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十九 ゼロ

 チョコが既にゲームアイテムや情報を売り渡し、リアルマネーを受け取っているならば共犯だ。どんな理由があれどもう被害者とは言えない。因果応報に他にないが、真相はどうなのだろう。


「エンゲージリングをコロネに押し付けようとした時から胡散臭いと思っていたが、チョコにも振られたんだな。だからそうしてアナログな人質をしてんだろ?エターナルパンチのつもりか?」


 少し煽ったら六人くらいが喉元に剣を構えてきた。すいませんでした。五〇レベ超え複数人にそんなのされたら流石に無理です。口が過ぎましたごめんなさい。


「君が手練だってのは分かってる。僕らと同じ穴のムジナだろ。どういう訳か、君は『失われた祭殿』の発生トリガーとなるアイテムについて気が付いていた。そしてそれを漁るために……コロネに取り入った。違うかい?」


「いや全然違う」

「レイはゲームの楽しさを教えてくれただけですよ……?」


「………………」


 ドヤ顔で迷推理を披露していたが的外れもいいところである。普段からゲスい事ばっかりしているから、単純で根本的な事に気が付けないのだろう。悪いことをしていると他人の行動が全て裏目に見える病気だ。可哀想に。


「と、とにかく!鍵と同様に死んで消えられても面倒だ!!大人しくついてきてもらうよ」


 パーティー申請がマサトから届く。既に六名が隊を結んでおり、最大で八名。そしてチョコを人質にとる理由としては二つが考えられる。一つ、本垢を持ってこさせないためのエターナルパンチ。


 二つ、鍵の出現条件がはっきりしていない説。例えば、チョコ以外に鍵を手にするにも時間がかかるとか、まぁ考えても無駄な事だし今は従う他に選択肢は無い。誤魔化しても延命行為にしかならないし、アストラは未知の最前線に立つと本当に犯罪臭が蔓延しているなぁと、しみじみ思う他になかった。


「やっぱりトリガーアイテムを所持状態ならば特殊フィールドに入れるのか!おい!!レイ!!下手に動くな!!」


「ハイ、スイマセン」


 チョコにはマサトが、コロネには一人の手下が、そして俺には破格の三人がかりである。そうして歩くこと数分でお馴染みの神殿へと到着した。


「……そろそろタネ明かしをしてもらおうか?どっちだ?トリガーアイテムを持っているのは」


「……俺だよ」


「やっぱり同業者じゃないか。狙いは鍵か?チョコの友達から取り入り、不自然なく事を運ぼうと?」


 チョコが。


「……ごめんね、コロネ……!レイ!!変なことに巻き込んで……私のせいで……」


「チョコ……チョコは、本当にお金を貰おうとしたの?」


 コロネの問いにチョコは首を横に振る。


月影竜(げつえいりゅう)の情報と引き換えに……話しちゃったの……」


 月影竜。どちゃくそ超超レアエネミーである。まぁ気持ちは分からなくもない。ゼロの頃は出現条件さえも分かっておらず、カオリと三ヶ月に渡り二交替してようやくお披露目してくれたクソ強ドラゴンだ。っと、その前に――


「待て!!」


 マサトの制止の声が響き渡る。当たり前だ。羅針盤を俺が持っていると判明した以上、コロネは不要。PKの動きが見えたため俺はパーティーから抜けてやった。羅針盤を片手に、見せつけるようにしながら通常フィールドに戻った事を示す。


「おおかた金で釣れなかったから、チョコに金では後ろめたいと思わせてガセ情報を売り捌いたってところか。コロネの風龍の障壁(首輪)もついでに狙うつもりなら、羅針盤(こいつ)は渡せない。ほら、可視化させている間に奪うしかないぞ」


「やはりそれも死ねば消えるのか……!」


 全然そんなことはないのだが利用しない手は無い。決定権は全て俺にある。だがどうにもこいつらにはムカついて仕方が無いものだ。ゼロ時代の頃からそうだが、純粋にゲームを楽しんでいる人間の邪魔をする変態は絶滅してしまえば良い。


「もうマサト(おまえ)と話すことは何も無い。チョコ、あんたはなんでわざわざサブキャラなんて作ったんだ」


「それは……コロネと足並みを揃えて…………」


「そうだ。同じ目線じゃなければ見えない楽しさがある。月影竜の情報も、失われた祭殿も、分からないワクワクを共有したいからそうしたはずだ」


「奪え!!」


 祭殿への羅針盤が今後ともチョコやコロネのアストラライフを毒してしまうのならば、これは触れることすら叶わない最強が持つべきだ。あいつからは奪えない、かなうわけがない、そう思わせる必要がある。


 アストラはたかがゲームだ。どんな楽しみ方をしようとそれは個人の自由。他人が何を楽しく感じ、どんな犯罪をしようが俺からどうこう言うつもりはない。だが――


「友達から楽しさを奪うなら……」


 こいつらは()だ。対戦相手でも取引相手でもなく、蹂躙すべきただの敵だ。笑い合えるユーザーのためならば多少の面倒事なんて苦じゃない。故にコロネに羅針盤を投げ渡しながら叫ぶ。


「預かってろ!!すぐに最強(知り合い)を呼んできてやる!!そいつが来たら渡せ!!」


「う、うん!」


「レイを殺すな!!そいつはメインキャラも持ってる!!知り合いだかなんだか知らないが、転送もさせずに縛り上げろ!!」


 コロネについていた手下がシールドバッシュで吹き飛ぶ中、マサトへと心の中で言ってやった。このレベル差が裏目に出たなと。三人がかりで俺の手足を切り裂こうとする軌道が見える。殺さないためにあえて弱い武器なのだろうが、軌道も隠さず完全に舐めているとしか言えない。レベルという指標に甘えているからこそ、お前達は負けるのだ。


「死神の悪戯」


 今さらハッとされてももう遅い。右足、左足、そして右腕が切断されて欠損した。胸ぐらを捕まれ、そのまま勢いよく地面へと押し込まれたので自ら加速してやった。後頭部への強い打ち付けである。これで四発、死ぬ事で戦線からの離脱成功だ。


 問題はデスポーンの五分。この間に羅針盤を奪われていれば悔しいが仕方ない。だが死角はない。所持者が持ったまま死ねば消えてしまうと勘違いもさせておいた。そしてあいつらに誤算があったとすれば、コロネの地力の高さだろう。


『アストラル・モーメントへログインしますか』


「ログイン、ゼロ(・・)


 懐かしいアバターが自室(・・)の姿鏡に映りこんだ。腰ほどまである長い銀髪、当たり判定(ヒットボックス)の最小化のため幼児(ロリ)体型に、更に体型を隠すためのブカブカの袖っ子アバター。空を砕く剣のイラストを背負い、口元まで隠した長い襟と腰に下げた漆黒の日本刀。星天級曲刀ウェポン『秋月(しゅうげつ)』。


『メッセージが届、メッセージが、メッセー、メッセ、メッセメッメメメメメメメメメメメメメメメ』


「通知オフ、非表示」


『全てのメッセージの通知を非表示にします』


 おびただしいメッセージの知らせに、アナウンスさんが可哀想なので切ってあげた。カオリを含む、かつてのリアフレ達から一気に通話もかかってきた。反応早すぎだろあいつら。常に俺のログイン見てんのか。


 とかツッコミつつ、全部無視して神殿への転送一択である。コロネとチョコは迂闊に殺せないはずなので、最悪でも人質状態だろうがゼロならば関係ない。そちらが武力で交渉するならこちらも同じもので対抗するだけだ。それにしてもやはり、慣れ親しんだレベル故に体が軽い――


「あの人……!」

「ゼロ!?」

「なんでゼロがここに!!?」


「『月輪』」


 曲刀ウェポンスキル『月輪』。飛び跳ねながら身を捻り、背骨を軸に高速で二回転させながら納刀した逆手持ちの刀身、すなわち鞘の先端を叩き落とすスキルだ。出が早く、威力も高い代わりに回転が早すぎて視界情報が死ぬ。だが俺のプレイ時間ならば見えなくとも盤上なんて手に取るように分かるので問題なし。


「うわっ……!」


 コロネへと粘着していた手下の一人、その攻撃を月輪でパリィを取る。まずは雑魚武器を担ぐ四人を瞬殺だ。『コンバットチェイン』を稼ぐカカシになってあの世に逝け。


 納刀したまま柄でしばきあげ、体術である蹴りや肘打ちを混ぜ合わせて一気に打撃を与え続ける。時には反撃も来るが当たるわけがない。パリィ、フレーム回避、かつてのトップランカー相手でも誰も触れさせなかったゼロの体だ。お前達も例外なく触らせる気など微塵もない。


「がっ……!クッソ……うぉぉぉ!!」


「死ね」


 甘えた攻撃を弾き返し、放つはウェポンスキル『繊月(せんげつ)』。コンバットチェインを一〇消費し、会心倍率を上乗せした抜刀攻撃を行う。手下の一人、その急所である首へと一閃が。自分の胴体を見ながらデスポーンしてどうぞ。


 ちなみにコンバットチェインとは、見えない内蔵された個人だけの特殊なコンボ数的なものだ。納刀状態での打撃に加えて、ジャスト回避とパリングを取ることで加算されていく。曲刀はこのコンバットチェインを駆使して戦う特徴を持つ。


「ゼロぉ……!!なんで今になって帰ってきた!!」


 マサト、お前は後だ。流石にお前は硬くて手こずりそうなので見ててくれ。


「がっ……!」


 パリィの後に蹴り飛ばしてシールドバッシュしといた。準備運動にもならないが、サクッと残りの手下共もあの世に送り届けたので、コロネから羅針盤を回収しておこう。


「……羅針盤」


「こ、これは!レイから預かってて……あなたが……レイの言ってた知り合いで、えっと……あってるんですか?」


(そうだから早く渡してくれ……マサトが来てる)


「あいつらと僕は違うぞ!!やはりまだレベル六〇……!!流石のゼロもレベル差には勝てないはずだ!!シャーリンティオン!!」


「月輪」


 そう、マサトが言うようにこいつは七〇。レベル差補正でダメージが半減である。ゼロは休止していた頃の上限六〇なため、手下共のようにパワーゲームには持ち込めない。だがまぁ、タイマンなら万に一つも負けることはありえない。そんなことはあってはならない――


「パリング……っ!?なんで……!?なぜ今のタイミングで重ねられ……!?」


(めんどくさいし、火力技の一撃で殺すか)


 納刀した『秋月』の柄を飛び跳ねながら顎へと振り上げ、流れるように回し蹴りから鞘の先端をみぞおちへとねじ込んだ。マサトの飛び退きと同時の反撃に対し、前方に距離を詰めながらフレーム回避。お前はもう絶対に射程範囲から逃がしはしない。コンバットチェイン六〇を貯めるまではカカシになれ。


「がっ……!クソ!!『エクスキューション』!!」


 長剣スキルエクスキューション。そのリーチを活かした周囲への薙ぎ払いである。威力が高く、こちらも結構な大技じゃなければ弾けないので、普通にしゃがんでスキル無しで回避してやった。


 ちっこい体は良いぞ。衣服には当たってるが、ダメージ判定は体なのですり抜けているように見えるだろう。お前がこの仕様を知っていようが知らまいがどうでも良い。どう足掻いてもゼロ()には勝てないと、屈辱を刻み込んで羅針盤を諦めてもらう。

『固有ウェポンスキル』


武器には性能に格差がある。神の命にさえ届く一振は、他の武器にはない強力な一撃を秘める。そのスキルを奪うために使用するも、守るために使用するも、その真価は使い手次第だ。


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