四〇 VS第二席
岩封の麦穂の時限解放、その性能は破格だった。手探りなため確証は無いが、まず飛び道具の全てはオートでプラズマ法撃が迎撃して無効化。そして刀身自体も魔力で精製しているのか盾や剣に弾かれない。しかもその刀身のリーチは通常の一.三倍程。
「……っ!」
(固有スキルジャッジメントか……ほぼノータイムで即死技を放っていた分、CTが長い。これが明ける頃には多分麦穂の解放時間が終わるか)
俺が動く度にキラキラと蒼い粒子が煌めき、左手首の発光が動きに合わせて軌道を残す。ゾーン状態、スピリチュアルコアシステムは客観的に見ていた時は綺麗だし、妙な圧力を感じたが、自分に起こると割とどうでも良いものだと思った。
思考回路のほぼ全てが、現状把握と勝利のプロセスに必要な情報以外を遮断している。研ぎ澄まされた思考が一途な勝利を欲していた。第二席が相手だろうと負ける気がしない。そして十四回目の衝突によって彼女の盾が砕け散った。
「威力が……っ☆一とは……思えない……っ!」
「おめでとさん。麦穂の第一解放者とやりあえて良かったな」
レベル差が二〇を超えている。だが彼女が被弾を恐れて防御と回避に回っている理由としては、固有スキルジャッジメントによるワンパンを見た後だからだと予想する。俺も初見なんだ、スキルや通常攻撃が通るかなんて分からないし、レンカも確認というリスクを背負えないのだろう。
「そんなの……チート…………っ!ズル……」
「れっきとした武器だろ。右ばっかり見てていいのかよ!!」
自力でアサルトスラッシュのムーブ、その初動を見せつけながら地に刺さった☆七の片手剣を左手で引き抜いた。初手に大量に倒した誰かの遺留品だ。振り上げるように左の片手でスラストを放ち、レンカのイレイザー破壊と共にエーテルを取り上げてやった。
「……っ」
「詰みだ」
アストラにはスキル使用後に僅かな硬直が発生するが、猛者はこの刹那を狙うためその後隙をなくすことが永久の課題だ。だが運営が用意した仕様の中に、ハイリスクだがこの硬直をなくす術がある。
「アサルトスラッシュ――」
左のスラストから繋げて右の麦穂へとスキルリンク。スキル硬直の間、同じ武器種に限り別のスキルへと繋げる事が可能だ。だがデメリットとして、当然スキル個数に限りがあるため無限には続けられないし、一連のスキルリンクの中で同じ技は入れられない。
極めつけは全ての硬直時間が最後に圧縮されてしまう。長ければ二秒にも届きうる。だがひとまずアサルトスラッシュで様子見だ。
「リーチが……っ」
(掠った……今の反応を見るにダメージ補正さえも貫通するのか?解放した麦穂は……)
右振りから回転してもう一薙ぎ、そして最後の切り返しの一閃がレンカの頬を掠ったのだ。ダメージの有無が表情だけでは分からず、そして俺のエーテルと麦穂の耐久値が限界を迎えてしまった。
「っ……!」
「痛ってぇ……!」
黄金の光剣と化していた麦穂は収納するように張り付いていた岩が光を収め、元の岩の塊へと。そして流石と言うべきか、間髪入れずにスキル硬直に合わせて胸を蹴られた。だが互いにエーテルはスッカラカン。奴の無敵要塞は崩壊した。
「『道化師の戯言』」
ピエロらしい衣装と瞳を跨ぐように塗られた黒いペイント、そして白髪の女性が首を傾けて笑った。道化師の戯言のSEであり、両の手を掲げるように左右へと広げて不気味な笑い声と共にその姿を消していく。
右は麦穂と入れ替えて嘲笑の曲針へ、パクっていた☆七も捨てて別の短剣を拾った。エーテルのないレンカなんてただのドローン操縦士だ。シールドバッシュも使えなければ、センチネルも近接攻撃と防御しか出来ない。ガン攻め一択である。レベル差はデンジャースキルで補うしかない。
「……」
「だよなぁ?苦手な近接武器を拾うしか……もう手はないもんなぁ!!」
だが超近接戦闘は俺の領分だ。とは言え、流石にレンカ相手にはコンボ数を稼ぐのは難しいことも事実。道化師の戯言の効果中に倒せなければ絶望的だ。三分、これが俺が勝つためのタイムリミット。
瞬きすら命取りになりかねない激しい撃ち合いへともつれ込んだ。掠りはするが直撃はさせてくれないし、やはりまともにコンボ数が稼げない。コンボ数の二乗、それが今の俺の攻撃力になっているため、この数字を加算させる以外にもう勝ち筋はない。
「……っ!」
「お前……っ!センチネルの操作上手すぎだろ!!」
レンカの片手剣による突きを弾くでも受けるでもなく、刀身へと短剣を宛てがい軌道を逸らしながら受け流した。カウンターで放つは反対の手の短剣、だが奴のセンチネル操作が上手すぎた。一機が俺のカウンターの突きを受け止め、もう一機がすかさず突っ込んできやがる。
「っ……!」
「……ゼロみたいに…………ちょこまかと……っ」
フレーム回避を挟んでセンチネルをかわす。だが若干俺の方がスタミナ不利な気がする。かと言って露骨に距離を取れば息切れを教えるようなものだ。攻める。攻めて攻めて最後は運任せだ。
(超近接に引きずり込んだってのに、それでもほぼセンチネルの操作精度が落ちてない。どんな空間認識能力してんだよ)
無理に攻めてはこず、かと言ってこちらは踏み込まなければセンチネルが飛んでくる。しかも完全に足を止められてはスタミナ不利が加速し、微量ながらもエーテルも回復されてしまう。故の攻め一択なのだ。
「っ……!」
「……そろそろ…………スタミナが……苦しいんじゃない……?」
「あぁ……っ!キッツイところだわ!!」
「ここ……っ!!『ワールウィンド』――」
片手剣スキル、ワールウィンド。任意の方向へとステップを踏みながら、回転と同時に一閃を行うスキルだ。回転ステップには回避と同じ無敵フレームが設定されており、ムーブアシストの解除によって僅かながらも絶望的な距離が開いてしまった。
側宙のような動きで距離を取られ、おまけにすくい上げるような剣撃も飛んでくるためフレーム回避を踏むしか選択肢がない。俺自身が横に避けたこともあり、軸もずれて距離も開いてと終わっている。
(スタミナ残り七……しかも知識も一流なせいで曲針だけは掠らせてもくれない。運任せもさせてくれないなら……マジモンの一か八かっ!!)
「……嘘…………っ!?」
ゼロコンマ数秒ほど硬直解除は俺の方が早い。硬直解除と同時に右手の曲針を落とし、柄を思いっきり蹴り飛ばした。距離を詰めるなんて悠長な事をしていると奴のスキル硬直が終わる。一回コッキリ、曲針による弾丸宝くじスナイプ――
「っ…………」
「ギリギリ掠った……っ!麻痺か。勝利の女神は俺に勝って欲しいみたいだな」
麻痺の時間は統一されて一〇秒。何故状態異常系の武器が曲針しかないかと言うと、PvPでこんな事が連発するとクソゲーだから。麦穂の解放、そして曲針ガチャの豪運、ここまで揃わないと現状のレイでは第二席に勝てない。キャラクターに積み上げた経験値が違いすぎるのだ。
「色々と運が良かった。もう粘着して来ないなら、装備は拾って返してやるよ」
動かない相手ならばコンボ数を稼ぐなど容易い。拾う武器は二丁のサブマシンガン。これならば三秒もいらずに多分致死量までヒット数が加算する。銃口を構え、跪いたレンカへと引き金を絞った。
「――」
「……」
発砲音が大きすぎて最後にレンカが喋った言葉がかき消されてしまった。だが唇の動きからおおよそその内容が読み取れる。『おかえり』、だそうだ。そりゃまぁ分かるか。多分PvPではお前が一番やりあったから。
「ふぅ……」
「ちょ、ちょっと!?レイ!!あんた凄すぎでしょ!?嘘でしょ!?氷狼の魔女に勝っちゃったの!?いや、それから麦穂の解放だって……!本当は知って――」
「――落ち着け!舌噛むぞお前!とりあえず、スサノオ達が帰ってくる前に撤収するか」
「え、えぇ……そ、そうね。で、でも!こ、これ全部……お、置いていくの?」
とても名残惜しそうに泥した数々の武器達を見るチョコだが、まるで捨てられた犬や猫を見ているようで少し面白い。うちはうち、よそはよそ、レンカの装備だけ拾ってやったら後は撤収だ。
「うちは自給自足がルールだからな」
「で、でもレイだって使ってたじゃない!それにレンカさんのそれも持ってるし!!」
「あれは借りただけ、そんでこれは拾ってやってるだけ」
「か、返り討ちにした時は拾っていいとも言ってたわ!」
「倒したのは俺なので捨てていきます。ほら帰るよ」
「そ、そんなぁ〜!!」
転送の間際、ギリギリ駆けつけたであろうスサノオメンバーの一人がたじろいでいた。そしてロストの制限時間五分、粒子となって消え失せていく武器を前に絶望の顔が見える。
「レ、レンカもやったのか!?」
「お前らスサノオはまじで覚えとけよ。まともにアストラなんかさせねぇからな。本物の粘着PKがどんなものか、嫌ってほど教えてやる」
アストラ界にて第二席という地位を持つレンカを討った事で、ゼロではなくレイに箔が付いた。それは言葉と行動に重みが増し、先程の発言によって信号機のようにスサノオ隊員が表情を変える。視線を切って転送だ。
「ただいまユーフィー」
「た、ただいま……」
「チョコ!!レイ!!おかえり!!おーい!!コロネーー!!オレーン!!二人が帰ってきたよ!!」
「……コロネのやつ、かなり怒ってたからちゃんと謝れよ」
「分かってるわよ。レイも……その、ごめん。それから…………ありがとう」
何か言い返そうとしたらコロネとオレンがチョコに飛びついて吹き飛んでいった。まだまだ紆余曲折はあるだろうが、結果的に良い実績を積めたと思う。レベリングをすれば名実共に最強争いにも参加出来るだろう。
だがひとまずテッペンはいい。上ばかりを見ていると首が疲れるというか、精神疲労が尋常ではない。面白いこいつらと共に、まったりと俺達のペースで未知の最前線を目指して行くとしますか。
『スキルリンク』
ウェポンスキル使用後、同じ武器種に限り別のウェポンスキルへと派生させる事ができる。繋ぐことによって硬直をなくせるが、全ての反動が技の最後に圧縮するため注意が必要。
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