四十八 真紅の鏡杖
道化師の問いかけにアナウンスが選択肢を渡してきた。イエスオアノーの選択に間髪入れずにイエスと答える。さぁ仕上げだ。法液の効力によって再び覚醒したレイで立ち上がり、本体の女王を見据えてやった。
「レイっちおかえり!!すんごい速度でウィークポイントが出てくるけど……!これ殴ればいい――」
オレンの問いに答える前に不可視な境界線が砕け散った。見えはしないがガラスが砕けるような音が響き渡ったのだ。直感で分かる、恐らく奴を保護していた防御壁は取り去った。現に烈火の女王も驚いているし、ならば後は殴るだけだ。
「私の祝福を……っ!よくも!!」
「たたみかけるぞ!!」
「恐らく割れましたのね!『不屈の怨恨』……っ!」
「不屈の怨恨」
マリカに続いてチョコもデンジャースキルを起動して全員でラッシュをかける。コロネやオレンは持っていないだろうがハザマもだろうか。俺も続いて行かせてもらう。
「『星屑の黎明』……行くぞ女王様ァァァァァァァァァァァ!!」
人型の敵の場合、確定会心となる急所は頭と首、そして胸が多い。このデンジャースキルは会心以外はダメージが発生しない。だが前回使用して分かったことがあるのだ。
こいつは確かに会心じゃなければダメージは出ないが、内部コンボ数は加算される。すなわち、連撃さえ切らさなければ上昇する会心ダメージを維持しながら、一気に急所へとたたみかける事が可能という事だ。
「非効率の館を舐めるなよ女王様ァァァァァァァァァ!!おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら!!」
「続くぜえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!フレアソレイユ!!」
「ハザマもたたみかけろ!!反撃喰らおうが人海戦術でゴリ押しだァァァァァァァァァ!!」
コロネにはざっくりとしか会心のお話しをしなかった。アストラではパーティーコンボ数の半分が会心率として加算され、ダメージ倍率はそのままコンボ数が上乗せされる。
瞬間的だが二〇〇までパーティーコンボ数を積み上げれば確定会心となり、ダメージ倍率はニュートラルの状態から脅威の三、五倍近くまで跳ね上がるのだ。更にはここからまだデンジャースキル等の他の要因でまだ上がる。
「会心エフェクト気持ちよすぎ!!真っ青で草ァ!!」
「レイ様!!少し頭を右に傾けてくださいな!!」
「ほいさ――」
もみあげを掠りながら放たれた光の矢が女王の頭部を撃ち抜き、追従する二十四本の光剣が遅れて突き刺さっていく。星七の弓、『日輪の天弓』の固有ウェポンスキルだ。その名はパニッシュメント、ゼロが愛用していた弓でもある。
雪崩のような猛攻を続けるがそろそろ俺の個人コンボ数の限界が近い。コイツの体力がどれほどかは不明だが、そろそろ沈んでくれてもいい気がする。とりあえず俺のデンジャースキルの都合上、最後に一番火力のあるスキルをぶち込んで下がる他にない。
「ストームスラスト!!」
回転斬り二連撃から着地して切り上げ、そこからまだ繋ぐ。地面を蹴るように飛び跳ねて放つは『ヘヴィースマッシュ』。こいつも回転しながらの叩きつけだが、流石に目が回るのでムーブアシストを解除だ。
曲針を虚空、すなわち内部スロットへとしまいながら麦穂を両手で握りしめてやった。跳躍から両腕で叩き落とす。全身全霊、ダイナミック兜割りでド派手にいこうじゃないか。
「ヘヴィー……っ!スマァァァァァァァァァァァァッシュ!!!!」
ストームスラストの締めによって顎をかちあげていたせいか、綺麗に顔面へとめり込んだ麦穂。一際大きな会心エフェクトが蒼く煌めき、膝まづく女王を見下ろす。ラストアタックだったようだ。
「アタクシが……っ!こんな奴に負けるなんてぇ……」
「congratulations……よっしゃぁぁぁぁ!!クリアだァァァァァァ!!」
『ドロップ報酬をパーティーリザルトに保留します』
「デンジャースキルの反動痛すぎワロタ」
アストラにおいて報酬は二種類あるのだが、一つはクエストクリアに対するクリア報酬。二つ、敵を倒した際にアイテムを落とす固有ドロップ報酬だ。今回はまだクエスト自体はクリア扱いにはなっていないので、これは烈火の女王特有の泥武器という訳だ。
「星七!?えぇ!?マリカ!霊峰って二枚合わせの鏡って知ってる!?」
「いいえ、恐らくは未開拓のクエストと思われますわ」
最前線のクランが未開拓ということは、この星七武器はアストラ界では一本目ということになる。その他のレアリティならばどうって事はないが、星七の新発掘となればそれはヤバい。語彙力がなくなるくらいヤバい事になる。
「や、やややややややばくね!?」
「お、おおおおおおおおちおちおち落ち着きなさいって!」
「チョコだって震えてんじゃねぇか!?ヤバいヤバい!!ヤバみがやばい!!」
落としたのは星天級ウェポン『真紅の鏡杖』。両手で使用する大杖であり、その固有ウェポンスキルはイレイザーに対するバフ効果。スキル発動から一分間、イレイザーの防御時に発生する魔力消費が倍になる代わりに、近接攻撃を除く全ての攻撃を反射するらしい。
「ぶっ壊れね……あ、でも流石に反射した攻撃の威力は半減しちゃうみたい」
「それでもやべえだろ……」
「レイ!どうする?誰のものにするか……仲良く決めたいな〜?なんて……」
「アテクシに勝つほどの腕前!いいわ!認めましょ――」
「ちょっと黙ってろ女王!!今いいとこなんだよ!!」
レア泥にてんやわんやしてる中ストーリー進行しそうだったので吠えた。コロネの言うようにこの星七杖を誰のものにするか、恐らくみんなが俺を見ているのはリーダーであるからだろう。
「……恨みっこなしだ。抽選でいくぞ」
「レイ様!?わ、私やそこの類人猿はそちらのクランには属しておりませんのよ!?さ、流石にそれは居心地が悪いですの……」
「……てかマリカ、なんかお前キャラ変わってね?」
「わたくし心を入れ替えましたの!これまでの無礼をお許しくださいレイ様ぁ……!」
鳥肌がヤバい。全身全霊で挑んだが故に、恐らく動きでマリカにバレた。だが変態のくせに妙に頭が良いのか気遣いも出来るやつだ。俺がゼロの身分を隠している事を考慮し、あえて直接的な言い回しをしてこないあたり変な恐怖を感じる。硬直しているとチョコが。
「マリカさんはゼロさ……ごほん!ゼロ様に憧れているらしいし、あんたがその領域に片足突っ込んだ動きを見せたことで認めてくれたんじゃない?」
「ソ、ソウナノカー」
「その通りですわ!さぁさ!わたくしと類人猿は構いませんので、非効率の館で抽選してくださいな!」
確かに従来のクラン攻略ならばマリカのやり方が常識なのだろう。だが俺は別にクランにそこまでの組織感というか、厳しい取り決めなんかを設ける気は無い。どうねじ曲げたってこの烈火の女王に勝つために費やした情熱、それは非効率の館だろうがそれ以外だろうがみな等しく同じだ。
「……いや、全員で抽選だ。もしマリカに当たったら霊峰に言いふらしてもいいぞ」
「いけませんわ!星七を落とすユニーククエスト……!それだけでどれだけの取引が可能かご存知でしょう!?この先レイ様が率いるクランの繁栄のためにも――」
「――抽選ルーレットぉ!スタァァァァト!!」
パーティーリザルトと呼ばれる一時的に報酬を保管するスロットから、野球ボールサイズのミニマム真紅の鏡杖が飛び出した。円を組むように集まっている俺達の頭上をクルクルと浮遊し、数回転した後にそれは巡るべきプレイヤーの手元へと、実寸サイズへと変化して落下したのだった。
「わ、わたし!?」
「チョコおめでとう!!」
「チョコっちおめでと〜!得意武器じゃないけど羨ましい〜」
「めでたいな!!」
「おめでとうございますですわ」
「……お゛め゛て゛と゛う゛」
負け申した。欲しかったよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。かっこつけて抽選とか言ったけどさ、本音を言うなら俺だって欲しかったんだよ。いいなぁ、かっこいいなぁ、羨ましいなぁ。
「な、泣くくらいならあんたが貰えば良かったじゃない!ほとんどあんたの貢献だったんだから……は、はい」
「いやいい。レアアイテムは巡るべきプレイヤーへと巡るもんだ。本音を言うなら欲しかったけど、そいつがチョコを選んだんなら文句はないよ。どうしても欲しいならまた来ればいいし」
「かっこつけすぎよ!そもそもリーダーより良い装備してるなんていたたまれないわ!ほら持って……っ!力つっよ……っ!」
「HA☆NA☆SE!!それはチョコのもんだ……っ!」
「……あ、あの、アタクシの話を再開してもいいかしら」
すっかり女王の事を忘れていた。アイテム抽選も終わった事だしユニーククエストの再開とする。女王が言うにはこの舞台は白と黒の世界によって均衡が保たれていたそうだ。神の言う破壊とは、ただ世界を物理的に壊す事を示すのではないらしい。
「神が寄越した使いはこの世界を黒く染め上げようとしたの」
「よく分からんが黒の世界推しなのか?神様ってやつは」
「違うわ。他の色と隣合うからこそ、黒はその形を他者へと認識させられる。アタクシ達の魂には輪郭がない、肉体という器を持って初めて認識されるの」
「スキップ機能ない?難しいんだけど」
『初のシナリオのためスキップ不可です』
要約すると、魂の世界も白の世界も、無差別に黒く染められてしまえば全ての生物が個として機能しなくなるらしい。それを世界の破滅と烈火の女王は比喩し、鏡の力を持つ王と契約を結んだそうだ。
「黒の王とアタクシは契約を結び、鏡の力を手に入れた。あなたのせいで黒の王の魂とは乖離させられたけどね」
「それはサーセン。それで?」
「それは同時にこの世界を覆っていた鏡のカモフラージュも解けてしまったということになるわ。遅かれ早かれ……使いが来る」
『選択肢を選んでください』
神の使いを倒すか否か、念の為みんなの顔を見渡したが言葉にするまでもなく満場一致。勝つ気でやるつもりだが、流石に竜を相手にするとなれば負ける可能性の方が高い。だがもう手土産は手に入ったんだ。勇ましく挑んでやろうじゃないか。
「任せろ女王、俺らが返り討ちにしてやる」
「……アタクシを負かしたあんたらなら、期待したくなるわね」
イベントの進行によって俺達は体力と魔力が全快した。城のテラスへと案内されたあと、空へとかかる虹の道を歩んで天空へと向かうそうだ。最後に向かうはメルヘンワールド特有の雲の足場だ。
『ハーフエルフ』
エルフともう一つの異なる種族の混血。忌み子として嫌われている傾向にあり、エルフともう一つ、それぞれの長所と短所を併せ持つ。
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