した。前宙の動きから世界が逆さまに映る。向こうも完走するとは思っていなかったのだろう。振り返りながら構え直すもそれでは遅い。拾い直した二丁のサブマシ、鳴り響き続ける俺のサブマシンガンが四名の背中を無慈悲に貫いたのだった。


「っ……シーナさんないすぅー!」


「イェア!上はやったよ!」


「レイ!!後ろ!!」


「見えてる見えてる」


 物陰に隠れながら、こちらに気が付いた遠方の敵をスナイパーライフルでヘッショ。魅せプレイで暴れたにも関わらず、思いのほか仲間の反応が薄い。流石はプロと言うべきか、浮き足を立たせず周りも良く見えている。極めつけは戦況の把握能力の高さだ。


「やっぱりな……他小隊が裏取りに行ってる。レイのイカれたキャラコンで俺達は防衛網の一部も突破出来た。このまま挟み撃ちにして荒らすだけ荒らすぞ……!」


「冷静だねぇ〜!おk、行くぞシン!!」


「おお〜!男の子の友情熱いです!早くも呼び捨てですよ!」


「後ろは引き続き僕が見ておく。三人は暴れておいで」


 シーナさんの言い方はなんか嫌だ。若干そういう熱のこもった瞳で言うのは本当にやめて欲しい。だが魅せプのおかげか不思議と士気が上がり、心なしかコイツらの接し方が変わった気がする。どのゲームでも実力を認めた場合は同じであり、こいつらにとって他所者だった俺は認められたという事だ。


「シン!!左から射線を流して炙り出す!!殺ってくれ!!」


「おk!!なんだ!!ちゃんとした銃撃戦のセオリーも知ってんのか!」


「当たり前だろ!!アストラ以前に俺はゲームオタクだよ!!」


 大声で喋りまくっているが最早関係ない。何故ならば俺達は既に敵フラッグが視認できるほど切り込んでいるから。怒号と銃声が絶えないため、存在を隠す意味も声を抑える意味もない。物陰から物陰へ、一瞬だけ露呈したプレイヤーの体を狙う激しい撃ち合いになるのだ。


「あっぶねぇ……!!」


「マザコンってやつ激ロー!!」

「レイ!そっち行きました!!」


「逃がすかよ……!!マザコン殺った!!プリン頭ロー!!いやミリミリミリミリミリミリミリ!!やってやってやって!!シン!!」


「あいつエイムも良いな……おk!!プリンやったやったやった!!」


 激ローとかミリとか言ってるけど、これは銃撃戦型のゲームにおいて報告である。どの敵にどれほど弾を当てたか、おおよその敵の残り体力を共有し、突っ込んで競り勝てるかどうかの判断材料にする。


 ちなみに激戦区に入るとそれはもうみんな必死なので、とにかく大声で連呼しまくるのが通例。死に物狂いで逐一変化の発生する戦場を頭に叩き込む。


「シンとレイ!!ケンが死にました!!横からも来てますよ!」


「ケェェェェェェェェン!!レイ!!デカキッドくれ!!」


「ほらよ!!ライフルの弾とグレネードを寄越せ!!」


「シーナ!!」


「イェア!!レイ!!」


 走り抜けながら障害物を飛び越え、互いに不足しているアイテムを投げ捨てながらトレードする。ちなみにデカキッドとはファーストエイドキッドの大容量版。回復量が多い貴重品だぞ☆


「シン!!ミスったら俺死ぬからな!!成功したら旗行け!!」


「何をする……っ!?」


 フラッグ前のビル、その四階から乱射している小隊がうざすぎるため強硬策に出る。兵法の基本、上は強い。なので引きずり落としてやる。とはいえバカ正直に階段から行けば蜂の巣だ。なので壁を走る。


「グレネードそぉぉぉぉぉぉい!!」


 弾丸の嵐の中、シーナから貰ったグレネードを窓枠に投げつけながら遮蔽物のない広間を走り抜ける。ミスったら無事蜂の巣で死、だが上手く行けば戦況がひっくり返る。苛烈なフラッグ周辺の撃ち合い、淀んだそこに新風を吹かせてやろうではないか。


「……当たれ!!」


「は!?」

「嘘だ――」


 窓に到着する寸前にライフルでグレネードを狙撃。恐らくは爆風で二人は殺れたはずだ。勢いのまま壁走りし、二階の窓枠から中へと飛び込むように転がる。何発か掠ったが上手くいって良かった。


「いた!!殺せ!!」

「一人で来ても人数有利は変わんねぇよ!!」


「じゃあ一人死んでくれ」


「え……」


 すかさず上階から降りてきた生き残り二名、そいつらが扉の外れた枠組みへと来た瞬間、床にあったナイフを投げつけてやった。良いね、そこらじゅうにアイテムが転がってて戦術の幅が広い。後はお前らの言うイカれたキャラコンとやらで壊れろ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァ!?」


「ふへぁ……!はははははははは!!」


「来るなぁァァァァァァァァァァ!!」


「どこ撃ってんだよ……!エイムの良さがアシュオン民の長所じゃないのかァァァ!!」


「がっ……っ!」


 弾避けしながら突っ込み、勢い余って階段から落ちそうになりました。なので交差する瞬間にラスト一人の首を掴み、曲がっては行けない方向へとねじ曲げながらストッパーになってもらった。


「よし、ん……?いいものもってんじゃぁん…!!」


 キルしたプレイヤーからは、拾っていたアイテムと武器が全てドロップする。最後の一人、こいつはアンチマテリアルライフルを泥してくれた。高威力な上に射程もある。代わりにリロードの長さと反動の大きさがデメリットだ。


「……よし、シンは約束通り行ってるな。なら……」


 上からアンチマテリアルライフルで狙撃一択である。一発撃ったら場所を変えなければ狙われやすくなるが、ここまでフラッグに寄ればシンにヘイトが向く。なので俺はひたすらその援護で射的ゲームだ。


「へいへいへいへいへい!雑魚ダウン雑魚ダウン!!あぶねぇぇぇぇぇぇ!!」


 油断してると弾丸が飛んでくるので要注意。だがおどける事が可能なくらいには優勢だ。特筆すべきこともなく俺たち(白チーム)の勝利。正直に感想を言うならば、思っていたより普通のFPS。刺激が足りない。


「お疲れー!!GG!!」

「ないすぅー!!」

「ないすないす!!」

「見てたぞシンチーム!!イカれたやついたよなぁ!どこ行った?」

「シンチームないすぅー!!」


 勝利後に運営の粋な計らいがあった。自陣の広間へと転送され、三分間は労いの言葉を浴びることができる。見事本丸を落とした俺達は断る暇もなく胴上げの刑だ。


「しゃあ!サーバー内の初勝利だろ!!」

「いたぞ!!レイってやついた!!」

「捕まえろ!!胴上げの刑だ!!」


「ひぇぇぇぇぇぇ!?」


「「「「変態!変態!変態!!」」」」


 最悪なコールに合わせて体が上下する。アシュオン民を分からせてこいと言われたが、普通に民度が良くてその気になれない。特に報酬もないし、チームから解散してロビーへと帰宅だ。


「……緊張感はあるけど、連続して潜る気にはなれないな」


「あれだけ上手けりゃ楽しいだろうに、なんでだよ?」


「あれ?シンさんじゃん」


「シンで良い。お前……プロゲーマーに興味はないか?」


 ないです。ゲームは趣味であり楽しむもの、それを仕事に昇華するのはもう嫌です。霊峰にいたゼロも社畜、リアルの俺も社畜、レイ君まで社畜になったらノイローゼになるわ。


「ないよ。ゲームは遊ぶものだからな」


「お前ほどの実力ならアシュオンでもすぐに上位に入れる。その気になったら一報くれよ。これ、俺の実名と番号だ」


「スカウトとはモテる男は辛……ええええええええ!?」


「びっくりしたァ……!?なんだよ急に!?」


 天音 心平。速報、シンさんコロネの兄貴だった。確かにプロゲーマーとか言ってたし、可能性としては同じ小隊になることはゼロではない。一戦の味見だけでアシュオンコラボは終わりにしようと思ったが、やはり気が変わった。


「奇遇だな。妹の横にいた男だよ、俺」


「……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「ぶっちゃけアシュオンコラボも普通のFPSだったし、ファンタジーライフに戻ろうかと思ったんだけどさ……スカウト権限があるほどなら一つ上層部に企画の進言をしてくれないか?」


「なんで妹をたぶらかすような奴の言うことを聞かないといけないんだよ……!!」


 コロネが関わるとこいつはIQが急に下がるな。だが俺に敵意があるのならば悪い提案ではないと思う。ユーザーの雰囲気からしても支持率は高いはず。互いのユーザーが意識している根源、アストラvsアシュオンを実現させた方がこのコラボは大いに盛り上がるはずなのだ。

『カード』


エーテルを消費する法撃の武器種。一枠で六枚のカードを使用可能であり、光剣による刺突、もしくは爆破を任意に選択できる。カードは設置から二秒後以降に設定したタイミングで発動が可能だ。


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― 新着の感想 ―
数奇な縁 まさかの再会 いいですね! シーナは…… レイの過剰反応かな? それとも……?
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