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五十二 未知のメイドとマンドラゴラ


 レベリングに徹底して三日目、ちょくちょく投稿動画に合わせた解説の音声をみんなで取りながらも初投稿のものが完成した。タイトルは『ユニクエ初見攻略やってみた』で、サムネイルにはアストライアとメソリタルバースの切り抜き。


 ヘビーユーザーならば見たことの無い画角のアストライアにすぐに食いついてくるだろう。突入条件から憶測混じりのボスギミックの説明、そして心配のタネだったゼロのシーンだが、そちらの録画は不可能だった。


「まさか鏡の世界の方は録画機能不可とはなぁ……」


「あんたが嘘を言ってない限り平気でしょ。一応聞いた限りの解説と字幕は入れてるし、それよりもコロネから聞いた?」


「聞いたけど何を言っているのかさっぱりだ」


 雑談混じりに出てきたコロネの一件、それはハウジングコンテンツから派生したユニーククエストの発生だ。正直イベントに本腰を入れようと思っていたのに、突入に時間制限があるためこうして館に向かっている。


 なんでも、聞いた限りではひたすら館の清掃や庭の手入れ、そして広すぎる庭への畑製作や果樹園管理などをやり続けていたら発生したらしい。レベリングを切り上げてまで足を運んだには明確な理由がある。


「おいすコロネ〜」


「レイ!チョコ!!このユニークってそんなにレアなやつなの!?」


「レアどころか都市伝説だよ。俺はハウジングコンテンツは疎かにしていたから、こればっかりはコロネの偉業だな」


 『身も心も楚々(そそ)、完璧なメイドへの道筋』、今回コロネが発掘したユニクエの名称である。出現条件はクランハウス敷地内にてマンドラゴラの捕獲だ。二〇種類以上の野菜や果物を栽培している事が最低条件であり、その上で超低確率でランダムにマンドラゴラが生成される。


 何がやばいかと言うと、このマンドラゴラは食材を腐らせたり、傷めたりしてしまったプレイヤーが引き抜くと即死効果のある悲鳴を放つ。一つも育成に失敗しないなんて無理ゲーなため、従来ならば引き抜く前に炎の法撃で燃やすのがセオリーだ。


「全部管理しきったのか……この畑と果樹園を…………俺でも無理だぞ……」


「ほら……この子こういう地味な作業は得意だし、面倒見がいいから……」


「だ、だってみんな忙しそうなんだもん!!これくらいしかやることないし……それにゲームの世界だからいくら食べても太らないんだよ!!オススメはね、ここのブドウなんだぁ」


 美味すぎワロタ。種がないブドウを作るのはかなり難しいはずだ。何かしらの成長促進剤を使ってはいるのだろうが、この短期間でここまで緑豊かな庭に成長させてしまうのは才能である。


 しかも引き抜いたとされるマンドラゴラ、それがひとりでに動いてコロネと共に庭の手入れをしている。カブのような頭部に二つの黒点の瞳、頭頂部から伸びた緑の茎と葉っぱ、そして茶色い体。五〇〇のペットボトル程の身長のそれが走り回っているではないか。


「……あいつって自我持つの?」


「あんたが知らないことを私が知るわけないでしょ」


「見てみて二人とも〜 マンドラゴラちゃん可愛いでしょ?可愛いねぇ……!カブちゃん!」


 名前までつけちゃってまぁ。だがどう悪態をつこうが間違いなく未知の最前線だ。マンドラゴラが生きている状態で動くなんて聞いたことない。引っこ抜けば悲鳴と共にプレイヤーも奴も死ぬ。だがその引っこ抜いた一瞬のうちが捕獲判定となり、先程のユニークが露呈しているのだ。


 つまりは『身も心も楚々、完璧なメイドへの道筋』を出現させるには犠牲者が必要だった。それが今回こうしてレベリングを切り上げてまで確認しに来た理由というわけだ。カブちゃんがコロネの抱っこから外れ、寝ていたユーフィーのもみあげを引きちぎっているがまあいい。


「どうするレイ?ユニクエやる?忙しいかな……?」


「やるべきだろうな。このユニクエは知れ渡ってはいるが、発生条件がめんどくさすぎてあまり開拓されてない。それでもまぁ……あまりいいものが出土したって話は聞いてないんだけどな」


「絶対値が少ないもの。もしかしたらあるかもしれないわよ?」


「チョコの言う通りだよ!やろ!レベルシンクも二〇だし、そんなに強くないよ!きっと!!」


 チョコは知らんが俺はそのクエストやったことあるんだ。結論から言うとクッッッッッッッッッッッッソめんどくさい。特殊フィールドにて清掃活動が始まるんだ。


 某スローライフゲームのように環境の状態を逐一確認し、プレイヤーの判断で終了報告を知らせてリザルトに移るタイプのユニクエだ。ゴミ、木の生い茂り方、フィールドに流れる小川やそれに準ずる生物達の生活水準。これはそれらを改善するダイナミックなボランティアクエストだ、


「オレンも呼ぶか……これ四人でしかできないんだよぁぁぁぁぁ!!めんどくさいし細かいんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「しかもSランクリアを狙うなら、結構シビアだったわよね」


 このユニクエには時間制限もあり、終わるタイミングはこちら側の自由だが時間不足にはなりうる。しかも一度突入したら再突入は不可、またマンドラゴラを出現させなければならない鬼畜仕様。どうせやるならばチョコの言うようにSランを狙いたいところだ。


 オレンからも折り返しの連絡を貰い、すぐさまインしてくれた。小隊パーティーしか組めず、まあまあ広いエリアの清掃活動になるため、役割分担が重要になってくる。大きな項目で言えば雑草抜き係、木こり係、ゴミ拾い係、そして古びた家屋の撤去やリフォーム係だ。


「雑草抜きとゴミ拾いは足がいる。テイムマウントが使えないチョコは家屋の撤去とリフォームだ」


「おっけー、伐採はコロネのセンスが生きると思うからどう?」


「分かった……!やってみる」


「じゃあ私とレイっちはゴミ拾いと雑草抜きだね!」


「おk、バザーで☆五の斧を人数分買う。終わったら俺はコロネと合流、オレンはチョコの方だ」


 このユニクエに必要なものは武力ではない。求められるものは美的センスと根気、ひたすら草を毟りちぎってはゴミを運搬する。引き抜いた雑草もゴミ扱いになるため、そこらへんに放置しては評価が上がらない。故にゴミ置き場への往復が発生する。


 木こりも家屋の撤去も、このユニクエにおいて一番面倒なのがこの運搬の往復だ。レベルシンクによってステータスもかなり抑制されてしまうため、廃材をそれなりに小さくしなければ持ち上げられないのだ。


「行くぞ……!」


『身も心も楚々、完璧なメイドへの道筋を開始します』


 開幕と同時にマウントエネミーへと跨り、チョコを担ぎながらとりあえず最寄りの家屋へと置いていった。オレンとコロネとも散り散りに走り去り、当初の予定通りに担当の業務へとあたる。

 

 俺はひたすら草をちぎってはそれをゴミ捨て場へと運ぶ。燃やせばいいじゃんと思うかもしれないが、燃やしても灰がゴミ判定になって詰む。だがここに来てセイファートの機動力が火を吹いた。


「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「はっやいねぇ〜!私も負けてられないよ!」


 運搬運搬運搬運搬運搬運搬、ひたすらこれの繰り返し。無心でやり続けてはいけない。クリアするだけならばどうってことはないが、Sランクリアを狙うならばかなり効率的にやらねば時間不足になる。故に全力以外にありえない。


「お゛え゛え゛ぇぇぇ……」


 セイファートで走りまくって酔った。もちろん口から捻り出した美しさの権化もゴミ扱いになるため、ちゃんと焼却炉に直通だ。そうして繰り返すこと半時間、指定範囲のおおよそのゴミと雑草の運搬が終わった。


 残り時間は一時間、ここからはコロネと合流して木こりまくる。とは言え全てを狩り尽くしてしまってもダメだし、多すぎてもダメ。絶妙なバランスと木々の間隔を狙わなくてはならず、こればかりはプレイヤーのセンスが問われてしまう。チョコが言うにはコロネはそういうセンスがあると言っていたがどうなんだろう。


「手伝うわコロネ〜」


「助かる!ある程度伐採だけ終わったんだけど……運搬に手こずってて…っ」


「コロッち〜!!家屋の修繕に木材欲しいんだけどある?」


「運びまァァァァァァす!!」


 一生運搬の繰り返しだ。美的センスに難易度を意識しがちだが、どちらかと言うと筋肉で解決する場面が多かったりする。そんなこんなで非効率の館フルメンバーで息を切らす事約一時間、残り時間が一分を切るところまではひたすら清掃活動を繰り返した。その結果――


「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「やったー!!Sランクー!」


「ハイタッチまでの流れが洗練されすぎでしょ……」


「私達も混ざろうよチョコっち!いぇーい!」


 走りまくった甲斐あって評価S、そしてクリア報酬にて思いがけないものが二つほどあった。一つは課金アイテムであるNPCメイドの類似品。もう一つはチケットを消費するタイプのチケットクエストだ。


「NPCメイド【楚】ってなんぞ……後ろのカッコって課金アイテムの方にはついてないんだが……」


「チケクエの方は噂話なら聞いたことあるけど、私もそっちは知らないわ」


 チケクエの名称はそのままクエスト名になるのだろう。『家内と心は常に風光明媚、究極のメイドへの道筋』、多分だがステップアップ型のクエストだ。中にはこういったエクストラ扱いのものもあるが、ハウジングクエストで実物を見たのは俺も初めてである。


 突入地点だった館へと帰還し、早速NPCメイドを召喚した。だがやはりその容姿と衣服が課金アイテムとはまるで違う。定番の黒と白の生地であしらったものではなく、淡い水色と白のエプロンだった。


「紺色のロングか……顔面は課金アイテムより好きかもしれん」


「レイはこういうのが好きなんだ……」


「男の子はメイドに夢を持ってるやつが多いんだよ」


「ご主人様、コロネお嬢様、今後館のお世話をさせていただきます。何なりと申し付けください」


 紺色の髪を束ねる黒い布地には白色のフリルが装飾され、深々と下げた頭とともに俺の眼前へとウィンドウが開いた。このメイドの名前入力画面、メイドの『メイ』さんと命名して機能の確認へと移ったのだった。


『短剣』


その名の通り片手で扱える小型の剣。小回りの良さと連撃が長所の初心者にも扱いやすい武器種。突きと切断属性を有しているが、一撃一撃が軽いため弾かれやすい。


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