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六十一 交流会バーベキュー


 これよりストーリー進行のため海を超える必要がある。そのためコロネ、チョコ、オレンを集めて館にて会議を行っていた。会議とは言っても友達の家でダラダラしているような空気感なので、全然堅苦しいものではない。


「海を超えるため今日は二匹目のマウントを取りに行く。二匹目のペットのために課金できる人」


「はい!!はいっ!!!!はいっっっ!!!!!!!!!」


「私も出来るよ〜」


「言わなくても分かると思うけど……私は財布が…………」


 明らかに威勢の良いコロネだが、実は影で二匹目以降のテイムは待ってくれと釘を刺しておいた。なんならペット探しの冒険についてきてくれと頼まれたことがあるのだ。


 ある程度は好きにやらせてあげたいが無理に課金はさせたくないし、この子の場合は一度メロると暴走してテイムリンクを買いまくりそう。なので首輪をつけておいたというわけだ。


「最低二匹いればどうにかなるが、せっかくなら三人とも取るか?」


「待ってました!!私ずっと二匹目の子捕まえたかったんだよね〜!!」


「ちょうど良いわね。もう夏だし、せっかくなら海水浴でもする?ゲームの中でだけど」


「チョコっちそれまじ名案!」


 それも悪くない。全員が言わずともバザーを開き、好みの水着を物色し始めた。俺は適当に選んだが女性陣は長そうなため、その他の遊び道具を物色していようか。シュノーケルやスイカ、棍棒は麦穂で良いや。後は浮き輪とか海上ボートも奮発しようかな。


「バナナボート乗りたい人!!」


「「「はい!!」」」


「はーい買いまーす」


「クラン資金として私達にも請求して良いわよ?」


「ちょくちょく金策もしてたしでーじょーぶでーじょーぶ。じゃあ準備できたら教えてくれ〜 何ヶ所か海岸を考えてるから」


 岩封の麦穂のある海岸はロケーションが良いが人爆だし、忘れ去られた海底にアクセスした海岸は逆にもの寂しい。一発目に行くならばサンゴ礁が美しいあそこが良いかもしれない。


 ただ稀に危険なエネミーがポップする場所でもあるため、ロケーションの良い人気海水浴場のくせにレベルの高いプレイヤーしかいないのが少し怖い。少し顔を覗かせて、雰囲気次第では移動ということにするのが良いだろう。


「一発目は『夜鳴き海岸』はどうだ?」


「え……正気?」


 チョコ以外は特に気にしてないあたり、この子はやはりそれなりにアストラに精通している。本来ストーリー進行上では立ち寄らない場所だが、恐らくは夜鳴き海岸で遊ぶリスクを知っているようだ。


「大丈夫だって!早々竜なんか出てこないから〜」


「あんたそれフラグよ……海乱竜リヴァイアが出たらどうする気よ。一応イベント中なの忘れてないわよね?」


「大丈夫だろ。それこそ竜が出たら野良なんてみんな結託するだろうし、見に行ってやばけりゃ場所を変えれば良い」


 そう、チョコの言う海乱竜リヴァイアとやらが危険生物だ。行動範囲が水中のみのため、陸に上がれば襲われにくいサメのような扱いを受けてる哀れな竜であり、それと同時に異常なまでの獰猛さに恐れられている生き物でもある。


 何せ奴は泳ぐのに音がしない。開戦の多くはプレイヤーの悲鳴か、激しい捕食行為による水飛沫だ。誰かの犠牲によって戦いが始まる竜はこいつくらいかもしれない。それほどまで水中とは人間に不向きなのだ。


「私はこれにしようかな?似合うかなぁ……」

「わったしも決めた〜!!」

「二人とも遅いわよ。たく……そのせいでレイがやばい場所を……」


「パーティーは組んだな?行くぞ……!」


 最寄りのポータルからマウントエネミーで移動すること十分と少し、山と木々を超えた先に広がる広大な海岸とスカイブルー。息を飲むほどの透明な海の向こうにはカラフルなサンゴ礁が揺らめく、『夜鳴きの海岸』への到着だ。


「わぁぁぁぁ〜……っ!綺麗〜!」

「やっばいねぇ〜!私も初めて来たよコロッち〜!」


「……ねぇ、あんたならあの先客知ってるでしょ?」


「…………あぁ、場所変えようかな……でもコロネとオレンはお気に召したようだしなぁ……」


「どうしたの?二人とも!」


 クラン〝星浄の騎士〟達が海水浴を楽しんでいるようだった。そこまで喧嘩っ早い人達ではないが、念の為端の方のビーチへとお邪魔させてもらう。というより既にコロネ達が走っていってしまった。


「あんまり離れすぎるなよ〜 一応安置外……イベント中だから関係ないか」


「これはこれは、〝非効率の館〟の皆さんこんにちは。私は〝星浄の騎士〟のクランリーダーを務めるユキナと申します。かねがね噂は耳にしておりますよ」


「げ……いつのまに……」


 第二席レンカの属するクランが故に、その知名度は高い。闘技場以外での対人や強奪には興味があまりないのか、ネームはイベント不参加を示す白色。そして普段はまとめていない水色の長い髪は後頭部で束ねられ、甲冑もつけていない水着の完全なオフの姿だった。


「その節はどうも失礼しました。レイさんはあまり込み入った話し合いを好まないと後から聞き、麦穂の解放条件にしつこく食い下がった事を反省しておりました。申し訳ありません」


「いやいいよ。そっちの事情も実はそれなりに知ってるし、俺達も今日はオフだしなぁ……隅っこで遊んでるから邪魔もしないよう気を付けるつもりだ」


「それならば今は私達のクランしかいませんし、せっかくなので交流会でもしませんか?大丈夫です、他の者にも探るなと釘を刺しますから。いかがでしょう?」


「交流会ねぇ……おーい!!お前らー!!星浄と遊ぶか〜!!?」


 アストラプレイヤーは不思議とコミュ力の高い人が多い。いや、この世界ならコミュ力が上がるという表現が正しいのかもしれない。呼び掛けから数分、あっという間に〝非効率の館〟と〝星浄の騎士〟は共にバーベキューをしながら雑談に花を咲かせたのだった。


 そして俺は少し離れた砂場に座り込んで目の保養を頂く。俺も男だ。アバターとは言え、いやアバターだからこそ美女達の水着姿を脳に刻み込む。〝星浄の騎士〟の男キャラの人も隣に数人いるが、恐らくは俺と同じ紳士的な嗜みだと予想する。


「非効率さんって最近できたとこっすよね」


「その呼び方はなんか語弊が生まれそうだな……ひこやかとかでいいですよ。言う通り俺達のクランはヒヨコも同然かな……」


「ヒヨコと自称するにはあまりに有名っす。未だに二枚合わせの鏡は大渋滞っすよ」


「……すねー」


 などと他愛のない話をしているが、俺達の目はバーベキューに勤しむ女性陣の方しか向いていない。コロネはフリル調の水着、腰周りには半透明なベールのような装飾がある。


 オレンはシンプルなビキニとバッキバキの腹筋。そういう趣味なんだろう。チョコはリアルの印象とはギャップのある子供っぽい水着に麦わら帽子、ロリエルフだからこそそのコーデは似合うの一言に尽きるものだった。


「女性は視線に敏感ですからね。眺めるのは程々にしてはいかがですか?殿方ら」


「げっ!?リーダー……っ!お、俺達も肉食おうかな〜!!」


「ちょ……!?お、俺も……っ!」


「レイさん、一口も食べに来ないので運んで来ましたよ。どうぞ。お隣良いですか?」


「え、あ……はい。あざす」


 ユキナが来た瞬間に星浄メンバーでさえ逃げ出したが、この人もフォルティスとはまた違う圧力を感じる。お淑やかで超清楚な立ち居振る舞いなのに、猛者特有の覇気というか、オーラがなんとなく怖い。


「そう身構えずとも取って食ったりしませんよ。個人的にあなた方のクランに興味が湧いていたので、ほんの少しリーダー同士で雑談がしたかっただけです……私と話すのは嫌ですか……?」


「巨大派閥のリーダーがそんな小動物みたいにしゅんとするなよ……びびってて悪かったな。こう見えて小心者なんだよ」


「嘘が下手くそですね。SNSに拡散されたあなたの戦闘映像、セツナとの攻防では一手一手に見えずとも確かな技術がありました」


 ユキナの言う技術とはシステム補助のないプレイヤースキルを示す。剣術で言えば、牽制やフェイント、読み合いから敵の攻撃軌道の誘導や限定、多彩な目に見えない攻防の事だ。


 現に俺はセツナとの対戦では、的確な見切りからの反撃を警戒し、紙一重のかすり傷で済むよう間合いと切り込む角度に細心の注意を払っていた。実際に俺と対峙していたならまだしも、客観的かつ映像で言い当ててくるあたりは、流石は対人戦特化のクランリーダーと言える。


「よく見える目だな。俺からすりゃレンカの空間認識能力の方が舌を巻く」


「確かに彼女も類まれなる才をお持ちです。ですがあなたに対する関心は別物です。私と同じ剣であんな芸当を魅せられては……抑えられません。それも、まだ(・・)剣しか見せていませんよね?」


「……何が言いたい?」


「私には(これ)しか誇りがありません。無理を承知でお願い申し上げます。今から私と親善試合をしてくださいませんか?もちろんレベルシンクあり、二人とも木刀で」


「買い被りすぎだ。『不浄の剣聖』様に剣だけでやるなんて無謀にも程がある」


「……曲刀の方が手に馴染みますか?」


「っ……」


 危うく口に頬張った肉を吹き飛ばすところだった。まるで試しているかのような眼差しに冷や汗が浮かぶ。だが確信には至っていないようだし、カミングアウトする義理もない。今回(レイ)は仲間とのんびりアストラライフを送りたいからな。


「生憎と曲刀は触ってなくてね。ウェポンスキルもほぼないし、余計に無理ゲーだって」


「……釣れないお方ですね。時間を取ってしまい申し訳ありません。私は輪に戻るとします。最後に……」


「ん?」


「私との親善試合に対し、たったの一度も勝てない(・・・・)とは仰いませんでしたね。対価を用意する必要があるのならばそうします」


 ユキナの洗練された刃のような殺気と挑戦心に、俺はどうやら無意識に焚き付けられていたらしい。世界最強としてのプライドが、心の中でさえも勝てないとは零さなかった。


 恐らくはユキナは意識していないが、なんだか一杯食わされた気分である。そして同時にめんどくせー状態に突入な気がする。フォルティスもそうなんだが、一度気にかかる事があると中々諦めないのはユキナも同じだからだ。

『溺死』


肺呼吸の生物は水中に留まり続けると死ぬ。水中に留まらず呼吸が出来ないエリアへと踏み込むと、急速にスタミナが消費し、尽きた瞬間に次は体力が消費する。


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