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四十六 分岐路


 怒りを隠す気もなかった烈火の女王だが、どうにもこちら側の世界ではその限りではないらしい。無表情、それでもピリつくような圧力は変わらずだ。臨戦態勢に入ると同時にアナウンスが。


『烈火の女王【影】との戦闘を行いますか?』


「……Yes」


『レベルシンク六〇、戦闘を開始します』


「っ……!!」


 動き出した烈火の女王から漆黒の斬撃が無数に飛んできやがった。向こうと比べて可視化しているため避けやすいが、流石に飛び道具連発はだるすぎる。しかも体はゼロだが武器種がレイで選んだものと同じだ。


(麦穂と曲針……三つ目はアサルト…………火力武器なさすぎだろ)


 分かってはいたがいくらゼロでもこのラインナップでは時間がかかる気がする。しかも初見の敵、下手をすればこっちが落ちるまである。まずは観察して敵のモーションを頭に叩き込む。


「おっと……!」


 斬撃をくぐり抜けて一発かましてやろうと思ったが、全範囲に放つ類の攻撃モーションもあるみたいだ。右手をかざした指向性を持った斬撃、そして同じく右を天に掲げて全方位、どれもかれもモーションが優秀すぎやしないか。


「攻撃どころか近寄れない……詰んでるって…………」


 道化師が。


『まずは向こうに戻って烈火の女王の本体と話しをしてみよう。彼女はそう頭が固い人でもないし、『解呪の法液』を飲めば向こうに戻れるはずだよ』


「最初に言えよ……!とは言えこいつの攻略方法が分からないしな……っ!」


 道化の提案に乗る他になさそうだ。烈火の女王【影】とやらも、敵としてはおかしい気がする。まるで近付いてこないし、一定範囲離れてしまえば追いかけてもこない。最後に銃を試してから帰るとする。


「……銃は特殊な盾でガードね」


 いくら発砲しようがアサルトの弾が届くことはなかった。掲げた左手、その先に展開する白い光の壁に全て阻まれてしまう。飛び道具無効に無理ゲーすぎる優秀な攻撃パターン、これは間違いなく力技では攻略できないタイプのボスだ。


 以前に挑戦した『忘れ去られた海底』と同じくして、何かしらの糸口を掴まなければ勝てない仕様。ヒントを得るためにも俺は大扉の近くまで後ずさり、影で『解呪の法液』を使用した。まるで夢から覚めた時のように、目を開けた先にコロネ達が映り込む。


『パーティーに合流したため、リーダーの権限が戻ります』


「レイ!!良かったぁ……全然起きてくれないから心配したんだよ!」


「ここは……?」


「コップの中だよ……あの後捕まっちゃって、小人の私達はそのままここに放り投げられたの。私達を捕まえた兵士が言うには、ここは玉座の間らしいけど……」


「なるほどな……俺は鏡の世界とやらに行ってた。そこで出会ったNPCに言われたんだ。女王を説得してみろって」


 マリカが。


「そういうことですの。あなたが意識を失ってから少しした後、クリア条件が変更になりましてよ。だからあなたは意識を失ったのではなく、別のエリアに行ったんだろうとみんなで推測してましたの」


「そう!だから一応リーダーを私が預かったんだけど、クエストからは出ずにここで大人しくしてた」


 俺が向こうにいる間にもこちら側の世界の時間は進んでいたようであり、捕まったというのに何もされていないならばまだ女王は来ていないのだろうか。その答えを教えるかのように、俺達のいる空間へと扉の開く音が木霊する。


「異業種の痴れ者が……!ようやく捕まったか」


「おーい、烈火の女王様〜 話しを聞いてくれないか」


「話すことなど何もないわ!!即刻首はねだ!どれから行く――」


「――道化師から紹介状を預かってる」


 その言葉に女王の手が止まった。睨むような、疑うような眼差し。だが関心はあるのか、俺達を雑にコップから解き放ちやがった。こちとら小さくなってんだ、もう少し丁寧にひっくり返してほしいね。


「いてて……!」


「見せてみよ。その紹介状とやらをな」


『トランプの紹介状を渡しますか?』


 もちろんYes。小人サイズだったトランプが転送と共に粒子に変わり果て、女王様に合わせたサイズで向こうへと渡った。まぁゲームの世界だし、細かいことは気にしないことにする。


「……本物だな。あの道化はなんと言っていた?」


「あんたを説得して欲しいって、後は化け物とやらの話しを聞いたな」


「……機侵竜(きしんりゅう)だ。貴様らごときで奴を倒せるとでも言いたいのか?」


「機侵竜ぅ!?」


 機侵竜メソリタルバース。アストラで最強格の竜様の一匹であり、ファンタジーと近代兵器を混ぜ合わせた機械仕掛けの武装竜だ。竜の癖に炎と雷以外の法撃は使わず、身につけているクソデカ機関銃や背中に取り付けたロケランとかを乱射してくるヤバいやつ。


「我々の世界は作り物らしい。そしてどうやら神の定めたシナリオから外れた我々は、処分という名の破壊を強いられることになった」


(あっ、これ話しがクソ長いやつだ)


 シナリオ的には神の怒りを買った鏡国ミラージュエゴは、最強格の竜様によって世界の盤上そのものを壊されかけたそうだ。ゼロで動いた世界と今いるこちらの世界、元々争いあっていた二世界が手を取り合うほどに問題らしい。


「白の世界と黒の世界、その架け橋となったのが私だ。貴様達があの忌々しい竜を倒せると言うのならば、私にその力を見せてみろ!」


「……烈火の女王との戦闘フェーズか。こちらが選択肢を取るまでは戦闘にはならないみたいだし、一回お前らにも方針を聞いておくか」


「どうする気ですの?この後にメソリタルバースともやり合うことになればまず無理ゲーですわよ」


「だよなぁ……たった六人で竜を倒せるかよ」


「ほっほっほ!!ゼロ様は狂犬と二人でゲリュンヒルデに勝ちましたけどね!!」


「なんでお前が誇らしげなんだよ……」


 チョコが。


「いけるところまでやってみない?どうせマルチエンディングなんだし、選択肢を知れるのは大きいと思うわ」


「だな。勝てるとか勝てないとか、そんなものは実際に対面してから考えよう」


 解呪の法液を全員が一斉に飲んだ時だった。多分俺だけ別のアナウンスが聞こえてる。その内容は独立した二重の法液の効果だ。向こうの世界で飲んだものが残り十分と少し、そして今飲んだものは別途でカウントダウンが始まっていた。


(……あ、絶対めんどくさいやつだぁぁぁぁぁぁぁぁ!)


 恐らく最初の効果が切れたら俺は強制的に向こうの世界に意識が飛ぶ。しかも烈火の女王とやりあうにも奴に攻撃は通じなかった。つまり、これは高確率で表裏エリアによる同時攻略が必要なタイプだと推測する――


『烈火の女王との戦闘を開始します』


「お前ら!!多分俺はあと十分でまた意識が持っていかれる!!とにかく無理はせずにモーションを覚えろ!!」


「突撃あるのみぃぃぃぃぃぃぃ!!ドロップアサルト……!ゼロ式ぃぃぃぃぃぃぃ!!」


「話しを聞けよバカァァァァァァァ!?」


 多分ハザマは戦闘狂なんだろう。これまであまり戦闘がなかったせいか突撃隊長の如く突っ込みやがった。しかも全然なってない、ゼロ式とか叫ぶのほんとにやめろ。お前のはただバク宙しながら突っ込んでるアホなんだよ。


「ハザマぁぁぁぁぁぁ!?」


「手応えがないぞ……!!なんなんだコイツは!!」


 ただのサマーソルトはやはりなぞるような手応えしかないようだった。やはりあの見えない何かをどうにかしないとこちらの攻撃が一切通じない。鏡の世界で何かしらするんだろうが、向こうは向こうで手に負えないし、本当にどうやって勝つんだよこれ。


「どきなさいな!!類人猿!!」


「危ないなぁ!?」


 マリカの弓による援護射撃、ハザマの髪の毛を掠ったそれもやはり見えない壁に阻まれる。アリスに聞いたらヒントとかくれないかな。女王は祝福されてるとかなんとか言ってたが、そこに解決の糸口があるはずだ。


「アリス…!あいつの祝福って誰からの?」


「……黒の王様、機侵竜に対抗するために…黒の王様は魂と力を烈火の女王様に預けたの」


 道化師も言っていたな。魂を解放する方が先とかなんとか。だがそれどころではない。無敵の膜を持ってる上に詠唱を始めやがった。漂う紅の粒子と魔法陣の規模からして上級爆裂は濃厚、問題はバーストかそれ以外か。


「全員イレイザーをはれ!!!!」


『プロミネンスレイン!!』


「俺は杖なんて女々しいものは持たぬ!!」


「お前ほんとに馬鹿だろ!!クッソ……っ!!」


 降り注ぐ炎の雨の中、大急ぎでハザマの近くへと行ってやった。だが助けてやろうとしたのにこのバカは曲刀を抜刀の構えのまままた突っ込みやがった。いくら攻撃しても無意味だと分からないものなのか。


「うおおおおおおおおおおおお!!陽閃固有ウェポンスキルぅぅ!!」


「おま……!それCT長いからまだ使うなって――」


「『フレアソレイユ』!!!!」


 『フレアソレイユ』


 ☆七である曲刀、陽閃の固有ウェポンスキルだ。コンバットチェインは必要なく、発動時に強制的に抜刀攻撃を行う。その後は刀身を鞘に収める、もしくは一分が経過するまでは特殊なバフを得る事が可能になるスキルだ。


 なんとこのスキル使用後は他の抜刀スキル、すなわちコンバットチェインを要求されるウェポンスキルに対してその制約が消える。曲刀の抜刀スキルはコンバットチェインという制約があるおかげで全て倍率が高く、一分という制限はあれど強化版片手剣のように扱えるというわけだ。


「お前やっぱり馬鹿だろ!!攻撃が通じないんだからそのスキル切っても無意味なんだって!!」


「俺には難しいことはわからん!!うおおおおおおおおおおおお!!!!」


 繊月、眉月(まゆづき)十六夜(いざよい)暁月(ぎょうげつ)、普通の曲刀ならばありえないスキルリンクに引き攣ってしまった。良いかハザマ、曲刀はそんな下品な使い方するものじゃない。研ぎ澄まされた刹那に殺意を凝縮し、コンバットチェインを使って素早く上品に倒す武器なのだ。


 本来ならばそのどれもがかなりの威力を有するはずだが、やはりあの見えない壁には通用しない。そして俺のタイムリミットも近づいてしまった。鏡の世界に意識が持っていかれてしまうはずだが、そこで何も手がかりをつかめなければ俺達の攻略は失敗に終わってしまうだろうな。

『奪掠』


アストラの全てのアイテムには内部ステータスに所有者が記録されている。現実世界の時間で一ヶ月以上他人のものを所持、装備、保管をした場合奪掠者とする。


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