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二十九 ミニオフ会の予兆


 報酬として受け取ったものは☆五の片手剣だ。『水霊の先剣』、耐久値がやや低い代わりに貫通攻撃の倍率が少し高い性質を持つ。いわゆるレイピアと呼ばれる類のものだ。


「初ゲットだから文句は言わないけどさ……な?チョコなら俺の言いたいこと分かるよな?」


「……万能な片手を特化したら器用貧乏が加速するわね………槍でよくね?ってなるもの。コロネも穴熊主体で戦うなら微妙かもしれないわねぇ……」


「売っちゃう……?もしくは霊峰さんに譲――」


「「それはない」」


 ちなみに今は陸地まで帰ってきているので、チョコを除く全員が持参マウントで帰路に着いているところだ。この世界では物欲を捨ててはならない。本当の価値が分かるまでは決して手放してはいけないのが常識だ。


「コロネさんか。初々しいが故に、新風を感じられて新鮮な気持ちだ。レイ、また協力を頼む時が来れば……その時は頼っても良いか?」


「あぁ、けどあんまり他人を利用するなよ?知らず知らずのうちに利用されるってのは、あんまり気持ちの良いもんじゃない」


「中々うちのクランは考えが凝り固まっているからな!はははっ!破天荒なあいつが失踪したのは悪い意味で刺激が足りていないのだ。どうだ?屋敷で茶でも一杯飲んでいかぬか?」


「行かぬ」


 だからこうしてわざわざ転送を使わずマウントエネミーで帰ってきたのだ。クリア後の約束だの、モーションの共有だの、話すことは腐るほどあったから。そして引き続き、なんとなく風と一体化するのが気持ち良いので続行である。


「ねぇ?もしオレンやコロネとか、レイが使わないならさっきのレイピア使っても良いかしら?」


「私は良いよ〜」


「なんだってそんな気に?」


「コロネは法撃特化だし、オレンは斬撃、打撃の近接特化。レイはオールラウンダーだし、せっかくだからバランスを取って貫通特化にしてみようかなって」


 貫通特化。特性上かなりプレイヤースキルを要求されるものだ。ゲームである以上、敵の耐性とやらは常に付き纏う。打撃は全体的に耐性が控えめな分モーションがもっさりしていたり、斬撃は万能な分モーション倍率がそれなりだったりと特徴があるものだ。


 貫通となると倍率も高くモーションも鋭く早いものが多い。だがデメリットとして、弱点以外の攻撃倍率が軒並み平均以下になる。柔らかいところには威力が高く、それ以外には微妙、ウィークポイントを狙える腕前が要求されるわけだ。


「種族も相まって悪くはないかもな。けど……相当イライラするぞ〜?」


「分かってるってば。片手、杖、それから弓、もしくは銃あたりでやろうかなって考えてるんだけど、どう思う?」


「ゲームなんだから好きに試せばいいんだ。うちはそういう方針だしな」


「縛られない分のびのびとやれるわね……ここのクランは」


 妖精族がチョコの選んだ正式な名称だが、この種族は区分が多いためエルフと呼ぶ。他の種族よりも技量と精神値が高く、女性キャラの技量補正も相まってテクニカルビルドにドンピシャである。研ぎ澄まされた鋭い一撃、そして法撃に有利に働く精神値と知性、遠距離特化の火力種族とも言える。


「それで、コロネとオレンにも協力というか、みんなでやりたいことがあるんだけど……」


「唐突だな?どうしたんだよ?まだ俺ら三十一だぜ?オレンは違うけど」


「私はみんなを待つよ!一人でレベリングはめんどくさいし!!」


「寄生する気満々じゃねぇか」


「それでチョコ?何をやりたいの?」


 コロネの言及に俺達がそこへ視線を集めると、何故かジト目で見つめ返された。なんだろう、俺なんかやったっけ。


「あんたの装備を一つでもいいから取りに行きましょ。私たちがそれなりの装備をしてるのに、あんたいつまで経っても☆一の装備じゃないの!!」


「あー……でもまぁ、まだ勝ててるしなぁ」


「リーダーがそんな粗末なものばかり使ってちゃ舐められるの!!見た!?うちと霊峰の格差!?みんな☆七!!良くてサブウェポンが☆六よ!?あんた何!?なんで全部☆一なの!?ていうかなんでそれで総合ダメージ一位が取れるのよ!!」


「腕の差」


「黙れ!!」


 だが強い装備を集めておくのは悪くは無い。とは言え、欲しいものが取れる場所は軒並み今のレベルではきつい。そうなってくるとバザーで☆六を買うにもまた金策である。けどもっと普通のコンテンツで遊びたいものだ。


「一つだけ……ユニーククエストの情報を持ってるのよ。な、内緒よ!?ほんっっっっっっっっとうに誰にも話していない事だからね!?」


「………………マ?」

「…………マ」


 ニタァ…って笑ったら一泊あけて同じ顔が帰ってきた。星屑の鍵と言い、月影竜と言い、この子チョコは情報屋が過ぎる。握る未知の名は『二枚合わせの鏡』。アイテムでは無く、ユニーククエスト名だ。


「突入場所は知ってるんだけど、特殊エリアに移動するための条件がはっきりしていないの。まずは探るところからになっちゃうけど……」


「いいよいいよ!!やろうぜ!!けどあれか?クエスト名を知ってるって事は突入はしなかったのか?」


「その時は本当に偶然そこに辿り着いただけで、一人だったし行かなかったわ。推奨レベルが??になってて……ちょっとビビったのよね」


「たまーにあるなぁ……いや行くしかないねそれは。そうと決まれば館で日程調整だな」


 竜や特殊なエネミーを除き、通常エリアで手に入る武器はどこまで行っても平凡だ。だが特殊エリアやクエストの報酬となるとその限りでは無い。うっかり☆七とか取れようものならアストラ界隈がお祭りになる事だろう。


「けどどうするの?イベントが近いわよね?」


「うっわ……そういえばそうだったか。そうか……もう一〇周年にもなるのか、アストラは」


 一〇年の歳月を得ても未だにその人気は衰える事を知らない。五周年の頃もかなりイベントや配布が多かったが、今回はその比ではなかった。


 二週間に渡って毎日一度だけ、好きなガチャを無料で十連引き可能だったり、同レアリティであれば好きな武器やアイテムをトレード可能となるアイテムなど、配布アイテムだけでもかなり嬉しいものが多い。


「『女神の涙と祝福』には参加するの?」


「もちろん。上位賞の長剣は破格の報酬だしな。チョコやコロネ達はどうする?無理に参加はしない方が安全だが」


 一〇周年イベントの中でも二週間程常設されたものの一つが『女神の涙と祝福』だ。参加は自由、最終日の指定時間に保持しているポイントに応じて報酬が貰えるイベントだ。辛うじて秩序を保つ今のアストラを、その最後の良心を奪うテーマだろうか。


「わ、私は怖いからやめとこうかな?チョコとオレンはどうするの?」

「わったしルール見てないんだよね?なになに……?ひゃー…………」

チョコ(この子)はサブだし、失うものもないからやってもいいのよね」


 オレンが青ざめているが当然だろう。『女神の涙と祝福』の参加プレイヤーは安置エリアの効果を失う。そして本来死んでも落とさない武器やお金も全てを落とす仕様に変更される。救済措置は用意されるだろうが、恐らくはリスキルなんかでポイントをごっそり奪う輩も出てくるだろう。


 簡単に言うと、街でも攻撃を受けると死ぬし、死ねばロストしないはずだった愛用武器も奪われる。ハードモードだ。イベントの詳細は近々公開されるだろうが、分かっているのは上記の事と参加者のネームが通常の白色から赤色になる事だけ。


「とりあえずチョコの言ってたユニーククエストの場所まで行ってみるか?」

「そうね、でも場所だけ教えて私は一足先に落ちようかしら?もう時期十九時でしょ……戦場に行かないと」


 あっ、察し。多分とあるシールを貼った食べ物を買いに行くのだろう。社畜時代、俺も自炊がめんどくさくて帰りに寄っていた時期がある。途中からはスーパーが空いている時間に帰れることはなくなったが。


「チョ、チョコ!それなら私の家に来ない?実は実家から凄くたくさん食べ物を送り付けられてて……腐らせちゃうのもあれだし……そ、その……」


「あぁ……そうね、あんた……あれだもんね。分かったわ。で、でも……!お、お金はないわよ!?」


「分かってるよ!取らない取らない。レイも来る?」


「へ?」


 オレンが。


「えぇぇぇぇぇ!?みんなリアフレなの!?疎外感やばいんだけどぉ!!」


「待て待て待て待て待て!!俺は中身は男だ!!今の感じだとお前ら一人暮らしの女の子だろ!?簡単にネットの男に住所を晒すなよ!?」


「レイなら良いよ……?オレンちゃんも来てくれたら嬉しいけど、難しいよね?」


 コロネさん無双する。信頼されているようでそれは嬉しいのだが、こんな様子で悪い人達の集まるクランに呼び込まれていてはどうなっていた事やら。そして辺りをキョロキョロと見渡したオレンが。


「…………大阪なんだけど、距離的にどうかな?」


「新幹線でも2時間ちょいくらいか?流石に厳しくねぇか。帰る頃には日付跨ぐギリギリじゃね?」


「みんな泊まっていけばいいのよ。コロネあれでしょ?久しぶりに親と連絡取って、寂しくなったんでしょ。ホームシックってやつ」


「うっ……そ、そんなことないもん!」


「そんな素直じゃない子にはご飯作ってあげないけど〜?」


「ごめんなさいごめんなさい!!チョコのご飯食べたいです!!」


「えぇっと……お、俺も本当にお邪魔しても良いのか?なんかあれだよな?絶対みんなコアレス持参していくやつじゃん……」


 唐突に始まったプチ修学旅行のような展開に、下心なしに楽しそうでワクワクしてきた。場所を伝えたら音速でログアウトしたオレンは最後に「一〇分で支度して行くね!!」って。フッ軽すぎだろあのアホ毛。


「是非来てよレイ!あ……でもレイに合うパジャマはないかも?オレンちゃんのサイズわかんないから言っとけば良かった……」


「いやパジャマて。俺は近いし食べ終わったら帰るよ。ていうか、いや……当然か。コロネとリアフレのチョコも俺と同じ地域に住んでるのか」


「少し離れてるけどね。でもまぁ一時間もあれば着けると思うわ。じゃあ、また後で」


 手を振りチョコを見送る。最後にコロネへと目を向けるとニッコニコだった。確かに、一人暮らしをしていると時たまに寂しくなる時はある。ゲームの中で接していても、やはりリアルのやり取りに勝る人の温もりはない。


「じゃあレイには個人的にメッセージで住所を送っとくね?チョコと合流したら三人でオレンちゃん迎えに行こう!」


「あぁ、分かった」


 そうして俺達もログアウトしてリアルへと帰還した。実はちょっとだけコロネとリアルで会えるのは楽しみだ。欲を言うなら前のネカフェのコスプレをして欲しい。あれめっちゃ可愛かったんだよなぁ。

『斧』


打撃特性に特化したものが多い武器種。モーションの重たい技が多く、威力を重視した武器の一つ。技に特有の性質として、空や海中では下へと急速に落下するものが多い。


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