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三 攻撃の原点

 ギャラリーの会話の中に俺が危惧しているものがあった。それは女神の体力が半分ほどまで減った時に起きるのだが、レベル差の攻撃力補正が想像以上で焦っていた。切っても切っても攻撃パターンが変わらないんだが。


(えぇ……?タフすぎん?かれこれ八○回くらいはスラストをぶち込んだはずなんだが……)


 俺の想定を上回るのは女神のタフさだけではない。このままでは俺の武器が先に壊れてしまう。全ての武器にはそれぞれ耐久値が設けられており、破損すればロストを意味する。故に本来であれば、三枠設けられたスロットに幾つか武器をセットしておくのだ。


(とは言え初期装備だし?斧は捨てて剣と銃しかないし……めんどくさいが会心も狙っていかないとまずいか)


 アストラにおける会心は非常に単純だ。まず急所に対しては会心は確定。それ以外の部位ならば初期段階では五%。現状で言う会心狙いとは前者を指す。そしてスタミナがそろそろやばい。


(スタミナは残り三○と少し……徐々に回復する仕様だがこうも突っ込まれては減る一方だ。ソロなら必ずどこかで一息つかないとまじで死ぬ)


 その布石は打ってある。だが今使うべきでは無い。出来れば攻撃モーションの変化、その開始に合わせてスタミナ全快を狙いたいのだ。ぶんぶんだけに照準を合わせ、以降は全て会心を狙う――


「あの新規まじか……っ!全部パリィ成功させてる上に急所狙い出したぞ!!」

「ガチ勢のサブ垢?w」

「まじで一発も当たらねぇ……っ!」

「頑張れレイさん!!」


「楽しくなってきたぞ……っ!!クソ女神ぃぃ!!」


『死ぃぃぃねぇぇぇぇぇぇ!!』


 攻撃パターンを全て上げればキリがないが、警戒するべきモーションはホームランショット。そして距離を取らないことだ。距離を取ればゴルフのようなドライバーショットで、大小の石を吹き飛ばしてきて非常にうざい事この上ない。


「スラストっ!!」


『うぅぁぁぁ……っ!!ぬぅぅぁぁぁぁぁぁ!!』


「あっぶね……っ!やべぇ……!楽しい!!脳汁出てきたぁ!」


 急所に打ち込み僅かに距離を取る。典型的なヒットアンドウェーイ↑を繰り返していたが、距離を取るのが遅れた。フレーム回避で事なきを得たが、この瞬間がたまらない。ギリギリの戦いの中でしか得られないこの高揚感。たった今キメた、このキャラは防具無しの裸縛りで行くと。


「パリィ……っ!からの祝砲スラストぉぉ!!」


『私の……っ!美しい顔にぃぃぃ!!!ゼッタイコ○ス……ぬぅぅぁぁぁぁぁ――』


 来た。丁度俺のスタミナが残り一○でようやく半分まで削れた。特定のエネミーは、怒り時、特殊モーション移行時等、無条件にプレイヤーの行動を止めるハウリングを行う。端的に言うと、咆哮だ。


「――ストライクバッシュっ!!」


『がっ……』


 ユニーククエスト発生前に打ち込んだストライクバッシュ、その布石を使う。この技は怯み値の蓄積量が優秀だ。最初の怯みを取るならばおおよそ二回プラスαと言ったところ。咆哮からの被弾即死コンボは某ゲーム、恐竜と戦うあれで嫌という程味わったからな。


「ハウリングキャンセル……さて、スタミナ回復して第二ラウンドだな」


 スタミナは消費行動後、数秒すれば自動で徐々に回復する。だが戦闘ではどうしても回避や強攻撃、スキル攻撃などで使用してしまうため少しずつ減ってしまうものだ。だが足を止め、何も行動をしなければ急速に回復するのもこのゲームの仕様。そしてここからは短期決戦だ。


「……『死神の悪戯』」


「お、おい!?デンジャースキル使ったぞ!!」

「勝つ気か……?」

「ガチで勝つ気かよ!!」

「第二のゼロ現る」


 デンジャースキルは使用後にそれぞれの特殊な演出とサウンドエフェクトが入るのだが、これがまた厨二臭くて俺はめちゃくちゃ好きなのだ。


 『死神の悪戯』で言えば、ボロボロで禍々しいローブを羽織ったドクロが一瞬背後霊のように浮かび上がり、不気味な魔女の如く『ヒッヒッヒ……』という笑い声が響き渡る。正直めっちゃ刺さる。


「これで三分間俺のスタミナ消費行動は全て十分の一だぁ……っ!当たったらどうせ一撃なんだ!!デメリットなんてあってないようなもんだよなぁぁぁぁ!!」


 全てのスタミナ消費行動に対してその消費量が激減するが、どんな弱い被ダメでも全体力の二十五%のダメージ量になる。つまり、距離を取られた際に引きやすいドライバーショットのつぶて、あれでも即ミンチだ。


「早えぇぇぇ!!」


『ぬぅぅぁぁぁぁぁぁ!!』


 加えて第二ラウンドのクソ女神は怒り状態、通常状態に比べてモーション速度が一.二五倍になる。パリングやフレーム回避を狙うにも、一瞬の焦りやビビりが致命傷になるわけだ。特にデンジャースキル使用時は僅かな被弾も許されない。現に顔面の横を通り過ぎた小石にタマヒュンした。


(あっぶねぇ……っ!びびんなよ……俺!!)


 モーション倍率が高まっている以上、回避し続けるにも息切れ確定なので死神の悪戯は必須。というより、初期装備でこんな化け物に勝とうなんざデンジャースキルないと無理。この背水の陣から生まれる緊張感、ここでしか生まれない栄養素が主食だ。


『キエエエエエエエェェェェェ!!!!』


「ふへぁ……っ!ふふふ!あはははははははは!!!」


 ぶんぶんをパリング、そしてスキルではなくムーブアシスト(・・・・・・・)が備わっていない通常攻撃の連撃を叩き込む。勿論全て急所の喉狙いだ。スタミナの消費がなく、せっかくのデンジャースキルの恩恵が勿体無いと思うかもしれない。だが――


(――咆哮)


『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!』


 クソ女神の咆哮は当たり判定が四フレームに設計されているため、すかさずその判定に被せるように回避を入れた。スタミナ消費は一、そして咆哮直後の硬直時間を逃す俺では無い。


「ストライクバッシュぅぅぅ!!あいよぅ!!」


 野球選手よろしく、フルスイングで後頭部へと叩き込んでやった。もう一度怯みが取れるとは考えていないが、現状使えるウェポンスキルの中では最も威力が高いのだ。DPS、一秒あたりの火力をあげるためにも隙があれば容赦なく打ち込んでいくぞ。


(ユニーククエストの残り時間があと三分……っ!俺のデンジャースキルは体内時計では後二分ってところか……!武器の耐久も気になるし、考えることが多くて楽しいなぁ!!)


『ぬぅぅぁぁぁぁぁぁ!!ああああああああぁぁぁ!!!!!』


「出たな……っ!ダイナミック耕しっ!」


 剣道の上段の構えからひたすら上下に終末の鉄槌を振り下ろすため、俺が勝手にダイナミック耕しと呼ぶモーションだ。法撃武器があれば後退しながら打ち込み続けられるが、生憎と今は拳銃と片手剣しかない。


 拳銃も初期装備としては弾数が心もとないこともあり、残念ながら選択肢としてはギリ合格点といったところだろうか。ならば接近してパリィを取るか?それも否である。何故ならばダイナミック耕しは地面と斧が接触する度につぶてが飛んでくるから。


「見かけ以上に範囲が広いんだよ……っ!それ!!良い子だから早く終わってくれ!!」


『フゥゥ……!フゥゥ……!』


「良い子だ……!褒美をくれてや――」


『ぬぅぅぁぁぁぁぁぁ!!ああああああああぁぁぁ!!!!』


「またかよ!!クソ個体じゃねえか!!」


 痺れを切らしてパリングを狙いに行きそうになった。だが冷静に考えるとステータス的に弾けない気がする。パリィのシステムはかなり複雑であり、俺でさえも全ての計算式を理解している訳じゃない。


 大振りな攻撃にはそれなりに利点もあるのだ。感覚的に言えば、突っ込んできた大型トラックに対して人間では跳ね返せないように、あまりに力の差が開きすぎていると、いくら弱点フレームを突こうが木っ端微塵になってしまうわけだ。そして多分、ダイナミック耕しはその域に片足を突っ込んでる。


(良くて両方が仰け反る、悪けりゃ俺の方がパリィもらって硬直する……分の悪い賭けだ。誰がやるか)


『フゥゥ……!フゥゥ……!』


「とりあえず大技後の硬直に一発っと!!」


『ぬぅぅぁぁぁぁぁぁ!!』


「よい……っしょぉぉ!!」


 パリング、連撃、これを繰り返す事一分と少し。恐らくは瀕死にまでは追い込んだはずだ。だがもうひとつの問題にこちらも瀕した。片手剣の耐久が虫の息だ。恐らくは強攻撃、ウェポンスキル一発で砕け散る。


「ふぅ……さて、どうしたもんかねぇ」


『ぬうぅ……っ!ああああああああぁぁぁ!!!』


「性懲りもなくぶんぶんかよ。けど止めないと死神の悪戯が心もとない…」


 次の行動ガチャがダイナミック耕しだと時間的に詰む。こうなるともうお祈りしかない。一発、もしくは二発で敵が沈むと仮定して神風に出る。だがパリングに使用するのは拳銃だ。一発あたりの火力は剣の方が高い。だからこそ、最後の一振は剣で行く。


(ぶんぶんの射程外から……っ!前方に詰めるように回避して拳銃打撃の射程に無理やり突っ込め!!俺!!)

 

 レベル五〇で解放する第二の回避ならまだしも、素では正直狙って出来るものではない。僅か五フレームという刹那の狭間を狙うだけでもかなり神経を使うのだ。だが拳銃本体を拳のようにぶつけてパリィするには、一気に射程へと飛び込む他に選択肢は無い。


 剣ならばリーチが長い分、射程外から置くように狙ってパリィできるが、前ステップに併合して拳銃の打撃を合わせるとなるともうお祈りだ。お願いします。上手くいって下さい。


「お……らぁっ!!」


『ぬうぁ……っ!』


「ストライク……っ!バッシュ!!!」


 左の拳銃が砕け散りながらもパリングは成功した。間髪入れずに右の剣を振り抜く。耐久値の限界で刀身が砕けながらも、五%の壁を越えて運良く会心判定。だが――


「落ち……ないっ!」


『コ○ス……っ!何度も何度も私の顔にぃ!!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!』


(ここに来てデレ行動……っ!正真正銘ラストパンチっ!!)


 フレーム回避にて咆哮による硬直を無効化し、側宙による動きから右足で地面を蹴った。残る武器は一つ。己の肉体と拳のみ。くらいやがれ、攻撃の原点、レイパンチを。


「いい加減に死にやがれぇぇぇぇ!!!」


『がっ……』


 決まった。やはり大声を出しながらプレイするアストラは最高だ。派手に吹き飛び、女神は泉の中へと沈みユニーククエストクリアとなった。湧き上がるギャラリーの雄叫び、それに俺は拳を突き上げて応えたのだった。

『ジャスト回避』


スタミナを消耗するが無敵時間のある移動のこと。スキル入力後はプレイヤーの任意の動きに合わせてダメージを受けない無敵時間が僅かに付与される。


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