六十八 ロマン砲ラッシュ
オレンのパリィの後、下がっていた俺は忙しなく再び横を通り抜けながら笑いかけてやった。オレンは驚いたような顔をしていたが、すぐ様に俺の意図を汲み取ったのか、ニッと笑い背骨を軸に身体を捻る。
「バックステップからの叩きつけだろ!!見え見えなんだよハリネズミ!!」
斧のウェポンスキル『デストロイアッパー』。助走が必要だが流れるように斧と身体を三回転ほど振り回し、かち上げるように振り抜く単発重攻撃。かなり威力が高い代わりに予備動作が大きく、ムーブアシスト解除もエネルギー補完が難しいスキルでもある。
「さすがレイッち〜!!いっくよ〜!!」
助走猫パンチを弾いた後はオレンが続く。大剣スキル『ブラストアース』、地面ごと抉るように切り上げる技だ。刀身はもちろん、弾いた瓦礫もつぶてとなってダメージ判定になる。何気に怯んで頭が揺れているのに狙いが良い。きっちりと弱点の頭に当ててやがる。
オレンのパリィに合わせて俺が突っ込み、追加で怯みが取れればオレンも突っ込む。高難易度なダンジョン型ユニークでは必須となるツインタンクだ。実の事を言うとここまでは期待していなかった。オレンがミスったらフォローするくらいの予定だったんだが。
「ちょ……!?お前上手くねぇ!?」
「今まではミスったら私のせいでパーティーが全滅しちゃうって思ってた……!!でもレイっちがいるなら思い切って弾きに行ける!!めっちゃ楽しい!!レイっち〜!!タンク楽しい!!」
モンスターのヘイトを買うには、アストラではダメージ量はさほど重要では無い。簡単に言うとイラつかせる事がそれに該当する。弾かれる、意図しない怯み、弱点への強撃、後は仲間を回復したプレイヤーなんかもヘイトが向きやすい。
つまりは前衛二枚のタンクがミスなく交互に弾けば永久機関が完成する。後衛の大技でヘイトが向いた場合は立ち回りを変化させる必要があるが、ほぼ初タッグで理想的な立ち回りが完成していた。完成してしまった。
「ちょ……っ!オレンそれ行けんのか!?」
「ミスったらよろっち!」
「丸投げかよ!!」
だがどこか新鮮で悪くは無い気分だ。俺がいることでオレンのプレイングにキレが出るのならば、共に目指すゲームクリアと楽しさの追求に一役でも二役でも買って出よう。遠慮と敬遠をされない期待のされ方は想像以上に気持ちが良い。
『ゼ、ゼロさんとツインタンクなんて恐れ多いです……っ!無理ですよ!?』
『タナユキと言います!ゼロさん……正直舐めてました。ですが勝つためにリーダーの指示通り前は任せます』
「やっば……っ!ミスっちゃ――」
「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁ!!」
パリィをミスったオレンへと伸びる追撃、それを俺が弾く。ぼちぼち死神の悪戯も切れる頃だ。一気にスタミナを使い果たして猛攻をしかけ、ツインタンクの最大のメリットである連携を使う。
「オレン!!下がってスタミナ回復してろ!!」
「了解!!」
嘲笑の曲針と鉄剣の二丁スタイルで切り刻む。避ける暇があれば片手剣で弾き返し、短剣で状態異常狙いだ。だがそうそう引ける確率でもなく、ハナクソダメージを与えて合図を出そうとした時だった。
「レイっちスイッチ!!」
「ナイスゥ!!」
スタミナを回復するためにやりたい事を察してくれていた。カバーに入れるよう警戒しながら足を止める。コロネ以外にもちょくちょく英才教育をしていたとは言え、パーティー連携の練度が霊峰クラスでビビってる。
「もう時期第二フェーズだ!!怒りの咆哮が来るけど任せてくれ!!」
「おっけ〜!!スイッチ!!」
「そぉぉぉぉぉぉぉい!!」
怒り状態への移行に合わせ、咆哮を封殺するため蓄積させていたスタンを狙う。二刀スタイルから再びハンマーへ、レベル四〇のステータスによる高い跳躍と共に『グラビティパージ』を頭部へと叩き込んでやった。
「畳み掛けるぞ!!」
氷虎のスタンにパーティーの殺意が上がる。隙の大きい上級爆裂法擊やウェポンスキル、とにかく火力のある大技を次々とぶち込んでいくわけだ。こうなれば怒り移行を指標に瀕死ラインまで狙えるだろう。
「起き上がっ………………マジィ?」
「麻痺った!?レイ狙ったの!?」
「いやいやいやいやいやいやいや!?まぐれまぐれ!?」
スタンから復帰後、奇跡的に曲針効果で麻痺を引いた。出来すぎだ。ないものねだりしても意味は無いが、星七武器を三名も持っているため畳み掛けたかった。デンジャースキル『不屈の怨恨』、恐らく二人は持っておらず、俺とチョコだけでは足りな――
「レイ、あんた私達のことぶっちゃけ見くびってたでしょ?もう一つ一発芸を見せてあげるわ!!」
チョコの発言を背中から受け取りながら、両サイドをコロネとオレンが駆け抜けていく。デンジャースキルの名前を紡ぎ、純粋な殺意を纏いながら。
「「『不屈の怨恨!!』」」
「は?え!?ナンデナンデ!?いつの間に!?」
「あんたがレベリングしてる間に取らせたのよ。どいて!!轢き殺すわよ!!」
「嘘だろ……!!フォルティスみたいな事やるなよォぉぉぉぉぉぉ!!」
死ぬ気で横っ飛びした。チョコの持つ水霊の先剣が時限解放しており、固有スキル『フォルテ』が放たれたためだ。恐らくリヴァイア戦の時はフルチャージじゃなかったのだろう。残像が見えるほど加速したチョコがド派手な十文字エフェクトを刻み込みやがった。
飾り気のないシンプルな突きが故に、大技の後の余韻が凄まじい。だが息をつく暇もなくオレンやコロネも続く。指示厨になる必要もなく、言葉もなく、全員が俺の望んだパーティーの戦い方を実現させやがった。
「ディキャパティエッジ!!」
「タイダルウェーブ!!」
「うぉぉぉん……!この後に続くの恥ずかしすぎるぅぅぅ……『星屑の黎明』……っ『ぶらすとくらぁぁっしゅ』……」
「テンション低くて草」
チョコに笑われながらも無事討伐完了。そりゃあんだけみんな派手な大技叩き込んでるのに、俺だけ地味なエフェクトのウェポンスキルなんだからそうなる。特にコロネの固有スキルがイケメンすぎて羨ましい。
「やったぁぁぁぁぁぁ!!レイ!!見て!!私が総合ダメージ一番!!やった!やった!!」
「コロネさんあなた普通に猛者なんだよ……手ほどきしてた頃が懐かしい」
「実はそろそろレイにリベンジしたいと思ってた!やらない?」
「落ち着いた頃にやるか。今は忙しいからまた今度な」
「やった」
それにしても驚いてばかりだ。オレンのパリィに恐れない精神も、経験もあるだろうがチョコの冷静さと状況判断能力も、特にコロネの成長速度には嫉妬すら覚える。ぶっつけ本番の連携に当たり前のように合わせてくるあたり、彼女の観察眼は恐ろしい才覚だ。
(……十本指にすりゃねじ込めるかもな。なんて、それは言い過ぎか)
「うわぁ〜 凄いたくさん経験値くれるんだね」
「初クリア時は太っ腹にくれるんだ。それでも二レベしか上がんねぇ……六〇から七〇まで上げるのにどれだけ必要なのか、考えただけで恐ろしい」
チョコが。
「一から六〇まで上げるのに必要な量とほぼ同じよ。むしろ少し多い」
「あいえええええええええ!?街中でもあまりカンスト見ねぇなぁと思ったらそゆこと!?運営がついに頭おかしくなっちまったぁぁぁぁぁぁ!!」
「頭おかしいのは前からだけど……レベルキャップ解放時の大型アップデートの一文はトレンド入りしたわね。『これからも末永くアストラル・モーメントをお願いします』って、意味が変わって聞こえない?」
「あいつらユーザーの反応見てニヤニヤしてるだろ……」
とは言え大好きなゲームにおいてコンテンツ不足を感じさせない点は神。多くのゲームは延命処置として小出しにアプデを挟むが、アストラは一撃で卒倒するレベルのコンテンツをねじ込んできやがる。追いついたと思ったらまた気が遠くなるような道を用意してくれる訳だ。
「さて……ひとまず次は五〇までレベルを上げないとストーリー進行が解禁しないし、女神の涙と祝福のポイントを盛りつつアシュオンコラボに備えるかなぁ」
「私は交渉に向けて情報の整理をす――」
「チョコ!!ねぇ!みんなも聞いてほしいの」
珍しくコロネが会話をぶった斬るもんだからみんな驚いていた。有無を言わさずチョコの手を引いて俺達の前へと突き出す。なんだ、何事だと言うのだ。チョコ本人ですら理解が追いついてない顔してやがる。
「明後日はチョコの誕生日なの!みんなで誕生日パーティーしようよ!アストラでもリアルでもどっちでも良いから」
「ほ、本気?もう人から祝ってもらえる歳でもないわよ」
「お祝いに年齢なんて関係ないよ。良いでしょ?レイとオレンちゃんも!」
「良いね〜!!せっかくならまたオフ会やろうよ〜!神奈川観光もしたーい!!」
ダンジョンの中とは言え俺達の在住地を言うなバカみかん。だが仮に誕生日オフ会をするにしても、またオレンをこちらにまで来させるのは少し申し訳ない。
「チョコとコロネの移動費は俺が持つからさ、今度はオレンのいる大阪にしないか?」
「みんながいるなら場所なんて問題じゃないね〜!!まっかせて!!案内するよ!」
「食べ歩きもしたいー!」
「ちょ、ちょっと!?本気でやる気?それに移動費だって悪いし……は、恥ずかしいけど実費で行けるほど余裕も……」
「HAHAHA、学生は社会人に甘えていれば良いのだ」
ということでこれよりクランメンバーの生誕祭をリアルで行う。明後日と急な日程だがそれがどうした。こちとら無敵のニートであり時間は腐るほどある。内密にコロネからチョコの好物をリサーチし、食いきれないほど譲渡してやろう。
『マウントテイム』
アストラル・モーメントの世界ではエネミーと特殊な契約を結び、広大な大地の移動を快適にできる。中にはテイムしたエネミーによっては、世界の新たな発見に繋がる事もある。
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