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二十六 安定周回の基盤


 俺の顔面を見るなり絶叫を上げるマリカと、どう見ても歓迎の表情ではないタナユキがいた。疑うような、それでいて強い敵意を感じる。一触即発の空気にコロネやチョコが交互に顔を覗いているのが見て取れる。


「協力関係を申し込んできたのはそっちなのに、なんだよその目は」


「俺はお前……レイとやらを認めていない。ゼロへの憧れは自由だが、パーティープレイであんな動きを見せてみろ……即リーダーに掛け合い協力を中止してやる」


 タナユキが言うように、ゼロの動きはソロ特化だ。どこまで行ってもこいつらのパーティープレイの形は、一人はみんなの為に。統率された陣形と型にハマった連携、安定した勝利の道を作り上げるには、派手で危ういゼロのプレイスタイルは嫌いなのだろう。


「ライン工場みたいに、機械仕掛けの勝利をお望みか。まぁ仲良くやろうぜタナユキさん」


「……こちらの戦術に合わせてもらうという話だ。あいつのように実績と功績があるならいざ知れず、一人のために編成した戦術などあってはならない。余所者に命を預けるなんてリーダーもどうかしてます……っ!」


 フォルティスが。


「その辺にしておけ。あくまで我々は協力関係だ。だがタナユキの言うように、こちらのやり方に従ってもらいたい。良いか?」


「おk〜 早速行くのか?」


「あぁ。だがマップから突入出来ないタイプのクエストでな……現地に直接行く必要がある」


 各自マウントエネミーを召喚し、チョコはコロネと二ケツだ。で、これまた俺の知らないマウントエネミーを〝霊峰の御剣〟は召喚しやがった。一言で言うならデカいザリガニ。けどなんか足が実際の人みたいな質感と形なんですが。


「きっっっっっっっっっっも……えぇ……?何それ……」


「見てくれは悪いが早いし水陸両用なんだ。行くぞ!!着いて来い!!」


「ケツの方に向かって走んのかよ!!キモすぎだろ!!」


 凄い速度で人の質感の足と手がカサカサしてる。しかもザリガニのケツの方が進行方向なため、常に騎手のフォルティスと目が合ってきまづい。キモすぎだろそのマウントエネミー。何を思って運営はこれを実装したんだ。公式が病気か。


「セイファート……?見た事のないエネミーだな」


「ごめんフォルティス、真面目な顔してるけど絵面がミスマッチすぎるから喋らないで。あとこっち見んな」


「レアなものは巡るべくプレイヤーの元へと自ずとやって来る……か。かつてうちの最強がほざいていたオカルト理論だが、あながちバカに出来なくなってきたものだ」


「あの……本当に前向いてくんない?いや、仕様上騎手は後ろ向きには座れないのは知ってるけどさ…… てか誰か竜をテイムしてないのかよ。飛んだ方が早いだろ」


「馬鹿か。あんな規格外をテイムしようと思う奴は頭のネジが外れている。竜をテイムしたやつは後にも先にも、あいつ以外に出てきて欲しくない」


 ザリガニの上に跨るフォルティスが怪訝な顔つきで俺を見ていた。ひたすら目を逸らして無心で進むこと約一時間、湾曲を描く広大な砂浜へと到着し、俺達は〝霊峰の御剣〟のザリガニマウントへと乗り合わせる流れに。


 フォルティスと俺、マリカとオレン、タナユキとチョコ、手下Aとコロネというペアに別れ、それぞれが海の上へと進行した。ケツから入水したかと思えば方向転換して何故か前を向いたんですが。


「ねえちょっと待って、もしかしなくても海の上は頭が進行方向――」

「――口を閉じて捕まれ!!跳ねるぞ!!」


「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ザリガニが華麗なバタフライを始め、尋常ではない水飛沫と衝撃を撒き散らしながら凄い速度で泳ぎ始めた。絶対にこのマウントエネミーあれだろ、酒の席で思いついた悪ふざけだろ。何食べて育ったらこんなの思いつくのか。そしてこれの実装にGOサインを出したヤツも多分イカれてる。


「はっやぁぁぁぁぁぁ!?乗り心地が悪び」


 おもっくそ舌噛んだ。クッソ痛え。文句を言う暇もなく海上をさらに一時間移動。何も無い水平線が広がる海原の上にて、ようやく気持ち悪いザリガニ共が静かになった。何も無いのだがここがゴールとでも言うのだろうか。


「この直下の海底にダンジョンがある。パーティーを結んだ状態で突入するにも、深すぎてリンクが切れてしまう。これは事前に話していたな」


「あぁ、斧のグラビティパージで急速落下すればギリ持つんだろ?息が」


「そうだ。だが割とギリギリだ……ダンジョン内部には空気があるため急いで突入する。二秒後に続けて着いてきてくれ。グラビティパージ!!」


 そう言い残してフォルティスは水飛沫を上げて海底に沈んでいった。これ続かずに放置したらどうなるんだろ。なんて悪戯を考えていたら無事ザリガニが消えてびしょ濡れである。


「冷たっ!俺らも行くかーじゃあ話していたように、斧を持ってきていないコロネは俺に、チョコはオレンにしがみつけー」

「し、失礼します……」

「おー、しっかり捕まっとけよ。振り落とされたら溺死だからな。せーの……グラビティパージ」


 何故チョココロネに斧を持ってこさせなかったかと言うと、一つは慣れていない武器種だから。もう一つ、チョコに関しては妖精族であるエルフは重量系の武器種は向いていないから。わざわざメインウェポンを一つ殺すくらいなら、二人乗りでずるできないかなっていうあれだ。


「……っ!」


(コロネが肩叩いてる……?着いたのか)


 高速回転するグラビティパージのムーブアシストからキャンセルを入れ、眼前に広がる旧文明を彷彿させる遺跡に驚いた。リーダーから届くダンジョン突入を示す文言。『忘れ去られた海底』の始まりである――








「――ぶっはぁぁぁぁぁぁ!?まじで溺れるかと思ったぁぁぁ……!」

「怖かったぁ……」


 怯えるコロネと共に立ち上がり、びしょ濡れの衣服を絞りながら辺りを見渡す。古びた石造の壁と様々な土偶。そして至る所から開いた穴から、勢いよく水が内部へと侵入していた。


 ダンジョン自体の制限時間は長く設定されており、あってないようなものだ。だが徐々にかさを増す内部の水が、物理的なタイムリミットを作り上げているようだった。


「ダンジョン内部が水で満たされたらゲームーオーバーか」


「あぁ、しかもかなり広大な迷路になっている。恐らくは突入毎に地形は変わらないだろうが、スタート地点がランダムなためかなりめんどくさい。マッピングが出来れば良いのだが……」


「クリア条件はエリアボスの討伐ね。で?ボス部屋まで辿り着いた事は?」


「あるが見ての通りだ。辿り着いた頃には水が限界ギリギリ、水中ではまともに戦えず未攻略とされているわけだ。お前ならどうする?」


 マリカを連れてきた理由としてはその地形記憶能力の高さだと思う。個人技にはなってしまうが、キョロキョロと辺りを見渡すそれは脳内でマップを再構築しているのだろう。それでいて最高装備、最高人数と高い練度を誇る霊峰の御剣がDPS不足とは考えにくい。


「そもそもの攻略法が間違えている説はあるな……例えば、息継ぎが可能なエリアがあるとか」


「あるにあるが、どちらにせよボス部屋までは遠いぞ」


「なら水深ギミックの解除」

「……深くは検証できていないな」


 タナユキが。


「止められる訳がないだろう。あちこちから吹き出しているんだぞ?そもそもどうやって止めると言うんだ」


「分からないから試すんだろ?言ってもゲームだ。敵を倒せば止まるかもしれないし、どうせ死んだって最初からやり直せば良い。俺じゃなく、当初アテにしていた奴を連れてきても同じことを言ってると思うけどな」


「そうカリカリするなタナユキ。手詰まりな事は否定できないからな。レイの言うようにボスの前にエリア攻略から当たってみるか」


 歩いていると『忘れ去られた海底』のダンジョン仕様が特殊だと思い始めた。通常、ダンジョンとなるとボスまでは一直線な事が多い。迷路構成かつ、定位置にポップしないエネミー、そして偶然ながらに現れた金色の魚型エネミーを倒した時にそれは起きた。


「水が止まったな……」


「そうと決まればボス部屋に行きましょうリーダー……マリカ!道は分かるか?」

「覚えてますのよ。リーダー……?」


「……」


 俺とフォルティスは全神経を視界へと注いでいた。見ているのは止まった水の吹き出し口と、止まってから刻み続けるダンジョンでの経過時間。三分。おおよそ金の魚を倒してからその時間で水はまた吹き出し始めた。


「なるほどな。どうする?フォルティス」


「二手に分ける他ないな……とは言え、リポップ条件を調べた方が確実か」


「へいへい、そういう契約だしな。二手に別れて後から情報共有しよう」


「お、おい!!リーダーがいるのにお前が仕切るな!!」


 金の魚を倒し、時間を稼いでは再び金の魚を探して倒す。その間にボスを倒してもらう、そう言ったギミックなのかもしれない。そうなってくるとボスの削り役が半端なDPSになると本末転倒である。だがこれではあまりに拍子抜けすぎる。


(こんな簡単な事を誰も見つけられなかったのか……?多分違う。これをした上でも何か難点が残っている……?)


 徐々に運営が隠した謎解きのピースが揃う。金の魚はエリア全体のどこかにランダムポップ、だが倒してから三〜五分ほどは出現しない。すなわち、半永久的な止水は不可能。となれば、金の魚はまだ別の役割がある仮説が濃厚だ。


 一時的に通常フィールドへと戻り、俺達は水上マウントの上で休息と会議になった。早々にタナユキが俺に悪態を着いているが少し静かにして欲しい。ボスエリアと対局の位置にある意味深な大部屋、あそこはなんなんだろう。


「リーダー!!やはりこいつでは役に立ちません!!ゼロを連れてきましょう!!魚を倒し続けながら、高火力を出せる人員を揃えるべきです!」


「主が何か成果を上げているならばそうしても良いが、手詰まりなのは我々もだ。あまり自分を棚に上げるでない……自ら格を下げるな」


「っ……」


(試したいことがある。だがもしこの仮説が正しければ……タナユキやフォルティスの目指す安定周回とは程遠い結末になるかもしれない……個人技ではなく、それを並の人間でも達成するには膨大なトライアンドエラーが必要だな)


 俺がフォルティスと交わした契約は『忘れ去られた海底』の安定したクリアと周回。仮説の検証をしてからになるが、俺じゃなくても勝てるやり方や知識を提供する事こそが、今回課せられた最大の難関だった。


 

『龍人族』


龍の血を飲み呪われた種族。全てのステータスが高いが、呪われた体は簡単に軋む。攻撃が得意な反面、怯みやすい特徴を持つ。


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