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四十五 二枚合わせの鏡

四葉飯です。お盆期間中更新日時が19時頃になります。毎日更新は続けるのでぜひ引き続き読んでください( . .)"

↓↓↓以下本編


『二枚合わせの鏡、再開します』


 ユニーククエストへの再突入と共に、俺は『解呪の法液』を使用した。使用者は体が大きくなり周囲の造形物と釣り合ったサイズへと変化する。小さい体では届かない机の上や棚の上など、この変化を利用した謎解きの開始だ。


「マリカ、悪いけどマッピング頼めるか?」


「さんを付けなさいな」


 皆も法液を使用するのを確認しつつ、特別迷路のような地形は感じられないが念の為マッピングをマリカに頼む。初期リス地、その部屋の扉を潜った小さな家の向こう、そこにはメルヘンなテーマパークのような光景が広がっていた。何よりも目を引いたのは行き合う生物達の姿だ。


「うわぁ〜!すっご……」


 コロネは口にしたが皆も同じ感想だろう。兎や猫達が服を着て人間のように二足歩行で歩いているんだから。だがそんなコロネの声に反応した『ミラージュエゴ』の住民が悲鳴を上げたのだった。


「いやぁぁぁぁぁぁ!?異業種よぉぉぉぉぉ!!」

「逃げろぉぉぉぉ!!」

「なんで異業種が……っ!?」


 蜘蛛の子を蹴散らすようにNPCらしき亜人達が逃げていった。そして俺の胸ポケットから顔を出したアリスが。


「女王様が来るかも……」


「女王さ――」


 疑問符を打つよりも早く、もみあげから数本髪の毛を切断されながら何かが通り抜けた。背後には頬に傷を負ったハザマが驚愕の表情を浮かべており、見えない斬撃か何かが通り過ぎた事を示す抉れたコンクリートが視界に映り込む。


(なんだ?敵……?)


「アタクシの縄張りで異業種が堂々としているなんて……!あんたら一体何様かしら!!名乗りなさい!!」


「……レイだよ。あんたは?」


「下級生物に名乗る名前などないわ!!今すぐ立ち去るならば命は見逃してあげても良くてよ?ほら三、二、一――」


 赤い髪の毛が炎のように逆立ち、奴のカウントがゼロになると同時に空間が一部歪んだ。不可視な斬撃、それらを半ば勘でかわす。そして接近してスラストをぶち込んでやったがどうにもおかしい。まるで見えない壁に阻まれたかのように刀身がなぞるだけで終わってしまったのだ。


「は……?」


「痴れ者が……っ!首をはねろ!!」


「あっぶね……っ!!アリス!!なんで攻撃が通らねぇんだ!?」


「女王様は祝福を受けてるから……逃げた方が良いよ」


「ギミックのあるボスかよ…!お前ら!!逃げるぞ!!」


「待ちなさい!!異業種!!」


 迫り来る不可視な斬撃、空間を押しのけるような推進力を持っているためか大気が歪む。直接見えなくともその歪みによっておおよそのヒット判定は識別可能なようだ。そして奴の無敵ギミック、その解除は総じてボスの根城だって俺の経験則が言ってる。


 殿を引き受けながら後方の女王様へとアサルトを乱射し、俺達は巨大な城へと突入してやった。もちろんあいつの手下もいるわけで、大騒ぎになりながらも『解呪の法液』の効果を解除して物陰に隠れて息を潜める。


「なんなんだよあのトサカレット……!気性荒すぎだろ」


 コロネが。


「クリア条件は脱出だったよね?そもそもミラージュエゴからの脱出ってどうやるのかな?」


「手探りだな。とりあえず兵はどっか別のとこ行ったみたいだし、小さいまま移動して探索してみようぜ」


 とはいえ小さいが故にフィールドが広大すぎる。本来なら数秒あれば渡りきれる廊下が、地平線の広がる砂漠のように思える。法液も個数制限がある以上、手がかりがない今無駄使いは得策ではない。


「ここ開いてますわよ」


「お?はいってみっか」


 マリカが促した部屋、僅かに開いていた扉の隙間を通って中を覗く。人はおらず、小さな机と椅子、そしてベットしかない殺風景な部屋だった。一つだけ目に止まる事と言えば、落ちて砕けた手鏡だろうか。


「なんだこの鏡?全然姿が映らないんだが……」


「この世界の住民はね、自分の姿を知る事は重罪なの。だから鏡に自分は映らない……でも、違うものなら見えちゃう」


「そういやアリス、大きい時に鏡は見るなって言ってたよな?連れ去られるとか言ってたがどういう意味なんだ?」


「この国では自分の本当の姿を知ることは重罪。だから女王様は鏡の向こうを禁忌とした……見たが最後、永久に抜け出すことはできない牢獄と化した鏡の国に閉じ込められちゃうらしい」


 NPC特有の何言ってるのかわからん状態に入ってしまった。そりゃ世界観ぶち壊すからメタい事は言わせられないだろうけどさ、もう少し情報くれよ。とは言え世界観を楽しむ事もゲームの本質の一つだ。


「一回見てみるか。アリスも含めてみんなは離れていてくれ。何が起きるか全くわからん」


 解呪の法液を使用し、再び巨大化した。とは言えこのサイズの方が周りの造物と合っている。砕けた鏡の一部を手に取り、裏返して見てやった。そこに映るのは(レイ)ではなく、銀髪ロリの――


「レイ!?」


 コロネの声を最後に俺の視界が一変する。ブカブカの衣装とレイより低い視点、それでいてレベル六〇の体の軽さ。客観的に見ずとも今自分がゼロになっていることは明らかだ。


(なんでいきなり本垢に……?しかもなんだ?部屋の様子というか……色がない?)


 先程までいた部屋と造りや配置は変わらないが、全ての物体が白黒だった。手にしていたはずの鏡はなく、床に散っている手鏡の破片へと視界を戻す。鏡を通じて向こうの様子が見えた。慌てるみんなと小さくなったレイ、どうやら向こうの俺は意識がないように見える。


『パーティーメンバーと距離が開いたため、一時的にリーダーを譲渡します』


「なんで突然……これが連れ去られるってシステム?」


『パーティーから外れたため、レベルシンクの設定が変更になりました。レベルシンク六〇』


 初見すぎて本当に何も分からないのでとにかく歩いてみることにした。世界観的には今いるこちら側は鏡の中といったあたりだろうか。メルヘンな世界観に飛び込むユニーククエスト、これらに共通して言えることは常識に囚われてはダメだということ。


(敵どころかNPCもいない……色が抜けているだけで城の内部は変わりないと)


『クスクス……ようこそ鏡の世界へ、お姫様』


「道化師の戯言の……」


 突然壁からすり抜けて現れた一人の女性と向かい合った。どう見てもデンジャースキル『道化師の戯言』のSEに合わせて出現するピエロだ。デンジャースキルのキャラがNPCとして登場したのは初めてで、流石の俺もびっくりした。


「ここはどこなんだ」


『クスクス……言ったでしょ?ここは鏡の世界、いや……こちら側が真実を映し出す正しい世界なのかもしれないね。その謎を紐解くのは君達さ』


「回りくどいって……」


『烈火の女王が牛耳る世界も、色のないこちらの世界も、共通して大切なことは体ではない。そこに宿る魂が本質だろう?けれどここの原住民には備わっていない。異業種とは形ではなく本質の問題。君達はミラージュエゴにおいて異物だ。秩序のために抜け出すも良し、世界を統合しても…………おっと、喋りすぎたね』


「…………」


 マルチエンディングを匂わせているだけあって分岐路が多そうだ。どうやらアリスとアナウンスが掲示したミラージュエゴからの脱出以外にも、このユニーククエストには別の結末があることが確定らしい。だがゲームである以上エンディングの等級は存在するはず。


(トゥルーエンドの方がレアな報酬があるに決まってる……とは言え初見でとれるわけないよなぁ)


『悩むかい?脱出するならば……次の扉が開く前に列車に乗ると良い』


「あんたはどの勢力なんだ?烈火の女王……だったか?そいつの手下ではなさそうだが……」


『クスクス……好奇心旺盛な姫様だね。僕はただの道化だよ。けれど未知に踏み込みたいのならば僕の右手を、秩序を取るならば左を……さぁ選んで』


『選択肢を選んでください』


 ガチモンのアナウンスが入りやがった。ゲームシステムが介入して来たということは、メタいが完全にシナリオの分岐路だ。未知か脱出か、直感で分かることは前者は恐らく高難易度。ならば聞くまでもない――


『右手……取ったね?じゃあ行こうかお姫様』


『クリア条件変更、烈火の女王に実力を示せ。に変更です』


「それで?どこに連れて行ってくれるんだ」


『まずは烈火の女王の説得が必要なんだ。彼女は鏡の力を独占してる。その源になる王の魂を解放してあげないといけない……』


 引かれるがままに連れていかれたのは玉座の間だった。馬鹿みたいに大きな扉が近づいた途端にひとりでに開き、最奥の玉座に座すは一人の男性。まるで寝落ちしているかのようにうなだれ、ピクリとも動かないが生きているのかあれ。


「おいおっさん、生きてるのか」


『生きてはいるよ。魂を烈火の女王に取り上げられているんだ。というより……あの化け物から逃れるために魂を自ら捧げたと言うべきかな』


「化け物?」


『そう、世界を喰らおうとする化け物さ。続きは烈火の女王から聞くと良い。これを見せれば首を跳ねられることはないと思うからさ』


『トランプの紹介状を入手しました。ユニークアイテムのため、このクエスト内部でのみ使用、閲覧が可能です』


 ユニーク専用のアイテム、これらはクエストから出ればポーチから消える。再突入すればまたポーチに入るが、アイテムがいっぱいだとロストするので注意が必要だったりするがまぁいい。そんなことよりどうやってこの世界から出るんだよ。


 そう思っていたら聞くまでもなくヤバいやつが現れやがった。色は抜けているし、無表情だが見間違うはずもない。その姿形はどこからどう見ても烈火の女王以外にはありえなかったのだから。


『大剣』


打撃と切断の二面性を持ちながらも、背負うように押し付ける事で盾としても機能する大型の武器種。重たく扱いずらいが、その一撃は大型のエネミーさえも致命傷に至る。


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