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二十七 勝てないコンテンツなど存在しない


 俺の要望はすんなりと受け入れてくれ、なんと八人でも難しいはずのダンジョン内部へと四人で突撃していた。休憩の時間が惜しいので一人で行くと行ったら着いてきたのだ。コロネ、タナユキ、マリカ、そして俺の四人である。


「マリカ――」

「――さんを付けろ猿が」


「……マリカさん、ボス部屋と反対の位置にある大部屋の道を後から教えて欲しい」


「今更何をするつもりか存じませんけど、あなたを邪険に扱えばリーダーに怒られますしね。分かりましたわ」


「サンキュー、お前の記憶力が今回は最高の武器だな。安定周回するようになってもお前だけはここに縛られると思うぞ!おめでとう!」


「はぁ!?そんなことはクリアしてから言ってくださいな!!何も手がかりを掴めていないクセに――」


「――金の魚だ。殺すなよ?後ろを追って大部屋に誘導してみる」


 金の魚はアクティブエネミーじゃない。追いかければ遅いがそれなりに逃げるタイプのエネミーであり、三人もいれば進行方向を誘導できる。だが最初の一匹目に出会う速さは運ゲーだ。もし仮に大部屋に誘導する事がキーアクションならば、出現位置もかなり影響があるだろう。


「着きましたわよ?こんな追い込み漁になんの意味が……」


「…………意味ならあったみたいだぞ。ボスの双子か?ははは……っ!」


 金色の魚が大部屋の壁に掛けられていた鏡へと吸い込まれたかと思うと、このダンジョンボスと瓜二つの水で形作られた人型の騎士が現れた。波打つ甲冑、透ける水の体と両刃の長剣。一つ違う点があるならば、こっちはエネミーに騎乗していないという点だ。


(同じ人型だが……こいつは水の中でも動けるのか?こっちは完全に水で出来てそうだし、動けるよ――)


 最早それは反応ではなかった。費やしたアストラへの時間、それが視界に迫り来る水の斬撃へとフレーム回避を重ねる。ネット越しでも飛んできたボールを避けてしまうように、脊髄に刻み込まれたダメージ判定の否定が命を繋ぐ。


「あっぶね……っ!」


「初見殺しか……!」

「あの猿……っ!よく避けましたわね……!?」

「レイ!!増えてる!」


「まじかよ……」


 大部屋の中が地獄絵図になった。水の騎士が四体、最初の一体は二回りくらい大きいので多分本体だろう。恐らくはこの分身は技の一つ、一定時間プレイヤーを追従して攻撃する類だと思われる。だが問題は数よりも本体の速さだった。


「おいおい……っ!ふざけんなよ!!なんだよその剣撃の発生の速さは……っ!!範囲も悪ふざけにも程がある……!」


「お前……!これ状況が悪化していないか!!こんなのを相手にするくらいなら、ボスを直接叩いた方が……?」


「おー!気付いたか!こいつが大技かます度にぃぃぃぃぃ!?あぶねぇぇぇぇぇぇ!!大技の度に水がごっそり減ってんなぁ!!正攻法見つけたり!」


「ぐぁ……っ!お前…!なんで避けられる……!?悪いが一旦死ぬ!!リーダーにこの事を報告させてもらうぞ!!」


 タナユキが脱落した。このボスの双子と戦っている間はエリアの浸水が止まる。というより、寧ろ減っているかもしれない。まずは検証、そして実行。失敗は成功の母だ。エリアから外れたらどうなる。


「コロネとマリカ!!一旦部屋から出るぞ!!」

「分かりましたわ!」

「うん……!」


(部屋からプレイヤーの重心点が外れていればヘイトが解除ね。けど戦闘中かつ、あの技を撃たせないと水は減らないから意味はなし。そうなると……後はモーションパターンの記憶と書き出し、誰でも勝てるようにパターン化してやるよ……!)


 茨の道なんてものは道があるだけまだマシだ。未知の最前線の攻略とは道を作る事を指す。運営がキャラクリの差によってクリア出来ないコンテンツは作らないと公言している以上、セッティングされたルートが必ず存在するはずだ。それを紐解く事こそがダンジョン型のコンテンツに秘められた楽しさの根源だ――


「お前らは見ててくれ!!攻撃パターンとか、特定行動後の確定モーションとか!なんでも良いから気が付いた事は全部メモしといてくれよ!!」


「ちょ……!一人でやるつもりですの!?」


「危なくなったら交代するからね!!レイ!!」


「こんな楽しそうな仕事……!渡すわけないだろ!!」


 片手剣は斬撃特性が長けている。だが片手の持つ特徴はそこではない。斬撃の武器ながらに打撃と貫通という全ての近接特性を併せ持つ。検証ならばまず外せない武器種であり、故に握るのはこいつだ。攻撃モーションの分析と同時に弱点属性を探るぞ。


「あっぶねぇ……!まじで早すぎなんだよその攻撃!」


 中腰で構えてから一閃、水騎士のそのモーションから放たれる水の斬撃が速すぎる。発生も、斬撃の迫る速度も、「あっ」って言ってる間にまず被弾してしまう。カジュアルなプレイヤーではまず回避は不可能。ならばそもそも避ける事自体が間違いなのではないのだろうか。


(盾も試したいが……ここで全員が死んだら全ロスだし、ぶつけるか――)


 おおよそ水の斬撃のヒット判定のタイミングは掴めたので、盾と類似した打撃特性を持つストライクバッシュを斬撃にぶつけてみた。被弾していたタナユキ達を見ても、敵のこの技は速さこそあれど重さはないように思う。ノックバックがないならば、恐らくは盾の通常ガードでも簡単に防げるはず。


「――へ?」


 予想通り水の斬撃は容易く散った。だが別の問題に直面である。敵のモーションが初見のものへと変わり、水剣を天に掲げたかと思えば約二秒後、翳すように振り落とされた。まるで乗馬した騎士が敵地へと戦果の狼煙を上げるかのように。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!?無理無理無理無理無理無理!!!!」


「レイ!?流石にそれ避けるの無理じゃないぃぃぃ!?」


 大部屋の全方向から水のレーザーみたいなのがいっぱい飛んできた。一回ならまだ許してやるが、五回ほど繰り返すので回避はまず無理。しかもこっちは水撃と違って怯みがある。動けなくなった所に嫌な水球を掲げられておられるんですが。


「おまっ……!確殺コンボはダメだろ!!それ絶対威力高いやつぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」


 水球が割れた。異常な風圧と衝撃を背中に受けながらも、俺は吹き飛ぶように大部屋から撤収してやった。三バウンドくらいした気がする。だがギリギリ死んではいないようだ。


「だ、大丈夫!?レイ!!」


「うぅ〜ん……?モーションは全体的に速いけど、威力はレベルシンク相応って感じだな……」


「あれでは通常ボスの方がまだマシですのよ。モーションが遥かに分身体の方が優秀ですわ。あなたが相手取るならば勝ち筋は見えますし、全滅して全ロスする前に脱出でよろしいのでは?」


「いやまだだ。あいつの動きをパターン化させないと安定した周回とやらには程遠い。対エネミーにこと置いて、プレイヤースキル依存で勝敗が決まるなんてありえない」


 どうせフォルティスの事だ。俺がいなければ成立しない攻略法では、なんやかんや次の約束を取り付けて拘束されかねない。お望み通りの戦果を渡して貸一を貰う。


「コロネ、死なない程度で良いから今度は着いてきてくれ。盾であの水の一閃をガードだ」

「わ、分かった!任せて!」


「マリカ……さん、は念の為外で待機な。俺達が死んだら回収して逃亡よろしく」


「え、えぇ……」


 こうして検証を重ねるうちに分かったことは二つ。一つは水騎士の攻撃はノックバックが大してないこと。二つ、水の一閃はエリアの水を大きく消耗すること。つまり、盾持ちによってこいつのヘイトを取り続ける事で、通常ボスを削る時間を作ることが可能なわけだ。


(問題は水の一閃の後だ……ガードすればタメの後に回避不可のレーザーが四方から飛んできやがる……)

「危なっ……!!レイ!!レーザーが来る……!」


「やっぱり水の一閃ガード後は確定モーションか――」


 一閃ガードの後、剣を振り落とされる前にすかさず大斧の強攻撃を叩き込んでやった。水で出来ているだけあって文字通り弾け飛んだ。俺の中でこのダンジョンの攻略法の八割が構築完了したと言える。キーとなるポイントは三つ。


(一つ、水の剣撃はエリアを浸す水を消耗する代わりに、出が早く止めにくい。二つ、その水の剣撃が来るまでは、怯ませやすい弱点属性の打撃武器は使わない――)

「水の一閃はガードで良い……?」

「おう!」


 三つ、特定のモーションをガードした時に移行する後隙を、すかさず打撃武器でほぼ強制的に怯ませてキャンセルさせる。水の一閃からの水のレーザー、この流れを断ち切るわけだ。理屈さえ掴んでしまえば後は容易い。ただまぁ、こちらの影響が通常のボスに現れるならもうひとひねりせねばならないが。


「よーし、おおよそ掴んだわ。一旦出るか」


「なんで……そんなわけありませんのに…………一瞬でも重ねて見えてしまうなんてぇぇ……あぁぁぁ……ゼロ様ぁぁ……どうか愚かな私めを罵ってくださいましぃぃ……」


「何言ってんだお前。早く帰るぞ」


 肩まで水が浸かってしまうと言うのに、何故か膝まづいて天を仰いだまま顔面を両手で覆うマリカが。顔を真っ赤に悔しそうな表情で睨まれたのだが、流石に理不尽でないだろうか。


 その後俺達はフォルティス達と再び合流して再突入するが、あのクソリーダーはただダンジョンのクリアだけが思惑ではなかったのだと知る。個人的にはいけ好かない奴だが、リーダーとしての資質は俺なんかとは月とすっぽんだと思い知らされる事になったのだ。




『鬼人族』


近接攻撃が得意な種族の一つ。力強さと耐久性に優れており、最も特徴的なのはスタミナの上限値が他種族と比べて高い事だ。


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