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六十三 開戦、レイドバトル


 スタートラインを割った瞬間に勝利の拳を突き上げる。だが海岸である以上この先は浅い。故に俺達は船底と接触して吹き飛ばされた。海面、というより最早海底に叩きつけられながら転がり、びしょびしょになる羽目に。


「いってぇ……!ユキナァ!!俺の勝ちだぁ!!」


「痛っ……僅差で負けてしまいましたね。運転技術も然り、仲間方との連携も大変お見事でした」


「そっちもな。gg、グッドゲームだった」


「良い試合でした」


 びしょ濡れのまま互いを認め合うように握手を交わす。星浄の面々からは拍手が。ではもう一度ボートにまたがり仲間の回収へと行こうか。口にせずともユキナも同様の行動を起こそうとしていたはずだった。あれが視界に入るまでは――


「あの背ビレは……」


「まずいですね。海乱竜リヴァイアです……!!仲間の回収に向かいます!!皆もマウントして救助へ!!来てください……リーシア!!」


「ふざけんな!!チョココロネコンビは苦労した武器持ってんだ……!!」


 ユキナは氷霊狼(ひょうれいろう)リーシアと呼ばれる水陸両用の狼へと跨り滑走した。奴は肉球に水があたると浮く性質を持つ。その様はさながら水の上で走っているように見える。それにしてもマウントしてるユキナは新鮮だ。


 かく言う俺は水上エネミーを持っていないのでボート。圧倒的な速度差に置いてけぼり不可避。だがないよりはマシだ。一番近くのコロネを拾い上げて更にリヴァイアへと接近する他にない。


「チョコ!!死ぬ気でこっちまで泳げ!!すぐそこまでリヴァイアが来てる!!」


「はぁ…っ!ゲホッ!!ゲホッ!!」


 思わず耳を塞ぎたくなるような咆哮と水飛沫が跳ね上がる。蛇のように四肢のないドラゴン、鱗は鋭く鋼のように硬く、逆撫でしようものなら容赦なく手が切り裂かれるだろう。リヴァイア特有の水色の体、上体を起こしたが故にその全貌が顕になった。


 突発的に体積のある奴が動いたことで一帯が流れるプール状態へ。高波を斜めに切り裂きながらチョコへと近づくが、リヴァイアが顔を天に向けながら口を大きく開く。水色の球体が精製される様に俺が大きく吠えた。続けてユキナも。


「お前ら!!潜れ!!ブレスが来るぞ!!」


「空に飛べる人は高度を上げてください!!」


 瞬き、それほどまでの一瞬のうちに水球が扇状に光線を振りまいた。俺とコロネも間一髪ボートから飛び降り水中へ逃げたが、遅れて尋常ではない衝撃に平衡感覚を失う。まるで洗濯機の中にいるかのようだ。


(空上マウントがないとまともに戦えない……っ!)


 輪郭の揺れる水の中から上空を確認しながら顔を出す。偶然ながらにチョコも近くに流れ着いたようであり、その表情から同じ気持ちなんだと察する。だが状況が一変する一声が。


「〝星浄の騎士〟、クランリーダーである私が命じます!!これより星浄は、〝非効率の館〟と結託して海乱竜リヴァイアを――」


「うおぉぉ!?」


 星浄の隊員の一人が俺を空に攫った。巨大なワシ型のエネミーの鉤爪に首根っこを捕まれ、一気に高度が上がっていく。どうやらあのボート競走を経て俺達は星浄から甘い蜜を貰えるらしい。


「――討伐します!!よろしいですね!!レイさん!!」


「願ってもない……っ!!お前らァァァァァァ!!アストラ名物の始まりだ!!目的のために口約束なく無制限に集う……っ!大型レイドの開幕だぁぁぁぁ!!」


 ワシの爪から解放されながら、プテラノドンのような空上マウントの背中へと着陸する。そこにはオレンも回収されており、周りを見ると俺達や〝星浄の騎士〟以外にも大勢の野良が参戦し始めていた。


「行くぞオレン。ある程度ダメージを与えないとドロップ報酬の抽選に混ざれないからな」


「うっひゃ〜!?すっごい人数だね〜!!でも私達の火力でボーダーラインまでダメージ入れれる?」


「そのために俺達はあのスキルを取ったんだ。ナーフされても普通に殴るよりかは遥かに火力が出る」


 デンジャースキル『道化師の戯言』。メソリタルバースと同様に、これと切断属性の多段ヒットを利用する。問題はタイミングだ。いくら巨体とは言えど奴の体は大半が海中、体を大きく伸ばしたタイミングで行かねばダメージ効率が期待出来ない。


「悪い星浄の人、タイミングを言うからその時にアイツの頭上付近まで高度を上げてくれないか」


「おっけい。やるんだろ?メソリタルバースの動画みたいに」


「察しが良いな。俺達は貧弱なんでな……意地でも報酬抽選に滑り込みたいんだぁ……!」


 海上ではコロネとチョコもユキナに拾われたらしく、ヘイトを取った剣聖様とのポジションとリヴァイアの予備動作に名案が浮かんだ。届くかは不明だが思いっきりアドバイスを叫ぶ。使えるものは徹底的に使うべきだろう。


「ユキナァァァァァァァァァァァ!!!縦ブレスが来たらチョコの後ろに入れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


「……チョコっち達に聞こえたかな?今の〜」


「チョコとユキナがなんか話してる風だし、伝わったんじゃないか?」


 楽観的にそう考えていると案の定リヴァイアが再びブレスを放つ。今度は薙ぎ払うパターンではなく、直線上に放つ高威力型。竜のこういった攻撃はほとんどが魔力扱いであり、遠距離攻撃ならばむしろその威力を利用する手札がこちらにはある。


「おっほほほほ〜 」


「チョコっちかっこいい〜!!」


「あれが噂の新武器か……深紅の鏡杖、その固有スキル……『魔翔鏡天』」


 そう、ぶっ壊れ固有ウェポンスキル『魔翔鏡天』。イレイザーが一定時間反射機能を得る化け物性能。やはり俺の見立て通りリヴァイアのブレスを反射していた。だが見るに一撃でチョコの魔力が持っていかれたのか、イレイザーが消失しているのが見て取れた。


 そしてブレス反射を合図に俺達含め、この戦闘に参加する全てのプレイヤーの士気が上がるのを感じた。それはそう。ほぼ百人近いプレイヤーが言葉もなしに一致団結し、時には助け合いながら共通の敵を討とうとしているのだから。


「オレン!!俺達も行くぞ!!星浄の人頼む……っ!!高度を上げてくれ!!」


「あいよ!!」


 マウントテイムの手網を握りしめ、大技のため上体を垂直に起こすリヴァイアの顔と並走する。奴の縦に開いた瞳孔と金色の瞳と睨み合い、オレンへと目配せした後に空上マウントの背中を蹴った――


「「『道化師の戯言』!!」」


 デンジャースキル発動と同時に俺は曲針を、オレンも同様に短剣を逆手持ちへと切り替えた。はるか高度から重力のみを使った神風特攻隊と化した俺達は、奴の鱗へと短剣を突き刺し一気に降下する。


 レベル差も相まってクソ硬いが関係ない。弾かれるようなエフェクトから次第に手応えが変わっていく。コンボ数の二乗、デンジャースキルによるダメージ変動が手応えとして伝わるためだ。


「レイっち……!!これ楽しいけど私ら死なない!?」


「大丈夫大丈夫……っ!!何故かこのゲームはリアルを追求してるくせに水の上は落下ダメがないんだ!!そんな事より一時離脱だァァァァァ!!リヴァイアが動くぞぉぉぉぉ!!!!」


「いぃぃぃぃぃぃ!?きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!???」


 怯むようなモーションから一転、鞭打つように体をうねらせたリヴァイアに俺達は弾き飛ばされた。オレンとは別のところへと吹き飛んでしまったが、俺は奇跡的に魔力切れであろうチョコの近くへと。


「ぶはぁぁぁ!?落下ダメがないとわかっててもこえーよ!!」


「あんたはやることがいちいち派手ね……」


「いんや?俺なんかよりよっぽど目立ちたがり屋がいるみたいだぜ?ほら」


 指さす先には氷霊狼リーシアにニケツしたユキナとコロネがいる。隠す気もなく二人とも手にしているのは星七の執剣とエターナルカイザー。恐らくは敵の特殊攻撃に合わせて、ユキナ達はリヴァイアの特殊部位破壊(・・・・・・)を狙うつもりだろう。巨体の周りを旋回しながら両者共に法撃を放ち、こまめに武器を入れ替えながら明らかに何かを待っている事が伺えた。


「危なっ……っ!!」


「お、雑魚狩りサンキューチョコ」


「ついでにレベルが上がったわ。魔力も全快したし、私達も前線に行くわよ」


「おん、でも俺ら海上マウントないよ?」


「来てるわよ、みんなね……っ!!」


「「俺達も続くぞ!!乗れお前ら!!」」


 〝星浄の騎士〟らにまたもや相乗りだ。水上を走り抜けながらも、リヴァイアとの交戦音に引き寄せられた雑魚エネミーを殲滅していく。どうやら星浄は本当に俺達も報酬抽選に混ぜるつもりらしい。そして距離が詰まるにつれてユキナとコロネの声が届いたのだった。


「次の特殊攻撃に合わせて行きます!!」

「は、はい!!」


 ここよりリヴァイアは周囲へとランダムに対象を海中から攻撃してくる。長い尻尾を叩き上げるようにして、プレイヤーへダメージを与えながらも空へと誘うのだ。


 その攻撃には激しい水柱が立つ。そしてユキナのマウントである氷霊狼だからこそ、その技は一時的に空へと伸びる階段へと変貌を遂げる――


「す、すご……っ!ユキナさん!!水の柱を垂直に登って……っ!」


「舌を噛みますよ……!!行きます!!」


 水柱を利用してリヴァイアの眼前まで駆け上がったユキナが長剣を握る。金色に輝くエフェクトと共に綴られるはエターナルカイザーの固有スキル。そしてコロネも特有の溜めモーションへと移行しているではないか。


(コロネの事だから素直に固有スキルをバラしたんだろうなぁ……)


「エクス……っ!カリバァァ!!」


 リヴァイアの右目へと高威力の技が入る。リヴァイアの特殊部位破壊とは、竜の弱点である瞳への連続したダメージだ。元より硬い竜、効率的に削るならば特殊部位破壊による弱点露出は必須。一時的に瞳へと()を作り出し、時間にして三秒以内に指定された火力をもう一度ぶち込むことで達成するのだ。


「ディキャパティエッジ!!」


 氷霊狼リーシアから飛び降りながらコロネが消える。目にも止まらぬ速さでリヴァイアの向こうへと駆け抜けたコロネと共に、少し遅れて連撃が瞳へと走り抜けた。轟く竜の悲鳴とのたうち回る巨体。一時的にダウン状態へと入ったリヴァイアへと全員が剣を向けた。


「待って……!レイ!!『水霊の先剣』がなんか……!」


「雑魚エネミー倒してたら条件満たしたか。解放したな?ラストアタック取ってこい!!チョコ!!」


 俺とオレン、そしてコロネは恐らく抽選射程圏内。だがどうせなら欲張るべきだ。隊員のチョコにもダメージ貢献してもらい、クランメンバー全員で高倍率な報酬抽選へと洒落こみたいに決まっているのだから。

『バザー』


プレイヤー同士でアイテムとゲーム内通貨をトレード出来る機能のこと。レアリティは☆六までと制約はあるが、あなたにとって必要のないものが他者には必須かもしれない。積極的に活用する事で思いがけない巡り合わせに出会えるかも。


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