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二十五 非効率の舘


 結論から言うと、掃除は三日ほどかかった。このゲームに時おり言いたいことがあるとすれば、リアルを追求しすぎて少しくどい。建物の各パーツにも耐久値が設けられており、ほとんどが劣化してロスト寸前だったのだ。


「終わったぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「ユーフィーちゃん!ほら見て!!掃除前後の写真いっぱい撮ったから!一緒に見よ〜!」

「わぁ……凄い…こんなに綺麗に……!家具も壁紙も……!床も全部綺麗にしてくれてる……!ボロボロだったのに……」

「お礼ならチョコとレイに言ってね?二人はぶっきらぼうで、やる気がないように見えるかもしれないけど……古びた道具を修繕するために、この三日間ずっと走り回って素材を集めてくれたから」


「チョコ!レイ!それから……オレンも!!みんなありがとう……こんなに綺麗にできるなんて……夢みたい……」


 最早掃除というよりリフォームだ。故に三日。古びた家具や床、壁紙のほとんどを街に運び出しては修繕し、必要な素材を集めてはこれの繰り返しだった。別に館が手に入るわけでもないが、一度手に着けたならば最後までやり通そうという気まぐれだ。ただその分時間が押していることも事実。


「お前らは少し休んでろ〜 俺はちょっと離席」


 明後日には〝霊峰の御剣〟と打ち合わせがある。対等な協力関係の場合、それぞれ等しい数の人数を出動させ、一つのパーティーとして挑むことが殆どだ。つまりは実際に『忘れ去られた海底』に挑むプレイヤーが集結する事を示す。が、もしも俺たちのクランが間に合わなければその限りでは無い。


(共同作戦は情報が拡散しやすい……そもそも霊峰の御剣が協力申請をする事自体が異常なんだよ…………そうなると、クランが間に合わなければ俺以外の参加は飲んでくれなさそうだよなぁ)


 クラン自体に他人への強制力、縛り付ける力なんてないが、体裁上でも俺のクランに属していなければコロネ達の参加は許されないだろう。そのためにはクランの登録は必須項目、だがリフォームの関係で残り七〇〇万ステラしかない。プレハブ小屋不可避である。


(しゃーない……最悪後から増築するって説明して納得してもらおう)

「レイ」

「コロネ……?」


「……ありがとね!私のわがままに付き合って貰っちゃって……多分、早く家を手に入れたいはずだと思ったから……違う?」


「……まぁ、焦ってはいるかな。けどまぁ、あれはあれで楽しかったし悪くはない。未知の最前線でトラブルまみれになるよりよっぽど健全だしな」


「ふふ、やっぱりレイとやるアストラは楽しい。回り道も、寄り道も……見えるもの全てにキラキラした目を向けるレイを見てると……不思議と私まで楽しくなっちゃう。これから先もずっとレイとアストラをやりたい!あとね?ユーフィーが呼んでるの!」


「ユーフィーが……?」


 戻るとふくれっ面で明後日を向いたユーフィーが腕を組んでいた。表示されたウィンドウには購入の是非を問う文言が。価格は棒線で修正されて一〇〇〇万から七〇〇万、ユーフィーの気が変わったとでも言うのだろうか。


「いいのか……?ここはお前の思い出だろ?」


「運営が私をバグ扱いしてるって聞いたしぃ?力ずくで屋敷ごと修正されてしまう前に……誰かプレイヤーに使ってもらって残した方が良いかなって……べ、別にあんたたちのためなんかじゃないんだからね!?」


「めっちゃツンデレで草。けど……ありがとな、ユーフィー」


「わ、私はここに居座るから!それでも良いなら勝手に買えば?」

「ユーフィーちゃん残ってくれるの?じゃあこれからもずっとお話できるね!」

「うぅぅぅ……!コロネは純粋すぎてイジれないぃぃ……!」


 土地を含めたこの周辺は全て俺達の所有物となった。宿と同じく回復効果と、イモータルボックスの出現。そして家の名前を入力するウィンドウへと俺は指を伸ばした。クランハウスの名前はそのままクランの名前として呼ばれる。最初はざりがにとか、適当にしてやろうと思っていたが気が変わった。


(頂点を目指して登るだけがゲームの楽しさでは無い。この館のように、無駄だと思っていたことが思いかげない成果として現れる事だってある。そして、コロネはそんな俺を見てついてきてくれると言った……ならば、クランはその形を成すべきだ)


『〝非効率の館〟が登録されました。続けてメンバーの承諾を待っています…………承諾されました。クランリーダー『レイ』、レベル三〇達成後、クランの権限を新たに与えます』


「……非効率な事を効率よく楽しくをモットーに、ゆる募」


 チョコが。


「なんか緩いわねぇ……そんな誘い文句で人なんて来る訳ないでしょ?いいの?」


「良いんだよ。まったりと未知の最前線を歩くのも悪くはない」


「みんなが我先にと走るところを……傲慢なんだか緩いのか、あんたと話してると調子が狂うわ」


「レイー!!みんなもマウントエネミー召喚して写真撮ろう!!」


 コロネの呼び掛けに各々がマウントエネミーの召喚と共に玄関前へと集合した。オレンは茶色の毛皮に紅いメッシュの走る牛っぽいマウントエネミーを選んでおり、チョコは未だにサブキャラはテイムリンクを解放していないらしい。


 そうしてみんなに明後日の打ち合わせを伝えた後、俺達は急いでレベリングへと打ち込んだのだった。








 ステラヴォイドより遥か北東、数々のフィールドを抜けた先に佇む巨大都市。ステラヴォイドを始まりの街と言うならば、ここは最後の都市『ラストアーク』。ストーリー終盤に立ち寄る最後の安置エリアだ。


「御足労すまないな。応接室に案内させてもらう」


「お、大きい家……」

「霊峰の御剣のクランハウスはやばいわねぇ……」

「で、でっかぁぁぁぁぁ!?」


「〝非効率の館〟の皆様方、どうぞこちらへ」


 課金アイテムの一つ、NPCメイド。月額課金性のアイテムであり、その効果はクランハウスの清掃や耐久値減少を緩やかにする。ちなみに幹部クラスと役職持ちは自室を貰え、希望によってはその課金効果を使用可能だ。


「ここ……噂のゼロさんの部屋……?」

「室名札が……なんか雰囲気と違って……き、気さくね」


(ひらがなでぜろって適当に手書きしただけなんです……あんまり弄らないでください……)


「誰……?こいつら」

「ばっかお前……!知らないのか!?リーダーのお客さんだって…あんまり睨むなって……!」

「あれが噂のレイって人?」

「あー、動画見た。レベル差もあるし、分からんけど確かに動きはゼロ様に似てたかも」

「クールなゼロ様はあんな品のない声上げねえよ」


 ボロくそである。ゼロの頃にあまり声を出していなかったのは、やはり自認した性別とは逆の声で喋ることに違和感がやばかったためだ。何度かキャラクリを考えたが、女性キャラ特有の技量補正は捨てられなかった。


 技量が高ければ会心系統にプラスに働き、飛び道具の命中力や射線修正などに繋がる。対して男性キャラの筋力補正、あれは近接の威力や体力が上がったり、攻撃を受けた時の怯みにくさなどに繋がる。僅かな差だとしても、全ての武器種を使う以上女性キャラの方が都合が良かったわけだ。


「早速本題に入ろうか。まずは報酬の取得に関しては抽選で良いだろう?」


「あぁ、フォルティス……あんたが欲しいのは報酬じゃないだろ。攻略法とその情報の独占……俺達に黙っていてもらうために何を用意してやがる」


「話が早いな。このクエストの報酬内容を確認するにも、安定して効率的に連続で勝てるようにならなくてはならない。こちらがそのきっかけを得られたのならば……黙っていてもらう代わりに貸し一つでどうだ」


 貸し一。つまり、『忘れ去られた海底』を安定して周回クリアが可能となれば、無条件で俺達に一度戦力でも情報でも、なんでも協力するという事だ。一巨大派閥のそれはある意味羽振りが良いと言える。だが逆に言えば、こちらの動向を伺っているとも取れる。


「……羽振りが良いな?まじでいいの?」


「無論、これ(・・)、もしくはその取り方でも良いぞ?」


 意地の悪い笑みのフォルティスの手が虚空へと埋まった。波打つ空間から出てきたのは向こうが透けて見える星空を模した刀身。見た事のない曲刀だった。詳細を見てやろうとしたがすぐに虚空へと消しやがった。


「スケベが、見せるわけがないだろう。☆八の武器とだけだな……言えるのは」


「ほ、ほほほほほほほほ☆八ぃ!?まじで実装してんのかよ!?」


「取るのは簡単だ……使うにはもう一つ工程が必要だがな。で、さっきの条件は飲んでくれるか」


「一度クリアしちまったら後は好きにすりゃいい。俺達はビジネスに興味はないからな」


「ならば打ち合わせは終わりだ。水上用のマウントエネミーがレベル的にもまだ全員取れていないだろう?悪いが海の上からはこちらの隊員達と一人ずつペアで乗ってもらう」


「それは助かる」


 この世界には水陸空の移動手段が必要だ。レベル四〇になれば、ストーリー進行の途中で水上移動が可能となる。レベル六〇で空だ。そんな記憶を辿りながらも〝霊峰の御剣〟の巨大ハウスから出た矢先、マリカの悲鳴とかつての二番手プレイヤーに睨まれたのだった。


 〝霊峰の御剣〟の二本目の短刀、『タナユキ』。

『人間族』


最も平均的な種族の一つ。特筆する事の無い最も基礎的なステータスであり、全ての事態に臨機応変に対応可能な万能の種族だ。


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