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五〇 二本目の初出土


 アストラにおける近接武器は全部で三つの特性がある。切断、貫通、打撃、そのどれもがそれぞれ特有の性質を持っているものだ。打撃ならばモーションが不遇な代わりにどの敵にも部位にもそれなりに有効、貫通は弱点特攻。


 万能な切断だがこいつにも専用の特性がある。アストラヘビーユーザーならば知っていて当然、だがその知識を使う機会はほぼない。何故ならば身体的なステータスが足りずにあまり意味がないから。


「メソリタルバース……!その無駄にでけえ図体が仇になったなぁ!!」


 嘲笑の曲針を逆手持ちにし、凄い速度で飛翔しながら奴の顔面にまで高度を上げた。これより行うのは切断特性を活かした戦法であり、飛翔速度から鑑みて攻略の抜け穴を感じたが故の選択だ。


「行くぞぉ……っ!『道化師の戯言』!!」


 切断属性は切り続ける事で連続ヒット扱いになるのだ。打撃や貫通にはない唯一の特性であり、打撃扱いになる麦穂は留守番だ。迫り来る機関銃の弾丸を弾幕シューティングのようにすり抜け奴のうなじへと回り込んだ。突き立てるは曲針、鼻くそ火力だがデンジャースキルによってコンボ数の二乗が火力になるので関係ない。


「ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!小人風情が……!』


 うなじからしっぽの先まで滑るように切り続ける。本来ならば地に足をつけて走るため、コンボ受付時間に間に合わずに途切れるが、今の飛翔速度ならばかなりのコンボ数まで跳ね上がる。


 しかも多段ヒットしまくるせいで低確率なはずの曲針の状態異常付与が連発し、奴は麻痺ったり毒ったり、寝るけどすぐにダメージで起きたりと、多分本来想定していないバグった挙動になってしまった。


「悪いな運営!!調整頑張ってくれ!!抜け穴見つけちまったわ!!」


 しっぽまで切り裂き続けて世界記録更新の一一七ヒット、道化師の戯言によって多分とんでもないダメージが出たと思う。厳密には違うが一撃である。多段ヒットだけど一撃で変わりないと思う。


「…………」


「なんだよチョコ!その目はよ!!勝ったんだぞ!?喜べよ!!」


「そういうことするから定期メンテナンスの時間が延長になったりすんのよ!」


 congratulations!!の文字と共にユニクエのシナリオの締めに入った。結論から言うとトゥルーエンドっぽい。クリア評価はSランクであり、エンディングのためか強制的に俺達は女王の城まで転送された。


「まさか本当に機侵竜を打ち倒すとは恐れ入ったわ。代表として礼を言うわね。それから……最初は酷いことをしてごめんなさいね」


「おー、楽しかったよ。また来るから達者でな」


 報酬が楽しみで仕方がない。未発見のユニーククエストだし、恐らくはチョコやマリカのような経験者も同じだろう。ミラージュエゴから帰るため、女王とアリスについて列車の乗り場へと向かう。


 歩いて向かうのかー、たるいなーとか考えていたら飛翔して向かうようだった。激闘?の余韻に浸りながらも飛ぶこと数分、ファンシーな装いのホームへと降り立つとあの道化師も待っていた。


「やぁ英雄、お見事だね」


「見送りに来てくれたのか?」


「世界を救ってくれた英雄のお帰りなんだよ?当然さ」


 真夜中のホームへと一台の列車が辿り着く。アリスや女王、道化師、そして手足のついたトランプの住民やその他まで、大勢のNPCに見送られながら俺達は列車へと乗り込んだ。


 走り出した列車と共にアナウンスが響く。お待ちかねのクリア報酬タイムだ。ちなみにメソリタルバースからレア泥はなかった。あいつも星七のウェポンを落とすが稀なものだし仕方ない。


「さてさて報酬は……」


「私も見る!」


 眼前へと出現したリザルト画面、その内容に俺達の時が一瞬止まったような錯覚になった。まさかの☆七ウェポン泥。アホ面のままコロネと向き合い、またリザルト画面を見てはを数回繰り返した。


「「星七だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 コロネと叫びながらハイタッチした。一度のユニクエから星七が二個出土するなんてとんでもない事だ。大体の武器はシリーズがあり、チョコが手に入れた『真紅の鏡杖』ならば真紅の〇〇のように他の武器種も落ちる。だが驚いたのはそれとは別のシリーズ物が出たから。


 『鏡国の執剣(しっけん)』、恐らくはこのユニクエのクリア報酬だと思われる。武器種は片手剣、ほぼ全員が使用しているためかなりありがたい。特に非効率の館メンバーならば誰の手に渡ってもチーム火力が上がることは間違いない。


「もう一度言うが恨みっこなしだからな!!今度こそ俺が勝ちと――」


 負けました。一瞬俺のところでルーレットが止まったんだが、フェイントを入れた後に隣のコロネの方へと巡った。見えない概念にぶち切れそうになったが、この場合は運営に文句を言えばいいのだろうか。


「やったやった!わーい!初めての☆七だよ〜!」


「まぁ嬉しいわよね。おめでとコロネ」

「おめでとうコロッち〜!」

「めでたいな!」

「おめでとうですわ」


「いいなぁ……おめでとさん。チョココロネコンビにはこれからもバリバリ働いてもらわないとな」


 そのまま列車の移動中にダンジョンからの退室選択が出てきたため撤収。マリカはどうやらちょうど仕事が入ったらしく解散に。そのまま俺達も館に飛んでも良かったのだが、どうせならばコロネの手にした固有ウェポンスキルを見てみたい。


「コロネ、せっかくだし固有ウェポンスキルを見てから帰らないか?」

「私も同じこと考えてたわ。いいでしょ?コロネ」

「私も見た〜い!コロッち〜」


「いいよ!でも洞窟から出ないとここらへんは敵少ないかな?」


「ちょうどいいやつがここにいるじゃん」


「む?レイ!!なぜ俺の首根っこを掴むのだ!」


 コロネのレベルは四十一、ハザマは五十一、固有ウェポンスキルの倍率を知らないが、流石にレベル差一〇ならばワンパンはないだろう。半減だしな。


「え、えっと……?いいのかな?」


「いいよな?ハザマ」


「なんの話しをしているのかさっぱりだが……?まぁいいんじゃないか!はっはっは!!」


 若干困った様子のコロネだったが、少しスキルの概要を見た後に構えた。胸の高さで握られた柄、蒼黒い刀身は剣先がやや下がるように構えられ、まるで刀身を眺めるように始まったムーブアシスト。


(硬直長いな……あっ、やばいかもしれない――)


 剣を眺めるようなムーブアシストに三秒、そこから頭の高さで水平に両手持ちで構えて更に三秒。『秋月』の絶刀終月よりも長いタメは本当にやばいと思う。断言する。これはロマン砲であり、多分ハザマは死んだ。


「――『ディキャパティエッジ』」


 固有スキル名を静かに口ずさんだ後コロネが消えた。目で追えない速度でハザマの背後にまで駆け抜けており、しゃがんだ姿勢のまま片足だけを伸ばして勢いを殺すように滑走していく。


 いつの間にか順手で持っていたはずの片手剣は逆手持ちに変わっており、無駄にスタイリッシュなムーブアシストに口角が上がりそうになった。だがその次の瞬間だった。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「ハザマァァァァァァァァァァ!?」


 絶えず見えない斬撃が遅れて何重にも刻み込まれ、まるでマシンガンに撃たれているかのようにハザマが震える。だが恐れていた事は起きずに済んだようだ。パーティーを組んでいるので体力が見えるのだが、ハザマの体力がほんっっっっとにミリで残ってた。


「し、死ぬかと思ったぞ!?いきなり何をするんだ!!バカなのか!?」


「ご、ごめんね!?こ、こんなに強いとは思わなかったから……!」


「俺も悪かった……まさかロマン砲タイプのスキルとは思わず……」


 半減で瀕死まで追い込むってやばいな。威力で言えば体力も消耗する絶刀終月の方が上だろうが、上手く使えばかなり強力なスキルになる。これはコロネにも不屈の怨恨を取得してもらい、終盤のラッシュにも参加してもらった方が良いだろう。


 そして俺が言うまでもなくチョココロネコンビは星七装備を取り外し、急いでイモータルポーチへと封印した。そう、俺達はしばらくダンジョンにいたが世界は今や世紀末。十周年イベント『女神の涙と祝福』によって武器と金さえ落としてしまう。


「館に一旦帰るか」


「分かった!」


「うむ!俺は一度飯落ちさせてもらおう!!さらばだレイ達よ!!」


 ハザマにも別れを告げて転送した。ユーフィーの迎えと共にようやく一息つける。星七の出土も相まってアドレナリンの過剰摂取である。流石に三人にも疲労の色が見えるが、それでもログアウトしないあたりこいつらもアストラ中毒者だ。


「そう言えばレイ、あんただけ間で別行動取ってたじゃない?その時の映像も欲しいから、忘れないうちに直近のプレイ映像を保管しておいてくれる?念の為他のみんなもお願いね」


「動画配信に使うって事だよね?うぅ……私のよわよわプレイを晒すの恥ずかしいかも……」


「大丈夫だってコロッち!!レイっちしか働いてないから!」


 まずい。アストラは直近三時間前までの行動を様々な視点で動画として保管出来る。FPSでもTPSでも可能だが、動画にするならば後者が見やすいだろう。俯瞰した視点で操作キャラを後方や斜め後ろから眺める視点である。


 正直なことを言うとこいつらにはネタばらししてもいいのだが、全国に配信するとなるとそれは困る。霊峰クラスのクランでもない限り、ゼロの名に釣られた悪い野次馬にコロネ達が巻き込まれかねない。歩いてるだけで面白半分に狙撃されるなんて日常茶飯事だ。


「……動画の件は了解だな。ところでさお前ら、もしも俺が――」


「――霊峰の御剣リーダー、フォルティスだ。レイはいるか?」


 なんともタイミングが悪い。ゼロの姿は映せないからネタばらししようとしたら、突然厄介なお客さんが来てしまった。窓の下からユーフィーが指を一本立てており、フォルティスは単騎で来たのだと察する。


「一人かよ。物騒なイベント中だってのに無防備だな?自信の表れかぁ?嫌味ですかぁ????」


「そんなことはどうでもいい。ヒントをくれ」


 主語が少ないヤツ大嫌い。焦っているか手詰まりなのかは確定だが、やつの口から出てきたのは『岩封の麦穂』についてだった。なんでも、流出した俺の映像と考えうる限り同じ条件でも解放の兆しが見えなかったらしい。

『斬撃』


切断属性を有する攻撃のこと。その名の通り切り裂く性質を持っており、切り裂き続ける事でコンボ数を加算させ続けることが可能だ。


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