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三〇 リアルエンカウント 二


 とりあえず一番最初にビックリしたことを言いたい。チョコのリアルがアバターとは真逆だった。ロリエルフの魂は長身でスラッとしたモデルのような美人だった。そしてどこか近寄り難い気難しさというか、そんな雰囲気がある。


「あら?意外とリアルもイケメンね。初めまして、小金(こがね) 千夜(ちよ)よ。チョコね?」

「どーも、俺もモデルみたいな美人が出てきてびっくりしてる。琥珀 零真、レイだ」


「レイとは一足先に知り合ってたの。あそこだよ!私のバイト先に来てくれて、色々あって偶然知り合ったって感じ」


「そうなのね。あんたああいう場所好きなの?」


「あんまり聞かないで貰えると嬉しいかな。あそこはみんなコスプレのクオリティが高くて見ていても楽しいし、飯も不思議と美味いしな。通ってるよ」


 特にコロネのクオリティは群を抜いてる。まじで異世界から抜け出してきたのか?ってくらい。そうこう挨拶をしていたのだが、やはりゲームでよく話しているおかげか気まづさは感じられなかった。周囲のチョコへの視線を除けば、という前置きが着くが。


「チヨは美人だからこうやってよく見られるし、ナンパもされるよね〜 羨ましい……」

「私はココロみたいにちっちゃくて小動物みたいな可愛さが良かったわ。レイはどういうのがタイプなの?」


「仕事が恋人だったからなぁ?なんだろうな……なんかこう、一緒にいて癒される人だとまた頑張れるかも」


「ふ〜ん?外見は?」


「なんの尋問だよ……それよりオレンとは誰か連絡着くのか?合流出来なくね?」


 全員が忘れてた、という様子でポカーンとした。リアルの連絡先がない以上合流は無理ゲーである。だが約束した以上そのまま新幹線の乗り場、改札口を目指して歩き続ける。とは言え、彼女は大阪から来るため時間はあるだろう。


「オタ活するにももうこの時間には閉まるし、どうすっかなぁ」


「私一つ良い方法を思いついたよ!」

「嫌な予感がするわね……一応聞くわ?コスプレは関係ある?」

「はい!」

「……それはアストラですか?」

「チヨネイター……?は、はい!」

「……自キャラのコスプレをして改札口で待ち伏せですか?」

「なんで分かったの!?」

「無理よ。あんたとレイは寄せられるかもしれないけど、私は明らかに身長が……」


「無理とか以前にしたくねぇよ!!恥ずかしいわ!!公衆の面前でそんなことしてたら白い目で見られるわ!」


 とは言え合流出来なくてはあまりにオレンが可哀想である。色々と試行錯誤を重ねていたが、結局名案は浮かばず普通にウィンドウショッピングを楽しんでしまった。ごめんなオレン、新幹線の時間的にそろそろだと思うから、改札口でいるから気合いで見つけてくれ。


「………………」

「………………」

「………………」


 少し先に改札口が見えてきたのだが、クソでかいリュックとキャリーケースを抱えた女の子がいた。荷物が改札口に挟まり、ヨレヨレのTシャツと短パン姿で半泣き、それでいて身動きが一切取れない女の子がいた。なんとなくその顔がブルーギャリアでひん剥かれていたオレンと重なり、直感的にあれが奴の本体だと悟る。


「……何してんだおまえ。なにその大荷物…………」


「お、お兄さん……引っ張ってくれたら嬉しいんですが……」


「君オレンだろ。レイだよ、俺が」


「えぇ!?よく分かったねぇ!?引っ張ってくれん!?」


 とりあえず駅員さんも来たので、一旦向こう側に押して荷物だけを預かり無事合流だ。オレンのリアルはアバターとよく似ていた。髪色は茶髪だが、髪型や仕草、話し方、それらはほぼ変わらない。あるとすればたまに標準語が訛っていたり、関西特有の喋り方が見え隠れするくらいだ。


 大荷物を皆で分担して運ぶこと少し、賃貸マンションの一つへと。コロネの住まう家であり、中はかなり綺麗に整頓されていて、鼻腔をくすぐる女の子特有の良い匂いが感じられる。


「ごめんねぇぇぇ!遅くなっちゃってぇ……!お腹ぺこぺこだよねぇ……?」

「そうね。でもそれはオレンも同じだし、突然だったのによく来てくれたわ。すぐに作るから、みんなは座って待ってて」


「テーブルとか用意するからみんなはこっち来て〜 適当に座ってて良いからね!」


 とは言ってくれたものの、ただ座って待つのも忍びない。なにか手伝える事はないだろうか。


「何作るんだ?手伝うよチョコ」


「リアルはチヨでいいわよ。そうね……鍋だし、切るだけだけど……」


「広いキッチンだし、じゃあこっちで適当に食材を切っておくよ。味付けは市販のやつ?」


「えぇ。だから本当に切ってぶち込むだけよ。まぁ……これとは別にちょっとした料理は作るつもりだけど」


「じゃあ鍋は俺が担当する。楽しみにしてるぞ?チヨ料理長のメシ〜」


 オレンが。


「えぇぇぇ!?みんな本名で呼びあってんの!?私も混ぜてよ〜!!」


「なんかお前とコロネは包丁持たせちゃダメな気がする。座ってろ……!おまっ……!包丁を取ろうとするな!やめなさい!危ないだろ!!」


 小野崎(おのざき) 火憐(かれん)、これがオレンの本名らしい。まさかアストラで知り合ったやつとこうしてミニオフ会みたいな流れになるとは驚きである。ゼロに憑依していた頃ではまず考えられなかった風景だ。


(……一部の人間以外は信用なんて出来なかったな。近寄ってくる全てのプレイヤーが、俺の持つ何かを奪いたいようにしか見えなかった。とてもじゃないがリアルで会いたいとか、そんな考えにはならなかったが……)


「コラ!ココロ!!あんたはじっとしてなさい!!絶対にあんたは調理場に立っちゃダメ!!」

「で、でもぉ……お客さんにばかり任せ――」

「――座れって……言ってるわよね?」

「は、はいぃ」


「……キレすぎじゃね?」


「知らない方が幸せなこともあるわよね」


「なんだその意味深な発言」


「さぁ?それじゃあぼちぼち完成ね。アストラの打ち合わせをしながら食べましょ」


 ありのまま起こったことを話すぜ。あんなにあったはずの数々の料理達が一瞬で消えた。美味すぎて会話なんてしてる余裕はなく、気が付いたら食い終わっていた。鍋に関しては俺がほぼ作ったはずなのになんで?


「美味しかった〜!!やっぱりチヨの手料理は最高〜!」

「無限に食べられちゃうよ〜!!チヨっち!お嫁さんになって〜!!」

「はいはいお粗末さま。それにしてもオレンはよく食べるわね」

「美味しいんだもん!」


「……美味かったな」


「……琥珀? え?なんかちょっと目が赤くない!?え!?口に合わなかったかしら!?」


 まじかよ俺半泣きなの。いや、美味い理由がようやく分かった気がする。食事とは食べ物を咀嚼し、飲み込むだけが味の全てでは無い。誰と食べるか、そんな外部の影響が俺に本当の味覚を思い出させてくれた気がする。


(社畜時代に一人で食べてた焼きそばとか、とにかく寝る時間を作りたくて時短料理ばっか食べてたから……誰かと一緒に食べる手料理の美味さにびびったな……メシってこんなに美味いのか)


「コンカフェの時もそうだったんだけど、れ、零真って本当に美味しそうに食べるよね!」


 女の子(コロネ)に下の名前で呼ばれると少しむず痒い。許してくれ。カオリ以外ではリアルの女の子とは話し慣れていないのだ。だがそっちがその気ならばこちらも同じ手段で対抗させてもらう。


「そりゃココロみたいに可愛い女の子とご飯が食べられるなら、そこらへんの雑草でも美味く感じるだろうな」


「ふぇ……?か、可愛い……?わ、わたしが……?」


「あぁ。そうだ!またコンカフェ行くからまたあのコスプレやってくれよ!!あのファンタジー狼のコスめっちゃ可愛かったんだよなぁ〜!!オレンとチヨも見てくれよこれ!!」


「ダメダメ!!チェキは見せないで!!は、恥ずかしいからぁ!!」


「いっぱいあるからな?まじで何着てても可愛いから毎回チェキ撮っちまう……やっぱあれか?素材が良いから何着ても可愛いのか?」


 チョコが。


「その辺にしてあげたら?その子褒められ慣れてないから……その……た、多分オーバーキルよ」


「もうわかったからぁ……可愛いって言わないでぇ……」


「勝ち申した」


 顔面を手で覆いながら、机に肘をついたこころは耳まで真っ赤だった。こんな純粋な子が今日まで無事だったのは、推測だが友達のチヨの存在が大きい気がする。ココロやチヨを見ていたチャラチャラしたヤツらがいたが、チヨの睨み返すあの眼光は完全に番犬のそれだったのだ。


「さて……メシ美味かったよ、ありがとなチヨ。俺はそろそろおいとましますわ。夜アストラやる?」


 ココロが。


「えっ……零真帰るの?」


「そりゃ帰るでしょうに」


「そっかぁ……みんなとお話しながら寝たかったけど、しょうがないよね……お、送っていくよ!」

「……ねぇ琥珀、もう終電ないわよ?」


「……タクシー」


「あんな金持ちの乗り物使う気?そこまでするなら泊まっていけばいいじゃない。家主も良いって言ってるんだし、私は格闘技の経験もあるから心配はないわよ」


 別の意味で心配だわ。しかしまぁ、見るからにこころがシュンとしてるのも心苦しい。顔文字のしょぼんみたいになってる。そこで布団の用意をしていたオレンから柔らかい何かが投げつけられたのだった。


「へいへい〜!雑魚ダウン〜!!」


「痛って……枕投げつけてんじゃねえぞ疫病神!!」


「ちょ……!あんた達静かにしなさい!もう深夜なのよ!!」

「チヨが一番大きい声出してるってば……!お隣さんから苦情来るからみんな静かにして〜……っ!」


 結局お言葉に甘えて泊まらせて頂くことに。顔を合わせている以上、いや時間も時間なのでアストラには潜らず俺達は静かに雑談を続けた。交渉とか、契約とか、等価交換とか、小難しい事が何も無いアストラの雑談は本当に楽しかった。


「……チヨ?ケータイ鳴ってんぞ?」


「…………いいのよ。コイツは出なくて」

「まだ仲直りしてないの?チヨ……」

「誰々〜?パパって登録されてるけど!?家出!?」

「違うわよ……縁切りなんかもしてないし、まぁ気にしないで」


 気にするなと言う方が無理な話である。何故ならば、スマホの着信画面を見るチヨの表情は複雑で、悲しくも怒りと虚しさを表したような、かなり根深い何かを感じさせたから。

『弓』


貫通属性に長けた遠距離武器。銃に比べて弾速や連射性能が劣っている代わりに、雨のように上空から矢を放つ範囲攻撃を持つ。


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