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六十九 リアルエンカウント 三


 ザクザク食感が食べ応えあるプレーンビスケットとココアクッキーを織り交ぜたチョコがある。ほのかな苦味と脳にガツンと来るチョコレートの甘みの加減が絶妙で、今でも子供に大人気のお菓子だ。


「はい、五キロです。五キロをここまでお願いします。間違ってないです」


 チョコは甘いものが好きらしい。なので甘党でも致死量の数を送り付けておいた。あの子は苦学生でお金に苦労しているため、これは嫌がらせではなく善意である。冷蔵庫にパンパンに非常食が入るのだから俺ってば優しい。


「さて、旅行後のサプライズは準備OK。行くか」


 個数にして三〇〇強のチョコレートが届いた時、人はどんな顔をするのだろう。手渡ししない理由はそこにある。俺は捻くれた性格である事を自負している。もちろんこれが本命の誕プレではないし、『贈り物』として譲渡する事でありがた迷惑を中和する高等テクニックだ。


「おまたせお二人さん」


「今来たところだよ〜」

「なんかニヤニヤしてて気持ち悪いわね……」


「笑顔の絶えない賑やかな男ですよ、俺は。ほら二人の新幹線の切符な」


「ほ、本当に良いの?」

「チョコはおめでたい日なんだから良いと思うなぁ?私はちゃんと出すよ」


「かっこつけてんだから大人しく奢られてろ〜」


 ちなみに俺達はほぼ手ぶらで大阪へと向かおうとしてる。どうやら人数が集まっても騒げるよう準備しているらしく、賑やかな街から少し離れた場所に向かうらしい。駅に着いた後は案内してくれるらしいが、一体どこに集まるのだろうか。







 俺はゲームとリアルの区別はちゃんとついている人間だと自覚している。だからこそ画面やコアレスの向こうでしか見た事のない豪邸にアホ面になっていた。そりゃ霊峰のクランハウスに比べたら小さいよ、だからなんだよ金持ちかよふざけんな。


「みんな上がって〜」


「す、すごい豪邸ね……」

「すっごいオシャレなシャンデリア……」


「………………」


「驚いちゃうよねぇ?パパとママが将来田舎でのんびり暮らしたいとか言って買ったんだけどさ、買い物に不便とか言い出して今は私の仕事部屋なんだよ〜!寂しくて寂しくて…………」


 オレンはアホの子だが遺伝らしい。親も親で金銭感覚がイカれてやがる。お邪魔させてもらう立場が故にそれなりに買い物荷物を担いで来たが、それに勝る勢いでそれらしきダンボールの山が見える。


 買いすぎだろ、とオレンを呆れたように見ていたら見当違いなハニカミスマイルを返された。何泊させる気で招いたんだ。玄関からすぐの所は広く開けた空間となっており、シャンデリアの真下に備えられたテーブルとソファへとされるがままに誘導されることに。


「クソほど部屋余ってるから個室が良い人は好きに使ってね。あ、布団運ぶのはレイっちがしてくれるって言ってた」


「言ってねぇよ。やるけどさ……」


「オレンちゃん!?あの部屋に飾ってあるイラストって全部オレンちゃんが描いてるの!?」

「そだよ〜」

「見せて〜!」

「まっかせて〜」


 コロネとオレンが奥の部屋へと消えていった。適当にアストラの今後の方針でも振ろうとしたが、先にチョコが小さな声で問う。それは俺自身も気にかけているゼロの事だった。


「あの子達には言わないの?」


「言うタイミングがなぁ……コロネってゼロで顔を合わせる度に暗い顔になるんだけど、ゼロアンチみたいな話しを裏でしてたりする?」


「ないわよ……少なくともゼロの事も尊敬はしてるわ。でもそれ以上にレイに憧れてるわね。どっちもあんたなんだけどね」


「カミングアウトする事で今の関係が変わるのは嫌なんだよなぁ……」


「そりゃ驚きはされるわよ。私だって平静を装ってるけど……未だにあのゼロとレイが被って見えないし、本当に同一人物か疑うレベルなのよね」


 そりゃクランメンバーと潜るダンジョンならいざ知れず、オープンフィールドにいる時なんて暗殺が日常茶飯事だったからな。どこに行くにも殺意垂れ流しだった事は認めるし、反してレイは失う物がないから能天気なのも認める。


 問題なのは殺気丸出しシリアスゼロに対する印象のせいで、引き続きレイと気楽にゲームを楽しんでもらえるかどうかだ。明らかにゼロはコロネに嫌われてる、もしくは距離を取られている気がする。


「ま、いつまでも隠してるのも気が悪いしそのうち言うよ」


「可愛いでしょ、うちのコロネ。素直に接してくれるからあんたが少し臆病になるのも分かるわ」


「ありゃアストラじゃ絶滅危惧種だ。何があっても守り抜かねばならない」


「もしもあの子にまた何かあれば……〝天啓の導〟みたいにまたクランを壊滅させちゃうのかしら?」


「穏便に済むならそれがいい。てかコロネに限らずお前らに何かあれば戦争だろうがなんだろうが徹底抗戦してやるつもりだ。俺のやりたいアストラの形を一緒に笑ってくれる貴重で大切な奴なんだから」


「っ……淡白なのか人情に熱いのかはっきりしてよ。心臓に悪いわよ……」


「?」


 ごく当たり前の事を言ったつもりなんだが、何故か席を外してコロネ達の方へと姿を消してしまった。怒っているようにも聞こえたし、もしかしたら俺は無意識に人を不快にさせているのかもしれない。


(とは言え多分悪口とかを言ったわけじゃないしな〜)


 と強がりながらも帰ってきたチョコは普段と変わらず、まじで意味不明なまま食事フェーズへと移った。時刻は昼前、ひとまずはせっかくの大阪という事で観光に洒落込むとする。


 道中はアストラやその他の雑談で暇を潰すことになるが話題に困ることは無い。何せオレンを除く三名は旅行なのだ。旅先の目的地にあれよあれよと妄想と期待を膨らませ、突発的に水族館に行く流れとなった。


「うわぁ〜!!見て見て!サメさん〜」


「有名だもんな。アストラのサイズ感のせいでジンベイザメが小さく見えるのは俺だけ?」


 一同が激しく首を縦に振る。それはそう。こちとらリヴァイアとかアセルカイアとか、ファンタジーな生き物に見慣れてしまっているのだ。今さらこの程度のサイズ感に驚きはしない。


 その他にもクラゲや熱帯魚、ふれあいコーナーのナマコやヒトデ、食事コーナーではアイスやコーヒーを楽しみ、俺達のスマホフォルダが圧迫していく。なんてことは無いプライベートな日常に変化があったのは食べ歩きに行こうと水族館を出た時の事だ。


「楽しかった〜 クラゲさん可愛かったね」

「むしろきゃっきゃっしてるココロの方が可愛かったわよ」

「分かる〜!ほら、イルカ見るためにガラスにほっぺくっつけてるコロッち〜」

「撮ってたの!?は、恥ずかしい……」


「ココロ!?」


「ふぇ?」


 コロネには愛嬌を振りまいていたイルカだが、俺には顔面の前でクソしていきやがったいけ好かないやつである。そんな事よりコロネの知人らしき男性だが、どうやら彼女の兄のようだ。


「お兄ちゃん!?なんで大阪に!?」


「それはこっちのセリフだよ!?あ、えっと……ココロの兄です。天音 心平(しんぺい)と言います。お友達の皆さ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「あいえええええええええええ!?」


 ご乱心なのか、シンペイさんが突然俺の胸ぐらを掴みやがった。驚きに一秒、アストラで身に付いた条件反射への移行に一秒、気が付いたら掴む腕を捻って肘打ち寸前まで体が動いてしまった。危うく傷害罪である。


「いででででででででで!!初対面に何するんだこの野蛮人がぁぁ!!」


「それはすいませえええええん!?でもでっかいブーメラァァァァァァン!?」


「そ!そうだよ!先にお兄ちゃんが手を出したんだから……!」


「だって愛しのココロに男がァァァァァァァァァァァ!!脳みそが破壊されるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」


「ち、ちが……!恥ずかしいから落ち着いて!!」


 盛大に早とちりしたらしい。シンペイさんが妹に近づく男絶対コ〇スマンである事は分かった。ひとまず誤解は解けたようだが、明らかに俺に対しての敵意が下がっていない。ベンチに座ったところでシンペイさんが。


「なるほどな……オフ会か。けど安易にネットの友達と会っちゃダメだろ!ココロは可愛いんだから変な奴に襲われたらどうするんだ!?お兄ちゃんを前科持ちにさせたいのか!?」


(殺害か傷害させるのは否定しないのか……)


「ちゃ、ちゃんと人は選ぶよ!もう子供じゃないんだからほっといて!!」


「琥珀とか言ったなァァァ!?ココロをどうたぶらかしたァァァァァァァァァ!!この子は純粋でとても良い子なんだよ!!カスみたいなやつは会う資格すらない――」


「落ち着いて下さい……俺だってそこまで見境なく手を出しませんよ。それに……親友のチヨもいるし――」


「――ココロだけじゃなくチヨちゃんにまで手を出したのかァァァァァァァァァァ!!!!」


 何この人、全然話し聞いてくれない。すっごい大声で全部遮ってくるし、ついに見かねたコロネが丸めたパンフレットで頭を一閃。ムーブアシストを解除した綺麗なスラストだ。


「しばくよ?」


「もうしばいてる……」


「それで?お兄ちゃんは近況はどうなの?プロゲーマーになるって家飛び出したきり連絡ないでしょ?」


「……夢は叶えた。今はアシュオンのプロチームに所属してる」


 確かに以前にコロネとそういう話しをした気がする。それが本当ならば大したものだ。プロゲーマーなんてなりたくてもなれる職業ではない。故に嘘偽りなく賞賛の言葉を送ったつもりだ。


「凄いっすね。しかもアシュオンなんて倍率やばいでしょうに」


「そんなことない。近々別ゲーにコラボがあってな……そこで結果を出さないと解約だ。プロの世界は予想以上に厳しい」


「奇遇ですね。俺達三人はアストラの民ですよ。そして、俺はアシュオンコラボに参加するつもりです」


 良い対戦をしましょう。そう伝えるつもりが何故か殺意を返されてしまった。恐らくはコロネと親しい事にまだ怒りを覚えているのだろう。立ち上がったシンペイさんがガンを飛ばしながら告げる。


「マッチングした時はよろしくなぁ……?琥珀 零真クン……」


「ア、ハイ」


 確実にプロゲーマーとしてのプライドとかじゃない。妹ラブな兄貴の私怨しかない。だが怒りはプレイングに悪影響を及ぼすのだ。そのまま頭に血が昇ったまま来ると良い。返り討ちにしてやろう。

『技量』


プレイヤーステータスの一つ。銃や法撃の命中率に補正を与え、狙った場所への攻撃精度が上がる。また、ウェポンスキル等の硬直を僅かに短くする。


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