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五十三 マカロンマッチング 二


 十周年イベントが残り一週間となった。レベリングに飽きたら息抜きがてらに〝スサノオ〟を暗殺してポイントを稼ぎつつ、一〇〇位圏内を維持している。最初期にチョコ絡みで大量にキルしたおかげかそれなりに上位にいるというわけだ。


「しかし中盤でこの順位ではランクインはきついか……」


 イベントを走るプレイヤーは終盤で追い上げのごとくポイントが変動する。一〇〇位から十位までは一〇〇万ステラと☆五アサルト、十位から四位までは上記報酬に加えて配布☆七の長剣が加わる。トップスリーはそこに追加でそれぞれイベント上位賞の衣装、『星空の羽衣』が貰えるぞ。


 過去イベントもそうだったが、イベントで配布される☆七武器は総じて性能が抑え気味だ。基本性能で言えば☆六程度、そこに特殊モーションの固有スキルがあるくらいだろうか。猛者だけが強化されていてはプレイヤー間の差が広がるため仕方ないとは思う。


(羽衣はヒャク無理。毎度イベントトップスリーの衣装はプレミア価格で取引されますが、今回のはいかほどまで跳ね上がるんでしょうね)


 がっつり自慢だがゼロはそういう系統のプレミア品をいっぱい持ってる。人気なのはマフラーやスカーフ、ハロウィンやクリスマス等の季節ものの衣装や小物だろう。霊峰の統一衣装以前に使用していた星模様のマフラーは二億ステラとか馬鹿みたいな値段でバザーに並んでるぞ☆ おっと獲物が。


「あっ、こんにちはァァァァァァァァァ!!」


「ぐぇっ!おま……っ!例のクソガ――」


 フィールドでスサノオ(ゴミ)を見つけたので処した。だがどうやら横取りしてしまったらしい。飛んできたイグニションバーストを交差してすり抜けるようにフレーム回避し、その術士へ驚きと懐かしさを込めて名を呼んでやった。


「久しぶりだな!マサトっつぁん!」


「妙な呼び方をしないでくれるかい!君とゼロのせいで〝天啓の導〟内で立場が悪いんだ……っ!イライラする。今ここでぶっ殺してやろうかな……」


「それはさて置き、天啓もスサノオフルボッコ祭に参加してんだな」


「置くな。君がゼロと繋がっていると知っていればあんなことはしなかった……っ!失踪中の姫様を呼び起こしたって大目玉を食らったさ」


「今も天啓はゼロにびびってんのか。暴れてたもんなぁ……」


「腫れ物扱い同然だね。実際に対面した僕だからこそリーダーの判断に頷ける。強さそのものの……次元が違った…………」


 マサトの瞳は悲しそうではあったが、以前のような胸糞悪い雰囲気は消えていると感じる。アストラユーザーの上位三%、ほんのひと握りの頂点からはこいつの言うように強さとしての質が変わる。


 勝利に対する執念も、ゲームに対する理解度も、盤上における定跡に固執しない筋のようなものがあるのだ。いや、むしろ様々な戦いの定跡を創造してきた者達と言っても過言ではない。


「何を落ち込んでるのか知らんが、お前がそう感じられたのなら伸び代がまだまだあるって事だろ?むしろ嬉しいことじゃねえか」


「ポジティブすぎるだろ……っ!あんな一方的にボコボコにされてへこむなって言う方が無茶だ!」


「HAHAHA!ざまぁ!!」


「まじで殺してやろうか」


「そんなことよりさ、お前ってそれなりに情報通だよな?ガセにしろガチにしろ、知ってることは多いと踏んでるんだが」


 別に取引がしたいわけではないのだが、以前ゼロに届いたDM主が脳裏に過ったのだ。SNSアカウント名『セツナ』、アストラ関係の内容だったわけだし、恐らくはユーザーネームと同じだと予想しているがどうだろうか。


「知っていたとして君に話す義理はあるかい?」


「『セツナ』って聞いたことあるか?」


「まずは僕の話を聞けよ。でも『セツナ』か……信憑性を抜きにするならば、悪い噂を聞いたことならあるかな」


「悪い噂?」


「彼女は配信者の一人でね。それなりにプレイヤースキルは高いし、他の動画や配信主と内容自体は変わらないけど……不自然なほどに反応速度が良い時がある」


 思いのほか素直に話してくれることにちょっとびっくりしてる。話してくれた内容がほとんど頭に入らなかった。配信者ということで某有名な動画投稿サイトにて『セツナ アストラ』で検索、登録者二万人のそれらしき奴を発見だ。


「こいつか」


「見てるなら話しが早い。白光狼と戯れてみた、その動画のところどころで人間じゃない反応速度を披露してるから見てみるといい」


「…………それで?それが悪い噂とやらとどう関係があんだよ」


「……チートだよ。アストラにはまず普及しないと言われている悪魔のイカサマさ」


 俺も最近まではマサトと同じ考えだった。まずコアレスは脳波を読み取って作動するため、エイムアシストや複数接続によるサーバーダウンを狙うDDoS等、悪質なチートツールを介入させるのは不可能だと言われていた。


 残念ながら俺自身がそっち方面に詳しくないので分からないが、ステータス改ざんやダメージ無効なんかも見たことがないため難しいのだと思う。だが現実としてチョコのコアレスには細工がされていたのだ。


「……ありえない話ではないか。誰かそっちの方面に詳しいプレイヤーを知ってたら紹介してくれない?」


「僕が君にそこまでしてやる必要なんかないだろ!そもそも取引がしたいなら対価をだな……!」


「非効率の館チャンネル。今はまだ無名だが、じきにびっくりする動画を投稿する予定だ。投稿したら真っ先に見てみな?対価としては十分だと思うぞ」


「……まぁいいか。話したところで僕が不利になるわけでもないし。〝天窮(てんきゅう)使節団〟、そこのリーダーがコアレスにかなり詳しいらしい」


 聞いた事のないクランだった。分からないことしかないため突撃訪問以外に選択肢がない。だがどこにハウスを構えているのかさえ分からないし、マサトの顔もそれを物語っていた。そこまでは知らないぞって睨んでやがる。


「そもそも〝天窮使節団〟はアストラのコンテンツに関わっていない。噂じゃあ運営陣とかなんとか言われてるらしいけど……そもそも関わったところでメリットがないんじゃあ探す価値がない。本当に行く気かい?」


「コアレス絡みで騒ぎに巻き込まれたしな。助かったよマサト」


「……よくあれだけの事をされたのに平然と接する事ができるね」


「リアルで本気の殺し合いをしたならまだしも、たかがゲームの中の事だろ。今を楽しんだ者勝ちだ、お前も楽しめよ!じゃあな!」


 呆れたように笑われたが過去一番でマサトが良い顔をしていた気がする。多分あいつもビジネスの風潮に巻き込まれ、本来の自分を見失っていたのかもしれない。俺のただの願望と妄想だが、それにマサトが該当するならば今後は伸びるだろう。


 マサトはさておき、手探りでクランを探すにはあまりにアストラは広い。フォルティスや他の有名クランから情報を集めるのが最適だろうが、イベントも相まって空気がピリついていておっかない。ここはカオリに直通がベターだろう。


「しもしも〜?おひさ、元気にしてっかー」


『零…っ!……レイって呼んだ方がいいわね。どうしたのよいきなり』


「天窮使節団って聞いたことあるか?野暮用があるんだが」


『あぁ、意味深なあのクラン?どことも交流がほとんどないから情報はないわよね……だから今から言うことに確証はないわ』


 カオリが教えてくれたことは、天窮使節団がクランハウスを構えているかもしれないと噂の街だ。『アクアリング』、通称空中都市。または水の都と呼ばれる空に浮かぶ安置エリアだ。


「まじか……ゼロを出すと騒ぎになるから出したくねえんだよなぁ」


『そっか、レイはまだ飛行エネミーのテイムがまだなんだっけ?霊峰の一部の攻略班が今手が空いてて、私で良ければ積んであげてもいいけど』


「まじ?神じゃん、座標おせーて、飛ぶわ」


『ちょうど二人きりで話したいこともあったしね。あんたがニートになってることとか』


 俺とカオリは小学校からの幼馴染であり、何かと面倒見のいいやつだ。俺を心配してくれるあまりオカンみたいになる時がある。うざいなんて思わないが恐らくは根掘り葉掘り空白の三年を話すことになるのだろう。


 転送して待ち合わせすること数十秒、漆黒のセミロングが風に靡いてインナーの紅が顔を覗かせた。マカロン、それなりに有名人なためギャラリーの視線が突き刺さる。群衆の視線から感じられるのは、『レイってやつはマカロンさんとも知り合いなのか?』だ。


「まさかレイでこうしてマカロンと肩を並べられる日が来るとは思ってなかったよ」


「そう?私は全部話してくれて嬉しかった。行きましょ、目立つもの」


 大型の猛禽類エネミー『グリフォニア』。鷲と獅子の手足を複合させたまさにグリフォンのようなエネミーであり、マカロンが空陸の移動に使用するマウントテイムだ。陸移動はそこまで早くないが、飛行が解禁しているならばそのデメリットはほぼない。


「リーダーはあんたがゼロって知ってるの?」


「多分な。バラしてないのにほぼ確信した話し方してきやがるし、未攻略クエストの協力申請とかもしてきた。間違いなく分かってて絡んできてる」


「忘れ去られた海底のことね。あんただし、幼馴染割引で面白いこと教えてあげる」


「面白いこと?忘れ去られた海底で☆七でも出たのか?」


「いいえ。あそこでの最高レアリティ報酬は多分☆六、でも非効率の館に巡った『水霊の先剣』に解放性能が見つかった」


 何それまじかよ。貫通特化の性能だった水霊の先剣、解放武器である事も驚いたが気になるのはその種類だ。常時開放型ではそこまでステータスは伸びない。だが俺の期待に応えるようにマカロンが続けて言う。


「時限解放型、しかも解放時は固有ウェポンスキルがある。瞬間的に☆七と同様のポテンシャルにまで跳ね上がるのよ。好きでしょ?そういうの」


「大好きだ!!解放条件は!?それは流石に有料か!?」


「減るもんじゃないしね。そもそもあんたが全てのモーションを共有してくれたから、霊峰は爆速周回出来てるわけだし……条件は先剣でシャープネスストライクによって二〇〇〇体のラストアタック。その条件を満たせば解放させるための儀式が解禁する」


「儀式?」


「平たく言えば自傷ね。百聞はなんたら、実際に試した方が早いわ」


 条件を満たした後の固有ウェポンスキルのムーブアシストや威力は見てからのお楽しみという事で、その後は俺のリアルの話をしながらアクアリングへと到着したのだった。

『槍』


貫通属性に特化した近接武器。突き刺すような運用の他に、威力は低いが懐に入られた際には柄で叩く打撃運用も可能だ。


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