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五十四 ブラックアウト


 空中都市アクアリング、アストラユーザーの中でも富裕層しか住まうことを許されないファンタジータウン。だがどちらかと言うとガチ勢よりかはエンジョイ勢が多い傾向にある。何故ならば客人や新人の歓迎にクッソ不便だから。


転送領域(ポータル)の解放は終わった。さて……どうやって探すか」


「イベント中とはいえここの人達は温厚だし、聞いてみるのが早いんじゃない」


 アクアリングと言えばあいつらがいるはずだ。〝妖精達の招宴〟、エルフだけで構成された美少女アバターの集団だ。スクショとキャラクリに全てを注いだガチ勢の集まりであり、奴らの撮影技術は依頼が来るほど優れたものでもある。


 だが中身はゴリゴリのおっさん。否、男だからこそ美少女の最も美しい、可愛い画角が本能的に分かると言えるかもしれない。そして何気に高いコミュ力と陽気な雰囲気から、割とプレイヤーに対する情報量が侮れないのだ。


「いたいた……」


「うちの子可愛すぎる!!天使!!女神!!神々しいぃぃぃぃ!!」

「可愛すぎて僕はギルティぃぃぃぃぃぃぃ!!自撮りが止まらなァァァァい!!」

「貧乳はステータスだ!!国宝だ!!」


 相変わらず気持ち悪い奴らだ。だがキャラクリの高さは本物であることは認めよう。認めるところは認める、それも俺の性格だし変に張り合うところでもない。


「こんちゃーすエルフさんら。キャラクリ上手いっすね」


「うん?初見ですね。どうしました?」


「実は探してるプレイヤーというか、クランがあるんですが少しお話しいいですか?」


「知ってることで良ければ!」


 〝妖精達の招宴〟リーダー『おでん』さん。見た目はお姉さんエルフでかなりスタイルが良い。だが隠す気のない男喋りとのギャップに頭がおかしくなる。そこまで自キャラを愛するならばいっそネカマにも全振りしてくれ。


「〝天窮使節団〟ってクランを探してまして、何か知ってます?」


「あぁ、あの陰気で物静かな奴らか。それならアクアリング上階層の一等地にクランハウスを構えていたと思いますよ」


「流石詳しいねぇ!また今度似合いそうな衣装があれば献上しますわ!じゃあな!」


 見送りの手振りに同じものを返し、グリフォニアの二ケツによって一気に高層へ。遥か上空よりアクアリングを見下ろしたがやはり美しい。中央より永久に溢れ出る泉とそこに繋がる水路、舗装されたそれが街を横断しながら下方の海へと流れ出る。


 そして街の両端からアーチ状に伸びた足場、まるで巨大な指輪のように伸びた先にはアクアリングの象徴である城がある。あれはプレイヤーの所有物ではなくただの宿屋、くっそ高いのでオススメはしない。


「まずは城周辺を探してみるか」


「おっけー、降りるわ」


 アクアリング上階層、指輪のような造形で言えば宝石が埋め込まれる位置が該当する。ただでさえ土地相場のおかしいアクアリングのなかでも、ここに土地を持つ奴は狂ってるかバグってるか、頭がおかしい事は確かな事しか分からない。


 それでも土地が空いていないのだからアストラユーザーは変態しかいないのだろう。下層に比べればクランハウスは少ないが、突撃訪問で応答はしてくれるだろうか。


「すいませーん、〝天窮使節団〟ってクランを探してるんですが知りませんかー?」


「私も別のハウスの人に聞いて――」


 マカロンと二手に別れようとした時だった。俺がノックした扉の向こうから返事が帰ってきた。開閉と共に姿を見せたのは短く切りそろえた淡い金髪イケメン。エメラルドの瞳が鋭く、それでいて心まで見透かされているような微笑に鳥肌がたった。


「ここがいかにも〝天窮使節団〟ですが。何か御用で?特別依頼なんかは請け負っていないはずだけれど……」


「……マジ?」


「はい。僕は天窮使節団リーダーの『アギト』。ご用件があるなら早めに言った方がいいよ、レイさん」


「そんなに忙しい感じなんですか?実は……」


「残念、時間切れだね。緊急メンテナンスでアストラがもう落ちる――」



 突如として視界が真っ暗になった。まるで意識しかないように、暗闇の空間にて漂う俺の脳波が一つの知らせに驚いた。文字という概念かは知らないが、確かに目の前に『アストラル・モーメントを支えて下さるユーザーの皆様にはご迷惑とご不便をおかけしております』と。


 それ以降には緊急メンテナンスによるプレイングの中断とそれに対する謝罪が記載されていた。別にそれ自体はいいのだが、これまでアストラでこんなぶった斬るような緊急メンテは見たことがなくかなり驚いていた。


(カオリもこのメンテは知らなかったよな?ユーザーに知らされていないはずのメンテを……アギトってやつは予言した……?)


 とは言え運営(神様)には勝てないのでログアウトするしかない。非効率の館メンバーのグルチャやカオリのメッセージから見ても、やはり誰もが驚きの反応を見せている。


「……しもしも?俺も驚いてるよ、チョコ」


 カオリからの電話かと思っていたが、不意にかかってきたのはチョコ。この二人って声質と喋り方、そして性格というか気の強さとかが酷使してる。まぁリアルのカオリはちんちくりんだし、チョコはモデル体型なわけで、そこに世界の残酷さがあるが絶対に口にはしない。俺でもわかる、コロされる。


『ちょうど編集に一区切りついたから、一応最後にあんたに確認してもらったら投稿しようかなって考えてるの』


「おk、どれどれ……」


 動画時間は俺の希望で一〇分にしてくれていた。俺は全然詳しくないが、動画投稿サイトにて収益化を得るには一年間の総再生時間が大切らしい。なのに一〇分でも快諾してくれたのはやはりアストラユーザーの厚み故だろう。


 俺が動画を見るならせいぜい一〇分あたりが見やすいからなーとか、めちゃくちゃ適当な事考えていたのにチョコには脱帽する。そして完成された動画に対する感想は贅沢の一言に尽きるだろう。


「いいねいいね!惜しみなく未知の最前線の攻略解説を垂れ流してる!一〇分だろうがヘビーユーザーなら目を奪われるに違いないぞこれ!」


『三分割しても再生数取れそうよ……もったいない。このペースで未知の最前線を垂れ流すのは不可能だし、次の企画というか……アテはあるの?』


「レベルシンクが五〇だが、あるにはある。けどなぁ……」


『けど?』


 その未知の最前線の扉を開くにはゼロを起動しなくちゃならない。アストラではアイテムの希少価値が高いせいか、それとも運営の性格の悪さなのか、自キャラ間での共有倉庫たる概念が存在しない。ゼロの持つ『機関要塞の歯車』を非効率の館に譲渡する作業が必要になる。


 再三言うがチョコ達には暴露してもいい。多分それしきで態度を変える子達じゃないだろうし、いい加減こちらが心苦しいものだ。問題はどうネタばらしするか。カオリの時みたいにサラっと言うか。


「……そのユニクエをやるには俺の本垢からアイテムを貢いで貰わなくちゃならない。掘りに行ってもいいが……条件も曖昧だしどうしようかなって悩んでる」


『そういうこと?事情は知らないけど、あなたは多分本垢を晒したくないんでしょ?無理に出さなくてもいいし、むしろここまで来たら本垢に頼らず掘るのも一興じゃない?』


「俺みたいな事言いやがって……」


『影響されたのかもね。聞かせてもらえるならそのアイテム名は?あなたしばらく休止してたんでしょ?もしかしたら希少価値が落ちてるか――』


「――『機関要塞の歯車』」


 少し絶句した様子だったチョコが。


『……〝天啓の導〟にまだいた頃に聞いた事がある。でも……あっ!そっか!!あなたゼロさんと知り合いだものね!?天啓メンバーの一人が偶然見た事のないアイテムを持ってるゼロさんを見ていて……っ!』


「俺がゼロだからな。そりゃ知ってるさ」


『…………………………は?』


「非効率メンバーにはいつか言おうと思ってたんだ。だがあまり言いふらさない方が良い。アストラの知名度はいい事ばかりじゃない……むしろデメリットの方が大きかったり……って?チョコ?おーい?」


 呼び返しても反応がない、ただの屍のようだ。いや冗談は置いておいて本当に反応がない。だが反応を捉えようと耳を押し付けた瞬間、爆発するような感覚に。うるせぇ、たまらずスマホをぶん投げそうになった。


『ええええええええええええ!?嘘でしょ!?それマ!?いやいやいやいやいやいやいやいや!!!!なんで伝説のプレイヤーが私達なんかと!?ちょっと待って脳が理解を拒む鳴き声を……っ!?』


「うるせええええええ……っ!言ったろ!!俺はまったりとアストラをやりたいんだって。だから等身大で遊んでくれる非効率メンバーは気に入ってんだ」


『だからって……! 霊峰で過ごした方が絶対にメリットが大きいわ!それに……そんな貴重なアイテムの情報まで……』


「俺が楽しいって言ってんだからいいんだよ。チョコも他の奴らも、たかだか一プレイヤーのゼロを神格化しすぎだ。みんな等しくアストラを楽しむユーザーなんだから気にすんな」


『……今はびっくりして動揺してるだけよ。でも確かにあんたが言うように、昔見ていたゼロさんよりかはレイの姿の方が活き活きとしているかも』


「当たり前だ。ゼロは未知の最前線に食いついた奴隷だったからな。ちょっと友人から電話が来てるから切るぞ?」


『待って。最後に……その…………』


「おん?」


『マサトや天啓から守ってくれたのよね?ありがとう』


「……どういたしまして。俺も嘘ついてて悪かったな」


 通話を終えた余韻に浸りながら、どこかゼロの呪縛から解き放たれたような気がした。もう軍隊のような交友関係はいらない。俺が欲しいのは共に未知に飛び込み全力で遊べる仲間だけだ。


「どうしたんだよカオリ」


『いや急なメンテナンスが……って、なんか声が明るいわね?良い事でもあった?』


「そうか?最初期にカオリとやっていたアストラみたいな、初心のようなものを思い出したって言えばいいのか?とりあえずフォルティスに伝えてくれ」


 ゼロは最後のログインを機に霊峰を脱退すると。今後はゼロを使う予定もなくなった。ならばレイで手に入れた『祭殿への羅針盤』は在るべき形へと戻すべきだ。最後のログインにてその継承式を非効率の館で行うことにする。

『貫撃』


貫通属性を有する攻撃のこと。片手剣や槍等の突き、弾丸がこの属性に該当する。鋭くて早いモーションは弾かれにくく、ピンポイントで弱点を狙う事が可能だ。


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