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七十一 開幕、コラボバトル


 カカシへと疾走した瞬間に雨のように弾丸が流れた。だがまだ距離があるためNPCの集弾性能もエイムもガバガバ。真っ直ぐ走り抜けながら障害物へと突っ込む。ちんたら飛び越えている暇は無い。速度を殺さないまま捻り気味に前宙して一気に行く。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「走りながら避けてる!?」

「いや……!あそこまで近付いてしまったらNPCでも当てに――」


 右側へと大きく斜めに切り込み、それをフェイクにNPCに誤射させる。斜めの進行方向へと身を捻りながら飛び跳ね、追いエイムを置きざりにしながら壁を蹴る。すぐ様に反対の岩陰へと走り抜け、機械が無駄撃ちを取りやめた瞬間、その油断の一瞬に側宙しながら射線へと飛び戻ってやった。


「っ……!」


 側宙しながら逆さまに映るゼロ距離のカカシ、隙だらけなので二丁のサブマシの引き金を引き絞った。二体、三体、四体。側宙から着地した右足を軸に、NPCの引き金を凝視する。前に蹴るか、横に飛び跳ね岩陰に隠れるか、俺が選ぶのは前者だ――


「っ……!!」


「スライディング……!?」

「嘘だろ!?アクション映画じゃねーんだぞ!!」

「あれがアストラ民かよ……バカにしてたけど、あんな動きで突っ込んで来られたら普通にトラウマだぞ……」


「ラストぉぉぉぉぉぉ!!」


 乱射された弾丸の射線、その真下をスライディングし、更に八艘飛びして突っ込んでやった。リロードしている暇はないのでショットガン。ゼロ距離でカカシの腸を吹き飛ばす。congratulations、チュートリアルクリアだ。


「……なぁ?アストラの民がなんだって?」


「っ……」

「て、敵の位置が分かってたらそういう曲芸も出来るって事だろ……?」

「確かに普通の戦場じゃ無理だな」

「ありがとよ!良い芸を見せて貰えたわ」


「……負け犬、シッポの隠し方はアシュオンでは教えてくれなかったのか」


「てめぇ……!!顔と名前覚えたからな!!」


「あぁ、戦場で見かけたらよろしく」


 スカッとした。だが対戦は煽りあうくらいが丁度いい。仲良しこよしではだめだ。本気でぶつかり合うからこそ、その先の勝ちに意味がある。なんて考えながら早々に退室していくアシュオン民を見送っていると、ふと残った一人の女性キャラが駆け寄って手を握ってきた。


「わーお!!私とても感動しました!!あなたはとてもゲームがお強いのですね!!いいじゃん!いいじゃん!かっこいい!」


「んん?なんだこの変な日本語は……ああ、翻訳か?えっと……どこの国の人ですか」


「私はアメリカよ!アシュオンはやり込んでいます!!ですがあなたのような動き!例えるなら……う〜ん…………あぁ!パルクール!そうパルクールよ!あんな動きは見たことがないです!それはとてもかっこいい!」


 頭がおかしくなりそうだ。多分向こうのノリではとてもフランクに話しかけているのだろう。コアレスには自動の翻訳機能があり、ごく稀に外国人と話すとこうなる事がある。多分観光で拙い英語を喋ってる日本人って、現地民からはこんな感じで聞こえてるんだろうな。


「ええっと……レベルに合わせたステータス、その身体能力に馴染めばあなたでも同じことが出来ますよ」


「それは本当ですか!あなたの名前と顔は覚えたわ。レイ!私は『シーナ』よ!仲間としても戦いたいし、敵としてもぜひ撃ち合いたいわ!」


「こ、こちらこそ……」


「ばーい!」


 嵐のような外国人女性に別れを告げ、俺も続いてチュートリアルから出た。ロビーには既に同じくチュートリアルを終えたプレイヤーがちらほら、恐らくはアシュオンコラボに参戦するほとんどのユーザーがここにいる。


(今すぐマッチングしても多分人が足りないな。対戦内容でも見とくか)


 対戦方式は全部で三つらしい。四人小隊が五〇組の二〇〇人が一チーム、これら二チームによる殲滅戦とフラッグ戦で二つ。残るは小隊×一〇〇組によるバトルロワイヤルだ。共通するのはどれもが四〇〇人参戦ということ。


 殲滅戦はリスポーン有りの設定で時間内のキルポイントを競い、フラッグ戦は全滅か旗の奪取が勝利条件だ。どうせやるなら死んだら終わりの緊張感あるフラッグ戦だろうか、バトロワも捨て難いがせっかくなら大人数で騒ぎたい。


「ぼちぼちみんなも帰ってきたな。行くか――」


『マッチングしています……規定人数に達しました。フィールドへ転送します』


 フィールドは荒廃した市街地、開けた広場の中央には俺の配属した白チームの旗が靡く。そして同時に旗からは白い光が天に向かって伸びており、遥か遠方にも同様に黒い光が見える。


「おお!レイ!またすぐに会えましたね!」


「本当だな。まさかシーナさんと同じ小隊とは……後は――」


「ちっ、アストラ民が一人混じってるのかよ。俺は『シン』、よろしくなぁ」

「僕はケン、よろしく」


 シーナ、シン、ケン、そして俺の四人小隊らしい。開始直後は広間からは出られず、作戦会議に当てられているようだった。フラッグ戦にこと置いて重要なのは攻めと守りの人数配分だ。それぞれの小隊が話しているが、どうやら俺達は血気が盛んらしい。


「「「「攻める」」」」


 全員がハモった。圧力もあったのかもしれないが、レイ君小隊の意見はすんなり通った事には別の意味もあったらしい。なんでも、プロゲーマーが三人もいるそうだ。そう、俺以外全員プロゲーマーとか肩身狭すぎワロタ状態である。


「シンさんとケンさんって日本のプロチームの方ですよね!?」

「いやいやいやいや!シーナさんだって有名な外国の……!」

「あっちの小隊にもプロの人がいる……!」

「えぇ!?何人のプロゲーマーが参戦してんだよ!?」


「……ぶっちゃけ何人くらい参戦してんすか?シンさん」


「日本だけでも一〇〇人以上、海外も入れるならその倍以上はいるだろうな。とりあえずアストラのレベルとやらに慣れたい。突っ込むが、死んでも良いから全員ついてこいよ」


「マカセロリ――」


 開幕と同時に取り払われたベールの境界線を勢いよく突っ切る。開幕と同時なら近くに敵はいないはずだ。敵チームのフラッグ、その目印となる黒い光を目指しながら市街地の路地裏を駆け抜けた。


「離れすぎないようそれぞれ漁るぞ!シーナとケンは言わなくても分かるよなぁ?」


「イェア」

「うん」


「そういや武器は現地調達だっけか」


 進行方向へ向かいながらも、廃れた窓枠から屋内へと飛び込む。確かにそこらじゅうに銃や弾が転がってた。武器スロは変わらずに三スロ、これは道中の巡り合わせによっては立ち回りが大きく変わりそうだ。


(アサルトとライフル……悪くは無い)


 ゆっくりと吟味したい気持ちもあるが流石はプロ集団。相当銃火器の扱いに長けているのか、ほとんど悩まずに皆が武器を手にしていく。選り好みをしないというレベルでは無い。何を手にしても扱えるという自信を感じさせるではないか。


(もたもたしてると置いてかれるねぇ……!いいよいいよ!このスピード感、最高に上がる)


 両チームが接敵の間合いに入る予兆、どこやかしこから足音が聞こえてくる。既に狙撃銃(スナ)系統の長物は射程圏内だろう。遠距離での撃ち合いにおいて、より遠くから撃ち抜く力がある方が勝つ。


「おいレイ、当てられる自信は――」


「あえ?何?」


「……は?」


 建物の窓枠から反対の窓枠へ、小隊が順次跨ぐように移動していたため三人目を撃ち抜いてやった。ファンタジーワールドではイレイザーのせいで不人気な銃だが、生憎と俺はエイム力も鍛えてある。むしろ今までこの技能を使う機会がなかったので嬉しいものだ。そして様子を見ていたシーナが。


「わお……今スコープすら覗いてなかったですね」


「スコープを見ると逆にエイムがガバるんだよなぁ……どうする?正面は避けて裏取りするのが良い気がするけど」


「それはとても良い案です。ですが……恐らく向こうも同じ考えを持ってると私は考えています。あえて提案するならば……力技の正面突破が効果的だと思うです」


「……シンさんもケンさんも同じ考えっぽいな。おk、野蛮に行こうか」


 アシュオン民は見るにかなり冷静で慎重だ。絶対に物陰からは体を出さず、常に周囲の足音や物音に神経を注ぐ。向こうも同じようにしているため絵面がかなり地味だ。レベルに慣れていないアシュオン民らしい丁寧な立ち回りである。


 だがここはアストラの世界。あちらの世界では弾避けは神業かもしれないが、脳筋の集うこちらでは常套手段。単騎突撃による戦場の掻き乱しなんてご挨拶だ。ほら、早くも猛々しい馬鹿が突っ込んできたぞ。


「アシュオン民は臆病だなぁ!!死――」


「――激しく同意だ。だが運が悪かったな。俺相手に突撃は蛮勇だ」


 死角からこちらの位置する路地裏へと壁を走り抜けてきたアストラ民へと、構えられた突撃銃(アサルト)へライフルをぶつけて銃口を強制的にずらす。明後日の方向へと乱射された弾丸がアスファルトを砕いた。


(悪く思うなよ)


「がっ……!!」


 そのまま側宙気味に捻りながらサマーソルトで顎を砕く。空中で回転しながらも左のアサルトを頭部へと向けてやった。いくらド派手に動くことに慣れたアストラ民も、蹴り上げられた空中ではかわすことも隠れることも出来ない。逝ってよし。


「うぁ……っ!」


「……やることが派手だな」

「シンさんも慣れたら出来ますよ」

「いや、そもそも銃を使ってるのになんで突っ込むんだよ……」

「相手が驚くから。戦場ではそれを隙と呼ぶ。現にみんなあいつの突撃に驚いて反応が遅れただろ?」


 どうやらようやくアストラで銃撃戦を行う意味に気が付いたらしい。だがそれは俺達アストラ民にとっても平等に、奴らが長年培ったエイム力や有利なポジションの嗅覚は到底敵わない。 


 始まったばかりのこのフラッグ戦において、アストラ民の意外性とアシュオン民の堅実性、それらがより上手く噛み合ったチームが勝利を収めることだろう。


『銃』


異界より持ち込まれた異端の武力。女神の加護を受けないこれらにはウェポンスキルが存在していない。だが近代兵器は攻撃が軒並み早く、そのデメリットを感じさせない。


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