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二十四 幽霊屋敷と大掃除


 結論から言うとクランの持ち金は一〇〇〇万と少しに増えた。何があったかと言われると、少し大人気ない事をしたのだ。ブルーギャリア、あのカジノ街の地下には、プレイヤー主催の非公式な賭博場がある。ルールありの決闘と、それに賭けるギャラリーによって成り立つ。


 ローカルながらに、結果を残してよく賭けられる決闘士はそれなりにオッズが低い。つまり、飛び入り参戦の俺のオッズは高いと言える。とは言え最初に強さを測られるので演技はしておいたけど。拡散された動画の影響がなくてほっとしたのは内緒だ。


「ひゃー……ガンリフの時から凄いとは思ってたけど、レイっちめっちゃ強いね〜」

「に、二〇〇万が一〇〇〇万に化けた……」


 驚くオレンとコロネだが、二人には俺の勝ちに全額突っ込んでもらった。計測試合で手を抜いて倍率が上がったところに全賭けという訳だ。もちろん一撃でオッズが下がるので撤収。欲を言うなら人気決闘士を引いて、高倍率な試合に勝ってもっとウマ味を味わいたかったところである。


「まぁ一〇〇〇万もありゃなんか買えるだろ。プレハブ小屋でも最悪俺は良いや」


「ダメだよ!女の子が三人もいるんだよ!それにあれなんでしょ?クランハウスって唯一マウントエネミーを出現させておけるんでしょ?楽しみ〜!」


「ハウジングコンテンツに関しては、何もせずとも沼りそうだな……コロネさん」


 ちなみに残る一人のチョコはと言うと、土地込みで中古のクランハウスを見てくれている。逐一写真や値段、間取りなどを送ってくれており、その中に一つ良い物件があった。何故かその物件の写真は一枚も送ってくれなかったけども。


「ステラヴォイドの物件で間取りもそれなり、庭込みでこの値段って……ほぼ土地代しかないぞ……?」

「私にも見せてー?」

「わったしも〜!」


 両肩からのしかかるように二匹が顔を出し、チョコが添付した物件に目を通す。別館、広い庭付き二階建て、この絵面でもうチート。これで一〇〇〇万で雀の涙くらいはお釣りが来る値段ってどういうこと。


『もしもし?気になる物件でもあったの?』


「いや……一つだけ異色放ってるのがあるだろ。このステラヴォイドの館だよ」


『あぁ……そこは…………曰く付きというか…………目立つ場所にあるくせに運営でもよく分かってない何かが残ってるというか…………』


「どゆこと?」


『実際に見てもらった方が早いと思うから、ステラヴォイドで落ち合いましょ。噴水で待ってるわ』


 そう言って通話は切れた。全くもって意味がわからず、後方で「いつの間にいつの間にいつの間に……」と壊れたラジオと化したコロネが困惑を加速させる。ただまぁ、一見は百聞にしかずとも言う。行ってみよう。







 館に着いた。なんかいる。庭には鉄格子のような門と生い茂った雑草達。そして玄関扉の前には一段上がった石のタイルがあり、その上でおっさんがテレビを見るような姿勢で鼻をほじる女の何かがいた。と言うのも、通常プレイヤーやNPCは頭上に名前が出るものだ。だがこいつには何も無い。


「ええ……なにあれ……」


「でしょ……?多くのプレイヤーがこの館をスルーしないはずよ。でも買えないの。普通なら出てくる購入ページのウィンドウが出てこない。多分……あれが運営の言ってるバグなんだと思うんだけど……」

「ワタシハアンナニユウキダシタノニ……ナンデイツノマニ」


「コロネ?お前さっきからどした?」

「な、なんでもない!立派な御屋敷だね〜」


 とか唖然としていると、勇み足でオレンが庭へと押しかけて行ったので、慌てて後を着いて行ったら寝そべる女が妙なことを口走った。その発言に俺が何かを言うならば、そんなにこいつのアバターは小さくないぞ、だ。


「クスクス……君おっ○いちっさぁ〜 ゲームの中だからって盛りすぎ――」


 神の雷(物理)、オレンのゲンコツが死装束のような衣服を纏う女の頭頂部へと落ちた。凄い音したし、凄い大きいタンコブできてるが大丈夫かあれ。ていうかあんな仕様あるんだ。


「どうしようレイ……!こいつ殴っても手応えがないよ!」


「いやドゴォいってましたけど……」

「いったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!図星突かれたからって暴力とか最低〜!器も小さいからおっ――」


 今度はオレンの膝蹴りが顔面に埋まった。梅干しとかレモンとか、すっぱいもの食べたアニメキャラの口みたいに顔全体がしわくちゃになってるけど大丈夫かな。けど確かにダメージエフェクトは一切出ていない。


「もう怒ったわよ!!私の真の姿に震え上がりなさい!!冥冥より――」

「――謝って!!私はそんなに小さくないもん!!」


「おい……今、絶対変身中だったろ……変身中に攻撃だけはしちゃダメだって……」


 石タイルにケツだけをあげて突っ伏した死装束のそれが動かなくなった。流石にやりすぎである。


「いくらダメージエフェクトが出てないからって、無防備な相手に暴力はやりすぎだ。あんた、大丈夫か?」


「うぅぅぅ……頭が痛いよぅ…………あれ?お兄さんってあれじゃない〜!?噂のせつ――」


「レイパァァァァァァァァンチ!!!!」


 手を貸したがもう一度タイルにめりこませといた。直感だがこいつはダメなことを言いかけた気がする。というより、何かこいつはプレイヤーとは違う。ゲームの中の俺達ではなく、その本質を見透かしたような発言が気にかかる。泣いてるけどなんなんだろうコイツ。


「うぅぅぅぅぅ……ちょっとからかっただけなのに酷いよぅ…………うわっ!そっちのエルフはなになに〜?………………ちっ」


「…………レイ、私もコイツ殴っていい?なんか無性にムカつくんだけど」


「なんの舌打ちだよ」


「そんなことより〜?なに?この家買いに来たの〜?ざ〜んねんでした〜!!絶対に購入ウィンドウなんか出してあげな…………待ってください。暴力はより苛烈な暴力を産むと人は歴史で習ったはずです」


「じゃあてめぇはなんなんだよ。まずは挨拶くらいしろよ」


 結論から言うと、一応プレイヤーらしい。アストラル・モーメントでは裏でリアルマネーが動く背景から、公式の運営するシステムそのものに手をかけるガチモンの犯罪者が極小数ながらに存在するそうだ。その被害者だと『ユーフィー』は言う。


「私親がクソ借金しててさ〜?売られたんだよね。で、コアレスと脳みその接続に関して弄り回されてたら、何故か現実に帰れなくなったって感じ。あ、詳細とか求められても分かんないから〜」


「……一斉に垢BANされたあのクラン関係か?〝センター〟……」


「さっすが噂のおひ……お兄さん〜!クスクス、詳しいね?えら〜い。いっだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「いちいちメスガキするな。殴るぞ」


「もう殴ってるからぁ……」


 犯罪組織〝センター〟。こいつらはアストラで隠す気もなくリアルマネーを稼いでいたヤバい奴らだ。ゼロも目をつけられた事があり、運営に認知されていたことも相まって一時期俺の視界に入った全てのセンターのプレイヤー、そのIDが自動でBANされる保護設定を運営から預かったことがある。


 運営にしては英断だったと思うほどに、あいつらはめちゃくちゃなやつらだった。PK、追い剥ぎなんて序の口、エターナルパンチの粘着と上げればキリがない。こいつらのせいで廃止になったアイテムさえある。フィールドに設置可能なリスポーンフラッグとか。


「リアルの方は植物人間状態ってことか?踏み込んだ発言だったら悪い」


「多分沈められてんじゃない?絶対あいつらヤクザでしょ〜 私もよく分かんないけど、私はこの世界で住まう亡霊になったんだよ。以上、不幸話でした〜」


「おう、じゃあ家買うから成仏しろ」


「人の心とか持ってる?もしくは忘れた?ここだけがもう私の唯一の記憶だから無理〜 誰かに渡すとかないない」


 交渉の余地もなさそうである。そして石のタイルに足を伸ばして座り込んだユーフィーは、退屈そうに生え散らかした草を見つめていた。草というより、何故か庭の手入れをし始めたコロネを見ていたというのが正しいか。


「何してんの〜? そんなボランティアで私がなびくわけないじゃ〜ん!クスクスっ」


「……ここがあなたのお家で最後の思い出なら、綺麗な方が嬉しいでしょ?み、みんなは他の物件探してていいよ!終わったら合流するから!」


「……たくっ…………ゲームの中でこんな事するとは思わなかった」

「えへへ、レイってば素直じゃないね」

「うるせぇ、コロネがお人好しすぎんだよ」

「じゃあ私はこっちからやるわね」

「チョコっちー!手伝う〜!」


「……何してんの?ほんとにさぁ!!ここ私の家!領土!!勝手なまね……」


「お前、もうその石の上しか動けないんだろ」


 多分間違ってないと思う。何故ならば石タイルから手の届く範囲は草が毟られていたから。そしてそれにいち早く気付いたのはコロネだ。急に草を毟り出したからどういうことかと考えたら、幽霊とはいえ案外単純で人間らしいこだわりだ。最後の思い出を綺麗にしたいだけ、その手伝いくらいならタダ働きしてやっても良い。


「そ、そんなことしたって……!家はあげないんだから!!む、無駄だからね!!」


「おー、勝手にやってるだけだから寝てて良いぞ」


「ば、バカみたい〜 這いつくばってみっともな〜?土がよく似合ってるね〜?」


「効いてて草」


「き、効いてないし!!」


 そして一通り草むしりが終わった。くっそ広かった。だがここまで来たら徹底的にキレイキレイしてやる。何も言わずともコロネと目が合い、笑って頷きあった。外の次は中だ。


「ね、ユーフィーちゃん。中に少し入れてくれないかな?」


「や、やだ!!中は絶対ダメ!!」


「お願い。ただ掃除がしたいだけだから」


「うぅ……!だ、だって……掃除しちゃったら……あの時の時間が……止まったままの思い出が…………消えちゃう気がして――」


 コロネは優しくユーフィーを抱いた。やはり聖母である。優しさの権化、カツアゲや強奪、世紀末を体現したアストラでは絶滅危惧種だ。俺がコロネに癒されていた理由が一つ分かったような気がする。


「大丈夫。思い出は消えないよ。昔どんなアストラライフを送っていたかなんて分かんないけど、風化していく思い出を眺めるだけなんて……それも辛いでしょ?大切な物だからこそ、埃は落としてあげないと!」


「っ…………」


 コロネに懐柔されたユーフィーから権限が飛んできた。いや、せき止めていた運営のシステムと言うほうが正しいか。眼前には一文。『内部を閲覧しますか?』と。

『メインウェポンスロット』


二〜四枠の武器をはめ込むスロット。基本的には三枠が共通で設けられており、天使とドワーフだけは例外でスロット数が違う。所持と装備は異なるため、武器のロストを防ぐなら装備を忘れてはいけない。


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