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二十三 開示された未攻略


 お互いにタイミングをずらし合いながら幾度となく剣同士の衝突が。火花が散る中マリカが吠える。ゼロに粘着する変態ではあるのだが、怪我の功名と言えるが用心棒としては優秀だった。今のようにゼロに近づいたり、うっかりゼロを軽んじる発言をすると狂犬と化す。


「こんの猿がぁ!!そのゼロ様のスタイルを今すぐやめろ!!それはあのお方にしか許されない刹那の世界ですのよ!!」


「その割にはパリングの隙を見せてくれないな……!」


「当たり前ですのクソボケ!!触れることが出来ないお方……!!その汚れなきお体に触れさせて頂くためにも!!(わたくし)自身が汚れていては失礼でしょうが!!」


(お前の場合……触れるの意味合いが違うんだよなぁ…………)


「『アサルトスラッシュ!!』」


「げっ」


 片手ウェポンスキル『アサルトスラッシュ』。スラストと同じ切り出しから折り返して二連撃、その後突きをくりだす前方への詰め技だ。これの厄介な点はムーブアシストの自由性。今言った動き以外にも、プレイヤーの考え方次第では無尽蔵に型が生まれるのだ。


(スキル攻撃は倍率が高いから積極的に使った方が良い……通常攻撃で同じ動きをしても火力が段違いだしな!けど――)


 変質させたマリカのアサルトスラッシュ。右薙ぎから体を回してもう一度右薙ぎ、狙うならばその次の切り返しの左薙ぎだ。放つは片手ウェポンスキル『アサルトストライク』。


 切り上げからの突き、最初の切り上げは打撃の特性を持つ。プレイヤーや軽いエネミーならば浮かせる効果もあったりする。最後の突きにはノックバック効果もあるが、残念ながら今回はそこまで派生を繋げずキャンセルのようだ。ちなみにムーブの途中でキャンセルした場合、止めた場所に応じて硬直も少なくなる仕様がある。


「左薙ぎまで繋げないかぁ……!」


「見え見えなんですのよ!!ていうかそのスタイルやめろって言ってんだろうがぁぁぁぁぁぁ!!ゼロ様を汚すなぁぁぁぁぁぁ!!」


「変式威力型、ブレイズブラスト」


「危なっ!!猿のくせにぃ……!」


 左の小杖で近接法撃を放つもフレーム回避にて側面に。剣の持ち手とは反対の方に咄嗟でも避けてくるあたりまじで手練だ。変態だがちゃんと強い。もう一度言うが変態のくせにちゃんと強い。変態のくせに。


「イグニションバーストぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」


「っ……!」


「うっそぴょーん。じゃあの!!」


「は……?猿がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「シールドバッシュ」


 言霊フェイクの後に鍵を取りに行く振りをして吹き飛ばしといた。やはりあまり声を出していなかったゼロと比べて、おもっくそ声を荒げる勢いは大事だと痛感した。そもそもお前は俺に粘着しすぎて仲間を呼ぶのを忘れている。俺達の勝ちだ。


「あばよ!!良い夢見ろよ〜」


「待ちなさいな!!このパチモンが!!顔と名前覚えましたのよ!!地の果てまで追いかけ回してやりますのぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 白目剥きそうなほど眼球を上にあげて、両手を煽るように掲げながら舌をべろべろしてやった。煽るの気持ちええ〜。そのままパーティーメンバーが鍵を取ってダンジョン突入である。勝ち申した。


 無事にダンジョン報酬も受け取り、ステラヴォイドの宿の一室に再集合一択である。コロネ、チョコ、オレン、そして俺でだ。それぞれの稼ぎ、それは結論から言うとコロネがダントツの貢献度だった。恐縮して正座するコロネの手には。


「は?え?……終末の鉄槌マ?」


「そ、そうなの!!無理だろうな〜って無心でいたら普通に渡されて……!帰り道大変だったんだよ!?一気にギャラリーが武器を持って襲いかかってきて……!!凄く怖かったんだから!」


 金の斧二本、銀の斧一本、終末の鉄槌一本。爆釣だ。ステラ換算でおおよそ一〇〇万ステラと少し、対して疫病神確定の最下位、オレンは枕を濡らしていた。全部飲まれたようだ。


「うぅぅぅぅぅ……なんでぇ……?一回くらいは石斧返してくれたって良くないぃ…………?うぅぅぅぅ……」


「リアルラックなさすぎだろ……女神出現も引けなかったのか?」


「レイ……死体蹴りはやめてあげて。一回も出せてないから……」


「わーお…」


 コイツには運の絡む要素はさせないとして、コロネのリアルラックがやばい。この子を担いでブルーギャリアで一稼ぎ出来そう。ちなみに俺とチョコの稼ぎはバザーで落札されなければ分からないので、後日加算だ。全部売り捌けば六〇万前後かな。


「そういやオレン、お前五年前のイベントに参加してる割にレベルが低いよな?なんで?」


「………………」


「おい?目を逸らすなちゃんと俺の目を見ろ。まさか義務教育から逃げたんじゃないだろうな?現実逃避してギャンブルに堕ちたクズじゃねえだろうな」


「だって面白くないんだもん!!じゃあ手伝ってよ!!ギャ、ギャンブルは……や、やめないけどさ!!」


 コロネが。


「どうせならレイのクランに誘ってみたらどうかな?一人足りてないし、雑談してて結構仲良くなれたと思ってるんだ〜!」

「コロっちまじで可愛いよね〜!今は無所属だし、レイが良いなら入れてよー!」


「……それは構わないが、一つ約束出来るなら」


「なになに?出来ることなら何だって――」


「――オレンはギャンブル禁止、それからウチは自給自足をルールとする」


「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


 当たり前だ。クランの貯金まで使い込み始めたら穀潰しどころの騒ぎではない。自給自足の部分に関しては全員に守ってもらうつもりだが、これをよく思わないならばまたメンバーを集め直す、もしくはクランの話自体をなくす事になる。


「自給自足ってどういう意味かしら?」


「原則、一方的に奪う行為をしないってところだな。情報、アイテムトレードは場合によっては行うが……悪い噂が立っては目立つ。返り討ちにした時くらいは見せしめに全回収しても良いが……どうだ?非効率この上ないがこれはリーダーとして譲れない」


「奪う方が早いのに変わってるわね……」


「誰かが手に入れたものの価値なんてたかが知れてる。最前線に立ってこそ楽しいんだよ。開拓して未攻略情報の利権が掴めれば、それこそ巨大派閥ともトレード材料にもなるし、それでも良いなら改めてクランの設立を進めたいと思う」


 終始ニコニコとした様子のコロネは首を縦に振り、やや呆れた様子でも笑ってくれたチョコ。そしてギャンブル封印がお気に召さない様子だが、指でOKのサインを送るオレンを確認。スタートメンバーの条件は達成である。レベル三〇の条件はそのうち達成できるとして、最後の課題だ。


「短く聞きます。コロネさん、終末の鉄槌を売る方針はどうでしょう?」


「良いよ!他に斧メインの人がいるならその限りじゃないけど……いるかな?」


 他二人も首を横に振っているため売却コースである。☆七はバザーに出せないため個人売買だが、相場は一〇〇万ステラ前後、星天級の中では安い方である。何故ならばあれでも比較的入手しやすい方の部類なのだ。


「じゃあ売り捌くとして、今日は解散!!」


 もうリアルタイムでも夜だが、俺は無敵のニートなのだ。転売先を見つけるにも人脈が皆無なレイでは突撃営業しかない。それなりにログイン人口が集中する夜中、この時に自分の足で稼ぐしかないのだ。


「とは言えいきなり星七買いませんかーは怪しすぎるよな……どうせなら利害の一致を狙えるアストラの深部に噛み付いてるような人が――」


「ようやく一人になったな。話をさせて欲しいんだが」


「げ……フォルティス……」


「あの時は話を合わせてやっただろう。どういうつもりだ?何故素性を隠す」


 カオリやマリカと違い、こいつは確信を持っているような話し方だった。というより、下手に隠そうものなら隠せなくなるような手段を取りそうだ。どれだけガワを偽っても、プレイヤースキルに嘘はつけない。街の中ならいざ知れず、外でこいつに目をつけられては相当めんどくさい気がする。


「……ゲームをしてるだけだろ。何の用だよ」


「〝霊峰の御剣〟は今、とある高難易度コンテンツで足止めを食らっている。一度で良い……ゼロを借してくれ」


「あいつはもう来ねーよ」


「そうか、ならばお前でも良い。レベルシンクが三〇なんだ。ユニーククエスト……『忘れ去られた海底』。情報は開示されている(・・・・・・・)のに、未だに誰も利権を掴めていない異質なクエストだ」


 多くの人がその存在を知っているのに、未だにクリア出来ていないことを示す。攻略法が分からないという事だ。ゼロの頃には聞いた事のないクエストではあるが、俺が休んでいる間に魔境が作られたという事だろうか。


「レベル三〇か……巨大派閥が一個人に頭を下げるなんて、それはそれはよっぽど切羽詰まってるんだな」


「お前にとっても興味がない話題でもないだろう。かつての友は茨の道を嬉々として走っていたが、どうする?勿論相応の取引には応じるつもりだ」


 本音を言うとめちゃくちゃやりたい。それはもう今すぐにでもゼロをつまみ出してヒャッハーしたい。こいつがこう言うならば難しいことは確かであり、フォルティスの魂胆としては俺の性格を考慮しての持ちかけだと思う。レイでは無理だろう? 早く装備の整った真打を出してこいってな。


「それならこちらもクランとして受けるべきだな。クランとしての初任務がまさか、〝霊峰の御剣〟様との共同なんて思わなかったわ」


「はははっ!本気だったのかその話!その場のしのぎの戯言かと思っていた。もちろんそれで構わないよ。では――」


「――これ買い取ってくれませんか……クラン建てるにも家買う金がないんです…………」


「………………お前、プライドはないのか」


 土下座しながら『終末の鉄槌』を掲げた。プライドで金が溜まるかよ。ワンチャン色つけてくんないかな。流れ的にありそうだよね。てかつけろ。


「装備不足の中でも……☆七を惜しみなく捨てるか。ふむ、分かった」


「え…………一〇五万ステラ……?」


「相場だろう?何が不満だ」


「…………べっつにー?金持ってるくせにケチくせーとか思ってないですー」


「全勢力をあげて潰してやろうか」


「スイマセン」


 だが結果で言えばこちらにメリットばかりの話だ。未攻略クエストの取り付けに、当初の目的の軍資金が手に入った。後はレベリングで三〇を迎え、この軍資金を増やせばクランの設立は完了となる。


『筋力』


プレイヤーステータスの一つ。近接攻撃の威力の底上げと、被弾時の怯みにくさに直結する体幹を示す数値。また、体力の底上げにも僅かに影響している。


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