表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/110

四十七 ギミック突破の鍵


 後衛であるコロネの近くまで駆け寄った後、手短に意識が持っていかれるから守ってくれと伝えた数秒後の事だった。予想していたように俺の意識は再びゼロのいる鏡の世界へと移り変わり覚醒する。


「さて……どうしたものか」


 玉座に通じる開きっぱなしの大扉、そこから見た様子では烈火の女王【影】は不動。そして恐らくこちらと向こうは同じように時が流れており、あまりこちらでモタモタしているとアイツらが全落ちする可能性もある。


 経験上ここまで戦闘フェーズに入ってしまうとNPCからの助言もあまり期待出来ないだろう。ヒントは大きい戦闘前まで、これはどのゲームにも通じて言えることだと思う。そして同時に攻略の糸口も外にはない気がする。


(ここに来て外部に探索要素を置くだろうか……わざわざ表裏の世界で戦わせるって事は、多分そこに攻略のヒントがあるよな……?)


 全然自信なんかない。完全制作側の心理を読み取るメタ推理だし、最早なりふり構っていられない手探り攻略だ。まとまらない考えの中大扉を跨いでボス部屋へと進む。すれ違いざまに道化が。


「白と黒の世界は互いに少しだけズレている……」


(NPC特有のひとりごと……とりあえずやるか)


 道化の前を通り過ぎてボスへと歩み寄る。一定の領域へと踏み込んだ瞬間、掲げられた右手と共に漆黒の斬撃が飛び交った。当たってやるつもりは当然なく、前方へとフレーム回避ですり抜けながら距離を詰めてやった。


(やっぱり近寄ると無差別な全範囲攻撃が――)


 感じたのは異変。連なる鱗のように迫る幾重もの斬撃に変化があったのだ。馬鹿みたいに左右に回避を連打する他に避ける手段がなかったはずが、奴の前方だけ斬撃の弾幕が薄くなっている。この程度ならばなんとか前に詰めて攻撃が可能だ。


「それでも……っ!要求されるプレイヤースキルが頭おかしいだろ……っ!!」


 無口で無表情な烈火の女王【影】へと更に詰め寄った。繰り出すは突撃型の回避スキル、ドロップアサルト。数が少ないだけで、それでもやはり詰めるには斬撃の数が多い。最早弾幕シューティングゲームと化したボスへ、俺は斬撃をフレーム回避ですり抜けながらバク宙した。


「怯みもしないのかよ……っ!!」


 バク宙によるサマーソルトを顎へと叩き込んだが怯まない。だがダメージエフェクトはある。間髪入れずに指向性を持った斬撃が飛んでくるため再び回避だ。だが距離は取らない。超近接、この領分から逃げてはゼロの名が泣くというもの。


「死神の悪戯……っ!スラスト!!」


 どういう理屈か不明だが、避けながら殴れるほどには斬撃の理不尽さが緩和している。回避、攻撃、回避回避攻撃。ゼロ距離で一生粘着してやる。当然ながら死神の悪戯によって四回被弾すれば死ぬ。だがデンジャースキルを使わねば息切れは確定。


 切れど切れど手応えのないダメージエフェクトを擦り付ける作業にヤケクソになった。ガチって連撃の速度を上げ、五分ほど手応えのないやり取りを繰り返す。だがあまりの進展のなさに再び大扉まで下がることに。


「はぁ……はぁ……っ!タフすぎんだろ!一度向こうに戻って情報共有だな……」


 こちらに変化があった以上、白の世界とやらにも変化がある事を願う。というかないと無理。鏡の世界のボスも遠距離攻撃は無条件に無効化、人数がいればどうにかなるとかそんな話しでもないわけで、そもそもダメージエフェクトは出ているが本当に効いているのかさえ分からない。


 扉の横の壁へと背中を預け、片膝を立てて座った。可視化させた法液を手に嫌な緊張を自覚する。否、これは嫌な緊張ではなく高揚感か。誰も知らない、分からない事を真っ先に経験出来ている事は優越感が半端では無い。


「行くか」


 流し込んだ法液によって夢から覚めるようにレイの視界が覚醒する。変わらずに突撃し続けるハザマとオレン、遠距離攻撃を行うマリカとチョコ。そして一番後方で俺を守るようにイレイザーを展開して法撃を放つコロネ、その横へと並びながら状況を聞いた。


「帰ってきた。こっちはどうだ?」


「レイ!全然だよ……全くダメージが――」


  多分コロネも気付いたのだろう。烈火の女王、その一部がテレビの砂嵐のようにざわついた。手詰まりな状況下においてその変化は見逃せない。思考よりも早くに俺はアサルトの撃鉄を起こす。狙うは揺らめく砂嵐となった部位だ。


「小癪な……!!」


「ダメージが……入った?」


「何これ……!?影みたいなシルエットが…っ!」


 チョコの言葉の通り、ハザマやオレンとは別に人型の何かが女王へと張り付いていた。まるで粘着近接特化マンのように、洗練された動きと剣撃によって女王の肌へと砂嵐を次々と残していく。


「ハザマ!!オレン!!その砂嵐を狙え!!」


「了解!!」

「任せろぉぉぉ!!」


「俺も行く!!」


 それにしてもこの人影みたいな奴はなんだろう。動きがキモすぎる。こいつがもしもプレイヤーならば廃人の中の廃人に間違いないと断言出来るほどに、回避から攻撃へと繋がる動きに無駄がない。キモすぎて草も生えない。


(いや待て。このムーブは……)


「レイっち……!!この人影みたいなやつが速すぎて追いつけない!!」


 砂嵐のような部位が発生するのは人影が殴ってから約一秒ほど、しかも殴ったピンポイントにしか発生しない。つまりはこのよく分からないシルエットに追従して攻撃するしかない。だがオレンの言うように動きと連撃が速すぎる。しかも烈火の女王の反撃も考慮しなくてはならないわけで、結局難易度が高いことに変わりは無いのだ。


(これ(ゼロ)ですやん!!鏡の世界でやってたまんまのゼロの動きですやん!!無意識に自画自賛してたぁぁぁぁぁ!!恥ずかしいぃぃぃぃぃぃぃ!!)


「ふはははははは!!この影野郎!!中々にやるではないか!!オラオラオラオラオラオラぁぁぁぁぁぁ!!」


「その影について確信したい事があるから少しだけ前衛を俺に任せてくれ!!」


 本当にこの人影がゼロの動きをトレースしているならば、この次は更に速くなる。何故ならばヤケクソになって連撃のギアを上げたから。そうなると今でさえ追いつけていないオレンやハザマでは手に負えない事態になるだろう。


(向こうは向こうで斬撃をかわしながらやってたとは言え……!女王のモーション事態はこっちの方がアクティブなんだよ!!俺自身がやった動きだろ……ゼロに追従してみろ俺ぇええぇぇ!!)


 右に麦穂、左に曲針、全ての思考回路を人影(ゼロ)と女王へと注ぐ。敵の動きを考慮しながらゼロのつけた傷へと間髪入れずに連撃を追従していく。ステータス的に追いつけないものもあったが、やはりこの影は鏡の世界の俺で間違いないようだ。


「はっえぇ……!!」


「い、今までは本気じゃなかったんだ……レイ凄……っ」

「コロネ!!他のみんなも今のうちに回復しておいて!」

「レイっちやばァァァァァァァ!?なんでついていけてんの!?」

「やはりゼロが認めた男なだけはあるな!!」

「うぅぅぅぅぅ……!あ、あのお方が二人いる……?そんなはずはないのにぃぃぃ!」


「アタクシの力のカラクリを見破ったからって……!舐めるなぁぁぁぁぁ!!」


「脳みそが焼き切れる……!お前ら!!一旦俺は下がる!!こいつの攻略方がおおよそ分かったぞ!!」


 鏡の世界でダメージを与えた部位が白の世界ではウィークポイントになる。だがボスに突入しているため今さら鏡の世界への突入人数は増やせない。白の世界のボスレベルはクエストに突入した時のレベルシンク三十四に合わせているのだろう。俺が移動しても恐らくは烈火の女王のレベルは四〇固定だと推測する。


「その人影は向こうの世界の俺だ!!もう一度行ってウィークポイントを作ってくるから頼んだぞ!!」


「そういうことですの……!分かりましたわ!!類人猿!!あまり突っ込むんじゃありませんの!!」


「あと定期的に法液を飲めよ!」


 俺に付与されている二重効果の法液、小人解除とゼロが飲んだ転移効果。その転移の効力を解除する。入れ替わった視界が開き、再びゼロの体で立ち上がった。掴んだ勝利の糸口、個人技だろうがなんだろうが勝ってやる。


「行くぞ……烈火の女王」


 ゼロの小さな体が麦穂と曲針を手に疾走した。攻略の道筋が見えたならば後はなぞるだけだ。死神の悪戯の効力が切れたため先程のようにはいかないが、十分ほどは切り刻んでやる。


 スラスト、アサルトストライク、シャープネスストライク、全盛期と変わらない超近接による粘着連打。スタミナと相談しながら時に後方へと下がって息継ぎを挟む。そうした一連の流れの中で転機が訪れたのだった。


「麻痺ったか。ついでに毒も入ったな女王」


 十秒ほどカカシになったためハイギアで連撃してやった。もう十分だとダメ押しにたった今習得した片手剣スキルをぶち込んで撤収する。『ストームスラスト』、月輪と同じくして身を回し、高威力な二連撃を放った後に切り上げるスキルだ。


 今更だがこのゼロはレベル六〇だが本垢のゼロとはやや仕様が違う。本来ならば習得していたはずのウェポンスキルを覚えておらず、全てがレイに合わせたものになっていた。だが中には突撃回避のようにレベル解放によるスキルは使える。ガチで攻略するならばそこらへんもはっきりさせた方がいいだろう。


「ストームスラスト……からのシャープネスストライク!!」


 回転斬り二連、着地から折り返した切り上げ、更にスキルリンクによってCTが回ったシャープネスストライクを喉へと突き刺してやった。硬直の解除と共に敵の麻痺も解けたので、バックステップと回避スキルによって斬撃をかわしながら後退一択である。


(十分だろ。戻る)


 大扉まで後ろ向きに歩いて警戒していたが、どうにも烈火の女王【影】の様子がおかしい。どれだけ攻撃しても怯みもしなかったくせにふらついているではないか。こちらの女王はどう足掻いても絶対に倒せないタイプだと思っていたのだが。


「ひょっとしてあるか……?帰るにはまだ早いな」


 そしてその推測は当たった。連撃の嵐によってついに烈火の女王【影】が膝から崩れ落ちたのだ。そしてその姿形がモヤのように揺らめき消えていった。後方より送られる拍手と足音、道化師が賞賛の言葉と共に。


「お見事だよお姫様。倒せないはずの敵を打ち倒した偉業、賞賛に値するね!さぁ後は本体を説得しよう。だがその前に……」


「その前に?」


「神の使いと戦うとは神に抗うに等しい行為だ。改めて問う……君にその覚悟はあるかい?」


 そんなもの考えるまでもない。狙うはトゥルーエンド一択、俺は対人戦もダンジョン攻略も全てにおいて全力で楽しむ。ならば達成すべきは最高のエンディング以外にありえないだろう。


『調理』


食材と道具、炎があればどこでも調理して食事を作ることが可能だ。練度に依存するが、中には特別なステータス恩恵のあるバフを得ることも可能であり、上手く活用することで戦闘を有利に運ぶことが出来る。


Now loading…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ