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四十三 配信


 チョコの持っていた情報である『二枚合わせの鏡』、その出現方法は不明なままだ。だが突入座標へと辿り着くとゲートは開いている。洞穴の最奥地だった。サブウェポンにて装着したランタンが出す味のある雰囲気に、心做しかコロネのテンションが高そう。


「開いてるわね」


「アストラって地下にまでマップが広がってるんだ〜」


「一応エネミーも出るからはぐれるなよコロネ〜 ちなみに地下どころか空中都市まであるぞ」


 空中都市『アクアリング』、物語終盤に突入する安置エリアであり、水の都とも呼ばれる超幻想的ファンタジータウンだ。海のはるか上空に浮かぶ大陸からは滝のように豪快に水が流れており、あまりにもロケーションが豪華すぎてあそこの土地相場はイカれた事になってたりする。


「空中都市!?行ってみたい!!」


「レベルが上がって飛行マウントを取ってからだな。てかチョコはマウント取らないのか?不便だろ」


「それはそうなんだけど……余計な出費も重なったし、飛行か海上マウントに無料のテイムリンクを充てたいのよねぇ……」


 チョコは既存のコアレスをゴミに出したらしい。組の者に細工されている可能性を疑い、思い切った行動に出たそうだ。コアレスの本体価格は約六〇万、そこから諸々のセットアップに二万程必要となる。つまり端的に言うとチョコはローンも追加して金欠に拍車がかかっているのだ。


「無課金で行くならそうなるかぁ。とりあえず一旦パーティー解散して検証してみっか」


 突入型のダンジョン、その類のユニーククエストは編成しているパーティーメンバーがそれぞれ条件を満たしていれば突入可能となる。例えばA〜Dの四つのアイテムが必要ならば、六名編成のうち四人がそれぞれA〜Dのアイテムを一つずつ所持していれば扉が開くわけだ。


 結論から言うと俺とチョコ、そしてハザマがリーダーの時のみ『二枚合わせの鏡』は突入可能となった。失われた祭殿のように特に共通したキーアイテムはなく、アストラ歴の長い俺とチョコ、マリカが首を捻る。


「うん?特に共通アイテムはなさそうだが……何が違うんだ?」


「種族や性別も三名とも違いますものね。レベルだとしてもコロネさんやオレンさんでは開けないことに説明がつきませんし……」


「……サブキャラ?」


 チョコの発言に一同の視線がハザマへと集まった。確かに俺とチョコは二人以上のキャラを所持しており、その視線の集結はその是非を問うものだ。そしてその問いにハザマは「持っている」と答えたのだった。


「サブキャラの有無が突入条件、これが濃厚そうだな」


「だとしたら運営は意地が悪いわよ。PvPの廃ランカーくらいでしょ?サブキャラをいくつも持つ意味があるのなんて……」


 キャラの種族や性別差によって勝てないコンテンツを作る気はない、確かに運営はこう公言していた。だがサブキャラの有無で挑めないコンテンツを作らないとは言っていない。最大にして最悪のコンテンツ、レベリングが地獄な以上タチが悪いため完全にチョコに同意だ。


「まぁ文句を言ってもしゃーない。行くか」


 俺をリーダーに六名の編成でダンジョンへと突入する。一瞬の暗転と共にメルヘンな景色が眼前へと飛び込んだ。だがおかしな点が一つある。それは周りの建造物の大きさ――


「「「「――でっかァァァァァァァ!?」」」」


 思わず全員がそのサイズ感に同じ感想を叫んだ。それはそう。だって椅子が高層ビルくらいの大きさで、机なんかは最早天井と見間違ってたレベル。これは周りのオブジェクトが大きいのか、それとも俺たちが小さくなっているのか、真偽は不明である。


「『不思議の鏡国(きょうこく)ミラージュエゴ』……シナリオタイプのユニクエの中でもクソでけぇの引いたな……っ!」


 ユニーククエストには大きくわけて二つある。一つは『忘れ去られた海底』のような特定のボス等のエネミー討伐型。そしてもう一つ、それはプレイヤーの選択と行動次第で物語の結末に変化を与えるマルチエンディング形式のシナリオ型がある。


 攻略自体に時間がかかるため、リーダーの中断に応じてパーティーメンバー全員が強制退出となり、同じメンバーを揃えた状態ならば再び同じ地点からリスタート可能だ。ちなみに『ミラージュエゴ』とは、ダンジョン内部に存在する街や国、世界の名前だと思われる。


「やっぱりこれってシナリオタイプのユニークよね!?イベントの時にやるものじゃないわよ!!どうするの!?」


「チョコさん……!!だからこそ今やるんだろ!!」


 コロネが。


「レイ…!なんか……女の子が……」


 コロネの声に従い振り向くと、そこには小柄で幼い身なりの少女がいた。幼児というには大きく、女性と言うには幼い。あどけなさの残る顔つきと腰ほどまである長く淡い緑色の髪。だがその長い髪は器用に装飾されていた。


(もみあげとツインテール……?黄色の頭巾から二本の髪束を出してるファッションなんてフィクションでしか見た事ねぇよ。流石ゲームの世界……!ワクワクしてきた)


「お兄さん達、だぁれ?」

「わ、私達はね?えぇっと……迷い込んじゃった異世界人…………みたいな?」


 コロネも多分よく分かっていないので説明が適当だった。だが頭巾と統一された白くも黄色いワンピースと先の尖った魔女のようなブーツが揺れる。後ろに手を組み、エメラルド色の瞳が優しく微笑みかけてきた。


「そうなんだ。じゃあ私についてきて。ここは危ないから」


『二枚合わせの鏡が始まりました。適正レベル三十四』


 レベルシンクによって全員のステータスがレベル三十四まで矯正される。突入前のレベルシンクが??になっていたのは恐らく、リーダーのレベルに合わせられるという事だろう。いや、進めていくうちにそれ以上の理由や意味合いが分かるかもしれないが。


「ありがとな。俺はレイ、君は?」


「アリス。でも……日記にそう残っていただけだから、本当の名前なのか分からない……こっちだよ」


 メルヘンな装いやNPCの少女アリスの名前からしても、不思議の国のアリスをモチーフに構築されたユニーククエストであることは明確。そしてそこに準ずる『鏡』というワードも何かしら魔改造されたストーリーシナリオなのだろう。


(確実にメインストーリーは運営の手抜きだ。だがサブクエストのシナリオはそこそこ凝ってる事が多い……このユニークを骨の髄までしゃぶるには相当かかるかもなぁ)


 連れられて潜るは巨大な部屋の一角、壁際の下の方に空いた穴だ。まるでネズミのような気分を味わいながら、枯れ草で編まれた手製のロープを伝って地下へと潜っていく。もう一度言わせてもらうが本当に造形物がデカすぎる。


「でっか……なんだこの岩」

「世界観がかなりメルヘンだね。多分サイズ的には石ころかな?」


 コロネの言う通りだと思う。俺達の主観で見れば違和感がMAXだが、その他の砂利や建物の柱などは石ころと大きさの比率が正しい。端的に言うと俺たちがめちゃくちゃ小さいのだ。答え合わせのようにアリスが。


「この世界は祝福に満たされているらしいんだ。でも大きい人はすぐに連れ去られちゃう……だから大きくなる(・・・・・)時は気を付けて」


「え?そんなスイッチみたいに切り替えれんの?」


「この法液を飲めば大きくなれるよ。でも……すぐにお迎えが来ちゃう。鏡の世界に……連れ去られちゃうから……」


 辿り着いたのは地下の空洞であり、小人の体にあった大きさの椅子や机が立ち並ぶ質素な部屋のようだった。それぞれメンバーへと二〇個の特殊アイテムを手渡され、その名を『解呪の法液』。ゲームテキストとしては呪いの解除と体を大きくする仕様と書かれている。


(なるほどなぁ……体が大きくなれば探索の幅が広がるから、こいつを駆使して謎解きってわけか。個数制限があるなら普通に詰みもあるし、結構ボリュームありそうだな)


「大きくなった時に……絶対に鏡は見ちゃダメだよ。それから、不思議の鏡国の住民は嘘吐きだから信じちゃダメ。頑張って元の世界に帰ろうね」


『クエスト内容が変化しました。クリア条件、鏡国からの脱出に変更です』


 過去の経験から鑑みても、とてもじゃないが今の非効率の館では手に余る内容だと思う。半年、もしくは一年以上なければ全ての報酬やルート選択を洗うことは不可能だ。あくまで予想に過ぎないが、同じ意見を述べたのはマリカだ。


「流石に全てのルートパターンと報酬を叩き出すのは不可能ですわね。どうするつもりですの?」


「とりあえず初見はぶっつけ本番クリアして、その後はその時に考えるかぁ」


「……レイ、提案があるんだけど」


「チョコ?」


「アストラでは情報やアイテム、それらに準ずるリアルマネートレードは禁止されているわ。でも……合法的に認められた商法があるのよね」


「配信か!?でも……誰が動画編集できるってんだよ」


 動画配信、これはアストラ運営が認めているものだ。タイム(T)アタック(A)だったり、クランとして吸い付くし終えた未知の最前線の公開映像だったり、ライト勢には需要の高い映像が出回ることが多く、再生数に応じてリアルマネーに変換出来る動画サイトなどでは、合法的にお金が回ってくる事になる。


「実は私、配信者をやろうか悩んでた時期があったのよ。だからそれなりに知識はあるわ。どうせあんたの事だから未知の最前線を独占なんてしないんでしょ?」


「……ありよりのありだな。未知の最前線初見攻略を動画にすれば、ライト勢だけじゃなく攻略ガチ勢のリスナーも着く。人気になればアストラも盛り上がるだろうし……やってみるか!」


「配信やるのー!!じゃあ私がみんなのガワを書くよ!!解説風の動画にしたって、立ち絵があった方が見てて楽しいでしょ〜?」


「オレン……っ!?お前絵がかける人なのか!?」


「こう見えてイラストレータ〜 絵でご飯食べてる人なんだよ!ふふん」


 あまりに意外な情報開示にビビった。ただのギャンブル中毒者のアホ毛かと思っていたが、どうやら人は見かけにはよらないらしい。こうなれば攻略の前に会議一択だ。


「マリカさんとハザマ、そういう訳だから一旦出るわ。多分動画を撮る事になるけど、お前らのキャラの顔とネームは隠した方が良いか?」


「俺は出演しても良いぞ!!」


「はぁ……ほぼ無償で情報を掲示するなんてバカのやることですのよ?まぁ……霊峰の一員としても別に損がある訳でもありませんし、出演に関しては好きにしてくださいまし」


 情報を開示すればこぞってここにアストラユーザーが押しかけてくるだろう。だがそれがどうした。第一走者が俺達な事に変わりは無い。ガチ勢も、ライト勢も、全部を巻き込んでアストラを騒がせてやろうと思う。

『銃』


異界より持ち込まれた異端の武力。女神の加護を受けないこれらにはウェポンスキルが存在していない。だが近代兵器は攻撃が軒並み早く、そのデメリットを感じさせない。


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