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七〇 アシュオンコラボ


 アストラ十周年イベント『女神の涙と祝福』の集計日、最終日に猛者共がブーストをかけたこともあって世紀末だった。クラン抗争がクランを呼び、漁夫の利を狙うクランがまた参戦する。もはや世界大戦と化したアストラの世界は争いの耐えない凄惨な光景だった。


「こ、怖かった……」

「二度とこんなイベントしないで欲しいわ……」

「私はログインしなかった!」


「赤ネームを見た瞬間見境なく襲いかかってきたもんな……おかげで一〇〇位にも入れなかったわ……クソが」


 流石の俺も終盤の狂気ぶりには恐怖を感じた。配信を通じで俺達が初出土の☆七を持っているのも相まって、問答無用で館にまで攻め入ってくる始末。だがユーフィーの意外な性能に助けられたわけでもある。


『もうイベント終わったでしょー!帰れー!冥冥より訪れし深淵の怨念よ……っ!畏怖の念を抱きて後悔したまえー!きょえええええええ!』


 アホくさい詠唱だが、あれの後にユーフィーは形容しがたいナニかになる。端的に言うとそのナニかを見た奴らは状態異常『恐怖』を強制的に付与され、プレイヤーの思考とは関係なくその場から逃げ出すそうだ。


 というのも俺達はそのナニかを見せられていない。全て又聞きで知った情報である。そもそも状態異常『恐怖』が未知の最前線だし、俺達の装備以外にも館がある種の観光名所みたいになってて鬱。


「おー、ユーフィーおつかれさん。助かってるよ」


「は、はぁ!?べ、別にあんた達のためなんかじゃないんだからね!!私は私の領土を守ってるだけでって!!おい!!最後まで聞きなさいよ!!窓閉めようとす――」


 ツンデレ芸に付き合うと長いのでシカト一択である。コロネを筆頭に、NPCメイドのメイさんとこれまた未知の最前線である無害なマンドラゴラことカブちゃん。こいつらが完璧に管理する果樹園の恵みを頂くことにする。


「あっまぁ……」

「美味しいよねぇ〜」

「私にも頂戴〜」


「……なんか珍しくチルタイムね」


「流石にな。イベントのラッシュに脳がやられた。あと来客多すぎ……うちは動物園か何かかよ」


「いやだって普通にわけわかんないもの多すぎなのよ。カブちゃんもそうだし……ユーフィーとかもはやバグよ?気にするなって方が無理だわ」


 それはそう。なんか寄り道しながらアストラを楽しんでいたら、知らない間に未知を開拓しまくってる。意図してないのにこうなったんだから不思議なものだ。いや、景色を楽しむ余裕があったからこそこうなったのかもしれない。


「意外と血眼になって未知の最前線を探してるやつの方が損してたりな」


「ところでレイ、霊峰との交渉なんだけど一つ確認したいことがあるの」


「んえ?なに?」


「あなたやコロネ達に被害がかからないことを前提に、私が持ちうる情報を利用して交渉しても良いのよね?」


 なんだか凄く意味深な言い回し。意図して俺に隠している何かがありそう。とは言えここで妙に食い下がるとチョコの自信や思い切りがなくなってしまう。男らしく断言してやろう。


「おー、多少の労働くらいなら全然やるからなぁ。そこらへんの裁量は任せるよ」


「……言質とったわ。特殊テイムの探索員、その派遣先は霊峰だけじゃなく他も当たるように持っていくからね」


「……へ?」


「オークションよ。それぞれのクランに対価を示し、最も良い待遇を提示してきた所と手を結ぶ。やる気のない探索員じゃ意味が無いし、向こうにもそれなりにメリットがないと焚き付けられないでしょ?」


 なんかよく分からないけどこの子凄く頭良さそう。だが冷静に噛み砕いて考えると、うちのような生まれたてクランにそんな大それた価値なんて提示できるだろうか。それこそ霊峰クラスの貸一とかなら分かるが。


「……食いつくような餌あるか?」


「……………………」


「…………」


「多少の労働くらいならやるんでしょ?」


「……っ!?」


 コロネとオレンもいるため気を使ってくれたのだろう。だがコイツは身内を売りやがった。ゼロだ。絶対にゼロを出汁に多方面のクランへとオークションを持ちかける気だ。ふざけるな。やっていい事と悪い事の区別もつかないのか。


「待っ――」


「――あぁ、それとは別にお菓子のお礼(・・・・・・)も考えてるから。待っててね?」


「ア、エ、アァ……違っ!あれはほんのイタズラというか!ギャグと言いますかァァァァ!!」


「先に引き金を引いたのはそっちよ。ふふ……」


「なになに?チョコとレイの間で何かあったの?」

「チョコっち悪い顔してるぅ〜!」


 悲報、身内に悪魔がいた模様。だがゼロを出汁にしたところで本当に各クランを揺さぶる材料になるだろうか。悪いが武力で脅すような運用なら頷けない。一瞬そういう怪訝な顔をしたのだろう。チョコは呆れたように笑いながら首を横に振っただけだった。


「……本当に任せて大丈夫かな」


「一任してくれるんでしょ?」


「……たく、頼んだぞ?外交官チョコ殿」


「イエッサー」


 それはそうとして、俺はぼちぼちアシュオンコラボが始まるため向かわねばならない。アシュオンコラボでは運営の設定した専用のカジュアルマッチングを利用する必要があり、そのフィールドでは通常とは異なる仕様になる。


 最も特徴的なものは武器の制限。銃と弓、短剣を除く全ての武器が使用不可となっており、また持ち込みも不可となっている。防具もなし、マッチングした瞬間にダイブしたフィールドにて、全て自分で調達する必要があるそうだ。


「じゃあ俺はアシュオンコラボのチュートリアルを受けてくるよ。進捗があればスマホでもアストラでも、また教えてくれ」


「頑張ってね!レイ!!」

「行ってら〜!」

「ボコボコにして来なさいよ」


 アシュオンコラボの時刻と同時に専用ロビーへと転送した。見切り発車したというのに会場は早くもプレイヤーで溢れかえりそうだ。広い空間にも関わらず、四方に浮かぶ巨大なスクリーンの設けられた中央が酷く渋滞している。


『アストラユーザーのみんな〜!!こんにちは!!』


「「「「「「こんにちはァァァァァァ!!」」」」」」


『今日はアサルトシューティングガンオンラインとコラボだよ!!いつものアストラとは少し仕様が違うから、わたし!『メリーラ』ちゃんが説明します!でも、その前に!!こちら!!』


 アストラ公式のサポートキャラクター『メリーラ』、基本的にゲーム内では出てこないが、公式サイトのワンポイントにイラストとして出てくることが多い。地味に人気で、NPCのくせにユーザーのアイドルのような扱いを受けている。俺にもそんな時期がありました。


『アシュオンに生きるナメクジ共!!戦場が違えど突き詰めれば全て同じ道理だと知れ!!生きるか死ぬか、箸が違うからご飯を食べられないか?馴染みがなくとも戦える武器があるなら引き金を絞れ!!殺られる前に殺せ!!心意気は失っていないだろうな!!』


「「「「「「「「イエッサァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」」」」」」」」


 悲報、アシュオン民もバカ。多分あの鬼教官みたいなお姉さんが看板娘的なキャラクターなのだろう。あまりにノリがアストラ民と同じすぎてつい笑っちまったよ。


『ではでは!今から『フィルナ』教官と私で、特殊マッチングの仕様をご説明しま〜す!!準備の出来たプレイヤーから、手元の選択画面から選択をお願いします!!』


(チュートリアルの訓練所へ転送しますか?イエスっと――)


 溢れかえらんばかりいたはずのプレイヤーが一気に減った。硬い砂地のエリアに、屈めば身を隠せるサイズの岩が左右に歯抜け間隔に均一に並ぶ。再奥地にはカカシのような人形が五体ほど並んでおり、レールの上を左右に不規則に動いていた。


(十人……それぞれ適当にペアに分けられたのか?全員音声チュートリアルが聞こえてる感じなのかねぇ)


『まずは私!メリーラちゃんから説明するよ!!ここアストラル・モーメントの住民は、知性ある者には等しく星の加護が与えられるよ!!そうすると、普通よりも体が軽くなって動きやすくなるの!!』


 クッソメタい事を言うとレベルの事だ。ステータスが上がればそれだけ身体能力が上がる。今回で言えば全員がレベル四〇相当に該当し、助走を付ければ壁を蹴って二階のベランダに手が届くくらいの跳躍も可能だ。壁走りとかも。


『でも……異世界と繋がったこの空間では銃と剣、それから弓しか使えないよ。世界の法則が混じりあって……エーテルが霧散しちゃうんだ。だからここではイレイザーも使えない』


 エーテルが使えないのはまぁ分かる。盾は、盾はどうした。なんとか言ってみろよおら。どうせ盾も使えないだろうが。無理やりでも設定ねじ込んでこいよ。あ、別にアストラアンチではありません。


『貴様ら!!生き残りたくばすぐに身を隠せ!!そして敵は陰から引きずり出せ!!銃の戦いとは連携だ!!射線を常に意識し、敵を撃て!!』


 四〇相当のレベルシンク、エーテルを利用するものは使用不可、武器は弓と銃、そして剣のみ。百聞は一見にしかずとでも言いたいのか、チュートリアル会場のカカシが射撃を始めやがった。


「おっほ〜 ファンタジーな世界から一気に鉄臭くなったねぇ……」


「イレイザーだってさ。アストラ民のやつら甘えてんだな〜」

「なんかさ、アストラの言葉図鑑で見た感じだと遠距離攻撃全部防ぐらしいよ」

「まじ?それ没収されたらあいつら戦えないんじゃねwwwww」

「まぁ気持ちよく撃たせてもらおうぜ」


(ボロクソで草。とりあえず……あのカカシを壊すのがチュートリアルっぽいな)


 ここのチュートリアルグループはアストラ民が多分俺しかいなくて寂しい。ウインドウから好きな武器を三丁選ぶ。サブマシ二丁とショットガン。ライフルで狙撃しても良いが、好き勝手言われたのでド肝抜いてやるよ臆病者達が。


「おいww見ろよあれww」

「おい!!あんたアストラ民か!!射線から逃れろ!!エイムに自信ないなら岩に隠れながら少しずつ前に行けって!」

「おーおーww勇ましく真っ直ぐ走――」


 確かに俺達アストラの民はイレイザーという防壁と育ってきた。だがそれに甘えていては勝てない世界で生きてきたのも事実。お前らの世界にはないレベルという概念が、このコラボにおいてどう影響を受けるのか見晒すが良い。

『機人族』


鬼人族との差別化のためキャストと呼ばれる種族。外界より取り寄せられた未知の文明によって機械仕掛けの体を持つ。技量と耐久性が高く、射撃を得意とする。


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