表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/110

二十八 星屑の黎明


 突入前からいきなり口論である。と言うのも、まず第一にタナユキから身勝手に潜りすぎだと怒られた。二つ目、パーティーを二編成して攻略を試したいと発言したら、またもやタナユキから噛み付かれた。昔からこいつはそうなんだが、余所者に相当厳しい。


「こちらはまだ納得していないだろ!!二編成だと?じゃあ片方が全滅した時の損害はどう考えているんだ!!やり直しが効いたとしても、アイテムが帰ってくる保証なんてないんだぞ!!」


「無くしたら掘り直せばいいじゃん?」


「簡単に言うな!!お前はやはりアストラの経験が浅いな?強い武器やアイテムは当然ながらプレイヤーを強くする……!だが無くすのは一瞬だ!!クリアのために費やした時間も……!全部水の泡だ!!神風紛いな荒っぽい方法はやめろと言っている!!」


「とりあえずもちつけ。興奮しすぎだ」


 タナユキも言い分も理解はできる。流石の俺も『秋月』をロストしたら三日はショックで夜しか眠れないと思う。だがこいつは根本を間違えている。フォルティスも何故か半笑いで目を閉じたまま口を出してこないし、多分噛みつき返しても良いのだろう。


「レイ……!まだ低レアリティ装備のお前には分からないんだろ?クリアに込める想いの強さがこちらとそちらでは違――」


「大切なのは勝利か?それとも後生大事にしてる装備か?後者なら攻略組なんてやめちまえ。コレクターが向いてるよ、お前」


「っ………」


「なんのために取った装備だ。全部水の泡?お前が怖がっているのは、形として残っていたはずの成果を失う事だ。だが俺だってお前らにばかりリスクを背負わせるつもりもない」


 ようやくここでフォルティスが。


「ほぅ?と言うと?」


「さっきも言ったように、三対五の二編成に分ける。三人の方、すなわち……分身体による水深の時間稼ぎは俺を抜いた〝非効率の館〟三人が請け負うつもりだ」


「なるほど、良い提案ではないか?皆がそれで良いなら私も首を縦に振るが」


「どうなんだよ?お前に聞いてんだぞタナユキ」


「……それならば、妥協ラインかと」


 あくまで俺達と霊峰の御剣は協力関係に過ぎない。様々な可能性と危険性、それらを危惧しているからこそタナユキは噛み付いてくるのだろう。例えば、パーティー分断においては裏切りのPKとか。道具落とせば取れるしな。中に入ればレベルシンクも相まってステータスの差はないのだから。


「随分と俺は嫌われてるみたいだし、そっちの四人で監視もできて好都合だろ?それで良いなら早速行くぞ」


「マリカ、何も盗られたりしていないか?」

「心配しすぎですのよ。確かにあの猿は時おり神経を逆撫でするような発言と行動をしますけど……いや、証明してからにしてもらいますわ」


「これ以上運営がドッキリしかけてなけりゃあ……すんなりクリアかもな――」


『忘れ去られた海底、突入します』


 コロネ、チョコ、オレンの三名によって双子の片割れを相手にしてもらいながら、俺とフォルティス達はまっすぐボス部屋へと突入した。所々に魚のヒレのような装飾をした甲冑の騎士。そしてその傍らを泳ぐカジキのようなオマケエネミー。


 なるほど、俺達プレイヤーは水かさが増せばどんどん敏捷値が落ちていくが、ボス様は多分あのカジキーンに乗っかって優雅に移動する感じだろうね。ちなみに、俺こっち来たけど多分仕事はないと思う――


「俺が前に出ます!!いつもの陣形で!!リーダー!!後ろで入れ替え(スイッチ)待機お願いします!!」


(かぁ〜出た出た……霊峰お得意のサソリ戦法……)


 名称は俺個人が勝手にそう呼んでいるだけだ。盾持ちのタナユキがパリィやガードを狙いつつ、フォルティスやその他は遠距離攻撃で後方支援。タナユキがパリングを取れそうなら、フォルティスは隙が大きいが重たい一撃のスキルウェポンを打ち込むという流れだ。


 霊峰の御剣が取る戦術は多種多様に渡るが、サソリ戦法はオーソドックスでオールマイティな使い勝手の良いものだと思う。初見はとりあえずこれ、それくらいゼロ時代から使われていた。


(…タナユキの野郎、相変わらずタンク上手ぇ……)


「おい!!レイ!!何サボってる!!遠距離がないなら隣に来い!!」


 なんというか、どうしてもゲームの仕様上でヘイトは管理や維持がしにくい。エネミーヘイトの一位を取る、みたいな挑発スキルがあればもっと管理と維持がしやすいのだが、生憎とここの運営はそんな便利なものは実装しない。


 内部ステータスを見れない以上、ヘイトに纏わる話はほぼ憶測だ。当然ながら経験に基づいた俺の感想なので、間違っている可能性もあるが多分合ってるはず。怯み値蓄積、仲間への回復、特定部位への攻撃、与ダメ、主に四つ、この順番でヘイトが向きやすいと感じる。とにかく相手に行動を上手くいかないようにさせて、イライラさせる事が大事なのだ。


「フォルティス〜、間違えても俺らの後頭部にスキル撃つなよ……?」


「振りか?」


「違うわ!!」


「はっはっは!!心配するな。そんなおふざけをするのはうちの最強のチビだけだ。勝ち戦なようだが、最後まで油断はするなよ」


(ゼロでやられたから言ったんだろうがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)


 だが同時に懐かしい感覚に口角が上がった。無意識だったが故に、俺はこの状況に対して極当たり前な事に気が付いたわけだ。霊峰の御剣の攻略は遊びでは無い。仕事だ。ダンジョンクリア、クランとして欲しいものはその先にあり、その葛藤と試行錯誤は通り道に過ぎない。


(タナユキが……パリィをミスった――)


 どれだけ失敗しようと結果なんて後から付いてくるものだ。それは俺個人の意見であり霊峰の御剣の総意では無い。だが今のように『勝利』のため、息を合わせるこの瞬間だけは高水準なパーティープレイの楽しさが感じられる。タナユキの体に這うように身を回し、第二の剣撃としてその被弾の軌道へと刃を光らせた。


「――ストライクバッシュ」


「うわっ……!?」


「弾いた!!スイッチ!」


「……っ」


「ガンガンパリィ狙えよ!まじでギリッギリで追いパリ間に合うわコイツ!」


 タナユキが弾けば俺とフォルティスが大振り高威力な攻撃を叩き込み、失敗すればすかさず俺がフォローする。懐かしい、とても懐かしい気分だ。業務の流れ作業のような周回攻略は飽き飽きだが、やはり未知の最前線を走るこの瞬間だけはこのクランでも変わりない。


「フォルティス!!体力はおおよそ想像ついてんのか!!」


「あぁ、攻撃モーションが二段階で変化と増加する。二回目のモーション変化からおおよそ八〇回くらいかと」


 攻撃八〇回とは瀕死ラインを示す。クランにおける攻略、その最後は決まって皆が同じスキルを叫ぶ事が多い。滞りなくエネミーの体力を削り、今まさにその瞬間が訪れた。


「「「「不屈の怨恨」」」」


 俺を除く四人がデンジャースキルを一斉に発動させた。武器の耐久値を大きく消耗する代わりに、その一撃は会心の発生率と倍率が大きく向上する。続けて俺も発動しようとした時の事だった。タナユキが離れると同時にフォルティスが。


「攻略だけでなく、隊員の精神的な成長を手伝ってくれるとはサービス精神旺盛だな。礼を言う」


 勝利までのプロセス、その道のりにタナユキはどこまでも安定を求めていた。そのために集めた高水準な武器も、立ち回りも、ガチガチに固めるのは当然理にかなっている。だが時に全ロスに対するその臆病さはクリアの妨げにもなってしまうのだ。


(クッソ……利用されたのかよ。別にいいんだけど……一杯食わされたままじゃムカつく――)


 分身の方のモーションは共有してやるが、使われるだけ使われてサヨナラも腹が立つ。見たこと無いものを見せつけてやるから驚きやがれ。丁度俺も試したかったしな。


「――デンジャースキル、『星屑の黎明』」


 発動直後、足元に八芒星の紋様が蒼く光り輝き、俺の背後から前方へと数多の小さな流星が走り抜けた。凄いオシャレなサウンドエフェクトと特殊演出だな〜 とか思いつつ、両手にオレンと同じ武器種を握りしめた。


 右手に片手剣、左は逆手持ちの短剣。小回りと連撃に特化した張り付き粘着近接特化マンスタイルだ。重たい攻撃などはパリングが狙えない装備だが、回避して隙間なく攻撃を行う。星屑の黎明はコンボ数上昇に応じて会心倍率にボーナスが入るため、このスタイルが最適だろう。


「なっ……!?き、聞いたことないデンジャースキルだぞ!?」

「タナユキ!!前をレイに渡せ!!」


「美味しいとこ譲ってもらってありがとうございまぁす!!おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 もう十分に騎士様の攻撃モーションは見させてもらった。張り付きまくってコンボ数稼ぎ一択である。確定で会心が出る部位は首だが、甲冑のせいで狙いにくい。だが各所甲冑の継ぎ目を狙い続ければ、部位破壊して新たな確定会心場所が生まれるだろう。


「ひゃっはぁぁぁぁ!!壊れたァァァァ!!おらおらおらおらおら!!!!」


 何これ気持ち良い。会心の発生時には蒼い斬撃エフェクトが出るのだが、会心倍率、すなわちクリティカルが出た際のダメージ上昇率が高くなると、それに比例して蒼の斬撃も大きくなる。つまり、俺の連撃がやばいくらいに蒼く煌めいてた。


「気持ち良ぇ〜!!ストライクバッシュ!!怯んだところにあいよぉぉぉぉ!!」


 短剣ウェポンスキル『モータルスラスト』。スタミナを消費し続け、限りなく切り続ける初期スキルだ。普通に攻撃するよりスキルの方が倍率が高いので使わない手はない。


「レイ……!そのままスキルを使い続けろ!!俺が弾く!!」


「そりゃどーも!ミスんなよ〜?タナユキー」


「馬鹿にするな!!ストライクバッシュ!!」


 パリィによって仰け反った騎士、その首が僅かながらに見えた。甲冑の隙間、そこへとモータルスラストを解除して右手の片手剣を引いて構えた。貫通特性ヒャクパー、ウェポンスキル『シャープネスストライク』――


「いい加減落ちろ……!」


 六十二ヒット目、一際大きく蒼のエフェクトが弾け飛び、眼前へとCongratulation!!の文字が。ダンジョンクリアである。お膳立てもあったが総合ダメージ一位は俺だ。やったぜ。


「お、おいレイ!!なんださっきのデンジャースキルは!」


「言うわけねーだろ〜?いでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ダンジョンクリア後と言うのに、何故か全快したはずの体力が六割くらい消し飛んだ。多分あれだ。『星屑の黎明』によるデメリット効果だ。コンボ数が切れた時、その数に応じてダメージを受けるとかなんとかってやつ。


(えぇぇぇぇ……六〇コンボで六割飛ぶのぉ?使い勝手悪ぅぅぅ!!)


 その後はコロネ達も共にダンジョンから抜け出し、報酬抽選に勝ち取ったコロネをみんなで胴上げしたのだった。嫌な笑い方をするフォルティスから目を逸らしながらも、久しいパーティープレイの楽しさに胸の高鳴りを自覚したのだった。

『妖精族』


法撃や弓等の遠距離攻撃に向いた種族。高い知性と技量、精神力を活かす事で高い火力を出すことが出来る。耐久性に難があるがドワーフはその限りでなく、力強さを兼ね備えている代わりにメインスロットが二枠となっている。


Now loading…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ