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四十四 自作自演の罪、招かざる客の気配


 非効率の館のSNSアカウントの作成と、動画配信サイトでのアカウント作成、それらの作業に特に時間がかかることはなかった。そして幸いにもレイは良くも悪くもそこそこ知名度が出てきているため、それを使わない手はありえない。


 ちなみにコロネ宅で集まったのだが、オレンは当たり前のように連泊しているそうだ。なんでもノートパソコンさえあればどこでも仕事が可能ならしく、あまりに居心地の良いコロネの部屋から抜け出せない呪いにかかったらしい。


「動画のオープニングとしては、泉の女神やチョコのコアレスを通じて盗撮されたレンカとの戦闘シーンとかを切り取って流すか?」


「今アストラを騒がせてるレイが動画配信始めたんだ的なノリね。自分が強いことを自覚してる人間ってまじでうざいわね〜」


「HAHAHA!それほどでもない。それから、チョコにかましてたコロネの空中コンボも切り取って入れよう」


 一発目の挨拶などは最短で済ませる。というより、オレンがそれぞれのキャラを立ち絵として書いてくれるため、そこに被せてプレイヤーネームをつければそのうち浸透する。


 アストラ自体はかなり有名だが、その分投稿動画の数も多い。インパクトと差別化に緩い感じの立ち絵付きの字幕と解説、OPは魅せプとロマン砲の派手な演出を切り抜いて目を奪おうと思う。埋もれては意味が無い。


「いやぁ、私がそこそこ売れっ子だったらペンネームで集客できるんだけどねぇ〜」


「アストラの配信でバズればそれこそオレンの仕事にも繋がるだろ。上手くいけば良いなぁ〜くらいの気楽さで行こうぜ」


 それぞれのイメージカラーとセリフの字幕は合わせる方針で、特に色の取り合いとかはなくスムーズに決定した。というよりほぼキャラの髪色がイメージカラーだ。レイは黒、コロネは栗色、チョコは黄色、オレンはオレンジ、新しい事を始めているのもあってワクワクしてきた。


「とりあえずレイッちのラフできたから確認よろ〜」


「……目つき悪くね?お前らから見た俺ってこんななの?」


「戦ってる時はこれに加えて狂ったような笑顔をしてるよ!」


 コロネのなんのフォローにもなっていない発言に一同は笑いながら頷きやがった。だがまぁ身内には好評なので修正は必要なさそうだ。試作としてチョコも動画の編集を始め、コロネとあーだこーだと作業に没頭していった。


(……俺だけ暇で草。公式サイトでも見るかぁ〜)


 告知のページに飛ぶと何やら一〇周年記念に今のイベントとは別に企画を行うらしい。FPSゲーム、タイトル『アサルトシューティングガンオンライン』。通称アシュオンのプロゲーマーがアストラに参戦するそうだ。


(はぇ〜 国内だけじゃなく海外のプロチームもアストラにねえ。アシュオンとはキャラ操作の感覚が違うが……なるほど、専用のカジュアルマッチングを用意すんのか)


 使用武器種は銃と弓、短剣のみ、レベルは関係なく運営の設定したステータスで統一されたFPS型のイベントを行うようだ。実質アストラとアシュオンのコラボ企画であり、他のFPSゲームとの差別化が図られていた。


 参照ステータスはレベル四〇、ここまで来ると普通のFPSでは不可能なアクロバティックなムーブが可能だ。一時的に壁走りをしたり、弾丸を避けながら近接に突っ込んだり、他にはない派手な銃撃戦が期待できる。


(面白そう。フラッグ戦もあるし殲滅戦も用意ね……何がやばいって規模だろ…………片チームだけで四人小隊五〇組の二〇〇人編成って……マッチング成立すんの?これ)


 マッチングに要求される総合プレイヤー数は四〇〇人にもなるが、まじでマッチングすんのかこれ。アシュオンもアストラに負けず劣らず人気タイトルなので、それなりにユーザーが流れては来るだろうが少し心配だ。


「何見てるの?」


「んあ?アストラの公式サイトだよ。有名ゲームとのコラボ企画だそうだ」


 腰を失礼していたソファが別座標で沈み込み、意図せずして隣に座ったコロネと引き合うように距離が縮まる。気持ち悪いので絶対に顔には出さないが、とりあえず平静を装いつつスマホを見せてみる。


「このゲーム知ってる!お兄ちゃんがハマってるやつだ!!」


「兄貴がいたのか」


「うん。ゲームが好きでプロゲーマーになりたいって言ってたんだけど、めちゃくちゃ両親に反対されてそのまま東京行っちゃったけどね。ずっと話もできてない」


「そりゃ止めるだろ……アシュオンは競技性が高いから割とチームは多いけどな。実はプロになってたりして」


「えぇ……お兄ちゃんの性格からしてないと思う。ドヤ顔で実家に報告してくるってば」


 俺の個人的な意見だが、プロゲーマーなんて就職したくない。あくまでゲームは趣味として楽しみたいし、仕事として取り組むと嫌いになる事は確実だと思う。なんて心の中で想っていると、チョコを除くが呼び鈴に全員がビクッと肩を上げたのだった。


「はーい!今行きま――」

「――行かなくて良いわ。もしもし……パパ?流石に三回目はないわよ。本当に縁を切るから」


「……え?もしかしてドアの向こうにいるのってヤのつく人?」


『お嬢!!え……?く、組長から!?お、おい!ずらかるぞ!!』


 音だけで立ち去っていくのが分かるくらい騒々しい。スマホを投げるように机に置いたチョコが天を仰ぐ。ゲーミングチェアが悲鳴のように軋む音を上げているが何があったのだろう。不安そうなコロネが。


「もしかして今のってチヨのところの……えっと…………」


「そんな不安そうな顔しないで。何があってもあんた達には手を出させないから」


「まじでリアルに干渉してくるとはビビったな……」


 アストラでは俺だけでなく、各方面にヘイトを買ったスサノオ達はボコボコにされている。あいつらには何をしても許される風潮が広まっており、不意打ちPKは挨拶、集団リンチなんて別に珍しくもない状況だ。放火したのは俺だが少し可哀想に思えるレベル。


「誰かさんがめちゃくちゃしたから、まともにアストラでの金儲けが機能しないみたいよ?」


「ヒドイヤツダナー」


「それから、麦穂がバザーから消えたらしいわね」


「あー……俺もその記事見たわ」


 コアレスは万能ではなく、弄り方次第では当人の視界情報を録画可能だと仮定した時、俺とレンカの激闘や弾けるような光剣と化した麦穂は流出した事になる。というか事実として情報が漏れてバザーから麦穂が消えたのだ。


「エクスカリバーとか色んな呼び方されてるけど……まさか霊峰まで解放条件の捜査に乗り出すなんて思わなかったわ」


「麦穂のある海底洞窟も一回サーバー落ちたらしいな。人来すぎて」


 コロネが。


「アストラって未知な事が広まると凄い大勢が動くんだね」


「そりゃあアストラで強くなれば金儲けに直結するからなぁ。現に俺達も似たようなことを始めようとしてる訳だし」


 動画配信でアストラユーザーが増えてくれればそれはそれで嬉しいので、別に俺としては収益化しなくても良いとは思っている。だがチョコのジト目が何かを言いたげに突き刺さった。


「あんた無欲すぎなのよ!!自分の商材価値を何一つ分かってない!!あんたがぽろぽろ情報を露呈させてしまうくらいなら、いっそ動画にして配信した方がマシよ」


「まぁまぁ、金儲け抜きにしても良い案だと思うぞ?未知の最前線をリアルタイムで攻略配信しても面白そうだしな」


「もし仮にこのチャンネルが有名になって収益化したら振り分けはどうする?先に決めておかないと喧嘩になるわよね」


「俺は別に一円もいらないが」

「私もみんなとゲームができれば別に良いかな?」

「私は初期費用でイラスト費だけ回収させてくれたら好きにして良いかな〜?まぁ上手くいかなかったら別に無理には貰わないよ〜」


「な、なに?わ、私だけ卑しいみたいじゃないの!?」


 とは言え収益化なんて夢のまた夢だ。あまり期待せずにアストラを騒がせるくらいの緩い気持ちでいく。ただまぁ騒がせるにも知名度がなければ成り立たないのも事実なわけで、使えるものは全て使わせてもらおう。SNSの垢、チェンジゼロ。


(宣伝。泉の女神のレイが動画投稿するらしい……とつぶやきドーン!)


 その瞬間に俺を除く全員のスマホから音が鳴った。横にいたコロネのスマホ画面を無意識に見てしまい、ゼロのつぶやきがプッシュ通知として届いた事を知ってしまった。いや待って、コロネに限らずお前ら全員ゼロの通知ボタンオンにしてんのかよ。


「は!?え!?ちょ……!レイ!?あんたゼロさんに連絡したの!?今!?」


「あわわわわわわわわわわわ!?ゼ、ゼロさんがみ、みみみみみみみるなんてそ、粗末な絵は書けないんですががががががががががが」


「レイとゼロさんって……そんなに仲良いの!?リアルで会った事あるの?レイ?どうしたの?顔色悪いよ!?」


「ダ、ダイジョブデス」


 ていうか冷静に考えるとこれって自作自演だし良くないよな。やっぱり消しておこう。もうどんな事があってもゼロは使わない。使ってはならない。これ以上純粋なコロネに嘘を重ねたくないし、身バレの危険性を鑑みてもやるべきではない。


 自分を戒めてSNSの呟きを消してレイに戻そうとした時の事だった。ゼロに届いたのはなんてことの無い一通のDM。だがどこか記憶の片隅にそのユーザー名に覚えがあるようなないような。『セツナ』、どこかで聞いたことがある名前だ。


(『レイって人も才能ある人なんですか?』なんだこれ?どういう意味?こっわ、無視無視)


 そもそも誰と比較して才能があるなんて言われなきゃいけないのか。ゲームを楽しむのに才能なんて二の次、勝敗は勿論楽しさに直結はするが拘りすぎては心が砕けてしまう。何故ならば俺がかつてアストラを辞めそうになった事があるのだが、それは自らの才能のなさに嘆いていたからだ。

『杖』


法撃を射出するための武器。相殺術壁を初めとした様々な法撃テクニックを扱うには必要不可欠なものだ。小杖は扱いやすい反面威力が低く、大杖は威力が高い半面消費エーテルが多くなる。


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