六 レイパンチ
一撃貰えばぽっくりあの世に旅立つマカロンとのタイマンに、レベル差があるからこそ得意技を捨て去った。パリングと言えばゼロ、そう言われるほどに俺は弾くのが得意だし好きだ。
ピンチがチャンスに変わるあの瞬間に溢れ出るアドレナリン、主食である。だが肉弾戦におけるパリングは体で行う以上、必ずと言っていいほど反動でダメージを受ける。弾けたとしてもそのまま反動ダメージでワンパンだろう。
「回避上手いわね……っ!やっぱり初心者じゃない!!」
「もうちょっと驚いた顔して言ってもらえると嬉しいんですけどねぇ……」
ニッコニコで言われても怖いだけだろ。防御しても多分そのまま体が粉々になるだろうし、正直言うと攻めあぐねている。残る武器は拳銃となけなしの金で勝った突撃銃。安物なので威力は知れてるが、死神の悪戯が発動しているならば問題は無い。だが――
「すまーん!!やっぱり武器使わせてもらいます!!このレベル差は無理!!早すぎ!!」
「いいって言ったでしょ!!ほら!行くわよ!!」
流れるような拳と蹴りをフレーム回避しながら射程外へと距離を取った。さっきからずっとこれの繰り返しなのだが、移動速度に差がありすぎて速攻で詰められてしまう。だからこそ、一回こっきりのとっておきパリングでケリをつけてみせる。
「よいしょぉぉぉ!!」
「っ……!」
拳銃による打撃でゴリラみたいな蹴りを弾いた。もちろん安物の拳銃は反動でご臨終である。すかさず握るは突撃銃。三発で良い。パリングによる硬直時間で一発は確定だがどうなるか。
「……はぁぁぁぁ!?」
「あっぶないわね……!ヒヤッとした!!楽しくなってきたわねぇぇぇぇ!!!!」
確かに一発は当たった。だが間髪入れずに射線から逃れるように斜め後方へとフレーム回避を入れたあと、こいつはステータス頼りの瞬足でジグザグに走って弾丸をかわし始めやがった。ゼロもよくやっていたがこれを目の当たりにするとまじで気持ち悪い。
「人間やめてるだろぉぉぉぉぉ!!」
「これでも師匠には及ばないの!!おっと……!」
移動先を推測して置くように弾丸を放つもフレーム回避が上手すぎて当たる気がしない。そもそも俺の技量が低すぎて集弾性能が死んでる。☆一武器だし仕方ないが、ワンチャン詰んだかもしれない。勝ち筋があるとするならば先程と同じくパリングしかないが。
「弾切れ?じゃあ今度はこっちのターン!!」
「近い近い近いっ!!」
突き刺すような手刀からの肘打ち、からのサマーソルト。一息着いたかと思えば急に潜るように視界から消え、みぞおちへと殺人級の蹴りが飛んでくる。回避スキルなしで見切れはしたが、向こうも生粋のプレイヤースキルのみの体術なだけに、スキル硬直も隙がなさすぎて反撃がまるでできない。
「っ……!」
「銃のパリィはもう見た――」
回し蹴りにパリングを重ねたがタイミングをずらされた。そんな一瞬のズレが簡単に弱点フレームを逃してしまう。 このままでは俺は勝ち筋を失う。考えろ、幾度となくこんな刹那の選択肢を選んできたはすだ。
「――ああぁぁぁぁ!!」
「っ……!」
叩きつけようとしたアサルトを構わずマカロンの足へと振り抜く。パリング受付外のため間髪入れずにちぎれるような衝撃が銃から伝わり、反動を受ける前に手放した。砕け散るアサルトの破片の中、今ので三発目が入ったことを祈るしか出来ない。焦りと共にアドナレリンが溢れ出てくる。
「片手、拳銃、アサルト!!これで全部ね!!」
「っ……まずぅぅぅぅぅい!!」
ちなみに先程のアサルト君の打撃が攻撃判定なのかは分からない。つまりはお祈りである。だってもうあれが入ってなければ無理ゲーだもん。二発は無理。一発でも壁が分厚すぎるだろ、こんなの。
「そう言えばデンジャースキルが切れたらどうするの!!CT待っても良いけど、一〇分も待ってたら振り出しよ!!」
「あせらすなってぇぇぇぇ!!ひええええええ!?」
もみあげの真横をすごい衝撃が走り抜けた。到底人に向けて放つ蹴りじゃない。ていうか死神の悪戯の効果時間が分からないんだが。アクティブスキルやCTの時間管理は当然の嗜みだが、そんな事に割ける集中力が残っていない。
(戦闘開始から四分……?最初の方は雑談もしていただろうし、死神の悪戯は一分切ってるか?やば……っ!)
思考をさせる気はないと言いたげに、卓越した体捌きが織り成す怒涛のラッシュが迫った。死神の悪戯によってスタミナ消費が激減していると言うのに、もう残りスタミナが三〇を切っている。実質無限スタミナマンになれるはずのスキルなのに、こいつ本当にヤバい。
「あ」
「ふふっ……!」
読み違えた。上段蹴りの気配にびびったのかもしれない。フェイントにつられ回避を先打ちさせられたことによって、ほんの僅かな回避後の硬直へと重ねてマカロンが踏み込んでくる。嫌だ、勝ちたい。勝ちたい勝ちたい勝ちたい勝ちたい。
「祭殿への羅針盤!!!!」
「っ……!?」
「レイパァァァァァァァァァンチ!!!!」
「がっ――」
昨日の今日で聞いた単語だろう。アストラガチ勢側のお前が食いつかないわけがない。小賢しいがこうでもしないと絶対勝てないです。ということで、回避硬直が解けた瞬間、驚きで固まったマカロンの顔面へと拳をお見舞いしてやった。
クソザコナメクジなステータスのパンチでも、死神の悪戯によってお前も最低被ダメが全体力の二十五%。アサルトの殴打が攻撃判定じゃなければごめんなさいだったが俺は勝った。勝ってはいけない相手に勝ってやった。
『新たなデンジャースキルを習得しました』
「お、ラッキー!ついでに不屈の怨恨ゲット〜」
『不屈の怨恨』
ウェポンへの損傷、すなわち耐久値の消費量が著しく増加するが、会心率と会心倍率が大きく向上するデンジャースキルだ。どれくらい耐久値が減りやすいのと聞かれるならば、目安としてはレアリティの数くらい打ち込んだら砕けます。そのかわりアホみたいに会心が出るんですよこれが。
デンジャースキルのCTは共有されており、種類が違えど連続使用は不可能である。クセの強いものが並ぶ中でも不屈の怨恨は割と人気のスキルだ。特に上位陣ではエネミーへの最後のラッシュに、パーティー全員で発動してフルボッコにするのが流行りである。
(とは言え、ソロだとしれてるからなぁ〜 けど、あそこに行くなら時短になる。あ、そうだ)
マカロンがリスポーンする前にブロックしといた。とは言え、ゲームの仕様上フィールドや街などでは普通にエンカウントするし、闘技場やダンジョンでのマッチングだってする。ゲーム内メッセージが届かないくらいしか役に立たないがこればかりはしょうがない。
(悪いな……多分質問攻めしてくるよな?俺はゼロ時代でメッセージがトラウマなんだ)
最強プレイヤーとして知名度が高かったせいか、全然知らない人からのメッセージなんて山のように来ていた。やれパリィのコツだの、やれ特訓してくださいだの、強くなりたい気持ちは分かるが俺だって一人のプレイヤーだ。普通にゲームを伸び伸びと楽しみたいのである。
ということでマカロンこと、カオリには悪いがブロックさせてもらいました。リアルの方で一芝居打つ羽目になるだろうが、勝利の味には変えられなかったんだ。未知の最前線、その餌は必要経費だ。問題ない。
「よし、必要なスキルも取れたし次だな」
クソだるコンテンツだが避けては通れない。地獄のレベリングである。今は知らないがかつてのレベル上限は六〇だった。今はいくつなんだろうか。
(ランキングに乗ってるプレイヤーからキャラクターシートに失礼させてもらいまして……えぇっと?七〇っぽいな)
現環境でのレベル上限は七〇。俺の頃からレベルキャップが開放されたようだ。クソデカため息不可避である。だるすぎる。だってこのゲーム要求経験値がキモイのだ。ストーリ進行である程度太っ腹に貰えるが、それでもめんどくさいものはめんどくさい。
(PvPで戦闘スタイル毎にそれぞれ有利な種族キャラを用意してる人ほんとにすげぇよ……俺レベリングは本当に苦痛で無理。まぁ、こいつはまったりやりますか!)
という事で次に行うのはレベリングと並行して『祭壇への羅針盤』の情報収集に決めた。そしてデザート感覚に勤しむ目標として、レベルシンクが発生するダンジョンのランキングを塗り替えてやろうかな。
(レベルシンクは割と甘い設定だから……それなりにレベリングと装備は必要になるか。どうにかゼロの装備を引っ張ってきても良いがそれではあまりに味気ない)
とはいえうろ覚えな状態で試行錯誤しても仕方ない。こういうのはゲームに聞くのが一番早いのだ。
「星屑の神殿ってレベルシンク幾つだっけ?」
『レベルシンクは一○、それ以上のレベルに応じたステータスは、突入後補正がかかります』
あと二レベで猛者と同じか。となるともう一つは武器だ。こちらも同じくして定められた水準まではステータスが抑えられてしまうが、問題は数字では無い。☆七からはその武器固有のウェポンスキルが存在するのだ。モーション値が高く、必殺技と呼ぶに値する。
(正直クソ女神から終末の鉄槌が落ちていれば理想形だったんだが……ないものねだりしてもしゃあない。ハンデだ)
残念ながら星天級やら都市伝説の☆八とやらを掘りに行くにも時間効率が悪い。無理そうならスコア塗り替えは諦めるとして、行けるところまではやってやろうかと思う。
『片手剣』
初心者からベテランまで誰もが使いやすい武器の一つ。切断と突きによる貫通、そして刀身を叩きつける事で打撃攻撃も可能。近接属性3種を兼ね備えた唯一無二の武器種。
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