表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/110

三十三 セパタクロー


 『道化師の戯言』の習得方法はやや複雑だ。洞窟最奥地、海抜の上がった所にて指定された時間に特定の条件を満たす事で発生、習得に繋がる。一つ、洞窟の入口が海で塞がれていること。二つ、エネミーを指定数討伐する事。三つ、ニの条件達成後にフィールドにいるプレイヤー全てが武器を所持、装備していないこと。


「じゃあサクッと俺がエネミー討伐すっから、お前らは適当にくつろいでてくれ〜」


「うわぁ……でっかいカニさんだぁ」


 コロネさん俺の事ガン無視なんですが。アストラ初心者だけあって初見フィールドに夢中なのだろう。気持ちは分かる。新フィールド解禁の時なんかは、こぞって数多のクランが境界でその時を待つ光景なんかは最早風物詩だ。


「そう言えばチョコ、前に俺の武器掘りを手伝ってくれるって話があったじゃん」


「そうね。それがどうかしたの?」


「レアリティの高い武器って意味だったんだろうけど、悪いがしばらくは少し方向性を変えさせてもらうよ」


「……なんか嫌な予感がするんだけど」


 レイはサブキャラだ。強くてニューゲームも楽しいのだが、ゼロの辿った道をなぞるだけではつまらない。裸縛りほどではないが武器にも一つ方向性を決めたのだ。ずばり、ネタ武器の検証だ。


 とは言え流石にDPS不足で勝てないコンテンツも多々出てくることだろう。なので縛りと言うほど鉄の掟にするつもりはない。ゼロの頃に試せなかった事をやりたい。先程の『岩封の麦穂』も俺の中ではネタ武器という訳だ。


「ネタ武器を使い倒したい」


「変態すぎ。まじで言ってるわけなの?」


「大マジだ。解放型(・・・)の武器とかロマンの塊だろ!」


 とりあえず必要数のエネミー討伐は終わった。解放型(・・・)武器とはその名の通り、特定の条件を満たした際に形状と性能が変化する武器の事を指す。その武器で数千体のエネミーを倒すだとか、指定された場所と時間に特定の技を使うとか、物によって条件は様々だ。


(中にはどうやってその条件見つけたんだよ、みたいなのもあったなぁ。麦穂(あれ)も解放型だと思うんだが、一〇年近く条件が見つかっていないって事はマジのカス武器なのかねぇ)


 封印をほのめかせる文字が入ってんだからそう思うのは自然だと思う。解放型の武器はその派手な見た目や演出のせいか、一定のプレイヤー層には非常に人気があり、男の子の夢と希望が詰まってると俺は考えてる。なのでチョコさん、その冷めた目付きをやめて頂きたい。


「時限解放型なんて実戦闘じゃ使い物にならないし、かと言って常時解放のなんてせいぜい☆五くらいしか性能が出ないでしょ?普通の武器使いなさいよ……」


「うるせぇ!かっこいいから使うんだよ!ほら、潮が満ちたらユニーククエスト始まるから準備しとけよ!」


 条件達成後に性能の底上げとビジュアルの変化が維持されるものを常時解放型と呼ぶ。中には条件達成後、一瞬だけ有り得ないくらいの性能を発揮する時限解放型というのもあるわけだ。後者は使い勝手が悪い分、その性能は時に☆七を凌駕する勢いだったりもする。俺はそういうの凄く好き。


「……時間だな。『不屈の怨恨』」


 『道化師の悪戯』習得のために必要な条件、武器の未所持を満たすためデンジャースキルを使う。最初にここのユニーククエストを見つけた人は凄いと思う。『不屈の怨恨』による武器の自傷がなければ、まず発生させられないと思うのだが。


「よっこいしょぉ!!さぁ、全部壊したぞ……!」


『ユニーククエスト発生、『曲芸師の神域』が始まります。参加可能プレイヤー、四名……境界線を中心にそれぞれチームに別れてください』


 広がった洞窟内部の空間、その床の中央へと一本の赤いラインが伸びる。これはクエスト発生後に洞窟内のプレイヤーを分ける意味合いがあり、これより始まるのは二チームによる対戦型セパタクロー。肩から先の腕を使えないバレーボールだ。リアルとは違って他にも追加要素は含まれるが地味に難しい。


「お、コロネはこっち来たか」

「よ、よろしくレイ。何が始まるの?これ」


「腕を使わずボールを自陣に落とさないようにするゲームよ。でもまぁ……道化師の戯言を取るだけならラリー数を満たすだけだし、そんなに難しくはな――」


「先手必勝ぉぉぉぉぉ!!!」


 チョコがごちゃごちゃ喋っている間に、出現したボールを蹴りこんでやった。センターラインより浮かび上がるベール状のそれはネット代わりとなり、高さは規定より低めに設定された一一〇センチ。素人でも楽しめるような計らいだろう。


 だが問題はアストラ仕様の特殊ルールだ。点を取った方、すなわち俺達のコートに一体のアクティブエネミーが湧く。ワンセット十五点制、デュースにもつれこめば最大でも十七体のエネミーがポップし、それらの攻撃を避けながら競技を行う必要が出てくるのだ。


「この……っ!行くわよオレン!!」

「あいあいさ〜!!」


「かかってこいやァァァァ!!」


 エネミーはうざいが悪いことばかりでもない。なんとエネミーに当たったボールは、地面につかない限り生きている扱いになるのだ。しかもボールに触れていい三回には含まれない。


 オレンしか来なかったならば適当にリフティングして、スキル習得だけしたら帰るつもりだったが、せっかく四人もいるのだ。楽しまなければ損というもの。本気で試合に勝ってやる。


「あっぶね……!コロネ!!高く上げてくれ!!」

「え、えっと!えい!!」

「たっかぁぁぁぁぁぁ!?どこ飛ばしてんだぁぁぁぁぁ!!」

「ごめぇぇぇぇん!!わわ……!エネミーがぁぁぁ…!」


 壁と天井を除く、全ての床が得点判定。そしてボールタッチ後に自ら壁などに当てた場合は失点となる。故に天井へと蹴りあげたコロネキックによって同点に。ちなみにラリーが続いた場合、条件によっては☆六の武器が報酬に入ったりもするぞ。


「オレン!!コロネを狙って!!あの子球技下手くそだから!!」

「りょ〜かぁ〜〜い!!」


「お前ら最低だな!?オレンお前そんな顔で笑えんのかよ……」


 オレンが手で高くあげたボール、そこから体操選手のような動きで助走と勢いをつけたその体が宙を舞う。ゲーム内特有のステータスが、現実では不可能なアクロバティックな動きを実現させてしまうのだ。かなり高い打点から放たれる、空中二回捻りからのオーバーヘッドキックサーブ――


「はいぃぃぃ!!残念でしたぁぁぁ!!狙ってる場所が分かってりゃ捕れるんだなぁ……!!」


「ごめんチョコっち!!乱すことも出来なかった〜!!」

「あいつがおかしいだけよ。来るわよ……!」


「ごめんレイ!また変なとこに……!」

「余裕!!ナイストス!!」


 少し壁に近いが問題ない。俺自身も壁を蹴って空で身をひねり、公式公認の反則技をたたき込める絶好のポジションだ。くらうが良い。ネット際へとほぼ垂直に叩き落とすレシーブ不可の一撃、必殺メテオスパイク(命名ゼロ)を。


「おらぁぁぁぁぁ!!!!」

「うぎゃっ!」


「が、顔面レシーブだと……?オレンお前……!見かけ通り根性がやばいな……っ!」


「いっだぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛い!!」


 当然だ。凹む勢いで蹴りあげたボールをほぼ至近距離で受けたんだから。オレンの目が怖い。絶対にやり返すという執念を感じる。だがボールはダイレクトにこっちに帰ってきた。もう一回メテオスパイクを叩き込んでやる。








「はぁ……!はぁ……っ!」

「つ、疲れたよぅ……」

「レイっち……!上手すぎ……っ!」

「はぁ……っ!はぁ……っ!で、でも……これでデンジャースキルは全員取れたわね……っ」


 二セットを取ったが一セットは持っていかれた。だが俺コロネチームの勝ちだ。かなり運動神経の良いオレンと、頭のキレるチョコはとても手強かった。最初のセット以外は全てデュースにもつれ込む接戦ぶりだ。楽しかったし、また暇な時に誘う一択である。


「チョコのエネミー狙いによるイレギュラーバウント戦法はまじでうざかった……っ!」


「あんたもあのエネミーの数の中、『死神の悪戯』でスタミナ切れ狙いを解消してきたじゃない……っ!ありえないわ……っ!」


「乗せられてオレンの脱落ができれば儲けもんだったんだけどな!流石に使わなかったな」


「使うわけないない!無理無理無理無理!!よくあの数の中で避けながら競技に集中できるよね〜?流石レイっちって感じ〜!!」


 疲労でなめくじのようにひれ伏したコロネが。


「み、みんな運動神経良すぎ……動きたくないぃ……」


「お疲れさん。お……?おおおおお!?まじか!!ユニーククエスト報酬に目玉のやつ出たぞ!!」


 『羽觴(うしょう)曲弓(きょっきゅう)』、その名の通り武器種は弓。☆六というレアリティだけあって武器としての性能は高い。特殊な性能として、体が地面に触れていない時に放った攻撃、その倍率が高くなる仕様がある。


「どうする?チョコが持つか?」


「みんなが良いなら」

「私は良いと思うよ〜 コロっちも使わないよね?」

「うん。チョコが使いなよ!」


 弓は(・・)満場一致でチョコへ。もう一つ報酬に武器が落ちているのだ。『嘲笑(ちょうしょう)曲針(きょくしん)』、こいつは全ての攻撃倍率が鼻くそのネタ武器だ。武器種は短剣。だが☆一のくせに固有の性質も持つ。いや、だからこそネタ武器と言われているのだ。


「……あんたのその笑い方を見るに、多分その短剣使う気でしょ……」

「察しが良いなチョコ。貰っていいか!?まさか泥するとは思わなかった……」


 なんとこの武器はダメージが高くても四くらいしか出ないと言われている。さぞその対価は壊れているのだろう、そう思っていた時期が俺にもあった。だが実際に設定されている性能はランダムな状態異常とヘイト蓄積。


 毒、麻痺、睡眠、もしくはがっつりと攻撃したエネミーからヘイトを取る。しかも発生確率はそこまで高くは無い。身内で悪戯まがいに通り魔するくらいしかまじで使い道がない代物だ。だが現状では唯一、プレイヤーが狙って状態異常を付与出来る武器でもある。


「これがあればロマン砲艦隊も夢じゃないっ!!よし!!俺の武器なんか後回しだ!!レベリングしたらお前らの☆七武器を取りに行くぞ!!」


「わーい!!私武器掘り好き〜!」

「レベリング手伝ってねぇ……後ギャンブルも許して欲しかったり……」

「……はぁ、まぁあんたが楽しいなら好きにすればいいわよ」


 当面のレイの運用方針が決まった。ゼロがソロによる火力特化ならば、レイは仲間を最大限に活かしたビルドだ。回避型タンク、そして状態異常付与による硬直を狙ったロマン砲艦隊の結成開始だ。安定した勝利に興味は無い。楽しさ(アドレナリン)が得られない勝利にその真価は備わって来ないのだから。


 そして勿論あれも忘れてはいけない。洞窟の入口近くに意味深に土台に突き刺さった片手剣、『岩封の麦穂』。鬼耐久仕様のせいでスイカ割りにしか使われない不憫な武器だが、どうにか俺がお前を上手く使えないか試してあげようと思う。ゼロでは出来なかった、ネタ武器の真価を見つけてあげるのも悪くはないだろう。


 

『天使族』


天界の掟を破り、俗世へと堕ちた堕天使。堕天しても尚、特殊な星の加護が制約を与えている種族。平均より高いステータスを有しており、片手武器しか扱えない代わりにメインスロットが四枠の特徴を持つ。


Now loading…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ