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三十五 嘘のメッキ


 レベルは当然のように七〇(カンスト)のレンカを前に、仲間達がステラヴォイドへと入ったのを確認した。その一瞬だけでも視線を外す行為に緊張する。何故ならばこいつは本物だから。ステータスの数字も、見えない技術も、文句なしの凄腕プレイヤーなのだ。


「ひょ、氷狼の魔女様がこんなちんけなプレイヤーに固執するなんて……な、何事ですか?」


「しらばっくれないで……君…………知ってるって、聞いた。ゼロ……勝ち逃げ許さない。早く……復帰させて欲しい」


「『センチネル』を構えながらのそれは……人に物を頼む態度じゃありま――」


 彼女の両肩から独立して浮遊する二機の武装、『センチネル』から射出された光線が足元を焦がした。れっきとした三スロットにはめ込むメインウェポンの一つであり、二機で一枠の特徴を持つ。


 ドローンやラジコンのような独特の操作感は慣れなければ使い物にならないが、手放しで使用可能な上、レンカの持つ☆七センチネル『氷命(ひょうめい)双塵(そうじん)』は法、貫、盾、それら三つの運用が可能である。


(さっきみたいにエーテルを消費したレーザーだったり、そのまま本体を突撃させて刺す運用もできるし……極めつけはあのセンチネルの上部は装甲になってるからまじでチート……俺はセンチネル使うの苦手だけど、こいつはまじで上手いんだよなぁ……どうしよ……)


 ちなみに見た目は黒板消しにカブトムシのツノみたいなのがついていて、氷の結晶のような紋様で浮いているような外観を持つ。正直あれを操作するだけでもかなり神経を使う。近接戦闘に持ち込めば間違いなくどんなプレイヤーも操作できたものではない。近寄ることができれば、と前置きがつくが。


「早く……連絡して…………ひよったんか?私に負けるの怖くて……震えとんのか?早く出て来い引きこもりのどチビ……って、早く」


「お前私怨強すぎだろ」


 全盛期のゼロでもこいつとやり合えばかなり長期戦を強いられた。雨のような法撃とシールドバッシュ、そしてセンチネルを抜けても、物理攻撃をしっかりとガードする盾も担いでいるし、極めつけはコロネのもつ『風龍の障壁』と類似したサブウェポンだ。


「お願い……あいつに勝つことだけが…………私がアストラにうちこむ理由だから……それさえ果たしてくれるなら……〝スサノオ〟から…………守ってあげる……」


 ゼロがこいつに負けたことはない。だが長期戦になるとは言った。どれくらいかと問われるならば、一〇戦ほど全部ありでやった時は二十四時間かかった。比喩でもなんでもなく丸一日だ。その時こいつは悔しすぎて大声上げてガチ泣きしてたが、クールな印象とのギャップに驚いたものだ。


「俺個人じゃあ頼めはしてもゼロが来るとは限らない。あいつはあいつでやりたい事があるんじゃないか?」


「そんなの知らない……呼んでくれないなら…………粘着PKで……嫌がらせする…………でも、それは……最終手段…………私もめんどくさいし……」


「じゃあやめてくれませんかね……第二席に粘着されるとか――」


 もみあげの一部が消えた。あいつの放った見たことない法撃が顔の横を通り抜けたのだ。多分レベルキャップ解放に合わせて組み込まれた新しい法撃だろう。黒い稲妻が走り抜けたんですが暴力は良くないと思います。


「第二席って……言わないで…………イライラ……する」


「ハイ、スイマセン」


「……っ!!」


 突発的にレンカがセンチネルを操作したかと思えば、眼前にて矢を受け止めた『氷命の双塵』の片割れが揺れていた。普通のセンチネルならば☆七と言えど三つの特性は持たない。


 良くて二種、だがレンカの愛用するあれは固有ウェポンスキルを持たない代わりにそういった特殊仕様なのだ。撃ててガードも出来て、近接攻撃もできるとかまじでめんどくせえ。おまけに操作も上手いし。


「やっべぇ……!ヘイトがチョコに向いちまった!!今すぐ街の中に戻れ!!死ぬぞ!!」


「『メギディーズ・アハト』」


 先程俺に放ったアホみたいに早い稲妻、あれはただの余波みたいなものだと認識した。一直線に伸びる銀色の光線は間一髪、ステラヴォイドとの境界線でチョコの前髪を焦がしながらも安置仕様によって阻まれ、遠目でも驚いた様子のチョコが見える。


「雷系統かと思ったら……無属性かよ…っ!」


「……その武器、なんで使ってるの?舐めプ……?それを見ると……ゼロに受けた屈辱……思い出す……」


 岩封の麦穂の事だ。岩に亀裂が走っているかのような、ツギハギ模様を彷彿させるそれは苦肉の策としてゼロも握った事がある。時には法撃を弾かなければ被弾してしまう事もあり、こいつとやっていると武器が壊れそうになるのだ。鬼耐久の麦穂で節約していた訳だ。


「もういい……粘着する…………変式威力型――」


「まっずい……っ!!」


「――アバランチブラスト」


 レンカ愛用武器、星天級ウェポンの『星詠(ほしよみ)の小杖』は、氷属性に限り詠唱時間を大幅に軽減してくれる性能を持つ。故に今のこいつは氷属性ならば上級でもほぼ無詠唱で飛ばして来やがるという事だ。端的に言うと本当にやばい。くっそデケェ氷の槍がハリネズミのように襲いかかってきやがる。


「あっぶねぇ……っ!」


「……イグニションバースト」


「っ……!」


 第二席クラスの言霊フェイクとか本当にやめて。炎球の挙動を確認しようとしたら普通に真上からクソデカ氷塊が落ちてきた。プレハブ小屋より大きいやつ。どう見ても上級の破裂法撃『アバランチインパクト』。避けたとしても地面との接触後に飛び散る氷片が散弾のように押し寄せてくる。冗談じゃない。


「変式威力型……っ!イグニションブラストっ!待て!!ゼロに話をしてやるからっ!!格下を虐めて楽しいかぁ!?おぉん!?」


「……破片を中級爆裂で相殺した…………君……普通に上手い人?センチネルも……使うね……」


「あっぶな……!話を聞け!!センチネルを操作しながら次の詠唱を始めるな!!マジでお願いします!!話を聞いてください!!」


「無理……麦穂(それ)見たら…………昂っちゃった……変式時雨型…………アバランチレイン」


 初級のフローズンインパクトってあるんですよ。あれって氷塊を一つ落として、それを避けられても弾けた氷の破片がダメージの判定を持ってたりします。アバランチレインは、それが雨のように降ってくると言えばやばさが伝わるだろうか。


「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!やってられるかぁぁぁぁ!!私は先に部屋に帰らせてもらうぞ!!」


「え……ゼロと…………同じ動き…………?」


 恥も外聞もない。持ちうる全ての技術で氷の雨をしのぎながらステラヴォイドに逃げるしかない。被弾しそうな氷塊を麦穂で砕き、破片は次の氷塊が落ちこないところへとフレーム回避する。勿論センチネルの挙動も視野に入れなければならないし、レンカ本人から放たれる次の矛も考慮せなばならない。


(むりむりむりむりむりむりむりむりむりむりむり!!!レベル差的に掠っただけでも多分死ぬか良くて致命傷だろ……っ!!なんでレイ君はこうも格上によく絡まれるんだよぉぉぉぉぉぉ!!)


「メギディーズ・アハト」

「イレイザー……!!あっっっぶねぇぇぇ!!!!」


 あのクソ早光線やばい。恐らく弾道補正がない代わりに、速さと威力がキモすぎる。まだ三十四とは言え俺のエーテルを一撃で削りやがった。しかもそれでもまだ相殺しきれず、首を傾けるのが後ゼロコンマ数秒遅かったら三途の川を渡っていた。


(どうするどうする……!背中を向けて走り去る余裕が無い。視線を外した瞬間に間違いなく被弾する……こんなことになるなら高速ムーンウォークでも習得しとくんだった……クッソ!!)


「変式時雨型……アバランチレイ――」

「――グラビティパージ」


 鳥の羽ばたく風切り音と共に、空から女の子が降ってきた。漆黒の長い髪が風と激しい大斧のムーブアシストによって揺らめき、インナーカラーの真紅を覗かせる。世界(アストラ)最強の一番弟子、その戦闘狂の背中が随分とかっこよく見える。


「マカロン……!!」


「助けてやるから、あんた後で話し聞かせなさいよ。あとブロック外せ」


「善処します!!その化け物よろしく!!うっひょぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「逃がさない……サンダーボルト」


「初級なら……!!よいしょぉ!!」


 雷はめちゃくちゃ早い。見てから回避してもまず避けられない。だがそれは言い換えれば、術者にとっても射線修正の時間がないということだ。銃系統と同じくして、発動、発砲前に相手の目線や杖の矛先を見れば着弾位置の予測は十分に可能だ。後は鬼耐久の麦穂を盾に見立てて防御である。


「行かせないわよ」

「……どチビに媚びた狂犬…………十本指にも入らな――」


 とりあえずフェードアウトしたので最後まで会話は聞こえなかった。が、会話内容はおおよそ想像が着く。マカロンことカオリはPvPよりもダンジョン攻略に力を注いでいたが故に、当時の闘技場では廃ランカーとしての境界線一〇位以内にはいなかった。


 とは言えあいつも才能の塊だ。言っちゃなんだが強さの伸び方は俺なんかよりよっぽど早い。ゼロの頃ならば一番伸び方がやばかったように思う。今は記録更新したけどな。


「ふぃぃぃぃ!!滑り込みぃ!!」


「レ、レイ!あ、あの人なんなの!?めちゃくちゃ強そうなんだけど……!」


「コロネ……あれが廃人と呼ばれる人種達だ。カンストステータスによる高威力、高速度な技の撃ち合い、刹那の判断に命を預けて戦う……俺にとっての桃源きょ……ゲフンゲフン」


 多くの人達がギャラリーとして集まりだしていた。俺達も正門から遠目で見ていたが、俺の中のゼロが戦わせろと疼いてしょうがない。いや、厨二病とかじゃなく、最高ステータス、最高の武器、そして相手も最高のプレイヤースキルを持つ、そんな研ぎ澄まされた世界でもう一度俺も戦いたい。


(カオリのやつ、本当にフレーム回避が上手くなったな。レンカは俺が失踪してからはライバルがいたんだろうか?元から相手にスタミナ消費を強要するスタイルだし、動きが少なくてイマイチ今は分からないな)


 二人の勝敗を見届けたいがひとまずトンズラだ。ベクトルは違えど、めんどくさいという点で言えばあの怪物二匹は同じ。だがここまでレイという存在が目立ってしまっては隠蔽にも限界がある。リアルに戻った後に、一部の人間にはネタばらしをしても良い頃合かもしれない。

『センチネル』


武器種の一つであり、ドローンのような遠隔操作をして立体的に攻撃可能な武器。メインスロット一枠に対して二機という特徴があり、法撃や突撃して突き刺すような運用も可能。


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